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第五章・帝国の王女
563.Main Story:Ameless
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「──カイル! カイルッ!!」
力なく倒れる彼を抱え、何度も呼びかける。
自ら頭を撃ったにも関わらず──どういうことなのか目立った外傷はなく、ならば当然出血もない。ただ、カイルが意識を失い倒れただけだった。
彼が何を思い、あんな行動に出たのか分からない。だからこそ、この状況がカイルにとって“想定内”なのかどうかすらも分からず、よりいっそう恐怖を煽ってくる。
「……変人だとは思ってたが、まさか自殺しようとするとは。こいつに何かあれば、俺が国王から文句を言われるんじゃないだろうな……?」
困惑した様子でこちらを見下ろしつつ、アンヘルは考え込む仕草を見せた。
「まあ、その心配はないか。見たところ、その魔導具は実弾ではなく魔力を弾丸として撃ち出す仕組みのようだ。しかも……なんだこの魔力は。変と智……詞と儡と音まで組み込んでやがるのか? これだけの魔力で編み出した弾丸でこいつは何をしようとした? 考えられる可能性としては──……」
顎を指で擦り、アンヘルは真剣な面持ちとなる。「リプフォワードの第二理論か? いや違う、これだけ材料があるならもっと……」「これでは術式構成に不備があるな。失敗だ」「魔力弾である必要性から鑑みて──」と、彼は一人で考察を進める。
魔導具開発の巨匠は、案外早くその答えに辿り着いたらしい。パズルのピースが埋まったように、彼は爽快感溢れる表情でこちらを見遣った。
「……──主目的は、精神干渉。その銃は、高確率で精神崩壊を誘発する大博打の魔導具だ」
今もなお、カイルの手に握られている拳銃。玩具を前にした子供のように輝く目でそれを見つめ、アンヘルは解を出したのだ。
「精神崩壊……? なんでそんなものを、カイルが…………」
「さあな。俺はそいつの目的よりもその魔導具そのものに興味がある。まさかこんなにもイカれた魔導具を目にする日が来るとはな……くくっ、あぁ……今すぐにでも魔導具を解体してその理論も構築も術式も全て証明したい!」
アンヘルの魔導具開発への執着は知っていたが、まさかここまでとは。カイルと一応例の魔導具を守るべく、私はぎゅっとカイルの頭を抱き締めた。
その時ふと、視界の端でマクベスタの顔が歪んだ気がしたのだが……今はアンヘルから気を逸らせない。
もしもの時は──無謀だろうが戦おう。そう決めた時、
「……──成功、したんだな」
胸元からカイルの声が聞こえてきた。
「っカイル!?」
「ん。おはよ、アミレス。……何その顔、俺が死んだとでも思った?」
「だ、だって……! あんた今自分の頭を……っ、それに精神を破壊する銃だって……!!」
「あー、アンヘル辺りにバラされたか。心配かけてごめん。精神崩壊誘発弾で精神を狂わせて、人格改変を帳消しにする策だって……理論上はいけるとはいえ、一応先に説明しておけばよかったな」
見慣れた緩い笑顔。今の彼は、間違いなく私の親友だ。
しかし、理論上はって……確かにそんなことをカイルも言っていた気がするけれど、だからって自分を撃つ事はないでしょう!? と、言いたい事が山ほど湧いてくる。それを何となく察したのか、カイルはバツが悪そうな顔でそそくさと立ち上がった。
「なぁ、アミレス。頼みがあるんだ」
アンヘルやフリードル達を見据えながら、カイルは強引に話題を変える。
「頼み?」
「もう一回、『瑠夏』って呼んでくれないか?」
「何で急に……」
突然の申し出に困惑を隠せずにいると、カイルは少しだけこちらを振り向いて、大人びた表情で微笑んだ。
「──名前で、呼ばれたくなったんだ」
その言葉の意味が分かるのはこの場で私だけ。
アンヘル達が首を傾げるなか、私はとりあえずその希望に沿うことにした。
「わかったわ。──ルカ」
