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第五章・帝国の王女
500.Main Story:Ameless
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神殿都市から、前乗りの親善使節数名が到着した。
しかし私は初対面の場には行けなかった。
私が行くとなれば必然的に着いてくる人達がいる訳で、そうなると城の魔法室が人でぎゅうぎゅう詰めになりかねない。
なので私は歓迎の食事会や日常でしか、ミシェルちゃんに会う事が叶わないのだ。
推しが今までにないぐらい近くにいるのに滅多に会えない寂しさとはこれ如何に。
しかも、ミシェルちゃん達は休む為にと既に雪花宮に向かったらしいので、明日の食事会までは会おうにも会えない。
それは仕方無いから、私はとりあえずマクベスタに会いに王城へと向かった。
ふふふ……ミシェルちゃんとの初対面がどうだったか探りを入れよう。実在してるミシェルちゃんとか凄く可愛いだろうからな~~っ! 私も早く会いたいなぁ~~。
確か魔法室はこの辺りだったような……マクベスタは流石にもういないかしら。
いつも通り従者二人を伴い、王城の一角をキョロキョロとしつつ歩いていると、ふと壁に目がいった。
そこには大きな肖像画が美しい額縁に入れて飾られており、描かれている人間はどうにも見覚えのある人達だった。
「お父様と、お母様……」
ゲームで見た姿よりも若い皇帝と、アミレスそっくりの桃色の髪の女性。その腕には眠る赤ん坊が抱かれていた。
「──こちらの貴婦人は、王女殿下の母君であらせられる皇后陛下、アーシャ・ヘル・フォーロイト様です」
少し間を置いて、イリオーデが解説する。
「よくお母様に似ているとは聞いていたけれど……本当に瓜二つね。想像以上で驚いたわ」
もはや生き写しなのではと疑うレベル。髪と目の色以外は、鏡で未来の自分を見ているようなものだ。
しかし……驚きと言えば皇帝の表情の方が強い。
なにせ、あの無情の皇帝が柔らかく微笑んでいるのだ。相変わらず仏頂面ではあるのだが、ゲームで幾度となく見た光の無い目ではなく……とても幸せそうな、優しい目をしていた。
「……ねぇ、イリオーデ。お母様ってどんな人だったの?」
ケイリオルさん曰く、努力家な人だったらしい。きっと、アミレスの努力家な一面は母親譲りなのだろう。
「そうですね……王女殿下も十五歳になられましたし、もう、母君についてお話しても大丈夫でしょう」
そう前置きして、イリオーデは語りだした。
「皇后陛下は、皇帝陛下が唯一強く出られない御方でした。身分などもはや関係無く……誰しもが認めざるを得ないぐらい、あの皇帝陛下の寵愛を一身に受けた元侍女──それが、私が知る皇后陛下の経歴になります」
お母様が元侍女────!?
それに皇帝の寵愛を一身に受けていた? あの皇帝に愛情なんてものがあったの??
侍女が皇帝(もしくは王子)に見初められて皇后になるなんて……うちのお母様、とんだシンデレラじゃないの。
「……一体どうやってお父様とお母様は知り合ったのかしら。気になるわ」
これでも前世では乙女ゲームを嗜んでいた身。そういったラブロマンスは大好物なのです。
リアルシンデレラストーリーについ涎が出そうになっていると、イリオーデは眉尻を下げて顎を引いた。
「申し訳ございません、私もこれ以上の事は知らず……王女殿下の頭を悩ませる種を取り除く事が出来ず、忸怩たる思いです」
「いいのよ、少し気になっただけだから!」
垂れた犬耳と尻尾の幻覚が見える。
それには胸がチクリと痛んだ。
「調べましょうか?」
諜報員時代の顔をするんじゃない。
「いいえ……故人を暴くような真似はよくないわ。その気持ちだけでじゅうぶんよ。ありがとう、ルティ」
「必要となればいつでも申し付けください。調べ上げますので」
「もしもの時はお願いするわね」
確かに気になるけれど、誰かの思い出を掘り返してまで知りたい訳ではない。
それに、その思い出はきっと──お母様の宝物だろうから。
人の宝物を奪うなんてよくないもんね。……しかし、お父様がお母様を愛していたとは…………じゃあ、まさか────。
「おや、我が妹ではないか」
「おはよう、アミレス」
気付きたくもなかった真実に気がついた時、おまけ付きで目的の人物が現れた。
この際だからフリードルにも探りを入れよう。
「おはようマクベスタ。兄様もおはようございます。実は二人に用事がありまして」
「なんだ、茶会の誘いか?」
「用事……?」
お茶会のお誘いではないです。と否定してから、早速本題に入る。
「ねぇマクベスタ、神々の愛し子に会ったんでしょう? どうだった?」
「どう……とは?」
「そりゃあもう、初対面の印象とかよ。可愛かった? 世界救っちゃいそうな感じだった?」
我ながらテンションが上がりすぎである。
「世界を救うというのはよく分からんが……容姿は、世間一般的に見れば整っているんじゃないか」
マクベスタは分かりやすく関心を寄せていなかった。
おかしいな……ゲームでは、初対面から礼儀正しく可愛いミシェルちゃんにそこそこ好感を持っていたんだけど。
マクベスタの立場がゲームとは違うからかしら。ゲームではオセロマイト王国が滅びた影響で帝国の騎士になってたけど、今は普通に王子のままだ。
そもそもマクベスタにとっての闇となる設定がなくなったんだ、ミシェルちゃんの光に浄化されるまでのプロセスが変わってしまった可能性が高い。
あれ、じゃあマクベスタだけでなくて他の攻略対象もそうなのでは?
……──これは、新ルート開拓も一筋縄ではいかなさそうね。
「そうなんだ。兄様はどうでしたか?」
「加護属性を持つ人間でなければその場で殺していた程度には気に食わなかったな」
こちらは通常運転だ。
ゲームのフリードルも初対面は本当に最悪だったからね。まあ、それもあって陥落後の溺愛がギャップ萌えだと人気を博していたのだが……。
「そうですか。私も早く会ってみたいです、神々の愛し子に」
「あの女はやめておけ。あれはもはや──人の精神を侵す毒だ」
「オレも、フリードル殿の意見には賛成だ。あの少女に会ってからというものの、不快感が胃の底で暴れている。あの少女には不容易に接触しない方がいいだろう」
ここで予想外の反応が返ってくる。何故か、二人揃ってミシェルちゃんに会うなと主張してきた。
私をからかっているのかとも思ったが……彼等の表情は真剣そのもの。決して、冗談を言っているようには見えない。
「……兄様達が、そう仰るなら。必要以上に彼女へ接触しないようにします」
「そうしておけ。お前まであのような不快な思いをする必要は無い」
ぶっきらぼうだがこちらを心配するようなフリードルの口ぶりに、マクベスタも静かに頷く。
不快な思い──?
ミシェルちゃんに会って、二人共そんな思いをしたというの? 一体……何が起きているの?
最推しに会えないという悲しみなのか、はたまた別の何かなのか。
色んな考えがぐるぐると頭の中で渦巻き、気がつけば……正体の分からない胸騒ぎが私を覆い尽くしていた。
しかし私は初対面の場には行けなかった。
私が行くとなれば必然的に着いてくる人達がいる訳で、そうなると城の魔法室が人でぎゅうぎゅう詰めになりかねない。
なので私は歓迎の食事会や日常でしか、ミシェルちゃんに会う事が叶わないのだ。
推しが今までにないぐらい近くにいるのに滅多に会えない寂しさとはこれ如何に。
しかも、ミシェルちゃん達は休む為にと既に雪花宮に向かったらしいので、明日の食事会までは会おうにも会えない。
それは仕方無いから、私はとりあえずマクベスタに会いに王城へと向かった。
ふふふ……ミシェルちゃんとの初対面がどうだったか探りを入れよう。実在してるミシェルちゃんとか凄く可愛いだろうからな~~っ! 私も早く会いたいなぁ~~。
確か魔法室はこの辺りだったような……マクベスタは流石にもういないかしら。
いつも通り従者二人を伴い、王城の一角をキョロキョロとしつつ歩いていると、ふと壁に目がいった。
そこには大きな肖像画が美しい額縁に入れて飾られており、描かれている人間はどうにも見覚えのある人達だった。
「お父様と、お母様……」
ゲームで見た姿よりも若い皇帝と、アミレスそっくりの桃色の髪の女性。その腕には眠る赤ん坊が抱かれていた。
「──こちらの貴婦人は、王女殿下の母君であらせられる皇后陛下、アーシャ・ヘル・フォーロイト様です」
少し間を置いて、イリオーデが解説する。
「よくお母様に似ているとは聞いていたけれど……本当に瓜二つね。想像以上で驚いたわ」
もはや生き写しなのではと疑うレベル。髪と目の色以外は、鏡で未来の自分を見ているようなものだ。
しかし……驚きと言えば皇帝の表情の方が強い。
なにせ、あの無情の皇帝が柔らかく微笑んでいるのだ。相変わらず仏頂面ではあるのだが、ゲームで幾度となく見た光の無い目ではなく……とても幸せそうな、優しい目をしていた。
「……ねぇ、イリオーデ。お母様ってどんな人だったの?」
ケイリオルさん曰く、努力家な人だったらしい。きっと、アミレスの努力家な一面は母親譲りなのだろう。
「そうですね……王女殿下も十五歳になられましたし、もう、母君についてお話しても大丈夫でしょう」
そう前置きして、イリオーデは語りだした。
「皇后陛下は、皇帝陛下が唯一強く出られない御方でした。身分などもはや関係無く……誰しもが認めざるを得ないぐらい、あの皇帝陛下の寵愛を一身に受けた元侍女──それが、私が知る皇后陛下の経歴になります」
お母様が元侍女────!?
