上 下
551 / 765
第五章・帝国の王女

499,5.Interlude Story:Others

しおりを挟む
(……──ミシェル・ローゼラ。アミレスやカイル王子のように何も視えない人間…………もう少し探る必要がありそうだな)

 親善使節を乗せ、雪花宮行きの馬車が走り出した後のこと。
 ケイリオルは神々の愛し子ミシェル・ローゼラを要注意人物と捉え、行動する。

ファースト・・・・・、いますか」
「──はいよ。あんたからの呼び出しなんて珍しいじゃないか。しかも本名でだなんて照れちまうよ」
「実は野暮用がありまして。確かは神殿都市での潜入任務から帰都していましたよね。引き続き、帝都でも神々の愛し子の監視任務につかせなさい」
「久々の休暇を与えたばかりなんだが……若いからって酷使しすぎだぜ、旦那」

 音もなく現れた諜報部部署長偽名コードネームヌル──もといファーストは、第二次性徴期の少年のような姿で肩を竦めた。

帝国ウチの役人になってまともに休暇があると考える方が間違いでは?」
「極悪な国だなおい。そんなんだからダルステンくんに嫁が出来ないんだぞぅ」
「それは彼が選り好みしているからですよ。──さて、冗談はこの辺りで……彼には後で今回のぶんもまとめて休暇を取らせればいいでしょう。とにかく、この親善交流の期間中にあの少女を調べ上げなくては」

 この場にいない司法部部署長ダルステンが、『休暇を寄越せ!! あと僕は選り好みなんてしていない!!』と叫ぶ幻聴が聞こえるようだ。

「ほぅ? 旦那がそこまでするってことは、あの嬢ちゃんにはまだ何かあるのか」
「そうですね。どうも嫌な予感がするのです」
「……あんたのそれはよく当たるからな。分かった、あいつには悪いが休暇を返上してもらおう。旦那の命令とあらば、俺に拒否権なんてないさ」
「後は任せましたよ、ファースト。個人的な・・・・頼み・・なので、どうか内密に」

 踵を返して王城へと戻るケイリオルの背中に向け、ファーストは恭しく背を曲げた。
 そして彼は満足気に笑う。

「御意のままに──我が双星マイ・ロード

 そしてファーストは変の魔力で自身の姿を変え、鳥となり空を羽ばたく。
 向かう先は帝都西部地区。その中でも特に目立つ時計台に、彼のお目当てはいた。

「この気配……もしかしてボス?」

 頭上で羽ばたく鳥を見上げ、黒髪の青年は灰色の瞳を丸くする。
 その鳥が背後で音もなく人に姿を変えたのだが、青年は動じることなく振り向き、少年のような上司を見つめる。

「よお、サラ。こんな所で道草食って……仲間に会いに行くんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんですけど、あれからもう何年も経ってるから忘れられてるかも、って思って」
「それで踏ん切りがつかなかったって訳か」
「……その通りです」

 顔を半分覆う前髪を触りながら、サラは煮え切らない態度で喋る。その顔には彼らしくない不安がありありと浮かんでいた。

諜報部ウチの若きエースがそんなしょうもない事で…………まあ都合がいいか。朗報だ、悩める青少年」
「朗報?」

 サラは言葉を繰り返した。

「極秘の仕事だ。引き続き加護属性ギフト所持者を監視しろとの命令が下りた」
「……──了解。任務受諾致しました」

 仕事と命令という言葉を聞いた瞬間、サラの顔から表情が抜け落ちる。彼の中に死神が舞い降りたかのように、纏う空気がガラリと変わる。
 先程、不安からもじもじとしていた男とは思えない変貌っぷり。それを直に見たファーストはサラの肩に手を置き、

「まあそう肩肘張らんでいいさ。陛下の勅命は解除されたが──……帝都滞在中の対象を今まで通り監視し、報告を続けてくれればいい。それが終われば今度こそ長期休暇を取らせてやる」

 彼の顔を見上げて軽薄な笑みを浮かべた。
 それを受けサラも少し肩の力を抜いたようで、

「……分かりました。程々に力を抜いて、引き続き監視任務にあたります」
「おう。いい感じに頑張りたまえ」

 柔らかな表情で軽く頷き、影の中にどぷんと落ちる。
 どうやら早速任務に向かったらしい。

「…………はぁ。それじゃあ俺も働くか」

 若者が休暇を返上してまで働き通しだというのに、いい歳した大人が何もせずにいられるか。
 諜報部部署長偽名コードネームヌルとして。彼もまた、動き出すのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。

aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。 生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。 優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。 男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。 自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。 【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。 たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

処理中です...