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第五章・帝国の王女
499,5.Interlude Story:Others
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(……──ミシェル・ローゼラ。アミレスやカイル王子のように何も視えない人間…………もう少し探る必要がありそうだな)
親善使節を乗せ、雪花宮行きの馬車が走り出した後のこと。
ケイリオルは神々の愛し子を要注意人物と捉え、行動する。
「ファースト、いますか」
「──はいよ。あんたからの呼び出しなんて珍しいじゃないか。しかも本名でだなんて照れちまうよ」
「実は野暮用がありまして。確か彼は神殿都市での潜入任務から帰都していましたよね。引き続き、帝都でも神々の愛し子の監視任務につかせなさい」
「久々の休暇を与えたばかりなんだが……若いからって酷使しすぎだぜ、旦那」
音もなく現れた諜報部部署長偽名ヌル──もといファーストは、第二次性徴期の少年のような姿で肩を竦めた。
「帝国の役人になってまともに休暇があると考える方が間違いでは?」
「極悪な国だなおい。そんなんだからダルステンくんに嫁が出来ないんだぞぅ」
「それは彼が選り好みしているからですよ。──さて、冗談はこの辺りで……彼には後で今回のぶんもまとめて休暇を取らせればいいでしょう。とにかく、この親善交流の期間中にあの少女を調べ上げなくては」
この場にいない司法部部署長ダルステンが、『休暇を寄越せ!! あと僕は選り好みなんてしていない!!』と叫ぶ幻聴が聞こえるようだ。
「ほぅ? 旦那がそこまでするってことは、あの嬢ちゃんにはまだ何かあるのか」
「そうですね。どうも嫌な予感がするのです」
「……あんたのそれはよく当たるからな。分かった、あいつには悪いが休暇を返上してもらおう。旦那の命令とあらば、俺に拒否権なんてないさ」
「後は任せましたよ、ファースト。個人的な頼みなので、どうか内密に」
踵を返して王城へと戻るケイリオルの背中に向け、ファーストは恭しく背を曲げた。
そして彼は満足気に笑う。
「御意のままに──我が双星」
そしてファーストは変の魔力で自身の姿を変え、鳥となり空を羽ばたく。
向かう先は帝都西部地区。その中でも特に目立つ時計台に、彼のお目当てはいた。
「この気配……もしかしてボス?」
頭上で羽ばたく鳥を見上げ、黒髪の青年は灰色の瞳を丸くする。
その鳥が背後で音もなく人に姿を変えたのだが、青年は動じることなく振り向き、少年のような上司を見つめる。
「よお、サラ。こんな所で道草食って……仲間に会いに行くんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんですけど、あれからもう何年も経ってるから忘れられてるかも、って思って」
「それで踏ん切りがつかなかったって訳か」
「……その通りです」
顔を半分覆う前髪を触りながら、サラは煮え切らない態度で喋る。その顔には彼らしくない不安がありありと浮かんでいた。
「諜報部の若きエースがそんなしょうもない事で…………まあ都合がいいか。朗報だ、悩める青少年」
「朗報?」
サラは言葉を繰り返した。
「極秘の仕事だ。引き続き加護属性所持者を監視しろとの命令が下りた」
「……──了解。任務受諾致しました」
仕事と命令という言葉を聞いた瞬間、サラの顔から表情が抜け落ちる。彼の中に死神が舞い降りたかのように、纏う空気がガラリと変わる。
先程、不安からもじもじとしていた男とは思えない変貌っぷり。それを直に見たファーストはサラの肩に手を置き、
「まあそう肩肘張らんでいいさ。陛下の勅命は解除されたが──……帝都滞在中の対象を今まで通り監視し、報告を続けてくれればいい。それが終われば今度こそ長期休暇を取らせてやる」
彼の顔を見上げて軽薄な笑みを浮かべた。
それを受けサラも少し肩の力を抜いたようで、
「……分かりました。程々に力を抜いて、引き続き監視任務にあたります」
「おう。いい感じに頑張りたまえ」
柔らかな表情で軽く頷き、影の中にどぷんと落ちる。
どうやら早速任務に向かったらしい。
「…………はぁ。それじゃあ俺も働くか」
