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第五章・帝国の王女
574.Main Story:Ameless
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リードさんから概要を聞いたカイルが、いい感じに言語化して私達に伝える──を繰り返すこと、十分程。
天使という概念の付与に関する説明と、発案者&天才&天使専門家による概念式(概念の固定の為に必要らしい。概念の固定って何?)の構築が終わったので、ひとまずカイルで試すことになった。
男性陣が揃いも揃って、『貴様が被験者になれ』『カイルでいいだろう』『とりあえずコイツで試しておくか』『理論をよく理解しているカイル王子が適任かと』『異議なし』『右に同じく』『自我強そうだし、その人でいいんじゃない?』と、満場一致でカイルを試験体に選んだのである。
貴方、何か皆の恨みを買うような真似をしたの? と訝しむ視線を送ると、カイルからは『俺の過失なんて四割程度なのに。ぴえん』と口パクが返ってきたので、やらかした自覚はあるらしい。
さて。気を取り直して、実験の方に移ろう。……と、言っても。私はただの見物人なのだが。
──“天使の概念の付与”にまつわる手順はこうだ。
まず、闇の魔力で被験者を軽い催眠状態にする。精神干渉の一歩手前のようなものなので、転生者にも効いたみたいだ。
次に、例の概念式を付与魔法で被験者を覆うように付与する。これは光の魔力を持つ聖職者組が行った。
次に、天使の血を持つハーフエルフ達の血液を拝借し、シュヴァルツが天使成分(多分、天使の遺伝子のことだと思う)だけ抽出したあと、変の魔力で血液を錠剤サイズに凝固させて被験者に投与。
最後に、被験者へ『お前は天使だ』と暗示をかける。
これにて、理論上は“天使の概念の付与”が完了するらしい。
話を全て聞いていたのに、私にはまったく理解が及ばない次元の話であった。とりあえず、『Hey、お前も天使にならないか?』『おけ』→変の魔力でぽぽぽぽーんっ!! ──みたいな、簡単な流れではないのは確かだ。
先生……じゃない、シュヴァルツに質問しようにも、彼は実行班なのでそれどころではない。なので何も分からないまま、とりあえず事の成り行きを見守っていたら、全行程を終えてすぐにカイルはすっと目を開き、何度かそれを瞬かせた。
「おいクソガキ。お前は何者だ?」
「──今日から、俺はエンジェルってことで」
「何言ってんだテメェ」
見下ろすシュヴァルツに問われたカイルは、さも当然のようにそう答えた。
よく分からないけど、成功したっぽい。
術後の経過観察:約二分も終え、安全性が証明されたので、奇跡力を回避する術が無い面々にどんどん概念付与を行っていく。
一通り概念付与が終わって、ハーフエルフ達が貧血になり、天使を自称する美男子がわんさか増えたところで、シュヴァルツがリードさんに訊ねる。
「おい、リード。お前はやらなくていいのか、概念付与」
「ん? ああ、平気だよ。私には心強い味方がいるからね」
「どういう…………あ。まさかそのネックレス──」
「大正解。ベールが魔除けにと、くれたんだ」
「白の竜の加護があれば、そりゃァ妖精の奇跡なんぞ気にする必要もないか」
「そういうことだよ」
にっと笑うリードさんの首元で煌めく、真珠のような何かのネックレス。あれはなんとベールさんからの贈り物だそうで、それがあるから彼は奇跡力の影響を受けないそうなのだ。
サラッととんでもない物持ってるなあ、あの人。
♢♢♢♢
気だるげに欠伸をするシュヴァルツに概念付与について質問してみました。
ややこしい行程を踏んだのは、世界を騙す為に必要だったから、とのこと。
催眠・暗示は内側を天使っぽくする為のもので、概念式の付与は外側を天使っぽくする為のもの。そして血液の投与は、天使の持つ奇跡否定能力を一時的に得る為のものだとか。
勿論、これはハリボテの天使なので、世界くんが『あれ? こいつら変じゃね?』と騙されなくなった瞬間に、彼等の概念付与は強制解除され効果消滅。即座に奇跡力の餌食となるだろう。
妖精の奇跡が制約に縛られたものだからか、世界くんも、奇跡力関連はちょっと過敏になってしまうのだと、シュヴァルツは語る。
どうやら世界くんは、制約が絡む事柄の不正には厳しいらしい。どうしてだろうね。
そうして、奇跡力対策も万全の私達は、ミシェルちゃんの捜索に躍り出た。──そしてほんの数分で彼女を見つけ、集合場所までとんぼ返り。
人海戦術ってやっぱり凄いなと思いました。
ロイと二人でコソコソ歩いていたところをミカリアが発見し、いつかの私のように、瞬間転移で有無を言わさず強制連行したらしい。
ちなむと、街中を彷徨っていたシャルをアルベルトが保護してきてくれたので、彼も数十分振りに合流出来た。
攻略対象とサブキャラ数名、そしてゲームには登場すらしなかった人達を背後に、ミシェルちゃんの前に立ちはだかる。
