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第五章・帝国の王女
552.Side Story:Michelle
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「はぁ……」
バルコニーの手すりにもたれかかり、遠くに見える帝都の外壁を眺める。
あれから数日。知らないうちに帰宅していたカイルとマクベスタとは、あれ以来一度も会っていない。カイルとは何度か手紙を交わして、マクベスタの調子が戻ってきたと報せてもらったが……それでも心配なものは心配だ。
アンヘルは連日ミカリアと何かに取り組んでいるらしく、真珠宮に滞在している。だが……顔を合わせると顰めっ面で無視されてしまうので、会話らしい会話はしていない。
ミカリアはいつもと変わらない──けれど、どこかよそよそしいというか。神殿都市に行ったばかりの頃のような、心の距離を感じる。
「何を間違えちゃったのかなあ……アミレスの登場といい、ゲームとの違いといい……もうめちゃくちゃだよぅ…………」
数少ないゲームの知識を駆使して頑張ってきたけれど……何一つとして上手くいかない。この世界の主役──ミシェル・ローゼラなのに、あたしは何も成せていないではないか。
「あっ、こんな所にいた。ミシェル、なんか手紙が来てるよ……あの役立たずの王子から」
「ロイ! 届けてくれてありがとう」
ムスッとするロイから、カイルの手紙を受け取る。その内容を二人で見て、あたし達は瞠目した。
「──えっ、またあの化け物が街に……!?」
「……帝国ってなんでこんなに危険なの? もう神殿都市に帰ろうよ、ミシェル」
「だ、駄目だよ。街の人達が危険な目に遭ってるのなら、助けてあげないと……!」
カイルからの手紙。そこには、数日間なりを潜めていた化け物が、つい数十分前から帝都内で目撃されるようになったと、その旨が記載されている。
そして、天の加護属性を持つあたしに、協力要請がしたいと。──共にこの国の人達を助けようといった提案が、書かれていた。
「ミシェルが行く必要なんてないよ! あの日あんなにも怖い思いしたのに、なんでミシェルはそんなに頑張ろうとするの?」
眉尻を下げたロイが、あたしの手を握り、問うてくる。
「──だって、あたしに出来ることってそれぐらいだもん。だからせめて、出来ることぐらいは一生懸命頑張りたいんだ」
天の加護属性による奇跡のような、特別な治癒魔法。それが神々の愛し子であるミシェル・ローゼラが、世間から求められているもの。
たくさん魔力があろうと、あたしには誰かを加害することが出来ない。弱虫で情けないあたしが、ミシェルになってしまったから──攻略対象達と共に勇敢に戦うミシェル・ローゼラはこの世界からいなくなった。
だからそのぶん、あたしは人々を癒す事で、ゲームにおける彼女の活躍に相応しい功績を残さなければならない。
……──『皆を守って』と、ミシェルからも頼まれているから。
「だからあたし、街に行くよ。あたしはあの日、皆がいてくれたから怖くなかったけど……街の人達はそうじゃない人がほとんどだと思うから。少しでも皆が怖い思いをしないで済むように、あたしは戦う」
「ミシェル…………ごめん、余計なこと言って。ミシェルがそう言うなら、おれも一緒に戦うね」
ゲームで何度も見た笑顔で、ロイはあたしに賛同する。
「ありがとう、ロイ。心強いよ。あ、でも……無茶はしないでね?」
「……無茶したら、ミシェルはたくさんおれに構ってくれる?」
「故意に怪我するなんて、絶対駄目だからね!」
「あはは、冗談だよ。ミシェルにかっこ悪いところ見せたくないもん。気をつけるよ」
犬歯を見せるように口を開いて、ロイは笑い声を弾ませた。
ゲームのロイはいわゆる『ヤンデレ』だったが……目の前の彼は話に聞く『ヤンデレ』というものとは到底思えない、心優しくて年相応の少年だ。
ゲームとは違う方向性に成長したけれど、これもまた、この現状の原因の一つなのかもしれない。
「それじゃあミカ……聖人様に言って、あたし達は帝都に向かおう。セインは──……」
「あんなやつ、放っておこうよ。なんか部屋でずっとぶつぶつ呪詛吐き散らしてるし、一緒にいたらきのことか生えちゃいそう」
「じ、ジメジメしてる……ってことかな?」
ロイがため息混じりに辛辣な言葉を零す。
セインはあの日からずっと様子がおかしい。心配で昨日一昨日と声をかけたが、彼は無反応だった。だからもう、時間に任せるしかないと──セインのことはそっとしておいて、あたし達は早速帝都へと向かう事にした。