「……っよし! やる気出てきたぁ! とにかく現状の打破が第一目標だな。チートオブチートの底力、見せてやるぜ!!」
アンヘル、フリードル、マクベスタ。この三人を相手にして、勝てる人間なんてこの世に存在しなかろう。
それに私は……フリードルに剣を向けられない。まさに、圧倒的不利。──それなのに。諦めてたまるかと、カイルは喜色を浮かべニヤリと笑った。
ならば私も頑張らねば。触発されたように白夜を手に立ち上がり、そこでふと思い立って、踵を上げて彼の耳元に唇を寄せた。
そして、おもむろに囁く。
「あのね、カイル。私──……『みこ』っていうの」
「…………え?」
「フェアじゃないかなーと思って言っただけだから。気にしないでね」
「いや、ちょっ……何そのCO?! 俺の緊張感返して!?」
やっぱりカイルはこっちの方がいい。『カイル』が悪いというわけではない。ただ……私の親友は、こうでなくては。
っと、二人で和気藹々としている場合ではなかった。妙な殺気を肌に感じたので周りを見渡すと──アンヘル達が三人揃ってものすごく不機嫌な様子だ。
「……何故かは分からんが、無性に腹が立つ。死ね、カイル・ディ・ハミル」
「お前ばかり……どうしていつもそう……」
「──なんだ、この胸焼けみたいな痛みは……?」
三者三様の反応に困惑する暇はない。やるしかない以上、この三人を同時に相手取らなくては。
カイルに目配せをする。──私達の間に、多くの言葉は不要であった。
「俺を置いて逝くんじゃねぇぞ」
「死んだら許さないからね」
私はマクベスタの方へと駆け出し、カイルはフリードルとアンヘル目掛けて魔法を使用する。空魔法で僅かな瞬間転移を強制されたフリードル達は、ほんの十メートル離れた場所にてカイルと対峙した。
偽名サラ対、偽名ルティ。
セインカラッド・サンカル対、ユーキ・デュロアス。
ミカリア・ディア・ラ・セイレーン対、ロアクリード=ラソル=リューテーシー。
フリードル・ヘル・フォーロイト&アンヘル・デリアルド対、カイル・ディ・ハミル。
そして、マクベスタ・オセロマイト対、私──アミレス・ヘル・フォーロイト。
攻略対象制圧戦は、ついに佳境を迎える──……。
力なく倒れる彼を抱え、何度も呼びかける。
自ら頭を撃ったにも関わらず──どういうことなのか目立った外傷はなく、ならば当然出血もない。ただ、カイルが意識を失い倒れただけだった。
彼が何を思い、あんな行動に出たのか分からない。だからこそ、この状況がカイルにとって“想定内”なのかどうかすらも分からず、よりいっそう恐怖を煽ってくる。
「……変人だとは思ってたが、まさか自殺しようとするとは。こいつに何かあれば、俺が国王から文句を言われるんじゃないだろうな……?」
困惑した様子でこちらを見下ろしつつ、アンヘルは考え込む仕草を見せた。
「まあ、その心配はないか。見たところ、その魔導具は実弾ではなく魔力を弾丸として撃ち出す仕組みのようだ。しかも……なんだこの魔力は。変と智……詞と儡と音まで組み込んでやがるのか? これだけの魔力で編み出した弾丸でこいつは何をしようとした? 考えられる可能性としては──……」
顎を指で擦り、アンヘルは真剣な面持ちとなる。「リプフォワードの第二理論か? いや違う、これだけ材料があるならもっと……」「これでは術式構成に不備があるな。失敗だ」「魔力弾である必要性から鑑みて──」と、彼は一人で考察を進める。
魔導具開発の巨匠は、案外早くその答えに辿り着いたらしい。パズルのピースが埋まったように、彼は爽快感溢れる表情でこちらを見遣った。
「……──主目的は、精神干渉。その銃は、高確率で精神崩壊を誘発する大博打の魔導具だ」
今もなお、カイルの手に握られている拳銃。玩具を前にした子供のように輝く目でそれを見つめ、アンヘルは解を出したのだ。
「精神崩壊……? なんでそんなものを、カイルが…………」
「さあな。俺はそいつの目的よりもその魔導具そのものに興味がある。まさかこんなにもイカれた魔導具を目にする日が来るとはな……くくっ、あぁ……今すぐにでも魔導具を解体してその理論も構築も術式も全て証明したい!」
アンヘルの魔導具開発への執着は知っていたが、まさかここまでとは。カイルと一応例の魔導具を守るべく、私はぎゅっとカイルの頭を抱き締めた。
その時ふと、視界の端でマクベスタの顔が歪んだ気がしたのだが……今はアンヘルから気を逸らせない。
もしもの時は──無謀だろうが戦おう。そう決めた時、
「……──成功、したんだな」
胸元からカイルの声が聞こえてきた。
「っカイル!?」
「ん。おはよ、アミレス。……何その顔、俺が死んだとでも思った?」
「だ、だって……! あんた今自分の頭を……っ、それに精神を破壊する銃だって……!!」
「あー、アンヘル辺りにバラされたか。心配かけてごめん。精神崩壊誘発弾で精神を狂わせて、人格改変を帳消しにする策だって……理論上はいけるとはいえ、一応先に説明しておけばよかったな」
見慣れた緩い笑顔。今の彼は、間違いなく私の親友だ。
しかし、理論上はって……確かにそんなことをカイルも言っていた気がするけれど、だからって自分を撃つ事はないでしょう!? と、言いたい事が山ほど湧いてくる。それを何となく察したのか、カイルはバツが悪そうな顔でそそくさと立ち上がった。
「なぁ、アミレス。頼みがあるんだ」
アンヘルやフリードル達を見据えながら、カイルは強引に話題を変える。
「頼み?」
「もう一回、『瑠夏』って呼んでくれないか?」
「何で急に……」
突然の申し出に困惑を隠せずにいると、カイルは少しだけこちらを振り向いて、大人びた表情で微笑んだ。
「──名前で、呼ばれたくなったんだ」
その言葉の意味が分かるのはこの場で私だけ。
アンヘル達が首を傾げるなか、私はとりあえずその希望に沿うことにした。
「わかったわ。──ルカ」
「……っよし! やる気出てきたぁ! とにかく現状の打破が第一目標だな。チートオブチートの底力、見せてやるぜ!!」
アンヘル、フリードル、マクベスタ。この三人を相手にして、勝てる人間なんてこの世に存在しなかろう。
それに私は……フリードルに剣を向けられない。まさに、圧倒的不利。──それなのに。諦めてたまるかと、カイルは喜色を浮かべニヤリと笑った。
ならば私も頑張らねば。触発されたように白夜を手に立ち上がり、そこでふと思い立って、踵を上げて彼の耳元に唇を寄せた。
そして、おもむろに囁く。
「あのね、カイル。私──……『みこ』っていうの」
「…………え?」
「フェアじゃないかなーと思って言っただけだから。気にしないでね」
「いや、ちょっ……何そのCO?! 俺の緊張感返して!?」
やっぱりカイルはこっちの方がいい。『カイル』が悪いというわけではない。ただ……私の親友は、こうでなくては。
っと、二人で和気藹々としている場合ではなかった。妙な殺気を肌に感じたので周りを見渡すと──アンヘル達が三人揃ってものすごく不機嫌な様子だ。
「……何故かは分からんが、無性に腹が立つ。死ね、カイル・ディ・ハミル」
「お前ばかり……どうしていつもそう……」
「──なんだ、この胸焼けみたいな痛みは……?」
三者三様の反応に困惑する暇はない。やるしかない以上、この三人を同時に相手取らなくては。
カイルに目配せをする。──私達の間に、多くの言葉は不要であった。
「俺を置いて逝くんじゃねぇぞ」
「死んだら許さないからね」
私はマクベスタの方へと駆け出し、カイルはフリードルとアンヘル目掛けて魔法を使用する。空魔法で僅かな瞬間転移を強制されたフリードル達は、ほんの十メートル離れた場所にてカイルと対峙した。
偽名サラ対、偽名ルティ。
セインカラッド・サンカル対、ユーキ・デュロアス。
ミカリア・ディア・ラ・セイレーン対、ロアクリード=ラソル=リューテーシー。
フリードル・ヘル・フォーロイト&アンヘル・デリアルド対、カイル・ディ・ハミル。
そして、マクベスタ・オセロマイト対、私──アミレス・ヘル・フォーロイト。
攻略対象制圧戦は、ついに佳境を迎える──……。
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