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第五章・帝国の王女
523.Main Story:Ameless
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「うーむ、攻撃が当たらないってこういう事かぁ……主の断罪すらも回避するなんて。妖精が奇跡を司る存在というのは、眉唾物ではなかったのですね~」
「その検証の為だけにあんな魔法を……?」
「奇跡とやらの力がどの程度の範囲に及ぶのか、試しておきたくて。このぶんですと、恐らくは呪い等も回避されそうですね。本当になんと厄介な生物なのでしょうか」
ノリが軽いよ聖人さま。
切り札レベルの最強の魔法じゃないの、それ? 検証として初手で切る捨て札ではないじゃんどう考えても!
「ですが、これでアプローチの方向性は定まりました。既に一度対峙したとのことですが、決め手は姫君にお任せしてよいのでしょうか?」
「は、はい。その解釈で問題ないです」
急に真面目にならないでくれ。
「では、殿は姫君にお任せして僕はアレの気を引いて来ますね。僕の活躍、しかと見ていて下さい!」
穢妖精を指さし、ミカリアはやる気満々であの触手生物目掛けて突撃した。
ちょっと待って、あの人私の話聞いてた!? 近づいたら奇跡力を奪われるって言ったのになんで特攻してるの!?
「──聖書曰く。妖精と天使とは水と油の如く相性が悪いとのこと。ならば……僕の魂に刻まれた名が、僕をおまえたちの毒牙から護るだろう」
ミカリアの白い長髪が風に撫でられふわりと舞うと、瞬きの間にその背には天使のような純白の翼が現れる。
「我が名、ミカリア。それは神の寵愛を受けし者──……最も愛されし大天使、ミカエルの系譜に連なりし言葉。故に、僕の魂はおまえたちの奇跡を陵辱する」
天使の翼を羽ばたかせ、ミカリアは空へと飛び上がる。その両手に光り輝く神々しい片手剣を構え、急降下。縦横無尽に飛び回りながら、穢妖精に衝撃波のような斬撃を次々と食らわせていた。
「そんなのありぃ……?」
あの時の私の苦労はなんだったのか。
なんとミカリアは、あの穢妖精相手に何度か攻撃を命中させているのだ。
「流石は聖人様だな。……さて、せっかくアミレスに格好いいところを見せられる機会なんだ。オレも負けていられないな」
「えっ?」
「そういう訳だから、オレのことも見ていてくれ。お前に見られていると思えば……きっと頑張れるから」
私の心臓を虐めるかのように甘く微笑んだかと思えば、マクベスタは雷を纏う黒い剣を召喚して雷鳴と共に姿を消した。
閃光のように凄まじい速度で駆け出し、即死級の雷霆の一閃を穢妖精へと執拗に繰り出す。
「オレの奇跡力とやらならばいくらでもくれてやる。その代わり────大人しく、オレに殺されろ」
マクベスタによる落雷の集中砲火と、ミカリアによる光の剣の演舞。これには穢妖精も手も足も出ず、奇跡力を駆使してなんとか死を回避している模様。
……攻略対象やっべぇな、おい。
「いやっ、来ないで!!」
「うわぁあああああああああッ!」
「姉ちゃ─────っ!!」
攻略対象二人の強さに圧倒されていると、四時の方向──右斜め後方から叫び声が聞こえてきた。慌てて振り向くとそこには五体近い穢妖精に襲われる人達が。
まだ他にもいたのか! あっちの群れはマクベスタ達がどうにかしてくれてるし、先にこの群れからどうにかしないと!
