だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
646 / 786
第五章・帝国の王女

579.Side Story:Sylph

しおりを挟む
 ──ボクの結界をこじ開けて、何者かがこの街に侵入してきた。
 極光結界プリズム・アウトは、その内側に星団の概念を宿す、星の権能の能力の一つ。言うなればこの結界がある限り、この街は人間界の中に在りながら、事実上の別の世界となっているのだ。
 にもかかわず、そんな別世界への扉を無理やり作っては、この星団セカイに堂々と侵入してきた者達がいる。
 方法の詳細は分からないが、そんな馬鹿げた真似が出来る連中など、限られていよう。

「──妖精共が、ついに攻めて来たか……!!」

 そして、この粟立つ気配。距離などお構いなしに自身の存在を主張する、気色悪い匂い。
 そうか。そうだったのか。
 妖精共の目的──その、作戦は。

 ……──妖精女王の完全顕現・・・・

 制約に縛られ妖精界から出られないあの女が、人間界で自由に行動する為だけの大掛かりな舞台装置!
 それが、穢妖精けがれが大量に投入された理由であり、クソジジイ共のお気に入りに膨大な奇跡力を与え絶え間なく奇跡を起こさせた真意。
 奇跡力で浸食して人間界を妖精界へと塗り替え、一時的に制約の対象外とする。──これこそがヤツ等の狙いだろう。

『妖精界から出られないのなら、外の世界を妖精界にしてしまえばいいんだわ!』

 あの性悪女なら、そんなふざけた世迷言を現実にしかねない。不本意ながらそんな確信がある。
 当然、この状況はボクにとって非常に不都合なものだ。

「っ、ローズニカ! 今すぐアミィの元に向かえ! このままだとアミィの身が危険だ!!」
「わっ……分かりました!! 行きましょう、モルス!」
「は!」

 ローズニカとモルスが走り出す。その背を見つめながら、ボクは体側の拳を震えさせていた。
 妖精女王が完全顕現を果たしたのに、それがボクの付近ではないとすれば。その顕現場所はもはや絞られたも同然。
 ──精霊王ボクの愛し子の元に、あの女は現れた。
 ならば今、ボクがすべき事はただ一つ。

「流れ落ちよ、星の雫。この願いを聞き届けておくれ──……想い伝えし極天の矢ウィッシュ・ア・メテオ

 ──フィン以外の四体は至急、星々の姫エストレラの元に向かえ。制約など度外視で戦い、なんとしても、あの子を守り抜け!
 そんな命令を星にのせて結界内に降らす。その星屑は放物線を描き、予定通り四箇所へと落ちた。

「王よ」

 フィンが凛とした表情でこちらを見つめてくる。

「──極光結界プリズム・アウトの出力を限界まで上げる。フィン、やれるか?」
「王のお望みとあらば。俺は、どのような存在にも終焉を齎してご覧に入れましょう」

 熱を失った片目と視線が交わる。その直後、フィンの全身を覆うように現れた漆黒の外套がひらりと靡き、その両手は怪物のように大きく凶暴な姿へと変貌していた。
 星空の鎖に塞がれ、フィンの目元は一切見えない。その代わり、その口元は彼らしくなく、常に微笑みを携えている。

 かつて魔界との戦争が起きた時。たった一騎で上位魔族を数千体嬲り殺した、精霊界屈指の凶悪な精霊。
 それこそが──終の最上位精霊フィンの、彼自身が最も疎む、本当の姿。

「フィン。ボクの声だけを聞け。──ボクを守りつつ、妖精を皆殺しにしろ。これは命令だ」

 フィンは返事をしなかった。だが一度、こくりと頷いたから問題はない。
 そうして。軽々飛び上がり、フィンは猟犬のように狩りに向かった。

 ……叶うならば、ボク自身がアミィを守りたい。
 だが、妖精を確実に殺す為には最上位精霊達の権能が必須。そしてアイツ等がこの世界で権能を使う為には……制約対策の極光結界プリズム・アウトが必要だ。
 アミィと、アミィの愛するこの街や多くの人間達を守る為には、こうするしかない。
 それ故に。
 ボクはまた、最愛のあの子の危機に、駆けつけられないんだ────……。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...