だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
609 / 786
第五章・帝国の王女

547.Side Story:Schwarz

しおりを挟む
 魔界は現在、九つの領土に分かれている。
 その内訳は至ってシンプル。魔王城を中心とした魔王領と、八柱はしらの魔物である八体の魔族の長が支配する、八つの領土を合わせた九つだ。
 まァ、オレサマは魔王権限で全ての領土でアレコレ出来る訳だが、下々は違う。日夜領土争いと称して他種族との抗争が各地で起きているのだが、度を超えない限りはオレサマも黙認している。
 とはいえ、だ。

「……お前等って本当に嫌われてるよなァ」
「強者故、雑魚共に妬まれているだけに過ぎません。負け犬の遠吠えなど耳障りなだけなのですがね」

 堕天族ルシフェルのそれは凄まじい。常に複数の種族から攻め込まれており、物の見事に全てを返り討ちにしている。
 元天使という点から、ありとあらゆる魔族に嫌われている種族。──それが堕天族ルシフェル。その為抗争が絶えず、この領土は毎日が戦場と化している。

「して、魔王様は一体いつまでワレの城に滞在なさるおつもりですか?」
「そりゃァ目当ての情報が見つかれば、オレサマとてさっさとアミ──……人間界に行くさ」

 魔界序列第二席、堕天族ルシフェルの長エンデアが冷ややかな視線を向けてきた。目は口ほどに物を言うとは有名な話だが、まさにこの男の目は『早く帰れよ』と雄弁に物語っている。
 まァ、かれこれ一週間以上ここに居るからな。流石のエンデアも、堪忍袋の緒が切れちまったか。

 オレサマだって好きでこんな陰気臭い城にいるワケじゃないんだがな。正直なところ、アミレスに会いたくて仕方が無い。ちっせェアイツをこの腕の中にすっぽりとおさめ、その香りやら体温やらを堪能したいのだ。
 でもなァ……下手にアレコレ触っちまうと、悪魔的には本能を曝け出したくなるというか。理性の無い種族としては割とキッツイんだよ、我慢するの。だが手を出した日にはアイツ──……

『はじめて、だったのに……っ』

 絶対、二度と口聞いてくれなくなるよな。うわ無理。そんなの想像しただけで死にそう。
 かつての苦い出来事を思い出し、そして未来の可能性を想像しては肝を冷やす。
 口付けしただけであんなに取り乱す純粋培養の箱入りお姫様だからな、アイツ。──クソッ、教育係ハイラの奴め……余計な真似を……!
 はァ…………マジで、さっさとオレサマのこと好きになってくれねェかなァ、アミレス。こうやって好感度ポイント稼ぎをちまちまやるのも大変なんだぞ、こう見えて。

「──つーか。オレサマは、元天使のお前なら妖精に関する情報を何かしら持ってると踏んで、ここに来たんだが」
「……何度も言いましたが。ワレ等は堕天した際、天界にいた頃の記憶を失う。なればこそ、ワレがあの者共について何も知らぬのも自明の理というものです」
「そう聞いたから、オレサマはこうしてお前の城の蔵書を隅から隅まで調べてるんだよ。分かったら文句言うな」

 妖精と天使の相性が水と油以上に悪いのは、魔族や精霊などの間でも有名な話。なのでオレサマは部下の元天使──堕天族ルシフェルのエンデアの元を尋ねていた。
 この先、きっと人間と妖精共の間で争いが起きる。それに備え、何か、妖精に対する有効打を得られないかと思ったのだ。

「肉は肉屋に──……妖精の事は妖精に聞けばよろしいのでは? 都合のいい事に、魔界には半分妖精の種族がいるのですから」
「残念でしたァ~~、そこらへんの種族にはとっくに聞いてるっつの。シバルレイトやその他妖魔騎士族デュラハン連中曰く、『妖精の弱点は“死”以外分からない』だとよ」
「チッ……役立たずが……」

 いやそれはお前等もだろ。と思うが、心の中にそっと抑えておいてやる、優しい魔王オレサマなのであった。

「──ん? なんだこの記述」

 本の山に囲まれ、古書を高速で捲って読み進めていた時。ふと、気になる一文を見つけた。

【妖精とは、神々の力によって栄えた自然より発生した、この世界の免疫機構。そのため、自浄機能として“奇跡”を操る力を持つ】
【妖精は“奇跡”を司る存在でありながら、“魂の葬送者”を極度に恐れる。その理由は幅広く考察されるのだが、複数唱えられし説の中で最も有力なものは】

「【“魂の葬送者”が死を司る存在であり、“魂の葬送者”が降臨した時点ですべての因果の調律が行われるからとされる】──ねェ……誰が編纂したものかは知らねェが、一番の収穫は間違いなくコレだな」

 著者不明の書物をエンデアと並んで覗き込み、鋭く口角を吊り上げる。
 中々に面倒な言い回しではあるが、要はそういう事・・・・・だ。まさかこんな裏技があったとはな。

「念の為に聞くが、コレ、本当か?」
「……心当たりの有無であれば、有る・・とだけ。そういうものだと思っていたから、これまで気にした事はありませんでしたが」
「そうかい。よしッ、早速人間界に行くぞ! お前も来い、エンデア!」

 書物を手に立ち上がり、服に着いた埃をはらうべく換装する。正装は息苦しいから嫌いなんだが、久々にアミレスに会うのだから少しぐらいは洒落た格好をしよう。
 オレサマに続くように、黒翼をふわりと広げてエンデアも立ち上がる。そして彼は、やれやれと肩を竦め、短く息を吐いた。

「ワレに拒否権は無いのですね」
「検証には天使おまえが必要なんだよ」
「実験体扱いとはなんとも失礼な……これだから悪魔は……」
「お前──……やっぱり天使の頃の記憶残ってるだろ」
「まさか」

 堕ちた天使は真顔ですっとぼける。
 その後も、エンデアはこちらの追及をのらりくらりと躱した。ぎゃあぎゃあと言い合いつつもオレサマ達は扉をくぐり、数日ぶりの人間界に足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...