557 / 775
第五章・帝国の王女
504,5.Interlude Story:Schwarz
しおりを挟む
西部地区に転移した時から、妙な悪寒は感じていた。
魔物ってわりにはその手の瘴気を感じねェから、この件は何かあるなとは思ってたが……。
「──魔物よりも性質が悪いなァ、こりゃ」
以前、アミレスの誕生パーティーをした広場の辺りを上空から見下ろす。
そこでは私兵団の奴等が未知の存在相手に苦戦を強いられており、周囲の建物もかなりの被害を受けている。
だが、生憎とオレサマはアイツ等を助けられない。
見捨てるってワケではない。オレサマとてアイツ等を助けられるものなら助けたさ。
敵が魔物だったら良かったんだが……今回は違うらしい。ならば、重たい鎖に繋がれているオレサマの出る幕はない。
「ま、とりあえず頼まれた仕事はこなしておくか」
元よりその為に今ここにいる。
その場から急降下し地面に軽やかに着地すると、すぐそばにいたエリニティが「うわッ!?」と目玉を大きくひん剥いて、固まった。
そんな阿呆面を見下ろし、
「クラリスとバドールは回収する。後でアミレスとイリオーデが駆けつけっから、それまで持ち堪えろ」
簡潔に説明してクラリスとバドールの回収に向かう。
そもそも集団戦が得意な連中だからか、この二人を見つけて回収するのにそう時間はかからなかった。
二人共、「おいなにするんだシュヴァルツ!」「離してくれ、子供達を守らないと……っ」だとかなんとか騒いでいたが、メアリードが心細さから泣いていた事を話したら一気に大人しくなった。
二人の大人を小脇に抱え、瞬間転移でディオの家へ戻る。
するとそこでは、この馬鹿二人の赤ん坊が赤らんだ顔で寝息を立てており、それを眺めるようにアミレス達が寝台を囲んでいた。
しかしアミレスはすぐさまこちらに気がつき、立ち上がりざまに振り向いた。
「あっ、おかえりなさいシュヴァルツ」
こうして出迎えられると、なんだか夫婦になったみたいで……………………けっこうアリだな。
「──クラリス、バドール! いくら非常時だからって生後間もない我が子を置いてどこ行ってるの!」
「うっ……だ、だって仕方ないでしょ! 街に変な魔物が現れたんだから」
「本当にすまない……ディリアスもメアリーもすまない……」
往生際が悪い事に、クラリスはごにょごにょと言い訳を連ねる。が、アミレスは凛然と苦言を呈していく。
「確かに、貴方達のお陰で助かった命だってあるかもしれない。貴方達のお陰で守られた安全だってあるかもしれない。でも、貴方達は親なのよ? 親が我が子より他人を優先してどうするの!」
「「──っ!」」
これにはクラリスとバドールも息を呑んで黙り込んだ。
「もしも貴方達に何かあれば、それはあの子から親を奪う事になるのよ? いくら望んでも親と会えず、ずっと親の幻影に縋り続ける辛さがどれ程のものか……貴方達だって、少し考えれば分かることでしょう?」
その声からは、痛切さが感じられた。
この場にいた誰もが、アイツの言葉の意味を理解した。その裏に隠されたアミレスの心境を想像した。
生まれた瞬間に母親が死に、父親から忌み嫌われて生きてきた王女。──そんな境遇を慮り、一人残らず言葉を失っていた。
「……判断を見誤ったわ。迷惑かけてごめん、メアリー、王女様。私、母親失格だ」
「俺がもっと強くクラリスを止められたらよかったんだ。本当にすまない」
メアリーとアミレスに向け、二人は深く頭を下げた。
そんな情けない大人達に歩み寄り、膝を折ってクラリス達の肩に手を置いて、
「これからは気をつけてね。ディリアスの親は、貴方達二人だけなんだから」
「……っ、えぇ!」
「勿論だ……!」
アミレスは慈愛に満ちた目で微笑んだ。
二人の答えに満足したのかおもむろに立ち上がり、アミレスはガラリとその顔色を変える。
「──それじゃあ、私達は例の魔物とやらの相手をしてくるわね。メアリーには改めて謝っておくように! イリオーデ、シュヴァルツ、行くわよ」
「は、かしこまりました」
「あいよ」
魔物ではないんだが……実際に見せてから説明した方が早いか。
アミレスとイリオーデが傍に来たのを確認し、瞬間転移を発動する。すると先程の広場──戦場の中心に、オレサマ達は転移した。
魔物ってわりにはその手の瘴気を感じねェから、この件は何かあるなとは思ってたが……。
「──魔物よりも性質が悪いなァ、こりゃ」
以前、アミレスの誕生パーティーをした広場の辺りを上空から見下ろす。
そこでは私兵団の奴等が未知の存在相手に苦戦を強いられており、周囲の建物もかなりの被害を受けている。
だが、生憎とオレサマはアイツ等を助けられない。
見捨てるってワケではない。オレサマとてアイツ等を助けられるものなら助けたさ。
敵が魔物だったら良かったんだが……今回は違うらしい。ならば、重たい鎖に繋がれているオレサマの出る幕はない。
「ま、とりあえず頼まれた仕事はこなしておくか」