無辜の民を守べくそちらに足を向けた瞬間、
「……──まったく。どうなっているんだ、この国の治安は」
凛とした美声が騒動の中に響き、風に吹かれて紅い宝石が宙を翔ける。
「燃を帯びろ、柘榴石」
光の粒子が放たれる。それが宝石を通過した途端、鏡に触れたかのように光は屈折し、無数の宝石の間を何度も行き来していた。
その速さ、まさに光速。あまりの速度に光線となって視界に映る程。それらは穢妖精の体を時に焼き時に貫く、天然のレーザービームそのものであった。
何故私がこの魔法についてここまで詳しいのか。それは当然──彼を知っているからである。
「……このように穢らわしい生物と半分は同じ種族と考えると、吐き気がするな」
サラリと流れるロングストレートの金髪。美声で紡がれる歯に衣着せぬ物言い。そして、先程の宝石を用いた戦術。
それらは全て──アンディザの攻略対象が一人、セインカラッド・サンカルの特徴だ。
しかし、まさかこの目で魔石光術を見られる日が来るなんて……。
魔石光術は、宝石加工を得意とするセインカラッドだからこそ扱えるオリジナルの戦術だ。宝石や魔石に最適な加工を施し、光魔法でその真価を発揮させる。それにより、魔石に仕込まれた術式が限界を超えた最大出力で発動し、ものにもよるが基本的には絶大な威力をお見舞いするらしい。
セインカラッドは他のハーフエルフと比べてあまり魔力量が多くない。その弱点を補うべく編み出した戦法が、魔力の貯蔵庫でもある魔石や宝石を使用した魔石光術という訳だ。
今回のあれは……発熱性のある宝石を利用し、通常でも可能な熱光線化をより効率よく高威力にしたのだろう。
当たり前だけど、ゲームでの用語解説と実際に見るのとでは全然違うわね。
「我が民を救って下さりありがとうございます、聖職者様。この国の王女として、貴方に感謝を」
無駄とは思うが、一応それらしく挨拶する。
「その髪と目──……ああ、成程。アナタが我々の歓迎食事会を直前になって欠席したという第一王女殿下ですか。こうして言葉を交わす時が来るとは考えもしなかったので、突然のこと故若干の無礼はお許しいただきたく」
「……その節に関しましては、たいへんご迷惑をおかけしました。公式の場でもありませんし、私は何も咎めませんよ」
「慈悲深いご配慮、痛み入ります」
分かってはいたが、露骨に塩対応だ。
何故かフォーロイト帝国を心から憎む彼は、当然だがその国の皇族であるフォーロイト一族にも超辛辣。ゲーム関連の記念日に公式SNSで公開されたSSでは、フリードルに対してだけやたらと毒を吐いており、『セインめっちゃ辛辣で草』『どしたん? 話聞こか?』『フリードルに親でも殺されたんか?』とアンディザファンの間でかなり話題になっていたとか。
「時に第一王女殿下……アレの始末方法をご存知ですか?」
めっちゃ他人行儀だな。実際他人だけど。
「え? まあ、一応は。ただ一人では厳しいので、友人達の手を借りているところですわ」
「フッ、そうですか」
今、鼻で笑ったぞこの男。
しかもなんだその嘲るような表情は。
「その検証の為だけにあんな魔法を……?」
「奇跡とやらの力がどの程度の範囲に及ぶのか、試しておきたくて。このぶんですと、恐らくは呪い等も回避されそうですね。本当になんと厄介な生物なのでしょうか」
ノリが軽いよ聖人さま。
切り札レベルの最強の魔法じゃないの、それ? 検証として初手で切る捨て札ではないじゃんどう考えても!
「ですが、これでアプローチの方向性は定まりました。既に一度対峙したとのことですが、決め手は姫君にお任せしてよいのでしょうか?」
「は、はい。その解釈で問題ないです」
急に真面目にならないでくれ。
「では、殿は姫君にお任せして僕はアレの気を引いて来ますね。僕の活躍、しかと見ていて下さい!」
穢妖精を指さし、ミカリアはやる気満々であの触手生物目掛けて突撃した。
ちょっと待って、あの人私の話聞いてた!? 近づいたら奇跡力を奪われるって言ったのになんで特攻してるの!?
「──聖書曰く。妖精と天使とは水と油の如く相性が悪いとのこと。ならば……僕の魂に刻まれた名が、僕をおまえたちの毒牙から護るだろう」
ミカリアの白い長髪が風に撫でられふわりと舞うと、瞬きの間にその背には天使のような純白の翼が現れる。
「我が名、ミカリア。それは神の寵愛を受けし者──……最も愛されし大天使、ミカエルの系譜に連なりし言葉。故に、僕の魂はおまえたちの奇跡を陵辱する」
天使の翼を羽ばたかせ、ミカリアは空へと飛び上がる。その両手に光り輝く神々しい片手剣を構え、急降下。縦横無尽に飛び回りながら、穢妖精に衝撃波のような斬撃を次々と食らわせていた。
「そんなのありぃ……?」
あの時の私の苦労はなんだったのか。
なんとミカリアは、あの穢妖精相手に何度か攻撃を命中させているのだ。
「流石は聖人様だな。……さて、せっかくアミレスに格好いいところを見せられる機会なんだ。オレも負けていられないな」
「えっ?」
「そういう訳だから、オレのことも見ていてくれ。お前に見られていると思えば……きっと頑張れるから」
私の心臓を虐めるかのように甘く微笑んだかと思えば、マクベスタは雷を纏う黒い剣を召喚して雷鳴と共に姿を消した。
閃光のように凄まじい速度で駆け出し、即死級の雷霆の一閃を穢妖精へと執拗に繰り出す。
「オレの奇跡力とやらならばいくらでもくれてやる。その代わり────大人しく、オレに殺されろ」
マクベスタによる落雷の集中砲火と、ミカリアによる光の剣の演舞。これには穢妖精も手も足も出ず、奇跡力を駆使してなんとか死を回避している模様。
……攻略対象やっべぇな、おい。
「いやっ、来ないで!!」
「うわぁあああああああああッ!」
「姉ちゃ─────っ!!」
攻略対象二人の強さに圧倒されていると、四時の方向──右斜め後方から叫び声が聞こえてきた。慌てて振り向くとそこには五体近い穢妖精に襲われる人達が。
まだ他にもいたのか! あっちの群れはマクベスタ達がどうにかしてくれてるし、先にこの群れからどうにかしないと!
無辜の民を守べくそちらに足を向けた瞬間、
「……──まったく。どうなっているんだ、この国の治安は」
凛とした美声が騒動の中に響き、風に吹かれて紅い宝石が宙を翔ける。
「燃を帯びろ、柘榴石」
光の粒子が放たれる。それが宝石を通過した途端、鏡に触れたかのように光は屈折し、無数の宝石の間を何度も行き来していた。
その速さ、まさに光速。あまりの速度に光線となって視界に映る程。それらは穢妖精の体を時に焼き時に貫く、天然のレーザービームそのものであった。
何故私がこの魔法についてここまで詳しいのか。それは当然──彼を知っているからである。
「……このように穢らわしい生物と半分は同じ種族と考えると、吐き気がするな」
サラリと流れるロングストレートの金髪。美声で紡がれる歯に衣着せぬ物言い。そして、先程の宝石を用いた戦術。
それらは全て──アンディザの攻略対象が一人、セインカラッド・サンカルの特徴だ。
しかし、まさかこの目で魔石光術を見られる日が来るなんて……。
魔石光術は、宝石加工を得意とするセインカラッドだからこそ扱えるオリジナルの戦術だ。宝石や魔石に最適な加工を施し、光魔法でその真価を発揮させる。それにより、魔石に仕込まれた術式が限界を超えた最大出力で発動し、ものにもよるが基本的には絶大な威力をお見舞いするらしい。
セインカラッドは他のハーフエルフと比べてあまり魔力量が多くない。その弱点を補うべく編み出した戦法が、魔力の貯蔵庫でもある魔石や宝石を使用した魔石光術という訳だ。
今回のあれは……発熱性のある宝石を利用し、通常でも可能な熱光線化をより効率よく高威力にしたのだろう。
当たり前だけど、ゲームでの用語解説と実際に見るのとでは全然違うわね。
「我が民を救って下さりありがとうございます、聖職者様。この国の王女として、貴方に感謝を」
無駄とは思うが、一応それらしく挨拶する。
「その髪と目──……ああ、成程。アナタが我々の歓迎食事会を直前になって欠席したという第一王女殿下ですか。こうして言葉を交わす時が来るとは考えもしなかったので、突然のこと故若干の無礼はお許しいただきたく」
「……その節に関しましては、たいへんご迷惑をおかけしました。公式の場でもありませんし、私は何も咎めませんよ」
「慈悲深いご配慮、痛み入ります」
分かってはいたが、露骨に塩対応だ。
何故かフォーロイト帝国を心から憎む彼は、当然だがその国の皇族であるフォーロイト一族にも超辛辣。ゲーム関連の記念日に公式SNSで公開されたSSでは、フリードルに対してだけやたらと毒を吐いており、『セインめっちゃ辛辣で草』『どしたん? 話聞こか?』『フリードルに親でも殺されたんか?』とアンディザファンの間でかなり話題になっていたとか。
「時に第一王女殿下……アレの始末方法をご存知ですか?」
めっちゃ他人行儀だな。実際他人だけど。
「え? まあ、一応は。ただ一人では厳しいので、友人達の手を借りているところですわ」
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