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第五章・帝国の王女

524.Main Story:Ameless

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「認めたくはないが、これも身内の不祥事のようなもの。オレも事態解決に向けて動きますので、第一王女殿下はその一人では厳しい方法とやらでさっさと終息させて下さい」
「……分かりました。いやはや、聖職者様の協力を得られるとは頼もしい限りですね」
「…………」

 おい無視するなよ。そんなに嫌か、私に協力する事が。

「──時を奪え、灰簾石タンザナイト

 私を無視したまま、セインカラッドは魔石光術を使用する。彼が放り投げた青紫の宝石から黒い光が溢れ出したかと思えば、その直後、穢妖精けがれの動きが完全に停止していた。まるで、石化でもしたかのように。

「……チッ。ぼーっと突っ立ってないで早く終わらせてくれませんか? まさか、第一王女殿下ともあろう方があのような大口を叩いておきながら、今更出来ないなどとは口が裂けても仰らないでしょうし」
「そりゃあ勿論やらせていただきますよ、えぇ!」

 ほんと嫌な奴! そんなんだからミシェルちゃん以外には好かれないんだぞ!!
 ミシェルちゃんの女神のような優しさに感謝して生きろ!

「ふぅ……絶対零度ぉ!」

 ぷんぷんと怒りながら一歩踏み出し、穢妖精けがれに向けて手をかざす。そして私は、ストレス発散も兼ねて思い切り絶対零度を発動した。
 ──それから数十分後。
 ミカリア達が相手してくれていた穢妖精けがれも凍結してから手分けして粉砕し、例によって適当に下水とかに捨てた。
 また始末書と報告書を書かなきゃいけないのか……と、遠くなりそうな気をなんとか掴み留めていると、

「まさか聖人様が第一王女殿下と行動を共にしているとは思いませんでした。帝国滞在中はご多忙だと記憶しているのですが」
「僕としては君が姫君と共に現れた事の方が驚きだよ、セインカラッド。君には愛し子の護衛を任せていた筈なのだけれど」
「……そのミシェル本人が、城にお邪魔するだけだから護衛は不要だと。そう、オレとロイに言いつけたのです」

 どうやら、前提が色々と変わったこの世界ではセインカラッドとロイがミシェルちゃんの護衛として帝国まで来ているらしい。
 ミシェルちゃんがいるならきっとサラもこの街のどこかにいるでしょう? マクベスタ曰く、カイルだけでなくアンヘルも食事会にはいたって話だし……ミカリアはこの通り目の前にいる。

 ……あれ? なんか攻略対象全員いるわね? この街に。

 思いもよらぬ展開にハッとなる。
 本当にゲームとはかけ離れた流れになってきたなぁ。カイルもこれを察して、どのルートも無理ぽ~~☆とか言ってたのね。彼の頭が突然おかしくなった訳ではなかったんだ。

「アミィ、もう妖精はいない?」
「もういないよ。全部下水の藻屑に変えてやったわ」
「そうなんだ。良かった」

 キョロキョロと周囲を警戒しながらシルフがやって来る。きっと妖精と出くわしたくないんだろうな。精霊と妖精は仲が悪いから。

「王女殿下ー! 助けてくれてありがとうー!」
「マクベスタ王子も助けてくださりありがとうございます!」
「聖人様……っ、息子を治してくださって本当にありがとうございます!!」
「聖職者様────っ!」

 得体の知れない化け物を私達が退けた事もあり、市民はまるで勇者かのように私達を讃える。
 たが悲しい事に、勇者でも何かやらかしたならば、国に提出しなければならない書類があるのだ。それをちゃちゃっと片付けるべく、私はその場でマクベスタ達とは別れ、シルフと共に東宮に直行。
 ミシェルちゃんに会いたいが、それよりも先に報告書だ。その日のうちに出さないと、提出時のお偉いさんの小言が倍増してしまう。それは避けたい。あの時間程人生を無駄にしている時間は他になかろう。

 たびたび始末書などを書く為、侍女達やクロノからの『また何かやらかしたのか』と言いたげな視線を浴びつつ報告書をしたためる。

 私だって好きで問題を頻繁に起こしてる訳じゃ! ないもん!!


 ♢♢


「聖人様に王城まで送っていただくなんて……なんと感謝申し上げれば」
「いえいえ。王城まで、と言っても敷地内の一角ですし。何より僕達も城に用があるので、何の問題もありませんよ」

 王城敷地内の一角に瞬間転移を果たし、マクベスタとミカリアは生来の真面目な性格故か互いに気を使っていた。
 その傍らで、何故オレがここに──。と言いたげに、セインカラッドは口を真一文字に結んで立っている。

「──それにしても、なんだか城内の様子が変ですね」
「言われてみればそうですね。今朝はいつも通りだったと記憶してますが……」

 二人は城内の様子に違和感・・・を覚えた。

「セインカラッドは何か感じないかい?」
「……オレは、食事会以降この城には近寄ってすらなかったのでどうとも言えません」
「ああ……そういえば、君達は数日間宮殿で過ごしていたんだったか。愛し子が熱を出したとかで」
「はい。治癒魔法で治癒はしましたが、どうにも彼女の調子が戻らず……今朝、ようやく回復しました」
「病み上がりならよけい誰かを付き添わせるべきだろうに、単独行動を取るとは。相変わらず我儘だなぁ、愛し子は」

 ミカリアがボソリと呟くと、噂をすればなんとやら……件の少女が、正面に広がる階段の上に現れた。

「ミカ──……じゃない、聖人様! お久しぶりです!」

 少女は無邪気に笑う。
 その傍らに、二人の攻略対象を侍らせて。

「アンヘル君──……?」
「カイル? 何やって────」

 一目見て様子がおかしいと分かる知人と友人に気づいたその瞬間、彼等の頭を激しい痛みが襲う。
 そして流れ込むは、彼等の知らない彼等の記録。

『───お願い。僕の名前を呼んで? 君に……他ならないミシェルさんに、呼んでほしいんだ』
『───本当に、いいのか? オレがあんたを……独占しても』

 それは、残酷なまでに美しく温かい──彼等を狂わせる媚薬そのもの。
 奇跡は理不尽に発生する。どのような不公平も、番狂わせも、奇跡の前では全て無価値無意味なガラクタと化す。
 恋の力も、愛の力も、夢の力も、絆の力も、それの前では無力なのだ。
 被害者の人格や、記憶や、感情などは関係無い。その過程も、その後の事も知ったこっちゃない。ただ願った通りの奇跡が起きればそれでいい。──それが、奇跡を望むという事だから。

「……──ミシェルさん! まさかこんな所で貴女に会えるなんて思わなかった」
「……──久々に会えて嬉しく思うよ、ミシェル嬢」

 故に。何も知らない少女は歓喜する。
 ただ一人、周囲全ての夢や希望を踏み躙った自覚も無いまま、己の夢が叶う瞬間を指折り数えて待ち望むのだ。

 ……──奇跡が起きた。そう、心から喜びを噛み締めて。
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