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第五章・帝国の王女
552,5.Interlude Story:Others
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♢♢
(……──ミシェルさん、また帝都に向かうのか。うーん……真珠宮にいてくれた方が、僕としてはありがたいんだけどなあ)
真珠宮内の影に潜み、国教会の祭服を纏う黒髪の青年は困った様子で唸っていた。
(皆と顔を合わせる勇気もなければ、兄ちゃんと対立した時の勝算もない役立たず…………でも、仕方ないか。彼女がそう決めたのなら、見守るだけの僕にはどうにも出来ないよ)
皇帝の側近からの命令で、神々の愛し子の監視任務についていた偽名サラ。彼はミシェル・ローゼラの選択を応援し、彼女を影で支えるべく、その後を追うのであった。
♢♢
「──愛し子さま、帝都に現れた魔物から帝国民を守る為にって、ロイさまと一緒に帝都に向かったそうよ」
「まあ……まだ幼いのに凄いわね」
とある客室の前を、真珠宮に配属された侍女達が世間話をしつつ通り過ぎる。
その会話が聞こえたのだろう。部屋の主はなめらかな金の長髪を揺らし、布団を押し退けてのそりと起き上がった。
「…………帝都……魔物……ならば、あの女が……王族の責務を果たすべく、現れるやも……しれない……」
ふらふらと歩き、大きな鏡に手をついて立つ。食い入るように鏡に映る己の瞳を見て、彼は不気味な笑みを浮かべた。
「く、くく……っ、あぁ……待っていろ、ユーキ。オレが今すぐ──……オマエを解放してやるからな」
親友を象徴する桃色──。
それと同じ色の瞳を恍惚と歪め、ハーフエルフの男セインカラッド・サンカルは、その胸に秘めたる復讐心を燃やす。
♢♢
「……また出たのか、あの気持ち悪いやつが?」
「そうらしいね。どうやらカイル王子からの手紙にはそう書いてあったとか」
つい今しがた齎された情報に、彼等は揃って呆れの息を吐き出す。
自身に起こっている“異変”を認識した二人、アンヘル・デリアルドとミカリア・ディア・ラ・セイレーンは、改竄された記憶を取り戻すべく奮闘していた。
その為、突然飛び込んできた話には興味を示さず、話を再開する。
「──ったく。それにしても、なんでこんなに厄介なんだよ。奇跡力ってやつは…………」
「妖精は何もかもが例外的な存在だからね。本当にどうすれば──」
ぴたり、とミカリアの口が動きを止める。だが程なくして、妙案思いついたり、とその口元は緩く笑みを象った。
「……妖精なら、丁度居るじゃないか。──よし、アンヘル君! 実験体を確保しに行こう!」
「実験体……──ああ、そういうことか」
ミカリアの意図をすぐさま理解し、アンヘルはニヤリと笑って立ち上がった……。
♢♢
フォーロイト帝国が王城にて。寝不足で日増しに酷くなる隈を引っ提げ、濃い銀髪を揺らしてずんずんと進んでは、彼はノックもそこそこに客室の扉を開け放った。
「──おい、マクベスタ・オセロマイト! 街にまた穢妖精が出没した。暇だろう、お前も討伐を手伝え」
全面的被害者であるマクベスタ・オセロマイトは、フリードル・ヘル・フォーロイトに負けず劣らず不健康な顔色で、振り向くやいなや、戸惑いつつも口を切った。
「……それは、構わないが。身支度だけ整えさせてくれないか」
「…………少しだけ待ってやる。疾く準備を終えろ」
いわゆる部屋着だった為、マクベスタは服を着替えて化粧をした。その様子をフリードルは訝しむように眺めるが、
(男でも化粧をするのが流行りとは聞いていたが、この男も流行に乗るのだな)
意外だ、と思うだけで口は挟まない。
「──待たせたな。オレはもう、出られる」
「そうか。ならば行くぞ」
即座に踵を返し、先を進むフリードルの銀髪を見つめ、マクベスタは想う。
(…………もっと明るい色、だったな……)
顔も名前も思い出せない、ある少女のことを。
♢♢
「──さて、と。あとはもう、流れに身を任せるしかないのか……」
王城の侍従に真珠宮への手紙を託した夕暮れの髪を持つ王子は、割り当てられた客室内で支度を済ませていた。
その腰には、専用のベルトに繋がれた長方形の魔導具が。そして懐には試作品の銃型魔導兵器が。
街に穢妖精が現れたと風の噂で聞き、彼は、最低限の手回しだけ行い帝都に下りようしている。
「いよいよ、この銃を使う時が来るかもしれないな……はぁ。俺は恐怖心が無い訳ではないんだが」
苦笑し、カイル・ディ・ハミルは瞬間転移を使用した。
(……──俺に出来る限りの事はやった。彼女達がこれを上手く利用してくれると信じるしかない、か)
足元に浮かんだ白い魔法陣が輝き、彼をここではない別の場所へと送り届ける。その際に微かな頭痛を覚えたが、カイルはそれを気にしない。
「やあ、妖精さん。──俺と、我慢くらべしようか」
蠢く穢妖精を目前に捉え、カイルはいくつもの魔法陣を同時に展開した……。
