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第五章・帝国の王女

518.Side Story:Others

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(──主君が言うには、建国祭で事件が起きるらしいけど……いつもの事ながら、主君は一体どこから情報を得てきているんだろうか)

 例の未来予知ってやつ? それともまたカイル君経由? ……後者だったらと考えると、なんだか凄く胃がムカムカするな。
 影に身を潜めながら、アルベルトは顔を顰める。

 帝都の裏路地──そこは情報や犯罪が飛び交ういわゆる裏社会そのもの。
 法の目を掻い潜り悪事を企む連中がこぞって集まり、時には大金すらも動くような場所だ。
 そのような闇の世界で、アルベルトは執事服をひらりと靡かせて調査に勤しんでいた。

 彼はアミレスの命でとある調査に躍り出ている。その内容とは、ズバリ建国祭にて起きる予定のとある事件イベントにまつわる調査。
 転生者である彼女達のみぞ知る二度に及ぶ帝都での大規模テロ事件──その一度目にあたる、来月に控えた建国祭での大事件。
 通称、建国祭テロ。
 帝国組と呼ばれる二人の攻略対象の個別ルートに入る前では最後となる、共通ルート内でも指折りのビッグイベントである。

 ゲームにおいては、この事件で建国祭を楽しんでいた国民達およそ百五十人が重軽傷含む被害を被り、解決の立役者となったとある少女はのちに自殺し、建国祭は中断という散々な結果に終わる。

 祭り嫌いの皇帝の意向で、大規模な建国祭は四年に一度しか行われない。そして運悪く──今年が、その四年に一度の機会であった。
 故に建国祭は過去最大規模を予定しており、このままゲーム通りに爆破テロが起きたならば、凄まじい被害が出る。
 建国祭での一件を危険視したアミレスが、事件を未然に防ぐべく動き出した結果がアルベルトの単独行動──……もとい、諜報活動なのである。

 しかし、それはあくまでもアミレスだからこそ知る未来の事件。事細かにゲームの内容を覚えているような変わったオタク達でなければ、誰もが茶番だと笑い飛ばすであろうシナリオだ。
 それはアルベルトとて同じ筈なのだが──

(にしても爆破テロだなんて。俺だったら、狩猟大会のあれを知ってたらまずやろうとは思わないけどな……まあでも、主君の言葉が間違ってる訳がないし、俺は言われた通り調査すればいいだけか)

 この男は忠犬であった。
 主君全肯定の執事は、たとえどれ程荒唐無稽な話であろうとも──アミレスの言葉ならば躊躇いなく信じ、その身を投じる。
 忠臣だからこそ時には諌言する事も厭わないイリオーデと、方針の違いで度々衝突するだけはある。

(っ! この気配って──部署長……?!)

 闇取引などが行われる場にて、アルベルトは思わず息を潜めた。
 その視線の先に立つのは、怪しげな男達と密談を交わす妖艶な肉体の女性。しかし、アルベルトはその正体を看破する。

(部署長も何か調査中なんだろう。仕事中に他の諜報員に会っても決して馴れ合ってはいけないし、声をかけるつもりは元々無いんだけど──)

 影を駆使し、彼は元よりその気配を闇に溶け込ませていた。
 しかしここに来て更に気配を消した。
 あの男に気づかれてはならないと、アルベルトの本能が警鐘を鳴らしたのだ。

(嫌な予感・・・・がする・・・。このままあの人を放っておいたら、俺にとって最悪の結末を迎えてしまいそうな──……そんな、破滅の予感が)

 ならば殺すか? そう一考するも、アルベルトの任務はあくまでも爆破テロにまつわる調査。任務内容に関係なく、かつ任務に支障をきたす恐れのある愚行をわざわざ冒す必要もあるまい。
 しかし、その不安というものはどうにも無視出来ないものであった。
 故に。

(……仕事が終わってから、改めて探ろう。部署長あのひとが一体何を調べているのかを)

 その胸騒ぎの正体を突き止めるべく、アルベルトは業務外での調査を決意した。


 ♢♢


「ここも空振り、か」

 祭服を身に纏う美青年は、金糸のような長髪を揺らして落胆の息を吐く。
 彼が出てきた場所は飲んだくれ達の集まる酒場。そこならば、怪しげな稼業に勤しむ者達の情報とて集まると踏んでいたのだが……結果は奮わず。
 彼の求める情報はそこには無かった。

(他に情報収集に適した場所があるとすれば……新聞社か。そこならば、奴隷商にまつわる情報とて何かしらはあるだろう)

 周囲の女性からの熱い視線など気にもとめず、セインカラッド・サンカルは帝都大通りの雑踏へと消えていった。

「……」
「急に立ち止まって、どしたのユーキ?」
「──いや、なんでもない」
「そう? てか今日はバドにぃが美味しいケーキ作ってくれるんだからっ、早く帰ろー!」
「わかったから騒ぐな……声大きいんだよ……」

 上機嫌に尻尾を振るジェジに促され、ユーキは西部地区へと歩を向ける。

(……駄目だ。まだ、あいつの影を追い求めてる。金髪を見かける度に期待する癖、早くどうにかなれよ…………)

 こんな所に、あいつがいる訳ないのに──……。
 彼は、悲しみを心の奥底に押し込むように目蓋をぎゅっと閉じた。
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