564 / 791
第五章・帝国の王女
509,5.Interlude Story:Michelle
しおりを挟む
フリードルはあたしに目もくれず、マクベスタと一緒にどこかへと行ってしまった。
正確に言えば、目は合った。だけどそれは……乙女ゲームのようなドキドキする視線の交わりではなく、彼を見つめるあたしと、偶然こちらを蔑んだ彼の視線が少し重なっただけのこと。
フリードルは、欠片もあたしに興味が無いらしい。
分かってはいたけれど、やはり初期のフリードルの好感度はド底辺だ。流石は好感度を上げるのが異様に難しいと言われていた二作目の追加攻略対象達……! ミカリアもそうだけど、特にフリードルとマクベスタは好感度変動がシビアで攻略が難しい。
フリードルはそもそも滅多に好感度が上がらないし、マクベスタは少しでも選択肢を間違えればすぐに好感度がだだ下がりする。
そんな経験があるから、初期の最低好感度のフリードルにも一応慣れてはいるのだけど……やっぱり、大好きな人に冷たくされると辛いなあ。
彼の溺愛っぷりを見た事があるだけに、益々温度差を感じてしまう。
いくらあたしがヒロインでもやっぱり最初からなんでも上手くいく訳ではないのね。ゲーム通り、コツコツと好感度を積み重ねていかないと。
それまでは皆からの愛もおあずけかぁ……。
でもめげないぞぅ! 頑張って好感度を上げて、夢の逆ハーレムエンドを──痛くない無償の愛を手に入れてみせる!
「……──はぁ。それにしても、まさか攻略対象が全員帝国に集まるなんて。きっと、あたしがここにいるからサラもいるだろうし……ゲームから色々と変わっちゃったなあ」
ロイとセインに頼んで、あたしは一人になっていた。テラスの手すりにもたれかかり、夜風に撫でられながらため息をつく。
……もし、この変化を起点にもっと大きな変化が──バタフライエフェクトが起きてしまったら。
その結果、あたしの夢が叶わなかったら……どうしよう。
「あたしの恋、また叶わないのかな……」
すぐに後ろ向きになって、一人でじめじめと悩んでしまう。お兄さんと出会ってから少しはマシになったけど、まだまだ健在な悪癖だ。
……そうだ、お兄さんと出会ってから、あたしは──。
「神に愛されたお嬢さん。少々、宜しいかな?」
ぼんやりと『お兄さん』について何か思い出しそうになったのだが、誰かに話しかけられた事によりそれは中断される。
振り向くとそこには、派手な蛍光ピンクの髪にサングラスを掛けたいかにも胡散臭い男の人と、角のようなものが生えた水色の髪の女の子が立っていた。
こんな人達、食事会にいたっけ……?
「あたしに、何か用ですか?」
「フフ、そう警戒なさらず。わたくしどもはただ、アナタの力になりたいのです」
「力……?」
警戒していたのに、その言葉を聞いて何故か緊張が和らぐ。
「そうなの。ウチら、アンタのお手伝いをするためにきたの」
「マーミュが言った通り──わたくしどもに、アナタの望みを叶えるお手伝いをさせていただけませんか?」
「なのなの!」
サングラスの人に頭を撫でられ、マーミュと呼ばれた女の子はふふんと笑みを作る。
「望みを叶えるお手伝い、って……そんな事をするメリットがあなた達にはないじゃない」
「いいえ、ありますとも。わたくしどもがアナタの望みを叶えるお手伝いをします。ですので、その見返りに──アナタには、少しばかりその力を貸していただきたいのです」
あたしの力──……天の加護属性のこと? この人達も、加護属性を狙う悪い人達なの?
