556 / 766
第五章・帝国の王女
504.Main Story:Ameless
しおりを挟む
そう。なんとクラリスはつい先週、待望の第一子を出産した。
記念すべき子供はディリアスという名前の女の子で、バドールの茶髪とクラリスの桃色の瞳を受け継いだ可愛らしい赤ちゃんだ。
私兵団の面々からいたく可愛がられているらしく、先日仕事の合間に様子を見に来た時に『俺達は娘を叱れそうにない……わがままな子に育ってしまったらどうしよう』と、バドールから早くもお悩み相談されてしまったぐらいだ。
そしてどうやら、そんな生後間もないディリアスをメアリーに預けてクラリスは飛び出してしまったらしい。
いくらなんでもアクティブすぎる。
責任感が強いのはクラリスのいいところだけど……こんな事なら強引に育休取得させておけばよかった……ッ!
「それで、メアリーがディリアスのお守りで残ってるって訳ね?」
「うん。そしたらさっき、ジェジ兄が『ちょっとやばいかもーーっ!』って言う為だけに帰ってきて、また飛んでいったの」
「だから私に救援要請したんだ」
「ごめんね……すっごいお洒落してるんだから、姫はきっとこれから大事な用事があったんだよね。デートとか。アタシ達が弱いせいで……ごめん……」
メアリーが子犬のようにしゅんと項垂れた。
「デートではないけど……予定があったのは事実よ。でもね、メアリー」
そんな彼女の手を取って、柔らかく微笑みかける。
「私の個人的な予定よりも貴女達を優先するに決まってるじゃない。私は皆の上司なんだから、何かあったらどこへだってすぐに駆けつけるわ」
「うぅ……姫ぇ~~っ! すき~~~~!!」
「私も皆の事が好きよ」
涙目で抱き着いてきたメアリーを受け止め、「こわかったよぉ……っ」と鼻をすする彼女の頭を、頑張ったね。と撫でてあげる。
正直、こんな事をしてる場合ではないと思うんだけど、メアリーもこんな状況で一人で留守番と子守りをする事になり、心寂しかったのだろう。
だから少しでも甘えさせてあげよう。今は眠ってくれているようだが、私兵団ではほぼ末っ子の彼女が生後間もない赤ちゃんの面倒を一人で見るのだって、だいぶ負担だった筈。
得体の知れない敵が近くにいるという恐怖から張り詰めていた緊張の糸が、私の登場で解れたのだろう。
そもそも……ここにもし敵が現れれば、メアリーただ一人でディリアスを守らなくてはならない。それは──まだ十八歳の彼女が背負うには、あまりにも大きくて重たい責任だ。
「メアリー。もう大丈夫よ、私達が来たんだから」
「ぐすっ……うん。姫がいるなら、きっとなんとかなるよね」
赤い目をこすりながらメアリーはふにゃりと破顔した。
「……シュヴァルツ。今すぐクラリスとバドールを連れ戻してきてくれる? まだ本調子じゃないであろうクラリスを得体の知れない魔物と戦わせる訳にはいかないし、このままメアリーを一人にはしておけないから」
「りょーかーい」
気だるげな瞳を伏せ、シュヴァルツは姿を消した。
その後はイリオーデと二人でメアリーに何度も大丈夫だよと伝え、異変を察知したのか目を覚まし泣き声をあげるディリアスを必死にあやしたりもした。
これに関してはイリオーデがかなりのやり手で、私とメアリーでは全然駄目だった(なんなら私が触ろうとするとギャン泣きされた。つらい……)のに、イリオーデはあっという間にディリアスを寝かしつけてみせたのだ。
それを見た私とメアリーがすごいすごい! と小声で絶賛すると、
「……王女殿下がたまに泣かれていた際にも、私がこうして寝かしつけをさせていただいておりましたので……その経験が生きているようです」
照れた様子で彼はぽつりと零した。
そういえばイリオーデってアミレスが二歳になるぐらいまで東宮にいたんだっけ。赤ちゃんの頃のアミレスの世話を住み込みでしていたとか……。
「イリオーデ。非常時にこんな事を聞くのもどうかと思うけど、一ついい?」
「なんなりと」
「──世話してたなら、私の体、見たんじゃないの?」
排泄に関わる世話とか、着替えとか。
怒っているわけじゃないよ。ただ、ちょっと恥ずかしいだけで。
だがこの質問は、忠誠心が強いイリオーデにクリティカルヒットしたらしく……彼は目を点にして石のように固まってしまった。
「~~~~っいいえ! けけッ、決してそのような事は!! 王女殿下の湯浴みもその他身体に関わる世話は全てクレア様がしておりましたので! 私はそのような無体は働いておりませんッ!!」
「そうなの? ならいいけど……」
「はいっ! 誓ってそのような事は!!」
ここまで焦るイリオーデなんて初めて見たかもしれない。顔を赤く、青く、白く、様々な色に変えながら、彼は舌の根も乾かぬうちに弁明する。
ところで──……クレア? って、なんかどこかで聞いた事があるような……。
そう、確か、はじめて城の外に出た日に──。
「……いやいや。まさかそんな」
きっと同じ名前ってだけの別人だろう。クレアなんて、この辺りの国ではそんなに珍しくない名前だ。
そんな奇跡みたいな偶然がある筈がない。
記念すべき子供はディリアスという名前の女の子で、バドールの茶髪とクラリスの桃色の瞳を受け継いだ可愛らしい赤ちゃんだ。
私兵団の面々からいたく可愛がられているらしく、先日仕事の合間に様子を見に来た時に『俺達は娘を叱れそうにない……わがままな子に育ってしまったらどうしよう』と、バドールから早くもお悩み相談されてしまったぐらいだ。
そしてどうやら、そんな生後間もないディリアスをメアリーに預けてクラリスは飛び出してしまったらしい。
いくらなんでもアクティブすぎる。
責任感が強いのはクラリスのいいところだけど……こんな事なら強引に育休取得させておけばよかった……ッ!
「それで、メアリーがディリアスのお守りで残ってるって訳ね?」
「うん。そしたらさっき、ジェジ兄が『ちょっとやばいかもーーっ!』って言う為だけに帰ってきて、また飛んでいったの」
「だから私に救援要請したんだ」
「ごめんね……すっごいお洒落してるんだから、姫はきっとこれから大事な用事があったんだよね。デートとか。アタシ達が弱いせいで……ごめん……」
メアリーが子犬のようにしゅんと項垂れた。
「デートではないけど……予定があったのは事実よ。でもね、メアリー」
そんな彼女の手を取って、柔らかく微笑みかける。
「私の個人的な予定よりも貴女達を優先するに決まってるじゃない。私は皆の上司なんだから、何かあったらどこへだってすぐに駆けつけるわ」
「うぅ……姫ぇ~~っ! すき~~~~!!」
「私も皆の事が好きよ」
涙目で抱き着いてきたメアリーを受け止め、「こわかったよぉ……っ」と鼻をすする彼女の頭を、頑張ったね。と撫でてあげる。
正直、こんな事をしてる場合ではないと思うんだけど、メアリーもこんな状況で一人で留守番と子守りをする事になり、心寂しかったのだろう。
だから少しでも甘えさせてあげよう。今は眠ってくれているようだが、私兵団ではほぼ末っ子の彼女が生後間もない赤ちゃんの面倒を一人で見るのだって、だいぶ負担だった筈。
得体の知れない敵が近くにいるという恐怖から張り詰めていた緊張の糸が、私の登場で解れたのだろう。
そもそも……ここにもし敵が現れれば、メアリーただ一人でディリアスを守らなくてはならない。それは──まだ十八歳の彼女が背負うには、あまりにも大きくて重たい責任だ。
「メアリー。もう大丈夫よ、私達が来たんだから」
「ぐすっ……うん。姫がいるなら、きっとなんとかなるよね」
赤い目をこすりながらメアリーはふにゃりと破顔した。
「……シュヴァルツ。今すぐクラリスとバドールを連れ戻してきてくれる? まだ本調子じゃないであろうクラリスを得体の知れない魔物と戦わせる訳にはいかないし、このままメアリーを一人にはしておけないから」
「りょーかーい」
気だるげな瞳を伏せ、シュヴァルツは姿を消した。
その後はイリオーデと二人でメアリーに何度も大丈夫だよと伝え、異変を察知したのか目を覚まし泣き声をあげるディリアスを必死にあやしたりもした。
これに関してはイリオーデがかなりのやり手で、私とメアリーでは全然駄目だった(なんなら私が触ろうとするとギャン泣きされた。つらい……)のに、イリオーデはあっという間にディリアスを寝かしつけてみせたのだ。
それを見た私とメアリーがすごいすごい! と小声で絶賛すると、
「……王女殿下がたまに泣かれていた際にも、私がこうして寝かしつけをさせていただいておりましたので……その経験が生きているようです」
照れた様子で彼はぽつりと零した。
そういえばイリオーデってアミレスが二歳になるぐらいまで東宮にいたんだっけ。赤ちゃんの頃のアミレスの世話を住み込みでしていたとか……。
「イリオーデ。非常時にこんな事を聞くのもどうかと思うけど、一ついい?」
「なんなりと」
「──世話してたなら、私の体、見たんじゃないの?」
排泄に関わる世話とか、着替えとか。
怒っているわけじゃないよ。ただ、ちょっと恥ずかしいだけで。
だがこの質問は、忠誠心が強いイリオーデにクリティカルヒットしたらしく……彼は目を点にして石のように固まってしまった。
「~~~~っいいえ! けけッ、決してそのような事は!! 王女殿下の湯浴みもその他身体に関わる世話は全てクレア様がしておりましたので! 私はそのような無体は働いておりませんッ!!」
「そうなの? ならいいけど……」
「はいっ! 誓ってそのような事は!!」
ここまで焦るイリオーデなんて初めて見たかもしれない。顔を赤く、青く、白く、様々な色に変えながら、彼は舌の根も乾かぬうちに弁明する。
ところで──……クレア? って、なんかどこかで聞いた事があるような……。
そう、確か、はじめて城の外に出た日に──。
「……いやいや。まさかそんな」
きっと同じ名前ってだけの別人だろう。クレアなんて、この辺りの国ではそんなに珍しくない名前だ。
そんな奇跡みたいな偶然がある筈がない。
3
お気に入りに追加
622
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【R18】転生先のハレンチな世界で閨授業を受けて性感帯を増やしていかなければいけなくなった件
yori
恋愛
【番外編も随時公開していきます】
性感帯の開発箇所が多ければ多いほど、結婚に有利になるハレンチな世界へ転生してしまった侯爵家令嬢メリア。
メイドや執事、高級娼館の講師から閨授業を受けることになって……。
◇予告無しにえちえちしますのでご注意ください
◇恋愛に発展するまで時間がかかります
◇初めはGL表現がありますが、基本はNL、一応女性向け
◇不特定多数の人と関係を持つことになります
◇キーワードに苦手なものがあればご注意ください
ガールズラブ 残酷な描写あり 異世界転生 女主人公 西洋 逆ハーレム ギャグ スパンキング 拘束 調教 処女 無理やり 不特定多数 玩具 快楽堕ち 言葉責め ソフトSM ふたなり
◇ムーンライトノベルズへ先行公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる