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第五章・帝国の王女

530.Main Story:Ameless

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「ねぇミシェル、本当にあの人達も一緒なの? おれ、ミシェルと二人でお出かけできるんだってすごいわくわくしてたのに……」
「オレもいるんだが」
「やっぱり、皆と一緒の方が楽しいでしょ?」
「おれはミシェルと二人の方がいいもん」
「オレもいるんだが?」

 出かける準備も終わり、馬車を待つ間ロイとセインと一緒に雑談する。
 相変わらずロイはゲームに忠実でミシェルあたしに一途だ。セインも真面目でちょっと不憫な一面があって、これまたゲーム通り。
 やっぱり、この世界はアンディザの世界なんだ。──つまり、好感度を上げれば上げる程あたしは愛されるということ。
 ならば起こそう、イベントを!
 そう思い立ち誰かしらのイベント(あわよくばフリードルのもの)を起こせないかと、あたしはゲームのシナリオ通りに街に行って慈善活動に励む事にした。

 それに伴いマクベスタに護衛を依頼し、ついでにアンヘルやカイルを誘い、フリードルにはあえて何も言わなかった。この“何も言わない”という選択肢こそが、フリードルの好感度を上げる重要な選択肢の一つなのだ。
 サラはどこにいるか分からないし、ミカリアは忙しいようで誘うに誘えない。とりあえず、実験的にこのメンバーで街に向かおう。

「ローゼラ様、馬車が到着しました」

 世話係としてフォーロイト皇室があたしにつけてくれた侍従達。その人が街に向かう馬車の訪れを告げるので、ロイ達と共に馬車に向かうとそこではマクベスタが待っていた。

「やあ、ミシェル嬢。オレでは役不足かもしれないが、任された以上……護衛の任、きっちりと務めあげよう」
「マクベスタ王子! ありがとうございます」

 あたし達に気づく直前、一瞬だけ見えたマクベスタの横顔。それはとても暗く……今にも壊れてしまいそうなブリキのおもちゃのようだった。
 それを見て何かがおかしいと思うも、挨拶と共に向けられた彼の笑顔はゲームで見た通りの爽やかなもので。
 きっと、先程の無機質な顔はあたしの気の所為だったのだろう。
 不機嫌なロイを馬車に押し込み、あたし達は四人で同じ馬車に乗って帝都に向けて出発した。


 ♢♢


「ルティ!」
「はっ!」

 アルベルトと連携を取り、効率的に穢妖精けがれを討伐していく。
 帝国騎士団や帝国兵団の人達が市民の保護と救助を行ってくれているから、私達は穢妖精けがれに集中する事が出来たが……それにしても数が多すぎるわ。

 シルフも制約に抵触しない範囲で穢妖精けがれ集めと討伐のサポートをしてくれる上に、何よりもありがたい魔力の補填を随時行ってくれている。
 そのお陰で、既に九十体近い数の穢妖精けがれを氷漬けにしてきた割には残存魔力に余裕があった。
 それでも休みなく足を動かし、魔法を使い、また走り出さないといけないぐらい……次から次へと穢妖精けがれが湧いてくる。

 だが絶対零度以外の決め手に欠ける以上、私がやらなければならない。それを分かっているから走り続け、魔法を使い続けた。
 氷漬けの穢妖精けがれは粉砕して適当に捨てておいてくれと魔塔の魔導師達に頼み、彼等の協力も得つつ帝都中を駆け回る。

「ッ! はぁ……はぁ……っ」

 我が体力の無さを恨む。たったこれだけで息が上がり、疲労が足を重くするのだから。

「主君! やはり一度休憩なされた方が──」
「だいっ、じょう……ぶ! 大丈夫、だから。私がやらなきゃ……私が立ち止まったら民達が……っ、こふッ!!」

 元々呼吸が荒れていたからか、息が上手く出来ない。
 思わず立ち止まり、隣にいたシルフの腕を掴んで何度も咳き込んだ。

「アミィ!? やっぱり無茶しすぎなんだ……今すぐ休まないと!!」
「シルフ様、とりあえず治癒魔法を!」
「ああ、勿論使うとも……!!」

 金色の光が私を包む。シルフの優しい魔力が、私を癒してくれた。

「治癒はしたが……所詮、これは傷病と体力の回復しか出来ない一時しのぎの魔法だ。精神面や蓄積された疲労はどうにも出来ないから、一度どこかで休もう。魔物の行進イースターの時よりもずっと魔力の消費速度が凄まじいから、これ以上無茶したらアミィの体がもたない!」
魔物の行進イースターよりも──すなわち、それ程に主君のあの魔法は膨大な魔力を消費するのですか?」

 おかしい。治癒してもらったのに、どんどん耳が遠くなる。ふたりの会話が、よく、聞こえない。

「当たり前だろう。だってアミィは本来氷なんて扱えないんだ。それを創意工夫で無理矢理行使しているのだから──……氷の魔力を持つ人間が同じように凍結させるのと、アミィがあの魔法が使うのとでは魔力消費量の差は馬鹿にならない! 本来ならとっくに魔力欠乏に陥っているところを、ボクの魔力を供給して無理矢理食い繋いできただけであって、限界は既に超えてるんだよ」

 だめよ。私は、こんなところで立ち止まってる暇なんてないの。
 一秒でも長く走って、少しでも多くの人を守らないといけない。レオの行方に関する手がかりを手に入れなきゃいけないのに。
 なんで私は──こんなにも弱いんだ。

「もし、シルフ様がいなければ……主君はとっくに倒れていたやもしれないと。そういうことなのですか?」
「そうだ。だから今すぐにでもアミィを休ませないと──」
「……だい、じょうぶ。私、まだ、うごける……から」

 明滅する視界。ぎゅっと目を凝らしてようやく地面が見える。
 シルフの腕を放し、よろめきながら立つ。するとシルフが冷や汗を滲ませながら私の肩を掴んだ。
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