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第五章・帝国の王女
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女王近衛隊は、隊長の下に組織された七つの部隊から構成される。
厳格を重んじる規律の室。
──第一部隊|《マエストーソ》。
闘争を永遠に貪り食う室。
──第二部隊|《フェローチェ》。
華美を追求せし絢爛の室。
──第三部隊|《ブリランテ》。
享楽を享受し停滞する室。
──第四部隊|《ヴィヴァーチェ》。
退廃を呼び起こす嵐の室。
──第五部隊|《フリオーソ》。
平穏を慈しむ安らぎの室。
──第六部隊|《トランクィロ》。
魅了を振りまく情愛の室。
──第七部隊|《ソアーヴェ》。
各部隊に約二百体前後の妖精が所属しており、その部隊を束ねるは各部隊長だ。彼等彼女等は突出した才能を持っており、順調に出世した者もいれば、スカウトされそのまま部隊長に登用された者とている。
とどのつまり、女王近衛隊には特に警戒すべき妖精が八体いるのだ。
しかし、だからと言ってその下につく各部隊の小隊長達や、所属する妖精の全てが取るに足らぬ雑兵という訳ではない。何故なら妖精は、“奇跡”を操るのだから。
妖精の奇跡は、ただの人間には到底破れない。彼等彼女等が死を回避すべく奇跡を常に起こしている事を考えれば、それを一人で倒すなど途方もない作業となる。
その単独行動を可能とする存在。それは今現在、帝都に居る者の中では──神の権能の一部をその身に宿す、最上位精霊達ぐらいなものだ。
かと言って、精霊達に任せきりではどうにもならない程に、妖精は次から次へと牙を剥く。
それを分かっているのかいないのか……アミレス達は、果敢に妖精へ挑まんとする──……。
「──うーん。困りましたねぇ~~。女王陛下がご所望だから、生け捕りにしなきゃいけないんですけどねぇ」
イヌ科の耳と尾を生やした猫目の少女は頭を抱えていた。その両手に、やたらと刃が多い槍擬きを構えて。
彼女の名はヴァンスリャン。花束を抱く妖精。──女王近衛隊が第四部隊|《ヴィヴァーチェ》の部隊長だ。
そんな彼女が何故、こうも思い悩んでいるのか。それは眼前に広がる惨状を静観していたからであった。
「……奇跡だなんだと聞いていたが、取るに足らぬ雑魚ばかりとはな。妖精を過大評価し過ぎなのではないか? 妹よ」
「二人で協力してたからですよーだ。文句を言うなら今すぐにでもペア交代してもらっていいんですよ、兄様」
「誰もそのような事は言っていないだろう」
太陽を宿す聖剣──アマテラスに着いた妖精の血を振り落とし、アミレス・ヘル・フォーロイトは悪態をつく。その相手とは勿論、絶対零度の魔剣極夜を鞘に収めている、拗ねた様子のフリードル・ヘル・フォーロイトだった。
苦戦が予想される妖精討伐戦。一人では駄目でも、二人なら。──その考えに至ったアミレス達は、二人一組のペアを組み、特に厄介そうな妖精達を各個撃破していこう。といった作戦を即興で立てていた。
本来ならば相性等も加味して慎重にペアを組むべきなのだが、今やそれどころではないので、なんと早い者勝ちでペアが決まってしまったのだ。
その為──
「そもそも。なんで、数少ない即死技を使える人間が組むことになるのよ……」
(──どう考えても配役が終わってるわ)
妖精にも有効な即死技、絶対零度を使用可能な二人がペアを組む、珍事件が発生したのである。
魔剣極夜で目につく限り一兵卒を薙ぐフリードルを、アミレスがアマテラスや魔法でサポートする。彼女等はそうやって、一個小隊近い数の妖精を制圧してきた。
アミレスばかりが気を遣い続ける組み合わせではあるものの、血の繋がった兄妹だからか──こと戦闘において、二人の息は自然と合うらしい。
ただでさえ厄介な戦闘狂が、徒党を組んで暴れているのだ。当然、戦場は血の海となるに決まっていよう。
部下達の亡骸と、辺りを埋め尽くす妖精達の血。
それを横目に、ヴァンスリャンは考える。
(あの男、邪魔ですねぇ。魔剣と魔法、どちらも厄介そうですぅ)
アミレスを生け捕りにする必要がある以上、フリードルが彼女の部下達と戦っている間に、漁夫の利を狙うしかない。
そう決めてからは早かった。鮫の歯の如き鋭利な双槍を一本、フリードル目掛けて投擲する。バネのようにしなる腕から放たれた一射は、ごうっと風を貫き瞬く間に標的へと到達した。
(さて、ひとまずはこれで──っ、え?)
