だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第五章・帝国の王女

547,5.Interlude Story:■■■■

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 ……──誰でもいい。誰でもいいから、私を愛してください。

 ……──ああ、でも。誰だって構わないのなら──私は、【家族】の愛がほしい。

 でもそれは、私達・・では決して叶わない────夢のまた夢、なのです。


 ♢


 目蓋を押し上げる。だがそこにあるのは見慣れた天井ではなく、久方ぶりに見た天井。──これは、きっと……『私』の記憶だ。

『やぁ、おはよう。私の可愛いみぃ。今朝はよく眠れたかい?』

 こちらを覗き込んでくるのは、木瓜ボケのような長髪に金蓮花のような瞳の美丈夫。彼は、『私』と目が合うなり幸せそうに笑った。

 ──悲しい、夢を見たの。大好きな人達から、忘れられ嫌われる夢──……胸が引き裂かれそうになる夢なんて、はじめてで。どうすればいいのか、分からないわ。
 なんて口を動かせば、

『……そう。やっぱり、君にはそちらの方が合っていたんだね』

 彼は切なげな──それでも慈愛に満ちた微笑みで、『私』の頭を撫でた。
 温かくて大きな手は『私』の頭をわし掴むように包み、その親指は、少し乱暴に『私』の目元をぐにぐにと触ってくる。

 ──もうっ、なにするの!
 と反抗してみると、彼はくすくすと笑い、ずいと顔を寄せてきた。

『滅多に泣かない君が泣いていたんだ。そりゃあ、涙の一つや二つ、拭わねば男が廃るってものだろう?』

 ──この女好き! キザな男! 百人斬り!

『突然の罵詈雑言……私だって傷つくんだぞう。ほとんど事実だから否定は出来ないんだけども。でも君が生まれてからは女遊びはしてないからね? いや本当に! これは太陽にだって誓えるよ!?』

 彼が必死に弁明する姿に、思わず笑い声が漏れ出た。
 そんなのとっくに知っている。だって、あなたは……『私』が生まれてからずっと──『私』の傍にいてくれたから。

『…………本当に、強くなったね。その切っ掛けが私ではないのが、とても腹立たしいことではあるが。──なんて、遠吠えをあげる資格すら、君を不幸にした私には──……ないのだがね』

 とても寂しそうな顔。十数年前のあの日、はじめて見た彼の顔はとても幸せそうで……嬉しそうな笑顔だったのに。今の彼は、その美しい顔を悲痛に沈めている。

 ──そんなことない。あなたがいてくれたから、私、これまで生きるのが楽しかったんだよ。寂しくなかったし、辛いことがあっても乗り越えられた。全部、全部、あなたのおかげ──…………。
 そこまで言って。彼は、突然『私』の口に指を当てて言葉を封じてきた。

『駄目だよ。私にそんな言葉を軽率に吐いてはならない。自分勝手な私は──君を手離したくないあまり、私だけの領域セカイに君を隠してしまいたくなるからね』

 だから、それ以上は駄目だ。と、彼はいたずらっぽく笑う。

『というか。苦渋の決断であちらに君のことを託しているんだから……私の決意を無駄にされたくないなあ』

 決意? 託す? なんの話だろう。──と疑問を抱いた瞬間。目の前がふっと暗くなり、同時に、少しばかり体が重くなった。

『ちぇっ、早いなぁもう。オニのように頑張って君の夢に入り込んだのに……くそぅ、どうやらもうお目覚めの時間のようだ』

 暗闇の向こうへと、彼の声が遠ざかっていく。

『まあ、でも。またきっと逢えるよ。というか絶対逢う。何があっても逢いに行くから。君と話せない日々、本当に寂しくて仕方ないんだよ』

 さらに向こうへと、途切れ途切れになりながら彼の声は遠ざかる。

『最後に真面目な話でもしようかな。──君は、もっと泣いてもいいんだよ。誰かに縋ってもいいし、甘えたっていい。辛いことはなんでも『辛い』って言ってみろ。きっと……私程ではないだろうが、彼等は君に寄り添ってくれるだろう』

 私程ではないだろうけど! と、彼は意味不明な念を押してくる。

『閑話休題。えーっと、君の周りにはたくさん、君を想ってくれる人達がいるだろう? だから少しは彼等を信じ、頼ってみるといい。忘れたなんて馬鹿な事を吐かす連中はぶん殴って思い出させてやればいいさ』

 彼の声と共に、ぶんぶんと、風を切る音が聞こえてきた。……相変わらず脳筋だなあ、このひと。

『安心したまえ、君は一人じゃない。彼等もいるが、それ以前に。これからも──……私はずっと、傍で君を見守っているから』

 いつもなら、別れを倦厭する筈なのに。ずっと傍で見守っていると言ってくれたからかな……今日は、別れが辛くない。
 また、会いに来てね。──待ってるから。
 そんな、言葉に出来ない我儘を心に思い浮かべる。
 すると、遥か彼方から──……『ああ。私は、守れない約束はしない主義だからね』と、彼の声が聞こえてきた気がした。
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