だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
587 / 786
第五章・帝国の王女

527,5.Interlude Story:Others

しおりを挟む
「……のぅ、兄上」
「どうしたんだい、ナトラ」

 アミレスがシルフの瞬間転移にてテンディジェル大公邸に向かったすぐ後の事。
 侍女達にローズニカら客人の接待を任せ、ナトラはクロノと共に玄関に留まっていた。

「これ、妖精の仕業じゃな」
「そうだね。あの人間達から僅かに妖精の残り香が漂っていたけど……相変わらず趣味が悪い臭いだな、妖精の鱗粉は」
「最近妙に鼻がムズムズするのはあやつ等がこの街に現れたからなのかのぅ。我、妖精とはあんまり関わりたくないのじゃが」
「あいつ等、本当に鬱陶しいからね。昔ベールが妖精に執着されていた時なんて、本当に面倒だったな……」

 昔を思い出し、クロノは遠い目になり苦笑する。

「だが、あの蝿共がアミレスの平穏を脅かすと言うならば。妖精なぞ何為るものぞ──……奇跡だなんだとほざく虫けら共は、我がこの手で全て狩り尽くしてくれる」

 黄金の瞳を鋭く光らせ、ナトラは自然みどりを操った。まるで天高く聳え立つ豆の木のように、地面を突き破って何本もの蔦がある一点を目指して成長する。──その速さ、分速1km・・・・・
 蔦は瞬く間に対象を捕え、その体を縛り上げる。

「……まったく。我も舐められたものじゃな。よもや、この我がお前等に気付かぬとでも思うたか? なあ──……妖精よ」
「ぐっっっ!? 気配は完璧に消した筈っ! 何故、私に気付いた……!?」
「我に、お前等の存在を思い出させたからじゃな。せっかく忘れてやっていたというのに、恩知らずな奴等じゃのう」
「うぅ……ぐ、ぁああっ!」

 奇跡の発動も許されぬまま蔦に締め付けられ、妖精の体が悲鳴を上げる。
 それを冷たく、つまらなさそうに、ナトラは見上げていた。

「ナトラ。あれ、どうするの?」
「うーむ……あの妖精、どうにもローズニカ達を狙っておったようじゃからのう。アミレスからはあやつ等を守れと頼まれたからして────うん、殺すか」

 ただ一言。殺すか、と彼女が呟いた瞬間。
 まるで虫を指でプチッと押し潰したかのように、蔦に絞め殺されてその妖精は死んだ。鮮血を臓物と共に撒き散らし、呆気なく息絶えたのだ。

「む、なんじゃこの服。騎士っぽいが……」
「こういうの、なんと言うんだったか。昔どこかの国の兵士がこういう服を着ていたような」

 自然へと戻りゆく蔦の隙間からひらりと落ちた血塗れの服。それを見て、二体の竜は眉を顰める。

「既視感の正体は分からぬし……とりあえず適当に処分しようぞ、兄上。妖精臭くてかなわんのじゃ」
「それもそうだね。それじゃあ宮殿に戻って口直しにクッキーでも食べようか」
「おお、よいな!」

 踵を返し、二体ふたりはにこやかな面持ちで宮殿へと戻る。
 その直後。クロノがほんの一瞬、横目に妖精の服を見た途端──……それは、虚無に飲み込まれて跡形もなく消え去った。


 ♢♢


「さて。それじゃあ今日も仕事しますかーっと」

 鏡の前に立ち、ビシッと法衣を身に纏う。
 肩下まで伸びた柔らかい深緑の長髪を揺らし、若き教皇は宿泊している高級宿館ホテル特等客室スイートルームから出ようとした。すると部屋の一角にある個室から、聖女のような服装の美女が姿を見せたので、彼はその場で立ち止まる。

「お待ちになって、ロアクリード」
「なんだい?」
「これをあなたに。……ただの気休めですけれど、魔除けのようなものですわ」

 ベールが手渡した物は、銀白色の玉に繋がれたネックレス。それに視線を落とし、ロアクリードは小首を傾げる。

「ありがとう。だけど、どうして急にこんなものを?」
「……厄介な者達が、この街に現れたようですの。あの者達の毒牙にあなたが敗れぬよう──ちょっとしたおまじないを、と思って」
「──そうなのか。転ばぬ先の杖とも言うからね、この魔除けはありがたく受け取っておくよ」

 銀白色の玉のネックレスを首に掛け、ロアクリードは思考する。

(これ、多分ベールの鱗だ。それをわざわざこんな風に加工して魔除けとして渡してくるだなんて、一体──……帝都で何が起きようとしているんだろう)

 思考の果てにその脳裏に一人の少女の笑顔を思い浮かべ、

(彼女の身に、何も起きないといいんだけど……)

 一抹の不安を抱えながら彼は仕事に向かう。
 その背を見送り、広い長椅子ソファに座っては、ベールはじっと己の手のひらを注視していた。

『……──なんと忌まわしき子供なのかしら。人の身でありながら、神の力・・・すらも行使するだなんて!』
『…………人の世に、魔物おまえたちはもう要らない。だから疾く死に絶えよ、純血の竜』
『散々利用した挙句、果てには裏切り殺す? 私達の愛した人間とは──こんなにも、くだらない存在だったのね』

 遠い昔のこと。ある一人の少年と対峙し、白の竜はふつふつと煮え滾る怒りで我を忘れようとしていた。

『あなた達のようなくだらない生き物の為に、私の弟妹は傷つき涙したの?』

 ……そんなのってないわ。ああ────絶対に、人間を許してなるものか。
 怒りに支配された白の竜は本性剥き出しで暴れはじめ、聖人と呼ばれる少年との激闘の末に回帰しろの権能の三割を犠牲にして少年が持つ神の力を奪い、現在進行形で封じ込めている。
 それに加え百年の封印による後遺症で、四割もの権能が現状回復の見込み無しとなり、彼女は実力の三割程しか発揮出来ない状況にあった。

「……もう、これ以上何も失いたくないのに。ままならないものね」

 悔しげに瞳を伏せ、ベールは立ち上がった。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...