凶暴な槍がフリードルの肩を抉るかに思われた、その瞬間。ヴァンスリャンは瞠目した。
「随分と舐められたものだな。この程度の攻撃で僕を害せると思うとは。なんと浅慮な輩なのか」
振り上げられた彼の腕。それと同時に聞こえてきたのは、金属を打ったような、鋭く響く音。フリードルの立ち位置から程近い場所には、空き缶のようにくるくると回る槍が落ちる。
「嘘でしょう……? 人間では、視界に捉えることすら出来ない筈では……!?」
ヴァンスリャンは狼狽えた。
たかが人間風情が己の攻撃を見抜いただけでなく、槍を剣で弾く事で、無傷で防ぎきったという事実に。
「僕はこれまで現帝国唯一の王子として生きてきた。故に、この程度の事は造作もない」
実妹のアミレスが継承権を持たない為、フォーロイト帝国の未来は、現帝国唯一の王子であり皇太子でもあるフリードルに全て委ねられている。その為か、彼は幼少の砌より、数え切れない程命を狙われてきた。
その過去を経て。昔取った杵柄が、こうして遺憾無く発揮されているのである。
「『造作もない』? ……ボクの攻撃が、その程度のものだと宣うのですね」
「それ以外にどう聞こえるんだ」
「……──宣戦布告、でしょうかねぇ」
見下すような態度のフリードルが相当腹に来たのか、ヴァンスリャンは頬を震えさせながら、黒く笑う。
その傍で、
(ちょっとフリードルさん!? どうして貴方はいつも全方位に喧嘩を売るのよ! ただでさえ厄介そうな妖精なのに、怒らせたら余計大変になるじゃないの──!!)
フリードルとヴァンスリャンのやり取りを見守っていたアミレスは、予想外の展開に思わず悲鳴を上げていた……。
厳格を重んじる規律の室。
──第一部隊|《マエストーソ》。
闘争を永遠に貪り食う室。
──第二部隊|《フェローチェ》。
華美を追求せし絢爛の室。
──第三部隊|《ブリランテ》。
享楽を享受し停滞する室。
──第四部隊|《ヴィヴァーチェ》。
退廃を呼び起こす嵐の室。
──第五部隊|《フリオーソ》。
平穏を慈しむ安らぎの室。
──第六部隊|《トランクィロ》。
魅了を振りまく情愛の室。
──第七部隊|《ソアーヴェ》。
各部隊に約二百体前後の妖精が所属しており、その部隊を束ねるは各部隊長だ。彼等彼女等は突出した才能を持っており、順調に出世した者もいれば、スカウトされそのまま部隊長に登用された者とている。
とどのつまり、女王近衛隊には特に警戒すべき妖精が八体いるのだ。
しかし、だからと言ってその下につく各部隊の小隊長達や、所属する妖精の全てが取るに足らぬ雑兵という訳ではない。何故なら妖精は、“奇跡”を操るのだから。
妖精の奇跡は、ただの人間には到底破れない。彼等彼女等が死を回避すべく奇跡を常に起こしている事を考えれば、それを一人で倒すなど途方もない作業となる。
その単独行動を可能とする存在。それは今現在、帝都に居る者の中では──神の権能の一部をその身に宿す、最上位精霊達ぐらいなものだ。
かと言って、精霊達に任せきりではどうにもならない程に、妖精は次から次へと牙を剥く。
それを分かっているのかいないのか……アミレス達は、果敢に妖精へ挑まんとする──……。
「──うーん。困りましたねぇ~~。女王陛下がご所望だから、生け捕りにしなきゃいけないんですけどねぇ」
イヌ科の耳と尾を生やした猫目の少女は頭を抱えていた。その両手に、やたらと刃が多い槍擬きを構えて。
彼女の名はヴァンスリャン。花束を抱く妖精。──女王近衛隊が第四部隊|《ヴィヴァーチェ》の部隊長だ。
そんな彼女が何故、こうも思い悩んでいるのか。それは眼前に広がる惨状を静観していたからであった。
「……奇跡だなんだと聞いていたが、取るに足らぬ雑魚ばかりとはな。妖精を過大評価し過ぎなのではないか? 妹よ」
