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第五章・帝国の王女
561.Main Story:Ameless
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「カイル! 無事!?」
絶賛アンヘルと睨み合い中の彼に向けて叫ぶ。
「俺は無事だが、それより君は大丈夫なのか?」
「えぇ。リードさんが助けに来てくれたの」
「あの『ラスボス』が……それは頼もしいな」
アンヘルに捕まらないように動き回りつつ、カイルの隣に辿り着く。その時アンヘルは、どうしてと言わんばかりに眉を顰めていた。
「ったく……ミカリアを抑えられる人間がいるとか聞いてねぇよ。あの服──ジスガランドの教皇だったか? なんであんなのがこの国にいるのやら……」
日傘の下、後頭部を掻きながら何度もため息を零す。アンヘルはいつも通り気だるげに、だがどこか鋭い雰囲気を纏いこちらを一瞥した。
「ま、でも……おまえ等二人ぐらいなら、俺一人でもなんとかなるか」
紅い瞳と目が合う。
アンヘルは強い。ゲームでは、あのミカリアをしてそう言わしめた程……なのだが。ゲーム内でアンヘルが戦闘したのはほんの数える程度。しかも、そのほとんどが味方の支援や雑魚の相手とかで、彼の本気は私達ですら未知のものなのだ。
「援軍の見込みはあるか?」
「一応、シュヴァルツが近くにいるらしいけど……彼は制約やら契約やらであまり介入出来ないから、時期を見極めるとか」
「なるほど……あまり頼れないんだな」
黙って首肯すると、カイルも困ったように小さく息を吐く。
精霊さん達は妖精の相手で忙しく、竜種の面々はもしもの時用に東宮を守護中。だからこそ人間の相手は私達人間がする事になったのだが……作戦変更からの聖人&吸血鬼乱入は流石に誰も予想してなかったと思うなぁ!
「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねぇ。今すぐ殺してやってもいいんだぞ」
アンヘルが不機嫌になってきたところで、更なる悲劇が私達を襲う。
「──カイルじゃないか。こんな所で何を…………」
「──チッ、見たくもない顔を見る羽目になるとは」
マクベスタとフリードルまでもがこの場に現れた。剣に変な色の血が付着しているので、おそらくは彼等も穢妖精退治をしていたのだろう。
……ただでさえ厄介な敵を前に打つ手なしだったのに、ここに来て更に敵が増えてしまった。それも、一騎当千クラスの攻略対象達が。
「……お前、は。っ…………!」
「アミレス・ヘル・フォーロイト──」
私と目が合うなり、マクベスタは苦悶に顔を歪め、フリードルはこちら見下し蔑んできた。
その時、刺すような痛みが心臓に生まれ、胸を押さえる。どうやら私は……まだ、彼等の異変を割り切れていないらしい。
「……アミレス。彼等と戦えるか?」
「……分かりきったこと聞かないで。無理よ」
「そうだろうと思った」
眉尻を下げ、カイルは肩を竦めた。
益々勝ち目が無くなった絶望的な状況。攻略対象のほとんどがミシェルちゃんに惹かれている今、悪役サブキャラの私が生存出来るルートなんて一つもないだろう。
だがそれでも、生きることを諦めるつもりはない。だって──……私は死にたくないし、私が死ぬと悲しむ人達がいるから。
私は、こんなところで死ぬつもりは毛頭ない。
「……──君は、本当に強いな」
意を決して顔を上げると、カイルが感心したようにぽつりと呟いた。そして彼もまた覚悟を決めたようで、凛とした表情を作っては懐に手を突っ込む。彼がもぞもぞと取り出したのは、見覚えのある拳銃だった。
銃は銃でも見覚えのない現代兵器の登場に、アンヘルをはじめとした攻略対象達の警戒が強まる。だがここで、カイルは思いがけない行動に出たのだ。
「さて。アミレスが勇気を出したのだから、俺も頑張らないとな」
そう言いながら、カイルは引鉄に指をかけて銃を構える。だがその銃口が向かうのはアンヘル達のいずれかではなく──、
「なっ……何してるの、カイル?」
彼自身の頭だった。
創作物なんかで見る拳銃自殺の姿勢。それを今、目の前でカイルが取っているのだ。
「大丈夫だよ、アミレス。理論上はね」
強がりだ。カイルは軽く笑うが、その指は僅かに震えている。……怖いのに、一体何故、急にそんなことを? カイルはいったい何を企んでいるの?
「やめてよ、そんな……何で急に──」
「急じゃないんだよ、アミレス。もうずっと、数週間前から考えていた事だ。そりゃあ俺だって怖いけれど……今、ここでやるしかない」
急展開に頭が混乱しているのか、攻略対象達も固まっている。だが覚悟を決めたカイルは、そんなのお構いなしにと銃口を頭に押し当てた。
そして、彼は私の親友を思い出させる表情で笑い、その引鉄を引く。
「彼はなんと言っていたか──……そうだ、『諸君、狂いたまえ』だったか」
パァンッ! と大きな発砲音が響く。
その瞬間、カイルは糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
「カイル────────ッ!!!!」
絶賛アンヘルと睨み合い中の彼に向けて叫ぶ。
「俺は無事だが、それより君は大丈夫なのか?」
「えぇ。リードさんが助けに来てくれたの」
「あの『ラスボス』が……それは頼もしいな」
アンヘルに捕まらないように動き回りつつ、カイルの隣に辿り着く。その時アンヘルは、どうしてと言わんばかりに眉を顰めていた。
「ったく……ミカリアを抑えられる人間がいるとか聞いてねぇよ。あの服──ジスガランドの教皇だったか? なんであんなのがこの国にいるのやら……」
日傘の下、後頭部を掻きながら何度もため息を零す。アンヘルはいつも通り気だるげに、だがどこか鋭い雰囲気を纏いこちらを一瞥した。
「ま、でも……おまえ等二人ぐらいなら、俺一人でもなんとかなるか」
紅い瞳と目が合う。
アンヘルは強い。ゲームでは、あのミカリアをしてそう言わしめた程……なのだが。ゲーム内でアンヘルが戦闘したのはほんの数える程度。しかも、そのほとんどが味方の支援や雑魚の相手とかで、彼の本気は私達ですら未知のものなのだ。
「援軍の見込みはあるか?」
「一応、シュヴァルツが近くにいるらしいけど……彼は制約やら契約やらであまり介入出来ないから、時期を見極めるとか」
「なるほど……あまり頼れないんだな」
黙って首肯すると、カイルも困ったように小さく息を吐く。
精霊さん達は妖精の相手で忙しく、竜種の面々はもしもの時用に東宮を守護中。だからこそ人間の相手は私達人間がする事になったのだが……作戦変更からの聖人&吸血鬼乱入は流石に誰も予想してなかったと思うなぁ!
「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねぇ。今すぐ殺してやってもいいんだぞ」
アンヘルが不機嫌になってきたところで、更なる悲劇が私達を襲う。
「──カイルじゃないか。こんな所で何を…………」
「──チッ、見たくもない顔を見る羽目になるとは」
マクベスタとフリードルまでもがこの場に現れた。剣に変な色の血が付着しているので、おそらくは彼等も穢妖精退治をしていたのだろう。
……ただでさえ厄介な敵を前に打つ手なしだったのに、ここに来て更に敵が増えてしまった。それも、一騎当千クラスの攻略対象達が。
「……お前、は。っ…………!」
「アミレス・ヘル・フォーロイト──」
私と目が合うなり、マクベスタは苦悶に顔を歪め、フリードルはこちら見下し蔑んできた。
その時、刺すような痛みが心臓に生まれ、胸を押さえる。どうやら私は……まだ、彼等の異変を割り切れていないらしい。
「……アミレス。彼等と戦えるか?」
「……分かりきったこと聞かないで。無理よ」
「そうだろうと思った」
眉尻を下げ、カイルは肩を竦めた。
益々勝ち目が無くなった絶望的な状況。攻略対象のほとんどがミシェルちゃんに惹かれている今、悪役サブキャラの私が生存出来るルートなんて一つもないだろう。
だがそれでも、生きることを諦めるつもりはない。だって──……私は死にたくないし、私が死ぬと悲しむ人達がいるから。
私は、こんなところで死ぬつもりは毛頭ない。
「……──君は、本当に強いな」
意を決して顔を上げると、カイルが感心したようにぽつりと呟いた。そして彼もまた覚悟を決めたようで、凛とした表情を作っては懐に手を突っ込む。彼がもぞもぞと取り出したのは、見覚えのある拳銃だった。
銃は銃でも見覚えのない現代兵器の登場に、アンヘルをはじめとした攻略対象達の警戒が強まる。だがここで、カイルは思いがけない行動に出たのだ。
「さて。アミレスが勇気を出したのだから、俺も頑張らないとな」
そう言いながら、カイルは引鉄に指をかけて銃を構える。だがその銃口が向かうのはアンヘル達のいずれかではなく──、
「なっ……何してるの、カイル?」
彼自身の頭だった。
創作物なんかで見る拳銃自殺の姿勢。それを今、目の前でカイルが取っているのだ。
「大丈夫だよ、アミレス。理論上はね」
強がりだ。カイルは軽く笑うが、その指は僅かに震えている。……怖いのに、一体何故、急にそんなことを? カイルはいったい何を企んでいるの?
「やめてよ、そんな……何で急に──」
「急じゃないんだよ、アミレス。もうずっと、数週間前から考えていた事だ。そりゃあ俺だって怖いけれど……今、ここでやるしかない」
急展開に頭が混乱しているのか、攻略対象達も固まっている。だが覚悟を決めたカイルは、そんなのお構いなしにと銃口を頭に押し当てた。
そして、彼は私の親友を思い出させる表情で笑い、その引鉄を引く。
「彼はなんと言っていたか──……そうだ、『諸君、狂いたまえ』だったか」
パァンッ! と大きな発砲音が響く。
その瞬間、カイルは糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
「カイル────────ッ!!!!」
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