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第五章・帝国の王女
541.Side Story:Others
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奇跡力とは、とどのつまり──……言ったもん勝ちなのだ。
そして今、たった一人の少女の願いの為、全人類の人格、魂、記憶──それを包含する精神に対しての極悪な後出しジャンケンが行われている。たとえ後出しジャンケンの能力が無くなろうが、彼女が一度、そのジャンケンに勝利した事実は変わらない。
そのジャンケンが行われたという事象をそもそも無かった事にするしか、奇跡力の無効化は不可能なのである。
「──だから、本人を殺すしか道はない。奇跡力の欠点とは、行使者の死と同時にそれが消失する事であろう。行使者の死と同時に奇跡力が失われる為、その時点で因果が逆転し、過去においてもその奇跡力が無かった事になる。そうじゃったな、シルフ?」
「ああそうだ。それが、妖精共に課せられた制約の一つだからな。何せ運命や理にすら干渉し得る力だ、なんの代償もなく使わせる訳にはいかないだろ? だからアイツ等は何よりも死ぬ事を恐れる。死んだら──……全てが、無かった事になるから」
ナトラから話を振られ、シルフはニヒルに笑った。
神々によって無理矢理結ばされた忌々しき制約ではあるが、まさかこのような形で役に立つ日が来ようとは。
しかし、根本的な解決策は未だ見当たらず。寧ろシャルルギルとフリザセアの証言から、アミレスとミシェルが知り合いなのでは──……という最悪な説が浮上し、アミレスの性格を鑑みてミシェルの殺害はやめた方がよいと、手段が更に削られた程。
もはやどうする事も出来ないかもしれない。ここで詰みか。──と諦めムードが僅かに漂った時。ここでローズニカがおずおずと手を挙げ、酷い顔色のまま口を開く。
「……ひとつ、いいですか」
「なんだ、言ってみろ」
「その……お兄様が妖精に攫われた理由が、分かるかも、しれないです」
「レオナードが攫われた理由?」
こくりと頷き、ローズニカは続ける。
「皆さんのお話を聞いてて、ふと、思いました。妖精は、例の女性を利用して何かを企んでいて……それを、どうしても邪魔される訳にはいかないんじゃないかなって」
「どうしてそう思ったんだ」
「これしか、納得がいかなくて。妖精は例の女性の殺害を防ぐ事は出来ても、たぶん、音だけは防ぎようがないと判断したから、お兄様を攫ったんだと思います」
そこまで聞いて、シルフ含め誰もが顔を顰めるなか、モルスだけは何かを察したのか、はっとなり、「まさか……」と呟きながら汗をぶわっと滲ませた。
「お兄様の言葉は、人も動物も、意思疎通が不可能な魔物にさえも通用してしまう、奇跡の音そのもの。耳を塞ごうが、耳を失おうが、お兄様の言葉は相手に絶対に届きます」
まるで見た事があるかのように断言するローズニカを見て、最上位精霊達も固唾を呑む。
「空を音が飛ぶように、海を音が泳ぐように、地を音が駆けるように──……お兄様が言葉を届けたいと願った相手には、必ず言葉が届く。それが、お兄様の願望を体現した言霊なのです」
「にわかには信じ難い話だが……今は言及しないでおこう。それで、それがアイツが攫われた理由だと?」
「はい。だって、どれだけ例の女性を守っていようが──……お兄様の言霊で彼女自身の意思を変えられたら、妖精の計画が頓挫してしまうじゃないですか」
『────っ!!』
その時、シャルルギル(と眠るアミレスとジェジ)以外の者の頭の中では点と点とが繋がった。誰もがレオナード誘拐の予想外の理由と、そして、妖精の用意周到っぷりに衝撃を受ける。
「知性ある生命体すべてに有効な言葉の魔法──……なぁ、精霊。これ、普通に不味いと思うけど」
静観していたクロノが面倒だと書かれた顔を引っ提げ、ここで口を挟む。
「その人間、下手すれば僕達上位種にまでその魔法の言葉とやらを届けられるかもしれないんだぞ。それをあの妖精達が抱えている。この意味が分からないとは言わせないよ」
「……勿論分かってるさ。ボク達の切り札になるかもしれなかったアイツが、妖精の切り札にならない訳がない。ただでさえ向こうには奇跡力があるっていうのに、知的生命体特攻の魔法を使える奴まで向こうの手の内だって? あぁ~~~~っ、もう! こんな事になるのなら、制約に抵触してでもあの色ボケ女を殺しておけばよかったッッッッ!!」
オーロラのごとき長髪を振り乱し、シルフが絶叫する。その様子を慣れた表情で見守る最上位精霊達だったが、エンヴィーは違った。
「結局振り出し──いや、面倒な敵が増えたんで振り出し以前まで戻されたんだが、これ、マジでどーすりゃいいんだ?」
後頭部を掻きつつシルフの奇行をスルーし、議論を進める。すると、覚悟を宿した真剣な面持ちを作り、ローズニカが口を切った。
「……──お兄様の件は、私に任せてください」
そして今、たった一人の少女の願いの為、全人類の人格、魂、記憶──それを包含する精神に対しての極悪な後出しジャンケンが行われている。たとえ後出しジャンケンの能力が無くなろうが、彼女が一度、そのジャンケンに勝利した事実は変わらない。
そのジャンケンが行われたという事象をそもそも無かった事にするしか、奇跡力の無効化は不可能なのである。
「──だから、本人を殺すしか道はない。奇跡力の欠点とは、行使者の死と同時にそれが消失する事であろう。行使者の死と同時に奇跡力が失われる為、その時点で因果が逆転し、過去においてもその奇跡力が無かった事になる。そうじゃったな、シルフ?」
「ああそうだ。それが、妖精共に課せられた制約の一つだからな。何せ運命や理にすら干渉し得る力だ、なんの代償もなく使わせる訳にはいかないだろ? だからアイツ等は何よりも死ぬ事を恐れる。死んだら──……全てが、無かった事になるから」
ナトラから話を振られ、シルフはニヒルに笑った。
神々によって無理矢理結ばされた忌々しき制約ではあるが、まさかこのような形で役に立つ日が来ようとは。
しかし、根本的な解決策は未だ見当たらず。寧ろシャルルギルとフリザセアの証言から、アミレスとミシェルが知り合いなのでは──……という最悪な説が浮上し、アミレスの性格を鑑みてミシェルの殺害はやめた方がよいと、手段が更に削られた程。
もはやどうする事も出来ないかもしれない。ここで詰みか。──と諦めムードが僅かに漂った時。ここでローズニカがおずおずと手を挙げ、酷い顔色のまま口を開く。
「……ひとつ、いいですか」
「なんだ、言ってみろ」
「その……お兄様が妖精に攫われた理由が、分かるかも、しれないです」
「レオナードが攫われた理由?」
こくりと頷き、ローズニカは続ける。
「皆さんのお話を聞いてて、ふと、思いました。妖精は、例の女性を利用して何かを企んでいて……それを、どうしても邪魔される訳にはいかないんじゃないかなって」
「どうしてそう思ったんだ」
「これしか、納得がいかなくて。妖精は例の女性の殺害を防ぐ事は出来ても、たぶん、音だけは防ぎようがないと判断したから、お兄様を攫ったんだと思います」
そこまで聞いて、シルフ含め誰もが顔を顰めるなか、モルスだけは何かを察したのか、はっとなり、「まさか……」と呟きながら汗をぶわっと滲ませた。
「お兄様の言葉は、人も動物も、意思疎通が不可能な魔物にさえも通用してしまう、奇跡の音そのもの。耳を塞ごうが、耳を失おうが、お兄様の言葉は相手に絶対に届きます」
まるで見た事があるかのように断言するローズニカを見て、最上位精霊達も固唾を呑む。
「空を音が飛ぶように、海を音が泳ぐように、地を音が駆けるように──……お兄様が言葉を届けたいと願った相手には、必ず言葉が届く。それが、お兄様の願望を体現した言霊なのです」
「にわかには信じ難い話だが……今は言及しないでおこう。それで、それがアイツが攫われた理由だと?」
「はい。だって、どれだけ例の女性を守っていようが──……お兄様の言霊で彼女自身の意思を変えられたら、妖精の計画が頓挫してしまうじゃないですか」
『────っ!!』
その時、シャルルギル(と眠るアミレスとジェジ)以外の者の頭の中では点と点とが繋がった。誰もがレオナード誘拐の予想外の理由と、そして、妖精の用意周到っぷりに衝撃を受ける。
「知性ある生命体すべてに有効な言葉の魔法──……なぁ、精霊。これ、普通に不味いと思うけど」
静観していたクロノが面倒だと書かれた顔を引っ提げ、ここで口を挟む。
「その人間、下手すれば僕達上位種にまでその魔法の言葉とやらを届けられるかもしれないんだぞ。それをあの妖精達が抱えている。この意味が分からないとは言わせないよ」
「……勿論分かってるさ。ボク達の切り札になるかもしれなかったアイツが、妖精の切り札にならない訳がない。ただでさえ向こうには奇跡力があるっていうのに、知的生命体特攻の魔法を使える奴まで向こうの手の内だって? あぁ~~~~っ、もう! こんな事になるのなら、制約に抵触してでもあの色ボケ女を殺しておけばよかったッッッッ!!」
オーロラのごとき長髪を振り乱し、シルフが絶叫する。その様子を慣れた表情で見守る最上位精霊達だったが、エンヴィーは違った。
「結局振り出し──いや、面倒な敵が増えたんで振り出し以前まで戻されたんだが、これ、マジでどーすりゃいいんだ?」
後頭部を掻きつつシルフの奇行をスルーし、議論を進める。すると、覚悟を宿した真剣な面持ちを作り、ローズニカが口を切った。
「……──お兄様の件は、私に任せてください」
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