バルコニーの手すりにもたれかかり、遠くに見える帝都の外壁を眺める。
あれから数日。知らないうちに帰宅していたカイルとマクベスタとは、あれ以来一度も会っていない。カイルとは何度か手紙を交わして、マクベスタの調子が戻ってきたと報せてもらったが……それでも心配なものは心配だ。
アンヘルは連日ミカリアと何かに取り組んでいるらしく、真珠宮に滞在している。だが……顔を合わせると顰めっ面で無視されてしまうので、会話らしい会話はしていない。
ミカリアはいつもと変わらない──けれど、どこかよそよそしいというか。神殿都市に行ったばかりの頃のような、心の距離を感じる。
「何を間違えちゃったのかなあ……アミレスの登場といい、ゲームとの違いといい……もうめちゃくちゃだよぅ…………」
数少ないゲームの知識を駆使して頑張ってきたけれど……何一つとして上手くいかない。この世界の主役──ミシェル・ローゼラなのに、あたしは何も成せていないではないか。
「あっ、こんな所にいた。ミシェル、なんか手紙が来てるよ……あの役立たずの王子から」
「ロイ! 届けてくれてありがとう」
ムスッとするロイから、カイルの手紙を受け取る。その内容を二人で見て、あたし達は瞠目した。
「──えっ、またあの化け物が街に……!?」
「……帝国ってなんでこんなに危険なの? もう神殿都市に帰ろうよ、ミシェル」
「だ、駄目だよ。街の人達が危険な目に遭ってるのなら、助けてあげないと……!」
カイルからの手紙。そこには、数日間なりを潜めていた化け物が、つい数十分前から帝都内で目撃されるようになったと、その旨が記載されている。
そして、天の加護属性を持つあたしに、協力要請がしたいと。──共にこの国の人達を助けようといった提案が、書かれていた。
「ミシェルが行く必要なんてないよ! あの日あんなにも怖い思いしたのに、なんでミシェルはそんなに頑張ろうとするの?」
眉尻を下げたロイが、あたしの手を握り、問うてくる。
「──だって、あたしに出来ることってそれぐらいだもん。だからせめて、出来ることぐらいは一生懸命頑張りたいんだ」
天の加護属性による奇跡のような、特別な治癒魔法。それが神々の愛し子であるミシェル・ローゼラが、世間から求められているもの。
たくさん魔力があろうと、あたしには誰かを加害することが出来ない。弱虫で情けないあたしが、ミシェルになってしまったから──攻略対象達と共に勇敢に戦うミシェル・ローゼラはこの世界からいなくなった。
だからそのぶん、あたしは人々を癒す事で、ゲームにおける彼女の活躍に相応しい功績を残さなければならない。
……──『皆を守って』と、ミシェルからも頼まれているから。
「だからあたし、街に行くよ。あたしはあの日、皆がいてくれたから怖くなかったけど……街の人達はそうじゃない人がほとんどだと思うから。少しでも皆が怖い思いをしないで済むように、あたしは戦う」
「ミシェル…………ごめん、余計なこと言って。ミシェルがそう言うなら、おれも一緒に戦うね」
ゲームで何度も見た笑顔で、ロイはあたしに賛同する。
「ありがとう、ロイ。心強いよ。あ、でも……無茶はしないでね?」
「……無茶したら、ミシェルはたくさんおれに構ってくれる?」
「故意に怪我するなんて、絶対駄目だからね!」
「あはは、冗談だよ。ミシェルにかっこ悪いところ見せたくないもん。気をつけるよ」
犬歯を見せるように口を開いて、ロイは笑い声を弾ませた。
ゲームのロイはいわゆる『ヤンデレ』だったが……目の前の彼は話に聞く『ヤンデレ』というものとは到底思えない、心優しくて年相応の少年だ。
ゲームとは違う方向性に成長したけれど、これもまた、この現状の原因の一つなのかもしれない。
「それじゃあミカ……聖人様に言って、あたし達は帝都に向かおう。セインは──……」
「あんなやつ、放っておこうよ。なんか部屋でずっとぶつぶつ呪詛吐き散らしてるし、一緒にいたらきのことか生えちゃいそう」
「じ、ジメジメしてる……ってことかな?」
ロイがため息混じりに辛辣な言葉を零す。
セインはあの日からずっと様子がおかしい。心配で昨日一昨日と声をかけたが、彼は無反応だった。だからもう、時間に任せるしかないと──セインのことはそっとしておいて、あたし達は早速帝都へと向かう事にした。
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