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第五章・帝国の王女
579.Side Story:Sylph
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──ボクの結界をこじ開けて、何者かがこの街に侵入してきた。
極光結界は、その内側に星団の概念を宿す、星の権能の能力の一つ。言うなればこの結界がある限り、この街は人間界の中に在りながら、事実上の別の世界となっているのだ。
にもかかわず、そんな別世界への扉を無理やり作っては、この星団に堂々と侵入してきた者達がいる。
方法の詳細は分からないが、そんな馬鹿げた真似が出来る連中など、限られていよう。
「──妖精共が、ついに攻めて来たか……!!」
そして、この粟立つ気配。距離などお構いなしに自身の存在を主張する、気色悪い匂い。
そうか。そうだったのか。
妖精共の目的──その、作戦は。
……──妖精女王の完全顕現。
制約に縛られ妖精界から出られないあの女が、人間界で自由に行動する為だけの大掛かりな舞台装置!
それが、穢妖精が大量に投入された理由であり、クソジジイ共のお気に入りに膨大な奇跡力を与え絶え間なく奇跡を起こさせた真意。
奇跡力で浸食して人間界を妖精界へと塗り替え、一時的に制約の対象外とする。──これこそがヤツ等の狙いだろう。
『妖精界から出られないのなら、外の世界を妖精界にしてしまえばいいんだわ!』
あの性悪女なら、そんなふざけた世迷言を現実にしかねない。不本意ながらそんな確信がある。
当然、この状況はボクにとって非常に不都合なものだ。
「っ、ローズニカ! 今すぐアミィの元に向かえ! このままだとアミィの身が危険だ!!」
「わっ……分かりました!! 行きましょう、モルス!」
「は!」
ローズニカとモルスが走り出す。その背を見つめながら、ボクは体側の拳を震えさせていた。
妖精女王が完全顕現を果たしたのに、それがボクの付近ではないとすれば。その顕現場所はもはや絞られたも同然。
──精霊王の愛し子の元に、あの女は現れた。
ならば今、ボクがすべき事はただ一つ。
「流れ落ちよ、星の雫。この願いを聞き届けておくれ──……想い伝えし極天の矢」
──フィン以外の四体は至急、星々の姫の元に向かえ。制約など度外視で戦い、なんとしても、あの子を守り抜け!
そんな命令を星にのせて結界内に降らす。その星屑は放物線を描き、予定通り四箇所へと落ちた。
「王よ」
フィンが凛とした表情でこちらを見つめてくる。
「──極光結界の出力を限界まで上げる。フィン、やれるか?」
「王のお望みとあらば。俺は、どのような存在にも終焉を齎してご覧に入れましょう」
熱を失った片目と視線が交わる。その直後、フィンの全身を覆うように現れた漆黒の外套がひらりと靡き、その両手は怪物のように大きく凶暴な姿へと変貌していた。
星空の鎖に塞がれ、フィンの目元は一切見えない。その代わり、その口元は彼らしくなく、常に微笑みを携えている。
かつて魔界との戦争が起きた時。たった一騎で上位魔族を数千体嬲り殺した、精霊界屈指の凶悪な精霊。
それこそが──終の最上位精霊フィンの、彼自身が最も疎む、本当の姿。
「フィン。ボクの声だけを聞け。──ボクを守りつつ、妖精を皆殺しにしろ。これは命令だ」
フィンは返事をしなかった。だが一度、こくりと頷いたから問題はない。
そうして。軽々飛び上がり、フィンは猟犬のように狩りに向かった。
……叶うならば、ボク自身がアミィを守りたい。
だが、妖精を確実に殺す為には最上位精霊達の権能が必須。そしてアイツ等がこの世界で権能を使う為には……制約対策の極光結界が必要だ。
アミィと、アミィの愛するこの街や多くの人間達を守る為には、こうするしかない。
それ故に。
ボクはまた、最愛のあの子の危機に、駆けつけられないんだ────……。
極光結界は、その内側に星団の概念を宿す、星の権能の能力の一つ。言うなればこの結界がある限り、この街は人間界の中に在りながら、事実上の別の世界となっているのだ。
にもかかわず、そんな別世界への扉を無理やり作っては、この星団に堂々と侵入してきた者達がいる。
方法の詳細は分からないが、そんな馬鹿げた真似が出来る連中など、限られていよう。
「──妖精共が、ついに攻めて来たか……!!」
そして、この粟立つ気配。距離などお構いなしに自身の存在を主張する、気色悪い匂い。
そうか。そうだったのか。
妖精共の目的──その、作戦は。
……──妖精女王の完全顕現。
制約に縛られ妖精界から出られないあの女が、人間界で自由に行動する為だけの大掛かりな舞台装置!
それが、穢妖精が大量に投入された理由であり、クソジジイ共のお気に入りに膨大な奇跡力を与え絶え間なく奇跡を起こさせた真意。
奇跡力で浸食して人間界を妖精界へと塗り替え、一時的に制約の対象外とする。──これこそがヤツ等の狙いだろう。
『妖精界から出られないのなら、外の世界を妖精界にしてしまえばいいんだわ!』
あの性悪女なら、そんなふざけた世迷言を現実にしかねない。不本意ながらそんな確信がある。
当然、この状況はボクにとって非常に不都合なものだ。
「っ、ローズニカ! 今すぐアミィの元に向かえ! このままだとアミィの身が危険だ!!」
「わっ……分かりました!! 行きましょう、モルス!」
「は!」
ローズニカとモルスが走り出す。その背を見つめながら、ボクは体側の拳を震えさせていた。
妖精女王が完全顕現を果たしたのに、それがボクの付近ではないとすれば。その顕現場所はもはや絞られたも同然。
──精霊王の愛し子の元に、あの女は現れた。
ならば今、ボクがすべき事はただ一つ。
「流れ落ちよ、星の雫。この願いを聞き届けておくれ──……想い伝えし極天の矢」
──フィン以外の四体は至急、星々の姫の元に向かえ。制約など度外視で戦い、なんとしても、あの子を守り抜け!
そんな命令を星にのせて結界内に降らす。その星屑は放物線を描き、予定通り四箇所へと落ちた。
「王よ」
フィンが凛とした表情でこちらを見つめてくる。
「──極光結界の出力を限界まで上げる。フィン、やれるか?」
「王のお望みとあらば。俺は、どのような存在にも終焉を齎してご覧に入れましょう」
熱を失った片目と視線が交わる。その直後、フィンの全身を覆うように現れた漆黒の外套がひらりと靡き、その両手は怪物のように大きく凶暴な姿へと変貌していた。
星空の鎖に塞がれ、フィンの目元は一切見えない。その代わり、その口元は彼らしくなく、常に微笑みを携えている。
かつて魔界との戦争が起きた時。たった一騎で上位魔族を数千体嬲り殺した、精霊界屈指の凶悪な精霊。
それこそが──終の最上位精霊フィンの、彼自身が最も疎む、本当の姿。
「フィン。ボクの声だけを聞け。──ボクを守りつつ、妖精を皆殺しにしろ。これは命令だ」
フィンは返事をしなかった。だが一度、こくりと頷いたから問題はない。
そうして。軽々飛び上がり、フィンは猟犬のように狩りに向かった。
……叶うならば、ボク自身がアミィを守りたい。
だが、妖精を確実に殺す為には最上位精霊達の権能が必須。そしてアイツ等がこの世界で権能を使う為には……制約対策の極光結界が必要だ。
アミィと、アミィの愛するこの街や多くの人間達を守る為には、こうするしかない。
それ故に。
ボクはまた、最愛のあの子の危機に、駆けつけられないんだ────……。
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