(……──ミシェルさん、また帝都に向かうのか。うーん……真珠宮にいてくれた方が、僕としてはありがたいんだけどなあ)
真珠宮内の影に潜み、国教会の祭服を纏う黒髪の青年は困った様子で唸っていた。
(皆と顔を合わせる勇気もなければ、兄ちゃんと対立した時の勝算もない役立たず…………でも、仕方ないか。彼女がそう決めたのなら、見守るだけの僕にはどうにも出来ないよ)
皇帝の側近からの命令で、神々の愛し子の監視任務についていた偽名サラ。彼はミシェル・ローゼラの選択を応援し、彼女を影で支えるべく、その後を追うのであった。
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「──愛し子さま、帝都に現れた魔物から帝国民を守る為にって、ロイさまと一緒に帝都に向かったそうよ」
「まあ……まだ幼いのに凄いわね」
とある客室の前を、真珠宮に配属された侍女達が世間話をしつつ通り過ぎる。
その会話が聞こえたのだろう。部屋の主はなめらかな金の長髪を揺らし、布団を押し退けてのそりと起き上がった。
「…………帝都……魔物……ならば、あの女が……王族の責務を果たすべく、現れるやも……しれない……」
ふらふらと歩き、大きな鏡に手をついて立つ。食い入るように鏡に映る己の瞳を見て、彼は不気味な笑みを浮かべた。
「く、くく……っ、あぁ……待っていろ、ユーキ。オレが今すぐ──……オマエを解放してやるからな」
親友を象徴する桃色──。
それと同じ色の瞳を恍惚と歪め、ハーフエルフの男セインカラッド・サンカルは、その胸に秘めたる復讐心を燃やす。
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「……また出たのか、あの気持ち悪いやつが?」
「そうらしいね。どうやらカイル王子からの手紙にはそう書いてあったとか」
つい今しがた齎された情報に、彼等は揃って呆れの息を吐き出す。
自身に起こっている“異変”を認識した二人、アンヘル・デリアルドとミカリア・ディア・ラ・セイレーンは、改竄された記憶を取り戻すべく奮闘していた。
その為、突然飛び込んできた話には興味を示さず、話を再開する。
「──ったく。それにしても、なんでこんなに厄介なんだよ。奇跡力ってやつは…………」
「妖精は何もかもが例外的な存在だからね。本当にどうすれば──」
ぴたり、とミカリアの口が動きを止める。だが程なくして、妙案思いついたり、とその口元は緩く笑みを象った。
「……妖精なら、丁度居るじゃないか。──よし、アンヘル君! 実験体を確保しに行こう!」
「実験体……──ああ、そういうことか」
ミカリアの意図をすぐさま理解し、アンヘルはニヤリと笑って立ち上がった……。
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フォーロイト帝国が王城にて。寝不足で日増しに酷くなる隈を引っ提げ、濃い銀髪を揺らしてずんずんと進んでは、彼はノックもそこそこに客室の扉を開け放った。
「──おい、マクベスタ・オセロマイト! 街にまた穢妖精が出没した。暇だろう、お前も討伐を手伝え」
全面的被害者であるマクベスタ・オセロマイトは、フリードル・ヘル・フォーロイトに負けず劣らず不健康な顔色で、振り向くやいなや、戸惑いつつも口を切った。
「……それは、構わないが。身支度だけ整えさせてくれないか」
「…………少しだけ待ってやる。疾く準備を終えろ」
いわゆる部屋着だった為、マクベスタは服を着替えて化粧をした。その様子をフリードルは訝しむように眺めるが、
(男でも化粧をするのが流行りとは聞いていたが、この男も流行に乗るのだな)
意外だ、と思うだけで口は挟まない。
「──待たせたな。オレはもう、出られる」
「そうか。ならば行くぞ」
即座に踵を返し、先を進むフリードルの銀髪を見つめ、マクベスタは想う。
(…………もっと明るい色、だったな……)
顔も名前も思い出せない、ある少女のことを。
♢♢
「──さて、と。あとはもう、流れに身を任せるしかないのか……」
王城の侍従に真珠宮への手紙を託した夕暮れの髪を持つ王子は、割り当てられた客室内で支度を済ませていた。
その腰には、専用のベルトに繋がれた長方形の魔導具が。そして懐には試作品の銃型魔導兵器が。
街に穢妖精が現れたと風の噂で聞き、彼は、最低限の手回しだけ行い帝都に下りようしている。
「いよいよ、この銃を使う時が来るかもしれないな……はぁ。俺は恐怖心が無い訳ではないんだが」
苦笑し、カイル・ディ・ハミルは瞬間転移を使用した。
(……──俺に出来る限りの事はやった。彼女達がこれを上手く利用してくれると信じるしかない、か)
足元に浮かんだ白い魔法陣が輝き、彼をここではない別の場所へと送り届ける。その際に微かな頭痛を覚えたが、カイルはそれを気にしない。
「やあ、妖精さん。──俺と、我慢くらべしようか」
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