「二人で協力してたからですよーだ。文句を言うなら今すぐにでもペア交代してもらっていいんですよ、兄様」
「誰もそのような事は言っていないだろう」
太陽を宿す聖剣──アマテラスに着いた妖精の血を振り落とし、アミレス・ヘル・フォーロイトは悪態をつく。その相手とは勿論、絶対零度の魔剣極夜を鞘に収めている、拗ねた様子のフリードル・ヘル・フォーロイトだった。
苦戦が予想される妖精討伐戦。一人では駄目でも、二人なら。──その考えに至ったアミレス達は、二人一組のペアを組み、特に厄介そうな妖精達を各個撃破していこう。といった作戦を即興で立てていた。
本来ならば相性等も加味して慎重にペアを組むべきなのだが、今やそれどころではないので、なんと早い者勝ちでペアが決まってしまったのだ。
その為──
「そもそも。なんで、数少ない即死技を使える人間が組むことになるのよ……」
(──どう考えても配役が終わってるわ)
妖精にも有効な即死技、絶対零度を使用可能な二人がペアを組む、珍事件が発生したのである。
魔剣極夜で目につく限り一兵卒を薙ぐフリードルを、アミレスがアマテラスや魔法でサポートする。彼女等はそうやって、一個小隊近い数の妖精を制圧してきた。
アミレスばかりが気を遣い続ける組み合わせではあるものの、血の繋がった兄妹だからか──こと戦闘において、二人の息は自然と合うらしい。
ただでさえ厄介な戦闘狂が、徒党を組んで暴れているのだ。当然、戦場は血の海となるに決まっていよう。
部下達の亡骸と、辺りを埋め尽くす妖精達の血。
それを横目に、ヴァンスリャンは考える。
(あの男、邪魔ですねぇ。魔剣と魔法、どちらも厄介そうですぅ)
アミレスを生け捕りにする必要がある以上、フリードルが彼女の部下達と戦っている間に、漁夫の利を狙うしかない。
そう決めてからは早かった。鮫の歯の如き鋭利な双槍を一本、フリードル目掛けて投擲する。バネのようにしなる腕から放たれた一射は、ごうっと風を貫き瞬く間に標的へと到達した。
(さて、ひとまずはこれで──っ、え?)
凶暴な槍がフリードルの肩を抉るかに思われた、その瞬間。ヴァンスリャンは瞠目した。
「随分と舐められたものだな。この程度の攻撃で僕を害せると思うとは。なんと浅慮な輩なのか」
振り上げられた彼の腕。それと同時に聞こえてきたのは、金属を打ったような、鋭く響く音。フリードルの立ち位置から程近い場所には、空き缶のようにくるくると回る槍が落ちる。
「嘘でしょう……? 人間では、視界に捉えることすら出来ない筈では……!?」
ヴァンスリャンは狼狽えた。
たかが人間風情が己の攻撃を見抜いただけでなく、槍を剣で弾く事で、無傷で防ぎきったという事実に。
「僕はこれまで現帝国唯一の王子として生きてきた。故に、この程度の事は造作もない」
実妹のアミレスが継承権を持たない為、フォーロイト帝国の未来は、現帝国唯一の王子であり皇太子でもあるフリードルに全て委ねられている。その為か、彼は幼少の砌より、数え切れない程命を狙われてきた。
その過去を経て。昔取った杵柄が、こうして遺憾無く発揮されているのである。
「『造作もない』? ……ボクの攻撃が、その程度のものだと宣うのですね」
「それ以外にどう聞こえるんだ」
「……──宣戦布告、でしょうかねぇ」
見下すような態度のフリードルが相当腹に来たのか、ヴァンスリャンは頬を震えさせながら、黒く笑う。
その傍で、
(ちょっとフリードルさん!? どうして貴方はいつも全方位に喧嘩を売るのよ! ただでさえ厄介そうな妖精なのに、怒らせたら余計大変になるじゃないの──!!)
フリードルとヴァンスリャンのやり取りを見守っていたアミレスは、予想外の展開に思わず悲鳴を上げていた……。
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