若者が休暇を返上してまで働き通しだというのに、いい歳した大人が何もせずにいられるか。
諜報部部署長偽名ヌルとして。彼もまた、動き出すのであった。
親善使節を乗せ、雪花宮行きの馬車が走り出した後のこと。
ケイリオルは神々の愛し子を要注意人物と捉え、行動する。
「ファースト、いますか」
「──はいよ。あんたからの呼び出しなんて珍しいじゃないか。しかも本名でだなんて照れちまうよ」
「実は野暮用がありまして。確か彼は神殿都市での潜入任務から帰都していましたよね。引き続き、帝都でも神々の愛し子の監視任務につかせなさい」
「久々の休暇を与えたばかりなんだが……若いからって酷使しすぎだぜ、旦那」
音もなく現れた諜報部部署長偽名ヌル──もといファーストは、第二次性徴期の少年のような姿で肩を竦めた。
「帝国の役人になってまともに休暇があると考える方が間違いでは?」
「極悪な国だなおい。そんなんだからダルステンくんに嫁が出来ないんだぞぅ」
「それは彼が選り好みしているからですよ。──さて、冗談はこの辺りで……彼には後で今回のぶんもまとめて休暇を取らせればいいでしょう。とにかく、この親善交流の期間中にあの少女を調べ上げなくては」
この場にいない司法部部署長ダルステンが、『休暇を寄越せ!! あと僕は選り好みなんてしていない!!』と叫ぶ幻聴が聞こえるようだ。
「ほぅ? 旦那がそこまでするってことは、あの嬢ちゃんにはまだ何かあるのか」
「そうですね。どうも嫌な予感がするのです」
「……あんたのそれはよく当たるからな。分かった、あいつには悪いが休暇を返上してもらおう。旦那の命令とあらば、俺に拒否権なんてないさ」
「後は任せましたよ、ファースト。個人的な頼みなので、どうか内密に」
踵を返して王城へと戻るケイリオルの背中に向け、ファーストは恭しく背を曲げた。
そして彼は満足気に笑う。
「御意のままに──我が双星」
そしてファーストは変の魔力で自身の姿を変え、鳥となり空を羽ばたく。
向かう先は帝都西部地区。その中でも特に目立つ時計台に、彼のお目当てはいた。
「この気配……もしかしてボス?」
頭上で羽ばたく鳥を見上げ、黒髪の青年は灰色の瞳を丸くする。
その鳥が背後で音もなく人に姿を変えたのだが、青年は動じることなく振り向き、少年のような上司を見つめる。
「よお、サラ。こんな所で道草食って……仲間に会いに行くんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんですけど、あれからもう何年も経ってるから忘れられてるかも、って思って」
「それで踏ん切りがつかなかったって訳か」
「……その通りです」
顔を半分覆う前髪を触りながら、サラは煮え切らない態度で喋る。その顔には彼らしくない不安がありありと浮かんでいた。
「諜報部の若きエースがそんなしょうもない事で…………まあ都合がいいか。朗報だ、悩める青少年」
「朗報?」
サラは言葉を繰り返した。
「極秘の仕事だ。引き続き加護属性所持者を監視しろとの命令が下りた」
「……──了解。任務受諾致しました」
仕事と命令という言葉を聞いた瞬間、サラの顔から表情が抜け落ちる。彼の中に死神が舞い降りたかのように、纏う空気がガラリと変わる。
先程、不安からもじもじとしていた男とは思えない変貌っぷり。それを直に見たファーストはサラの肩に手を置き、
「まあそう肩肘張らんでいいさ。陛下の勅命は解除されたが──……帝都滞在中の対象を今まで通り監視し、報告を続けてくれればいい。それが終われば今度こそ長期休暇を取らせてやる」
彼の顔を見上げて軽薄な笑みを浮かべた。
それを受けサラも少し肩の力を抜いたようで、
「……分かりました。程々に力を抜いて、引き続き監視任務にあたります」
「おう。いい感じに頑張りたまえ」
柔らかな表情で軽く頷き、影の中にどぷんと落ちる。
どうやら早速任務に向かったらしい。
「…………はぁ。それじゃあ俺も働くか」
若者が休暇を返上してまで働き通しだというのに、いい歳した大人が何もせずにいられるか。
諜報部部署長偽名ヌルとして。彼もまた、動き出すのであった。
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