元よりその為に今ここにいる。
その場から急降下し地面に軽やかに着地すると、すぐそばにいたエリニティが「うわッ!?」と目玉を大きくひん剥いて、固まった。
そんな阿呆面を見下ろし、
「クラリスとバドールは回収する。後でアミレスとイリオーデが駆けつけっから、それまで持ち堪えろ」
簡潔に説明してクラリスとバドールの回収に向かう。
そもそも集団戦が得意な連中だからか、この二人を見つけて回収するのにそう時間はかからなかった。
二人共、「おいなにするんだシュヴァルツ!」「離してくれ、子供達を守らないと……っ」だとかなんとか騒いでいたが、メアリードが心細さから泣いていた事を話したら一気に大人しくなった。
二人の大人を小脇に抱え、瞬間転移でディオの家へ戻る。
するとそこでは、この馬鹿二人の赤ん坊が赤らんだ顔で寝息を立てており、それを眺めるようにアミレス達が寝台を囲んでいた。
しかしアミレスはすぐさまこちらに気がつき、立ち上がりざまに振り向いた。
「あっ、おかえりなさいシュヴァルツ」
こうして出迎えられると、なんだか夫婦になったみたいで……………………けっこうアリだな。
「──クラリス、バドール! いくら非常時だからって生後間もない我が子を置いてどこ行ってるの!」
「うっ……だ、だって仕方ないでしょ! 街に変な魔物が現れたんだから」
「本当にすまない……ディリアスもメアリーもすまない……」
往生際が悪い事に、クラリスはごにょごにょと言い訳を連ねる。が、アミレスは凛然と苦言を呈していく。
「確かに、貴方達のお陰で助かった命だってあるかもしれない。貴方達のお陰で守られた安全だってあるかもしれない。でも、貴方達は親なのよ? 親が我が子より他人を優先してどうするの!」
「「──っ!」」
これにはクラリスとバドールも息を呑んで黙り込んだ。
「もしも貴方達に何かあれば、それはあの子から親を奪う事になるのよ? いくら望んでも親と会えず、ずっと親の幻影に縋り続ける辛さがどれ程のものか……貴方達だって、少し考えれば分かることでしょう?」
その声からは、痛切さが感じられた。
この場にいた誰もが、アイツの言葉の意味を理解した。その裏に隠されたアミレスの心境を想像した。
生まれた瞬間に母親が死に、父親から忌み嫌われて生きてきた王女。──そんな境遇を慮り、一人残らず言葉を失っていた。
「……判断を見誤ったわ。迷惑かけてごめん、メアリー、王女様。私、母親失格だ」
「俺がもっと強くクラリスを止められたらよかったんだ。本当にすまない」
メアリーとアミレスに向け、二人は深く頭を下げた。
そんな情けない大人達に歩み寄り、膝を折ってクラリス達の肩に手を置いて、
「これからは気をつけてね。ディリアスの親は、貴方達二人だけなんだから」
「……っ、えぇ!」
「勿論だ……!」
アミレスは慈愛に満ちた目で微笑んだ。
二人の答えに満足したのかおもむろに立ち上がり、アミレスはガラリとその顔色を変える。
「──それじゃあ、私達は例の魔物とやらの相手をしてくるわね。メアリーには改めて謝っておくように! イリオーデ、シュヴァルツ、行くわよ」
「は、かしこまりました」
「あいよ」
魔物ではないんだが……実際に見せてから説明した方が早いか。
アミレスとイリオーデが傍に来たのを確認し、瞬間転移を発動する。すると先程の広場──戦場の中心に、オレサマ達は転移した。
3
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた
愛丸 リナ
恋愛
少女は綺麗過ぎた。
整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。
最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?
でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。
クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……
たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた
それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない
______________________________
ATTENTION
自己満小説満載
一話ずつ、出来上がり次第投稿
急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする
文章が変な時があります
恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定
以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる