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第五章・帝国の王女
522.Main Story:Ameless
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シルフに頼んで転移先をメイシアの家の近くにしてもらい、メイシアをシャンパージュ伯爵邸まで送り届けてから私達も帰路につく。
瞬間転移で帰ってもよかったのだけど、せっかくだからと徒歩で王城までの道を行く。建国祭が間近に控えている事もあり、近頃の帝都はとても活気に溢れている。
平穏そのものと言える光景──……これを守る為にも、建国祭で爆破テロを起こす馬鹿な連中の正体を突き止めて未然に防がないと。
ゲームでは、この建国祭の一件でメイシアが最終的に自殺してしまう。そんな未来を塗り替え、メイシアと民を守るには……どんな手段を用いてでも事件を防ぐしかない。
この国を変え、この国を守る為なら──私達はどうなっても構わない。
『キャ────────ッ!!』
人々の悲鳴と共に地面を大槌が叩いたような衝撃音が響く。
音に引かれてそちらを見ると、逃げ惑う人々がこちらに向かって走ってくる。彼等が出てきた土煙の先からは妙な悪寒を感じた。
「何事だ……!?」
「悲鳴も聞こえましたが、もしや事件が?」
マクベスタとミカリアが少しばかり身構える。
「あの羽虫共が……ッ、本当にこの街に表れやがったな────!」
そんな彼等の後ろでシルフが修羅のような面持ちとなり、体側の拳を震えさせていた。シルフの綺麗な顔には今まで見た事がないような深い怒りが、青筋となりて浮かび上がっていた。
「なんなんだよ、あの化け物!」
「誰かっ、兵士でも騎士でもいいから誰か呼んできてくれ!!」
「いやぁあああああああっ! 誰か! わたしの娘を助けて!」
「くそッ! なんで帝都にこんな魔物が出てくんだよ!?」
民の悲鳴を聞き、私はハッとなる。
「シルフ! 髪の色を戻して!」
「なんで……まさか、戦うつもりなの? アイツ等と?」
「当たり前じゃない。私はアミレス・ヘル・フォーロイトよ、この国の王女として民を守る義務があるわ!」
「……君はいつもそうだね。どれだけボク達が心配しても、まったく気にもとめてくれないんだから」
怒りを蓄えていた彼の美しい顔に、困ったような、悲しみを堪えているような、そんな色が滲む。
その直後、私の髪は紫色から本来の銀色に戻った。
「ありがとうシルフ。それじゃあ行ってきま──」
踵を返し、逃げ惑う人々の流れに逆らい駆け出そうとするも、マクベスタとミカリアにそれぞれ手首を捕まれ止められてしまった。
「オレも行く。相手がなんであろうと、お前一人に戦わせる訳にはいかない」
「僕も助太刀致します。こう見えて戦闘能力は高い方ですので、姫君の助けにはなれるかと」
あの砂浜以降ではじめてマクベスタの顔を直視した。彼はいつも通りの真面目な表情で、私の瞳をじっと見つめてくる。
そして、いつの間にか元の格好に戻っていたミカリアもまた、聖人らしい微笑をたたえている。
「二人共──っ、どうか私に力を貸して下さい!」
「ああ。お前の為ならば、オレはいくらでも剣を振るよ」
「勿論です。オセロマイト王国の時は別行動だったので……これが、姫君との記念すべき初の共同作業ですね」
チート級に強い攻略対象が二人も傍にいて、力を貸してくれる安心感は凄まじいものだった。
「アミィ、敵は妖精だ。だから、戦っていてどうにもならない事もあるかもしれない。それでもし命の危険を感じたなら──……『流れ落ちろ、星々よ』って言って。ボク達が、君を守るから」
「妖精……! 分かった、行ってくる!!」
だからシルフはあんなに怒ってたのか! 精霊と魔族と妖精は三竦み──というより、ただ単純に種族間の仲が異様に悪いから!!
魔物とか化け物とか聞こえてきたということは、もしかしてまた穢妖精!? あんなSAN値チェック必須の害悪モンスターがまた街に現れたの?!
マクベスタ達と共に走り出して穢妖精がいると思われる場所に向かう。
その場に到着すると、案の定、例のゆめかわカラーの触手生物がいた。
「えっ……と、あれは、一体……?」
「見てて不快感しか覚えられないような気持ち悪い見た目──まさかあれが、話に聞いていた穢妖精とやらなのか? なあ、アミレス……」
これには彼等も立ち尽くし困惑する。
「残念ながらそうみたい。攻撃という攻撃が当たらない妖精の成れの果てが、あれだね」
「……あれはやばいな。その、色んな意味で」
「……確かにやばいですね、様々な意味で」
この二人から語彙力を奪うとか、穢妖精やばすぎるでしょ……。
「あれをどうにかするには、総力戦で魔法を食らわせまくってそちらに意識を割いている間に、広範囲に及ぶ魔法等で瞬殺するしかない。あれに近づくだけで奇跡力を奪われるから、ある程度離れた所から魔法で攻撃しなきゃいけないの」
「想像以上に厄介なんだな……」
「というかお詳しいですね、姫君」
「実は前にも──丁度、食事会の日にもあれと対峙しておりまして」
「成程。そのような背景が……」
そういえば、穢妖精の所為で私はミシェルちゃんに会えるチャンスを失ったんだよなあ──……。
「……殺す。あの触手生物め、絶対に許さない!」
「急にどうしたんだアミレス。一旦落ち着こう、な?」
アマテラスを抜刀し、太陽顕現を発動して投擲しようとする。しかし、反射神経が凄まじいマクベスタに羽交い締めにされてしまった。
足をバタバタとさせるも、歳上であり鍛えている彼の力には適わず。私の暴走はマクベスタによって食い止められたのだった。
「あ、そうだ。少し試したい事があるのですが、よろしいですか?」
「えぇ、まあ……どうぞ……」
ミカリアはニコリと微笑み、祈るように手を重ねた。
「──迸る生命の星よ。我が呼び声、我が言の葉を聞き届け給え。我が欲せしは神秘、我が願いしは幸福、我が求めしは幻想、我が望みしは安寧。悪しきを滅し、悪しきを排し、悪しきを覆せ」
清廉な声で紡がれる祝詞に、阿鼻叫喚の人々は立ち止まり耳を傾ける。
……それにしても。これ、なんかすごく聞き覚えがあるんだけど。
「天上の主よ、御照覧あれ。是は人の犯す傲慢、人の超えし最悪の善行なり。……──神聖十字臨界」
こんな街中で!? 神聖十字臨界を使うんですか!?
穢妖精の蠢く範囲より遥かに大きく、金色の魔法陣が煌めく。やがて、穢妖精の上に十字架が出現してそれは逆さを向いて霧散した。
しかし、穢妖精は未だ健在。これにはミカリアも顎に手を当て思考に耽ける。
瞬間転移で帰ってもよかったのだけど、せっかくだからと徒歩で王城までの道を行く。建国祭が間近に控えている事もあり、近頃の帝都はとても活気に溢れている。
平穏そのものと言える光景──……これを守る為にも、建国祭で爆破テロを起こす馬鹿な連中の正体を突き止めて未然に防がないと。
ゲームでは、この建国祭の一件でメイシアが最終的に自殺してしまう。そんな未来を塗り替え、メイシアと民を守るには……どんな手段を用いてでも事件を防ぐしかない。
この国を変え、この国を守る為なら──私達はどうなっても構わない。
『キャ────────ッ!!』
人々の悲鳴と共に地面を大槌が叩いたような衝撃音が響く。
音に引かれてそちらを見ると、逃げ惑う人々がこちらに向かって走ってくる。彼等が出てきた土煙の先からは妙な悪寒を感じた。
「何事だ……!?」
「悲鳴も聞こえましたが、もしや事件が?」
マクベスタとミカリアが少しばかり身構える。
「あの羽虫共が……ッ、本当にこの街に表れやがったな────!」
そんな彼等の後ろでシルフが修羅のような面持ちとなり、体側の拳を震えさせていた。シルフの綺麗な顔には今まで見た事がないような深い怒りが、青筋となりて浮かび上がっていた。
「なんなんだよ、あの化け物!」
「誰かっ、兵士でも騎士でもいいから誰か呼んできてくれ!!」
「いやぁあああああああっ! 誰か! わたしの娘を助けて!」
「くそッ! なんで帝都にこんな魔物が出てくんだよ!?」
民の悲鳴を聞き、私はハッとなる。
「シルフ! 髪の色を戻して!」
「なんで……まさか、戦うつもりなの? アイツ等と?」
「当たり前じゃない。私はアミレス・ヘル・フォーロイトよ、この国の王女として民を守る義務があるわ!」
「……君はいつもそうだね。どれだけボク達が心配しても、まったく気にもとめてくれないんだから」
怒りを蓄えていた彼の美しい顔に、困ったような、悲しみを堪えているような、そんな色が滲む。
その直後、私の髪は紫色から本来の銀色に戻った。
「ありがとうシルフ。それじゃあ行ってきま──」
踵を返し、逃げ惑う人々の流れに逆らい駆け出そうとするも、マクベスタとミカリアにそれぞれ手首を捕まれ止められてしまった。
「オレも行く。相手がなんであろうと、お前一人に戦わせる訳にはいかない」
「僕も助太刀致します。こう見えて戦闘能力は高い方ですので、姫君の助けにはなれるかと」
あの砂浜以降ではじめてマクベスタの顔を直視した。彼はいつも通りの真面目な表情で、私の瞳をじっと見つめてくる。
そして、いつの間にか元の格好に戻っていたミカリアもまた、聖人らしい微笑をたたえている。
「二人共──っ、どうか私に力を貸して下さい!」
「ああ。お前の為ならば、オレはいくらでも剣を振るよ」
「勿論です。オセロマイト王国の時は別行動だったので……これが、姫君との記念すべき初の共同作業ですね」
チート級に強い攻略対象が二人も傍にいて、力を貸してくれる安心感は凄まじいものだった。
「アミィ、敵は妖精だ。だから、戦っていてどうにもならない事もあるかもしれない。それでもし命の危険を感じたなら──……『流れ落ちろ、星々よ』って言って。ボク達が、君を守るから」
「妖精……! 分かった、行ってくる!!」
だからシルフはあんなに怒ってたのか! 精霊と魔族と妖精は三竦み──というより、ただ単純に種族間の仲が異様に悪いから!!
魔物とか化け物とか聞こえてきたということは、もしかしてまた穢妖精!? あんなSAN値チェック必須の害悪モンスターがまた街に現れたの?!
マクベスタ達と共に走り出して穢妖精がいると思われる場所に向かう。
その場に到着すると、案の定、例のゆめかわカラーの触手生物がいた。
「えっ……と、あれは、一体……?」
「見てて不快感しか覚えられないような気持ち悪い見た目──まさかあれが、話に聞いていた穢妖精とやらなのか? なあ、アミレス……」
これには彼等も立ち尽くし困惑する。
「残念ながらそうみたい。攻撃という攻撃が当たらない妖精の成れの果てが、あれだね」
「……あれはやばいな。その、色んな意味で」
「……確かにやばいですね、様々な意味で」
この二人から語彙力を奪うとか、穢妖精やばすぎるでしょ……。
「あれをどうにかするには、総力戦で魔法を食らわせまくってそちらに意識を割いている間に、広範囲に及ぶ魔法等で瞬殺するしかない。あれに近づくだけで奇跡力を奪われるから、ある程度離れた所から魔法で攻撃しなきゃいけないの」
「想像以上に厄介なんだな……」
「というかお詳しいですね、姫君」
「実は前にも──丁度、食事会の日にもあれと対峙しておりまして」
「成程。そのような背景が……」
そういえば、穢妖精の所為で私はミシェルちゃんに会えるチャンスを失ったんだよなあ──……。
「……殺す。あの触手生物め、絶対に許さない!」
「急にどうしたんだアミレス。一旦落ち着こう、な?」
アマテラスを抜刀し、太陽顕現を発動して投擲しようとする。しかし、反射神経が凄まじいマクベスタに羽交い締めにされてしまった。
足をバタバタとさせるも、歳上であり鍛えている彼の力には適わず。私の暴走はマクベスタによって食い止められたのだった。
「あ、そうだ。少し試したい事があるのですが、よろしいですか?」
「えぇ、まあ……どうぞ……」
ミカリアはニコリと微笑み、祈るように手を重ねた。
「──迸る生命の星よ。我が呼び声、我が言の葉を聞き届け給え。我が欲せしは神秘、我が願いしは幸福、我が求めしは幻想、我が望みしは安寧。悪しきを滅し、悪しきを排し、悪しきを覆せ」
清廉な声で紡がれる祝詞に、阿鼻叫喚の人々は立ち止まり耳を傾ける。
……それにしても。これ、なんかすごく聞き覚えがあるんだけど。
「天上の主よ、御照覧あれ。是は人の犯す傲慢、人の超えし最悪の善行なり。……──神聖十字臨界」
こんな街中で!? 神聖十字臨界を使うんですか!?
穢妖精の蠢く範囲より遥かに大きく、金色の魔法陣が煌めく。やがて、穢妖精の上に十字架が出現してそれは逆さを向いて霧散した。
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