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第五章・帝国の王女
555.Side Story:Mayshea
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──帝都で魔物が暴れ回っている。
そんな報せがわたしの元まで届いたのは、つい先程の事だった。
アミレス様が主軸となり進めている一大計画を成功させるべく、商会特製の移動手段──魔導車でアルブロイト領にあるルーシェへの旅路を進んでいた時。
経由していた町で、シャンパー商会の支部へとそんな入電があったのだ。それは偶然支部に顔を出していたわたしにも共有され、同じくこの計画の支援者兼関係者として、此度の視察に同行していたマリエル様も同時に知るところとなった。
たしかに、数日前に帝都に変な魔物が現れたという噂は聞いていたが──……まさか、わたし達が帝都を出てすぐにそんな大事件に発展していたなんて。
「……──アミレス様は無事でしょうか」
「……──姫様はご無事でしょうか」
ふと零した言葉が綺麗に重なる。ハッとなったわたし達は目を合わせ、苦笑した。
「アミレス様なら、きっと……民草を守る為にって無茶をしていそうで。わたし、心配です」
「その気持ち、よく分かります。姫様のことです、確実にルティやイリオーデ卿を困らせる勢いでまた無茶を──……」
そこではた、と。マリエル様は何かを思い出したかのように目を細めた。
「……まだ日数もあまり経過しておりませんし──イリオーデ卿はランディグランジュ領に滞在中の可能性が高いですわね。かの侯爵家は現在元老会議を行っており、長引けば一ヶ月近く領地に縛られる事になるでしょうから」
「つまり、アミレス様のお傍には……ルティさんしかいないと?」
「その筈です。シルフ様方やナトラ達が居るとは思いますが、姫様の肉壁──ごほんっ。盾となる方々が通常より少ないかもしれない、というのは……魔物が多く現れた現状では些か不安ですね」
相変わらず、マリエル様は情報通だ。そして何気なくイリオーデさん達を肉壁扱いしているらしい。言い直しても『盾』呼ばわりだから、間違いなさそうだ。
憂い顔でアミレス様の無事を祈っているようなのだが、サラッと吐かれた言葉が気になってしまって。あまり、彼女の話が頭に入ってきませんでした。
「……ええと。とりあえず、イリオーデさんはご実家に帰省されているのですね」
「彼が元老会議から逃げ出していなければ、ですが」
「イリオーデさんなら、平気で逃げ出しそうですね」
「彼はいい意味でも悪い意味でも、姫様への忠誠心が群を抜いていますもの。それぐらいはやりかねませんわ」
ふふふっ、と二人で笑い合う。
イリオーデさんの忠誠心は随分と見上げたもので、誰か一人を懸命に案じた事がある人間ならば、誰もが思わず拍手を送りたくなるようなものだ。
……アミレス様を恋い慕う身としては、彼の存在が疎ましい時も多々あるが──それは、ここだけの秘密である。
それにしても……イリオーデさん程の戦力が長期間不在のうちに、こんな事件が起きるなんて。本当に……アミレス様が無事だといいのだけど。
「……っ」
不安から拳を強く握り込む。
あのアミレス様に限って無事じゃない筈がない。──そう、思っているけれど。アミレス様はすぐに無茶をするし、何度言っても御自身を大事にしてくれない。いつも傷だらけになって、命を懸けて戦っている。
そんな一面もまた、彼女らしさだとは思っているが……心配なものは心配なのだ。
でも──わたしは、彼女の元に駆けつける事は出来ない。
アミレス様が頑張ってここまで推し進めたこの計画を、わたしが台無しにする訳にはいかない。アミレス様から託されたのだから、彼女の信頼と期待に応えられるよう、不安も心配も噛み殺さねば。
──それが、わたしに出来る彼女への信頼の証明だから。
「マリエル様。──早く、このお仕事を終わらせましょう」
そして、少しでも早く愛しの彼女の元に!