「ユーミスのせいでまた警戒されちゃったの」
「おやおや……わたくしの言葉が足りませんでしたね。正確には、ほんの少しだけアナタの特別な魔力を拝借したいだけ。それ以上は絶対に求めないと約束しましょう」
まただ。この人達の言葉を聞けば聞く程、どうしてか警戒を緩めてしまう。
信じてもいいかなと、思って……しま、う。
「わか、った。あたしの力を少し、渡す……から、あたしの望みを叶える手伝いを、して」
「──はい。これにて取引成立ですね。では早速……アナタの望みは、なんですか?」
鋭く、悪辣な笑み。サングラスの向こうに僅かに見える瞳が醜く歪んで見える。
だけど、あたしは彼等の手を取ってしまった。
「皆に愛されたい。攻略対象の皆に、たくさん愛されたい」
「……成程。では、アナタが望む未来が訪れるよう──溢れんばかりの奇跡が起きる事をここに願いましょう! そぉーれっ」
マジックをかけられたようだった。
パチンッと指を弾いた音が耳元で響く。その瞬間、ハッとなって辺りを見渡すも、先程の二人は既に姿を消していた。
夢でも見ていたのかな。
そう思うも束の間、いつの間にかあたしの手には見慣れないネックレスが握られていた。満月に透かしてみるとオーロラに輝いて見える、ひし形の美しいダイヤモンド。
それに銀糸が通されていて、あたしは無意識のうちにそれを首に掛けていた。
するとどうしてだろう。不思議と大丈夫だと思えるのだ。
きっとどうにでもなると──あたしの望みは叶うと。そう、奇跡的に思えてしまうのだ。
「……そうだよね。きっと叶うわ! だってあたしは────ミシェル・ローゼラだもの!」
だから安心してね、お兄さん。
あたし、今度こそ上手くやるよ。
我儘に、自由に──……願いを叶えてみせるね。
♢♢
「──こちらユーミス。無事、神々の愛し子に鍵を渡しました」
王城の天辺。誰も寄り付かないその場所で、男は宝石に向けて声を発していた。
『……そうか。ではこれより、予定通り饗宴の準備に移る。汝はマーミュと共に、引き続き浸食に当たるように』
「はっ! かしこまりました、隊長」
「わかったのー!」
ユーミスとマーミュが敬礼の姿勢をとる。そして、
『……──全ては、我等が女王陛下の為に』
「「……──全ては、我等が女王陛下の為に」」
彼等は一言一句違えず声を揃えたのであった。
正確に言えば、目は合った。だけどそれは……乙女ゲームのようなドキドキする視線の交わりではなく、彼を見つめるあたしと、偶然こちらを蔑んだ彼の視線が少し重なっただけのこと。
フリードルは、欠片もあたしに興味が無いらしい。
分かってはいたけれど、やはり初期のフリードルの好感度はド底辺だ。流石は好感度を上げるのが異様に難しいと言われていた二作目の追加攻略対象達……! ミカリアもそうだけど、特にフリードルとマクベスタは好感度変動がシビアで攻略が難しい。
フリードルはそもそも滅多に好感度が上がらないし、マクベスタは少しでも選択肢を間違えればすぐに好感度がだだ下がりする。
そんな経験があるから、初期の最低好感度のフリードルにも一応慣れてはいるのだけど……やっぱり、大好きな人に冷たくされると辛いなあ。
彼の溺愛っぷりを見た事があるだけに、益々温度差を感じてしまう。
いくらあたしがヒロインでもやっぱり最初からなんでも上手くいく訳ではないのね。ゲーム通り、コツコツと好感度を積み重ねていかないと。
それまでは皆からの愛もおあずけかぁ……。
でもめげないぞぅ! 頑張って好感度を上げて、夢の逆ハーレムエンドを──痛くない無償の愛を手に入れてみせる!
「……──はぁ。それにしても、まさか攻略対象が全員帝国に集まるなんて。きっと、あたしがここにいるからサラもいるだろうし……ゲームから色々と変わっちゃったなあ」
ロイとセインに頼んで、あたしは一人になっていた。テラスの手すりにもたれかかり、夜風に撫でられながらため息をつく。
……もし、この変化を起点にもっと大きな変化が──バタフライエフェクトが起きてしまったら。
その結果、あたしの夢が叶わなかったら……どうしよう。
「あたしの恋、また叶わないのかな……」
すぐに後ろ向きになって、一人でじめじめと悩んでしまう。お兄さんと出会ってから少しはマシになったけど、まだまだ健在な悪癖だ。
……そうだ、お兄さんと出会ってから、あたしは──。
「神に愛されたお嬢さん。少々、宜しいかな?」
ぼんやりと『お兄さん』について何か思い出しそうになったのだが、誰かに話しかけられた事によりそれは中断される。
振り向くとそこには、派手な蛍光ピンクの髪にサングラスを掛けたいかにも胡散臭い男の人と、角のようなものが生えた水色の髪の女の子が立っていた。
こんな人達、食事会にいたっけ……?
「あたしに、何か用ですか?」
「フフ、そう警戒なさらず。わたくしどもはただ、アナタの力になりたいのです」
「力……?」
警戒していたのに、その言葉を聞いて何故か緊張が和らぐ。
「そうなの。ウチら、アンタのお手伝いをするためにきたの」
「マーミュが言った通り──わたくしどもに、アナタの望みを叶えるお手伝いをさせていただけませんか?」
「なのなの!」
サングラスの人に頭を撫でられ、マーミュと呼ばれた女の子はふふんと笑みを作る。
「望みを叶えるお手伝い、って……そんな事をするメリットがあなた達にはないじゃない」
「いいえ、ありますとも。わたくしどもがアナタの望みを叶えるお手伝いをします。ですので、その見返りに──アナタには、少しばかりその力を貸していただきたいのです」
あたしの力──……天の加護属性のこと? この人達も、加護属性を狙う悪い人達なの?
「ユーミスのせいでまた警戒されちゃったの」
「おやおや……わたくしの言葉が足りませんでしたね。正確には、ほんの少しだけアナタの特別な魔力を拝借したいだけ。それ以上は絶対に求めないと約束しましょう」
まただ。この人達の言葉を聞けば聞く程、どうしてか警戒を緩めてしまう。
信じてもいいかなと、思って……しま、う。
「わか、った。あたしの力を少し、渡す……から、あたしの望みを叶える手伝いを、して」
「──はい。これにて取引成立ですね。では早速……アナタの望みは、なんですか?」
鋭く、悪辣な笑み。サングラスの向こうに僅かに見える瞳が醜く歪んで見える。
だけど、あたしは彼等の手を取ってしまった。
「皆に愛されたい。攻略対象の皆に、たくさん愛されたい」
「……成程。では、アナタが望む未来が訪れるよう──溢れんばかりの奇跡が起きる事をここに願いましょう! そぉーれっ」
マジックをかけられたようだった。
パチンッと指を弾いた音が耳元で響く。その瞬間、ハッとなって辺りを見渡すも、先程の二人は既に姿を消していた。
夢でも見ていたのかな。
そう思うも束の間、いつの間にかあたしの手には見慣れないネックレスが握られていた。満月に透かしてみるとオーロラに輝いて見える、ひし形の美しいダイヤモンド。
それに銀糸が通されていて、あたしは無意識のうちにそれを首に掛けていた。
するとどうしてだろう。不思議と大丈夫だと思えるのだ。
きっとどうにでもなると──あたしの望みは叶うと。そう、奇跡的に思えてしまうのだ。
「……そうだよね。きっと叶うわ! だってあたしは────ミシェル・ローゼラだもの!」
だから安心してね、お兄さん。
あたし、今度こそ上手くやるよ。
我儘に、自由に──……願いを叶えてみせるね。
♢♢
「──こちらユーミス。無事、神々の愛し子に鍵を渡しました」
王城の天辺。誰も寄り付かないその場所で、男は宝石に向けて声を発していた。
『……そうか。ではこれより、予定通り饗宴の準備に移る。汝はマーミュと共に、引き続き浸食に当たるように』
「はっ! かしこまりました、隊長」
「わかったのー!」
ユーミスとマーミュが敬礼の姿勢をとる。そして、
『……──全ては、我等が女王陛下の為に』
「「……──全ては、我等が女王陛下の為に」」
彼等は一言一句違えず声を揃えたのであった。
5
お気に入りに追加
655
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?
せいめ
恋愛
女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。
大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。
親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。
「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」
その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。
召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。
「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」
今回は無事に帰れるのか…?
ご都合主義です。
誤字脱字お許しください。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる