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第五章・帝国の王女

557.Main Story:Others

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「……──だから! 貴方の力を貸してほしいの!」

 アミレスは恥も外聞もなくありのままに叫んだ。
 それに伴い、弾かれたようにカイルは目を瞬かせる。

「私が自分を犠牲にしないよう、貴方の力を貸してちょうだい! 無茶をしそうになったら止めてほしいし、何かあったら一緒に戦ってほしい! 私が死ぬまでずっと────私の傍で、私が私の命を軽視しないように、貴方に見張っていてほしいの!!」

 ──どんな事でも、貴方は手伝ってくれるんでしょう!
 滅多に他者を頼ろうとしないアミレスが捲し立てた、一方的で滅茶苦茶なお願い・・・にして、無欲な彼女が見せたこれ以上ない強欲・・
 もう一発、彼女の拳を顔に受けながらカイルは立ち尽くす。しかし程なくして、彼の体は小刻みに震えはじめた。

「──ふ。くく、ふっ……はははははははははっ!」
「……きゅ、急に笑ってどうしたの? もしかして当たり所が悪かった?!」

 顔を殴った直後に笑い出したものだから、アミレスはまさか私の所為? と顔を青くし、おどおどする。
 不安げにこちらを見上げる不器用な少女を、痛む頬や鼻など気にもとめず、慈しむようにカイルは見つめた。

「いや、悪い…………人生を・・・捧げろ・・・なんて情熱的な求婚プロポーズは初めてで、つい」
「──へ? ぷろ、ぽーず……?」
(おっと。やはり自覚無しか…………今の言葉、誰にも聞かれていないといいのだが)

 僅かに顔が青ざめてゆくカイルとは対照的に。ほんの数分前の自身の発言を振り返り、アミレスはみるみるうちに顔を紅潮させていった。

「~~~~ッ!? ちっっっっ、違うからね!?」
「振られてしまったか、残念だな。……まあ、その方が彼としては助かるだろうが」
「……?」

 困惑するアミレスを他所に、カイルは一人でくつくつと笑う。
 その笑顔は、彼らしくないやんちゃな笑みだったが──アミレスとしては、どことなく見慣れたいつもの笑顔だった。


 ♢♢


水流菅ウォーターシャワー!」
「おぼばばばばばっ」

 振り向きざまに水魔法を使用し、ミシェルは撹乱に挑む。そして、シャルルギルはものの見事にそれを顔面で受け止めた。

「くっ……! 眼鏡が……!!」

 水浸しになった眼鏡を外し、シャツでそれを拭いながら、シャルルギルは「まて~~~~っ!!」とコミカルに追いかける。

「もうっ、あの人しつこいよぉ!」

 ミシェルは涙目でわっ、と泣き言を叫ぶ。
 私兵団で鍛えている上に、シャルルギルは生まれつき足が速かった。まるで飛んでいるかのように、こと走りに関しては、人狼ウェアウルフのジェジに勝るとも劣らない。
 本気を出せば、ミシェルなど簡単に捕まえられる。──そんな余裕すらある程。

「誰か助けて────っっっ!!」
「どうした、何かあったのか!?」
「あなたに追いかけられてるんです!!!!」

 まるで漫才のようなやり取りを繰り広げながらも、茶番のような追いかけっこは続く。

(誰かぁ! 本当に誰でもいいからっ、この変な人をなんとかしてぇえええっ!)

 ミシェルの気力と体力が尽きる、その時まで……。


 ♢♢


(くそっ……! やっぱり兄ちゃんは強いなあ!!)

 実弟に対しても容赦なく蛇腹剣を振り回す兄を見て、エルハルト──偽名コードネームサラは顔を歪める。しかもだ。舐めているのか余裕綽々なのか、偽名コードネームルティ──アルベルトは、ずっと目を閉じたまま戦っていた。
 それがよりいっそう、サラの劣等感を煽る。

(兄ちゃんは凄い。僕よりも後に諜報部に入ったのに、僕よりもずっと早く出世して、毎日楽しく仕事していて……闇の魔力の扱いも、単純な戦闘能力も、僕は何一つ兄ちゃんには及ばない)

 それでもサラは、アルベルトが好きだった。
 約十年にもわたり自分を捜し続けていたという優しい兄が。忘れていても愛してくれる、温かな兄が。どこまでも健気で、呆れるぐらい純粋な兄が。この世界でたった一人の家族が。
 彼は──……心の底から、大好きなのだ。

(兄ちゃんが嫌な奴だったらな。そしたら……)

 僕の呪い・・が機能したのにな。──と、サラは蛇腹剣の猛攻をいなしながら考え耽る。
 アルベルトが色覚の魔眼を持って生まれたように、実はエルハルトもまた、他にはないものを持って生まれた。
 それが、“呪刻:劣等反証アンフェア”。好意を抱く相手よりも弱く、嫌悪を抱く相手よりも強くなる、先天性疾患のように彼の魂に刻まれた呪い。
 これこそが、サラがアルベルトには絶対に勝てないと断言する最たる理由であろう。

(どんどん体が重くなっていく……ままならないなぁ、本当に……!)

 どこまでも劣勢。自分の意思ではどうにも出来ない呪いによって、サラはどんどん弱体化してゆく。だが彼は決して折れない。諜報員としてのプライドが、サラを奮い立たせるのだ。

「ねぇ、ルティ。どうして僕の邪魔をするの? ──僕の任務しごと、知ってるよね」

 懐から得物である短剣ナイフを取り出し、サラは無謀にも応戦した。キンッ! と、金属を打ったような音が閑静な住宅街に幾度となく響く。

「俺のレディがそう望んだから。……サラがあの女の為に動くように、俺も主君の為に動くだけだよ」
「──退いてくれるつもりはない?」
「勿論。サラこそ大人しくしてくれないかな。俺は……もう二度と、弟が血を流す姿を見たくないんだ」
「僕だって……もう二度と、兄ちゃんが心を壊す姿は見たくないよ」

 思い合うが、それでも彼等は信念の為に対立した。
 ……──愛する兄/弟を傷つけてでも、ここは譲らない。示し合わせたかのように、二人はその意思を固める。

「────『顔の無い者の五箇条』」
「っ!! ……『その一、同僚を詮索するべからず』」

 サラがおもむろに口を切る。どうやらアルベルトはすぐさま彼の意図を察したようだ。サラが望む言葉を、ぐっと息を呑んでから口にした。

「『その二、程度問わず騙し合いを禁ずる』」
「『その三、非関係者への任務の共有は原則禁止』」
「『その四、他者の任務への干渉は極力避けるべし』」

 交互に条項を唱えると、最後に大きく息を吸って、同時に口を開き──……

「「『その五、もしも任務中に顔の無い者の妨害受けた場合は──殺してでも、己が任務を遂行せよ』!!」」

 二人は、高らかに宣誓した。
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