だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第五章・帝国の王女

551,5.Interlude Story:Others

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「…………」

 目元を赤く腫らし泣き疲れて眠る、不器用な少女の湿った頬を指の背で撫でながら、オーロラのごとき髪を足元まで垂らす男は微笑む。

(ああ……ようやく──君の本音が聞けた)

 彼が知る限りでも、少女が弱音を吐いた事など数えられる程度しかなく。異常なまでに、甘えるというものを知らない我慢と自己犠牲を是とする少女──……アミレス・ヘル・フォーロイトは、今の今まで誰にも弱みを見せずに生きてきた。
 だがそんな彼女がついに弱みを見せ、幼子のように声を上げて泣きじゃくったのだ。それは、アミレスを傍で見守ってきたシルフからすれば──とても喜ばしいことであった。

(こんな月並みな言葉で君の心を引き出せるのなら、もっと早く言っておけば。そうしたら……君は、もっと自分を大事にしてくれただろうか?)

 そんな後悔から僅かに眉尻を下げる。

「……君が君自身を愛してくれるよう、ボクも精一杯君を愛するよ」
(──どれだけ時間がかかっても構わない。君が心から自分の事が好きだと言える日が来るまで、ボクは君を愛し続ける。……もちろん、その日以降も)

 くすりと笑い、星を司る精霊は、透き通った波打つ白銀の髪に、永遠の誓いを口付ける。

「──アミレス泣かせてんじゃねェよ、クソ精霊」

 音もなく部屋に侵入し、シルフの背後を取ったのは見慣れた普段着に着替えたシュヴァルツ。腕を組み、随分と不遜な態度で彼はシルフを見下ろす。

「……勝手に人の部屋に入るなよ、雑魚悪魔」

 せっかくのいい雰囲気を邪魔され、シルフは怒りを覚えていた。振り向いたその尊顔には青筋が浮かぶものの、それでもなお美しいのだから、その美貌は格が違う。

「なァ、精霊の。お前……いつまでアミレスに黙ってるつもりだ?」
「……何の話だ」
「ハッ、しらばっくれるなよ。代替わりしたという話は聞かんし、妖精共の狙いなんて、最初からただ一つ──……」
「黙れ!!」

 食い気味に声を荒らげ、その先を言わせまいとする。その顔には、焦燥のようなものが浮かんでいて。

「……っ分かってる、そんなの最初から分かってた……! だけど、それを言えば──」

 正体を彼女に知られることになる! 口にはしなかったものの、彼の複雑な心境がシュヴァルツは手に取るように分かるらしい。

「どうせ、いずれバレるだろ。なら、いっそ自白しておけばアミレスからの心象とて良くなるかもしれないのに。数千年前から変わらず──……いや、更に愚かになったな、精霊王」
「……五月蝿い。お前には関係の無い話だろ、魔王。ボクは……ただ、時が許す限りは『ただのシルフ』としてアミィの傍にいたいんだよ」

 愚かだな。と、魔王は冷ややかな視線を目の前の精霊王に注ぐ。

「だから」
「……?」
「……──ヴァイス・フォン・シュヴァイツァバルティーク。お前に、協力を申し出たい」

 苦渋の決断とばかりに眉を顰め、シルフは立ち上がった。精霊王としての彼から放たれた言葉が余程予想外だったのか、魔王たるシュヴァルツは何度も目を瞬かせる。

「………………は? きょう、りょく? オレサマと、お前が?」
「……ああそうだよ。ボクだってこんな事はしたくないし言いたくもないが、アミィの為だ。背に腹はかえられない」

 アミレスの為だと聞き、シュヴァルツは納得したらしい。「とりあえず話を聞こう」と詳細を促され、シルフは不満げな様子で過不足なく説明した。

「──成程な。つまりはオレサマにアミレスの護衛をしろと」
「アミィは多分……友達に剣を向けられないだろう。だから、もしもの時は……」
「オレサマが殺せ、って事か。まァいいぜ、元よりアイツの傍にいるつもりだったからな」
「それはそれで気に食わないけど、アミィの安全の為だ。譲歩してやる」
「マジで終始尊大だなコイツ…………」

 白けた表情で、シュヴァルツはため息を一つ。
 その後、アミレスの睡眠の邪魔になるからと、彼等は大人しく部屋を後にしてすぐさま解散した。犬猿の仲とも言える相手と、好き好んで一緒にいようとは思わないようだ。

(……先程は、アミレスの為だからと見逃してやったが──改めて考えると、やっぱり割に合わねェ気がする)

 一体ひとりで廊下を歩きつつ、シュヴァルツは物思いに耽ける。

(もしもの時はアミレスの友達だろうが容赦なく殺れ、って──敢行した日には、アミレスから本気で嫌われる事が確定しているようなモンだが……? 仕方ないとはいえ、あの我儘お坊ちゃんめ……さりげなく汚れ役押し付けてきやがったな)

 苛立ちに顔を顰めるも、シュヴァルツは根が真面目なので一度引き受けた仕事はきちんとこなす。まあ、それがなくとも──先の言葉通り、元よりアミレスの傍に控えるつもりであったシュヴァルツは、彼女に危機が迫れば、たとえアミレスに嫌われる事になろうとも、彼女を守ることだろう。
 ……──それで、惚れた女アイツが幸せになれるのなら。

(ぼく・・は、お前の為に尽くすよ。だからその代わり、ずっと────……)

 黒い眼の中心にて煌めく紫水晶アメジストは、天に祈りを捧ぐように、ゆっくりと閉ざされた。
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