怯え、困惑した様子でこちらを見つめてくる彼女の目を見て、私は笑顔で告げた。
「……──ミシェル・ローゼラちゃん。私と、話をしましょうか」
天使という概念の付与に関する説明と、発案者&天才&天使専門家による概念式(概念の固定の為に必要らしい。概念の固定って何?)の構築が終わったので、ひとまずカイルで試すことになった。
男性陣が揃いも揃って、『貴様が被験者になれ』『カイルでいいだろう』『とりあえずコイツで試しておくか』『理論をよく理解しているカイル王子が適任かと』『異議なし』『右に同じく』『自我強そうだし、その人でいいんじゃない?』と、満場一致でカイルを試験体に選んだのである。
貴方、何か皆の恨みを買うような真似をしたの? と訝しむ視線を送ると、カイルからは『俺の過失なんて四割程度なのに。ぴえん』と口パクが返ってきたので、やらかした自覚はあるらしい。
さて。気を取り直して、実験の方に移ろう。……と、言っても。私はただの見物人なのだが。
──“天使の概念の付与”にまつわる手順はこうだ。
まず、闇の魔力で被験者を軽い催眠状態にする。精神干渉の一歩手前のようなものなので、転生者にも効いたみたいだ。
次に、例の概念式を付与魔法で被験者を覆うように付与する。これは光の魔力を持つ聖職者組が行った。
次に、天使の血を持つハーフエルフ達の血液を拝借し、シュヴァルツが天使成分(多分、天使の遺伝子のことだと思う)だけ抽出したあと、変の魔力で血液を錠剤サイズに凝固させて被験者に投与。
最後に、被験者へ『お前は天使だ』と暗示をかける。
これにて、理論上は“天使の概念の付与”が完了するらしい。
話を全て聞いていたのに、私にはまったく理解が及ばない次元の話であった。とりあえず、『Hey、お前も天使にならないか?』『おけ』→変の魔力でぽぽぽぽーんっ!! ──みたいな、簡単な流れではないのは確かだ。
先生……じゃない、シュヴァルツに質問しようにも、彼は実行班なのでそれどころではない。なので何も分からないまま、とりあえず事の成り行きを見守っていたら、全行程を終えてすぐにカイルはすっと目を開き、何度かそれを瞬かせた。
「おいクソガキ。お前は何者だ?」
「──今日から、俺はエンジェルってことで」
「何言ってんだテメェ」
見下ろすシュヴァルツに問われたカイルは、さも当然のようにそう答えた。
よく分からないけど、成功したっぽい。
術後の経過観察:約二分も終え、安全性が証明されたので、奇跡力を回避する術が無い面々にどんどん概念付与を行っていく。
一通り概念付与が終わって、ハーフエルフ達が貧血になり、天使を自称する美男子がわんさか増えたところで、シュヴァルツがリードさんに訊ねる。
「おい、リード。お前はやらなくていいのか、概念付与」
「ん? ああ、平気だよ。私には心強い味方がいるからね」
「どういう…………あ。まさかそのネックレス──」
「大正解。ベールが魔除けにと、くれたんだ」
「白の竜の加護があれば、そりゃァ妖精の奇跡なんぞ気にする必要もないか」
「そういうことだよ」
にっと笑うリードさんの首元で煌めく、真珠のような何かのネックレス。あれはなんとベールさんからの贈り物だそうで、それがあるから彼は奇跡力の影響を受けないそうなのだ。
サラッととんでもない物持ってるなあ、あの人。
♢♢♢♢
気だるげに欠伸をするシュヴァルツに概念付与について質問してみました。
ややこしい行程を踏んだのは、世界を騙す為に必要だったから、とのこと。
催眠・暗示は内側を天使っぽくする為のもので、概念式の付与は外側を天使っぽくする為のもの。そして血液の投与は、天使の持つ奇跡否定能力を一時的に得る為のものだとか。
勿論、これはハリボテの天使なので、世界くんが『あれ? こいつら変じゃね?』と騙されなくなった瞬間に、彼等の概念付与は強制解除され効果消滅。即座に奇跡力の餌食となるだろう。
妖精の奇跡が制約に縛られたものだからか、世界くんも、奇跡力関連はちょっと過敏になってしまうのだと、シュヴァルツは語る。
どうやら世界くんは、制約が絡む事柄の不正には厳しいらしい。どうしてだろうね。
そうして、奇跡力対策も万全の私達は、ミシェルちゃんの捜索に躍り出た。──そしてほんの数分で彼女を見つけ、集合場所までとんぼ返り。
人海戦術ってやっぱり凄いなと思いました。
ロイと二人でコソコソ歩いていたところをミカリアが発見し、いつかの私のように、瞬間転移で有無を言わさず強制連行したらしい。
ちなむと、街中を彷徨っていたシャルをアルベルトが保護してきてくれたので、彼も数十分振りに合流出来た。
攻略対象とサブキャラ数名、そしてゲームには登場すらしなかった人達を背後に、ミシェルちゃんの前に立ちはだかる。
怯え、困惑した様子でこちらを見つめてくる彼女の目を見て、私は笑顔で告げた。
「……──ミシェル・ローゼラちゃん。私と、話をしましょうか」
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