それに皇帝の寵愛を一身に受けていた? あの皇帝に愛情なんてものがあったの??
侍女が皇帝(もしくは王子)に見初められて皇后になるなんて……うちのお母様、とんだシンデレラじゃないの。
「……一体どうやってお父様とお母様は知り合ったのかしら。気になるわ」
これでも前世では乙女ゲームを嗜んでいた身。そういったラブロマンスは大好物なのです。
リアルシンデレラストーリーについ涎が出そうになっていると、イリオーデは眉尻を下げて顎を引いた。
「申し訳ございません、私もこれ以上の事は知らず……王女殿下の頭を悩ませる種を取り除く事が出来ず、忸怩たる思いです」
「いいのよ、少し気になっただけだから!」
垂れた犬耳と尻尾の幻覚が見える。
それには胸がチクリと痛んだ。
「調べましょうか?」
諜報員時代の顔をするんじゃない。
「いいえ……故人を暴くような真似はよくないわ。その気持ちだけでじゅうぶんよ。ありがとう、ルティ」
「必要となればいつでも申し付けください。調べ上げますので」
「もしもの時はお願いするわね」
確かに気になるけれど、誰かの思い出を掘り返してまで知りたい訳ではない。
それに、その思い出はきっと──お母様の宝物だろうから。
人の宝物を奪うなんてよくないもんね。……しかし、お父様がお母様を愛していたとは…………じゃあ、まさか────。
「おや、我が妹ではないか」
「おはよう、アミレス」
気付きたくもなかった真実に気がついた時、おまけ付きで目的の人物が現れた。
この際だからフリードルにも探りを入れよう。
「おはようマクベスタ。兄様もおはようございます。実は二人に用事がありまして」
「なんだ、茶会の誘いか?」
「用事……?」
お茶会のお誘いではないです。と否定してから、早速本題に入る。
「ねぇマクベスタ、神々の愛し子に会ったんでしょう? どうだった?」
「どう……とは?」
「そりゃあもう、初対面の印象とかよ。可愛かった? 世界救っちゃいそうな感じだった?」
我ながらテンションが上がりすぎである。
「世界を救うというのはよく分からんが……容姿は、世間一般的に見れば整っているんじゃないか」
マクベスタは分かりやすく関心を寄せていなかった。
おかしいな……ゲームでは、初対面から礼儀正しく可愛いミシェルちゃんにそこそこ好感を持っていたんだけど。
マクベスタの立場がゲームとは違うからかしら。ゲームではオセロマイト王国が滅びた影響で帝国の騎士になってたけど、今は普通に王子のままだ。
そもそもマクベスタにとっての闇となる設定がなくなったんだ、ミシェルちゃんの光に浄化されるまでのプロセスが変わってしまった可能性が高い。
あれ、じゃあマクベスタだけでなくて他の攻略対象もそうなのでは?
……──これは、新ルート開拓も一筋縄ではいかなさそうね。
「そうなんだ。兄様はどうでしたか?」
「加護属性を持つ人間でなければその場で殺していた程度には気に食わなかったな」
こちらは通常運転だ。
ゲームのフリードルも初対面は本当に最悪だったからね。まあ、それもあって陥落後の溺愛がギャップ萌えだと人気を博していたのだが……。
「そうですか。私も早く会ってみたいです、神々の愛し子に」
「あの女はやめておけ。あれはもはや──人の精神を侵す毒だ」
「オレも、フリードル殿の意見には賛成だ。あの少女に会ってからというものの、不快感が胃の底で暴れている。あの少女には不容易に接触しない方がいいだろう」
ここで予想外の反応が返ってくる。何故か、二人揃ってミシェルちゃんに会うなと主張してきた。
私をからかっているのかとも思ったが……彼等の表情は真剣そのもの。決して、冗談を言っているようには見えない。
「……兄様達が、そう仰るなら。必要以上に彼女へ接触しないようにします」
「そうしておけ。お前まであのような不快な思いをする必要は無い」
ぶっきらぼうだがこちらを心配するようなフリードルの口ぶりに、マクベスタも静かに頷く。
不快な思い──?
ミシェルちゃんに会って、二人共そんな思いをしたというの? 一体……何が起きているの?
最推しに会えないという悲しみなのか、はたまた別の何かなのか。
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