わたしの気持ちが通じたのか、マリエル様は強かに微笑み、「ええ。そうしましょう」と頷いた。
そんな報せがわたしの元まで届いたのは、つい先程の事だった。
アミレス様が主軸となり進めている一大計画を成功させるべく、商会特製の移動手段──魔導車でアルブロイト領にあるルーシェへの旅路を進んでいた時。
経由していた町で、シャンパー商会の支部へとそんな入電があったのだ。それは偶然支部に顔を出していたわたしにも共有され、同じくこの計画の支援者兼関係者として、此度の視察に同行していたマリエル様も同時に知るところとなった。
たしかに、数日前に帝都に変な魔物が現れたという噂は聞いていたが──……まさか、わたし達が帝都を出てすぐにそんな大事件に発展していたなんて。
「……──アミレス様は無事でしょうか」
「……──姫様はご無事でしょうか」
ふと零した言葉が綺麗に重なる。ハッとなったわたし達は目を合わせ、苦笑した。
「アミレス様なら、きっと……民草を守る為にって無茶をしていそうで。わたし、心配です」
「その気持ち、よく分かります。姫様のことです、確実にルティやイリオーデ卿を困らせる勢いでまた無茶を──……」
そこではた、と。マリエル様は何かを思い出したかのように目を細めた。
「……まだ日数もあまり経過しておりませんし──イリオーデ卿はランディグランジュ領に滞在中の可能性が高いですわね。かの侯爵家は現在元老会議を行っており、長引けば一ヶ月近く領地に縛られる事になるでしょうから」
「つまり、アミレス様のお傍には……ルティさんしかいないと?」
「その筈です。シルフ様方やナトラ達が居るとは思いますが、姫様の肉壁──ごほんっ。盾となる方々が通常より少ないかもしれない、というのは……魔物が多く現れた現状では些か不安ですね」
相変わらず、マリエル様は情報通だ。そして何気なくイリオーデさん達を肉壁扱いしているらしい。言い直しても『盾』呼ばわりだから、間違いなさそうだ。
憂い顔でアミレス様の無事を祈っているようなのだが、サラッと吐かれた言葉が気になってしまって。あまり、彼女の話が頭に入ってきませんでした。
「……ええと。とりあえず、イリオーデさんはご実家に帰省されているのですね」
「彼が元老会議から逃げ出していなければ、ですが」
「イリオーデさんなら、平気で逃げ出しそうですね」
「彼はいい意味でも悪い意味でも、姫様への忠誠心が群を抜いていますもの。それぐらいはやりかねませんわ」
ふふふっ、と二人で笑い合う。
イリオーデさんの忠誠心は随分と見上げたもので、誰か一人を懸命に案じた事がある人間ならば、誰もが思わず拍手を送りたくなるようなものだ。
……アミレス様を恋い慕う身としては、彼の存在が疎ましい時も多々あるが──それは、ここだけの秘密である。
それにしても……イリオーデさん程の戦力が長期間不在のうちに、こんな事件が起きるなんて。本当に……アミレス様が無事だといいのだけど。
「……っ」
不安から拳を強く握り込む。
あのアミレス様に限って無事じゃない筈がない。──そう、思っているけれど。アミレス様はすぐに無茶をするし、何度言っても御自身を大事にしてくれない。いつも傷だらけになって、命を懸けて戦っている。
そんな一面もまた、彼女らしさだとは思っているが……心配なものは心配なのだ。
でも──わたしは、彼女の元に駆けつける事は出来ない。
アミレス様が頑張ってここまで推し進めたこの計画を、わたしが台無しにする訳にはいかない。アミレス様から託されたのだから、彼女の信頼と期待に応えられるよう、不安も心配も噛み殺さねば。
──それが、わたしに出来る彼女への信頼の証明だから。
「マリエル様。──早く、このお仕事を終わらせましょう」
そして、少しでも早く愛しの彼女の元に!
わたしの気持ちが通じたのか、マリエル様は強かに微笑み、「ええ。そうしましょう」と頷いた。
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