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第五章・帝国の王女
581.Main Story:Ameless
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凄まじい勢いで吹っ飛ばされたユーミス。彼が元々立っていた場所には、中華系の衣装を身に纏い、深紅の魔剣を構えるヒトがいた。
「チッ……首を狙ったんだが、死ななかったか。しぶとい奴等め。これだから妖精は嫌だ──っと。姫さん! 元気そうで何よりです」
師匠はこちらを振り向くやいなや、不自然なくらい爽やかに笑い、ひとっ飛びで距離を詰めてくる。
「まー、フリザセアが近くにいる以上無事だとは思ってましたけど。でも本当に、怪我が無さそうで安心しました」
「師匠はどうしてここに……?」
「妖精女王が現れたから、姫さんを守れって。シルフさんにそう命じられたんすよ。な、フリザセア」
「ああ」
フリザセアさんと師匠はシルフに言われて私達の元に駆けつけてくれたらしい。
先程不覚を取られたばかりの身としては、その気遣いが有難い一方、情けなくもある。私がもっと強ければ、シルフや師匠達に迷惑をかける事もなかったのかもしれないと思うと。とても、悔しい。
「星騎士が増えただと……」
「よもや、あの小娘にそこまでの価値が?」
「女王陛下の宝を掠め取った罪人め」
「信じられないな」
「女王陛下に仇なす愚か者が……っ」
「わー、精霊が次から次へと!」
矢面に立つ師匠とフリザセアさんに向け、妖精達の批難が轟々と放たれる。
だが師匠達も負けておらず、「ボソボソ気持ち悪ぃーんだよ蝿共! 文句があるならもっと大声で言え!」「愚者はそちらだろう、現実も見れぬ浅はかな連中が」とレスバトルを繰り広げた。
「……ところで、『せいきし』ってなんなんだろう」
よく聞く聖なる騎士ってやつ?
と、先程から頻出する単語が頭に引っ掛かり、ぽつりと零すと、
「星騎士は、精霊王直属の四体の騎士のことなの。だいたい、その世代ですごく強い四体が選ばれて、精霊王直々に、にんめーされる仕組みなの」
いつの間にか真横に立っていた金髪の幼女──雷の精霊さん、エレノラちゃんが疑問に答えてくれた。
「精霊王の身辺警護のほかに、精霊界の平定と、バカな精霊への牽制とかを兼ねた、とてもめいよな爵位。それが、“星騎士”。ノラも、そのヒトリなの」
「エレノラちゃんも!? すごい……!」
「ふふーん」
エレノラちゃんがえっへん。と胸を張るので、可愛さのあまり思わずその頭を撫でてしまう。
ちなむと。彼女直々に『エレノラちゃんって呼んで』と言われたので、こうも親しげに呼ばせてもらっているのだ。
この子が四体いる星騎士の一体だとして。残り三名のうち二体は、妖精達の反応からして師匠とフリザセアさんだろう。
じゃあ、最後の一体はどんな精霊さんなのかな? と思い馳せた直後、その答えは出た。
「…………このような非常時に、何をしているのだ、エレノラ」
「見てわからない? おひめさまに頭なでなでしてもらってるの」
「……はぁ…………」
諦めが深く感じられるため息を吐き出し、漆黒の甲冑の男──闇の精霊のゲランディオールは項垂れた。
現れたタイミング的にも、きっとこのヒトが最後の星騎士なんだろう。この四体の中では一番騎士っぽい見た目だし。
「…………妃殿下。闇のゲランディオール、遅ればせながら馳せ参じました」
くるりとこちらに向き直り、彼は改まった様子で一礼する。
「ゲーくんも駆けつけてくれたんですね。ありがとうございます」
「……当然の、事なれば」
照れているのか、ゲーくんはふいっとそっぽを向いてしまった。
このあだ名呼びの切っ掛け。それはつい今朝の事。
『……ゲランディオールで、構いませぬ。敬語も、不要。呼び難ければ、オレの事など、路傍の石、とでも……』
『路傍の石!?』
ゲランディオールさんと呼んだら、彼がえらく卑屈になったので、妥協案として提示したのがこのあだ名である。
っと。ほんの少し回想に耽っている間にも、妖精が新たな動きを見せた。
大柄の妖精が平身低頭し、妖精女王に進言する。それを聞いたらしい彼女の目は更に見開かれ、血走っている事が見て取れるようになった。
「愛称、マジで羨ましいな…………ゲランディオールは後で一発ぶん殴るとして。とにかく仕事だ、仕事。妖精共を皆殺しにするぞ、お前等」
「そうだな。その為に俺達は此処に居るのだから」
「おしごと、いっぱいがんばろー」
「……嗚呼……また、王に折檻されるのか……」
四体の精霊がザッと横に並び、妖精を見据える。そして彼等は、胸元や首、心臓の辺りなどをそれぞれ押さえ、
『──正装、展開』
同時に口を開いた。
刹那、彼等の体がどこからともなく溢れた星雲に包まれる。妖精も、人間も、誰しもが等しく瞬くなか、それからほんの三十秒程後のこと。
星雲が弾け飛ぶと、そこには──まさに星の騎士と形容すべき、星空を写す騎士服を身に纏う、四体の精霊がいた。
「星騎士が一つ、《紅蓮の断頭台》エンヴィー」
「星騎士が一つ、《永劫の記録者》フリザセア」
「星騎士が一つ、《白日の大号令》エレノラ」
「星騎士が一つ、《夢幻の巡礼地》ゲランディオール」
それぞれ大なり小なりの容姿の変化を経て、彼等は名乗りあげる。
「さて──……妖精全員、ぶっ殺してやるよ」
髪型がポニーテールへと変わり、いつもと違う雰囲気を纏う師匠が、いつも通りの快活な笑顔で宣言した。
「チッ……首を狙ったんだが、死ななかったか。しぶとい奴等め。これだから妖精は嫌だ──っと。姫さん! 元気そうで何よりです」
師匠はこちらを振り向くやいなや、不自然なくらい爽やかに笑い、ひとっ飛びで距離を詰めてくる。
「まー、フリザセアが近くにいる以上無事だとは思ってましたけど。でも本当に、怪我が無さそうで安心しました」
「師匠はどうしてここに……?」
「妖精女王が現れたから、姫さんを守れって。シルフさんにそう命じられたんすよ。な、フリザセア」
「ああ」
フリザセアさんと師匠はシルフに言われて私達の元に駆けつけてくれたらしい。
先程不覚を取られたばかりの身としては、その気遣いが有難い一方、情けなくもある。私がもっと強ければ、シルフや師匠達に迷惑をかける事もなかったのかもしれないと思うと。とても、悔しい。
「星騎士が増えただと……」
「よもや、あの小娘にそこまでの価値が?」
「女王陛下の宝を掠め取った罪人め」
「信じられないな」
「女王陛下に仇なす愚か者が……っ」
「わー、精霊が次から次へと!」
矢面に立つ師匠とフリザセアさんに向け、妖精達の批難が轟々と放たれる。
だが師匠達も負けておらず、「ボソボソ気持ち悪ぃーんだよ蝿共! 文句があるならもっと大声で言え!」「愚者はそちらだろう、現実も見れぬ浅はかな連中が」とレスバトルを繰り広げた。
「……ところで、『せいきし』ってなんなんだろう」
よく聞く聖なる騎士ってやつ?
と、先程から頻出する単語が頭に引っ掛かり、ぽつりと零すと、
「星騎士は、精霊王直属の四体の騎士のことなの。だいたい、その世代ですごく強い四体が選ばれて、精霊王直々に、にんめーされる仕組みなの」
いつの間にか真横に立っていた金髪の幼女──雷の精霊さん、エレノラちゃんが疑問に答えてくれた。
「精霊王の身辺警護のほかに、精霊界の平定と、バカな精霊への牽制とかを兼ねた、とてもめいよな爵位。それが、“星騎士”。ノラも、そのヒトリなの」
「エレノラちゃんも!? すごい……!」
「ふふーん」
エレノラちゃんがえっへん。と胸を張るので、可愛さのあまり思わずその頭を撫でてしまう。
ちなむと。彼女直々に『エレノラちゃんって呼んで』と言われたので、こうも親しげに呼ばせてもらっているのだ。
この子が四体いる星騎士の一体だとして。残り三名のうち二体は、妖精達の反応からして師匠とフリザセアさんだろう。
じゃあ、最後の一体はどんな精霊さんなのかな? と思い馳せた直後、その答えは出た。
「…………このような非常時に、何をしているのだ、エレノラ」
「見てわからない? おひめさまに頭なでなでしてもらってるの」
「……はぁ…………」
諦めが深く感じられるため息を吐き出し、漆黒の甲冑の男──闇の精霊のゲランディオールは項垂れた。
現れたタイミング的にも、きっとこのヒトが最後の星騎士なんだろう。この四体の中では一番騎士っぽい見た目だし。
「…………妃殿下。闇のゲランディオール、遅ればせながら馳せ参じました」
くるりとこちらに向き直り、彼は改まった様子で一礼する。
「ゲーくんも駆けつけてくれたんですね。ありがとうございます」
「……当然の、事なれば」
照れているのか、ゲーくんはふいっとそっぽを向いてしまった。
このあだ名呼びの切っ掛け。それはつい今朝の事。
『……ゲランディオールで、構いませぬ。敬語も、不要。呼び難ければ、オレの事など、路傍の石、とでも……』
『路傍の石!?』
ゲランディオールさんと呼んだら、彼がえらく卑屈になったので、妥協案として提示したのがこのあだ名である。
っと。ほんの少し回想に耽っている間にも、妖精が新たな動きを見せた。
大柄の妖精が平身低頭し、妖精女王に進言する。それを聞いたらしい彼女の目は更に見開かれ、血走っている事が見て取れるようになった。
「愛称、マジで羨ましいな…………ゲランディオールは後で一発ぶん殴るとして。とにかく仕事だ、仕事。妖精共を皆殺しにするぞ、お前等」
「そうだな。その為に俺達は此処に居るのだから」
「おしごと、いっぱいがんばろー」
「……嗚呼……また、王に折檻されるのか……」
四体の精霊がザッと横に並び、妖精を見据える。そして彼等は、胸元や首、心臓の辺りなどをそれぞれ押さえ、
『──正装、展開』
同時に口を開いた。
刹那、彼等の体がどこからともなく溢れた星雲に包まれる。妖精も、人間も、誰しもが等しく瞬くなか、それからほんの三十秒程後のこと。
星雲が弾け飛ぶと、そこには──まさに星の騎士と形容すべき、星空を写す騎士服を身に纏う、四体の精霊がいた。
「星騎士が一つ、《紅蓮の断頭台》エンヴィー」
「星騎士が一つ、《永劫の記録者》フリザセア」
「星騎士が一つ、《白日の大号令》エレノラ」
「星騎士が一つ、《夢幻の巡礼地》ゲランディオール」
それぞれ大なり小なりの容姿の変化を経て、彼等は名乗りあげる。
「さて──……妖精全員、ぶっ殺してやるよ」
髪型がポニーテールへと変わり、いつもと違う雰囲気を纏う師匠が、いつも通りの快活な笑顔で宣言した。
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