だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第五章・帝国の王女

496.─GameStart─2

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 それは四月の終わりの事。
 私とカイルの目指せハッピーエンド同盟は、来たるゲーム本編の開幕を目前に控え、今一度作戦会議を執り行っていた。

 だがしかし、今回は今までのものとは勝手が違う。
 先の狩猟大会の件で完全に問題児認定された私は、相変わらず一人にしてもらえないらしく……カイルがいるから一人じゃないよと伝えても何故か逆効果で、絶対に誰かしらが傍にいる状況に。
 しかも今日に限って皆揃って暇だったみたいで、部屋には私とカイルだけでなく、イリオーデとアルベルトとシルフとシュヴァルツとマクベスタとナトラとクロノとセツ──……つまり東宮メンバーが全員集合してしまっていた。
 もはや作戦会議どころではない。部屋は完全にお茶会状態となっていた。

「アミレス! このまふぃあという菓子、柑橘系の澄んだ味わいが美味いではないか! 我こういう菓子は好きじゃぞ」

 椅子の上で足をぶらぶらとさせつつ、ナトラは目を輝かせてマフィンを絶賛する。

「それ久しぶりに焼いちゃってない? 大丈夫?」
「ふふっ、これはマフィアじゃなくてマフィンよ、ナトラ。気に入ったのならまた侍女に作らせるわ」

 そんなナトラの間違いに思わず突っ込んでしまう、元日本人二人。

「……これぐらいならオレも作れるが、今度作ろうか?」
「でしたら俺も。侍女から菓子作りの心得を教わりましたので、お時間をいただけましたらご用意出来ます」

 生活能力が凄まじいマクベスタと、万能型執事のアルベルトがまさかの申し出をしてくれた。「いいの?」と聞き返すと彼等はこくりと頷き、

「ああ。料理をしていると余計な事を何も考えなくて済むし、菓子作りは楽しいからな」
「執事たるもの、主君の望みを叶える事こそが至上ですから」

 微笑みを浮かべ、快諾する。
 これにはナトラも喜び、「お前達はまこと優秀じゃのぅ、この我が褒めてつかわすのじゃ!」と上機嫌にマフィンを頬張る。
 そんな愛くるしいナトラを見て、クロノの機嫌もよくなる。まさに平和そのものであった。

 ──ってちがーう!! 私達は作戦会議の為に集まったんだって!

 頭の中で勢いよくツッコむけれど、この状況で作戦会議なんて出来る筈がない。──いや、会議自体は出来るだろうが恐らく世界による干渉を受けて、彼等には何も聞き取れない状態になるだろう。
 なにせ、私達が話そうとしていたのはゲームの事だ。きっとこの世界の住人である皆には、聞き取れないであろう。

 だがそうなると、どう考えても怪しまれることは確実だ。私達が転生者だとバレないにしても、異質な存在であると気づかれるのは明白。
 ずっと隠し事をしていたと……私は本当のアミレスじゃないと皆に知られた日には、きっと嫌われてしまうことだろう。
 そう考えただけでも──張り裂けそうなぐらい、心が痛い。

 でもこのままだと作戦会議が出来ない。ゲームが始まる前に、改めて方針を定めておきたかったんだけど……もう行き当たりばったりでいくしかないのかもしれない。
 肩を落として小さくため息を零した時、ふと向かいに座るカイルと目が合った。彼はおもむろに手を胸の高さまで掲げ、

 “お前、手話って出来る?”

 軽く眉をひそめ、ぎこちなくもゆっくりと手を動かした。
 そうかその手があったか! でもなんで手話出来るのこの人!?

 “出来るよ。でもなんで貴方は手話出来るの?”
 “ガキの頃、同じクラスに耳がちょっと良くない奴がいたんだよ。でもソイツ、持ち物からして同志でさ……どうしても語りたくてめっちゃ手話勉強したんだ。後から気づいたけど、筆談でよかったよなあれ”
 “へぇ~~”

 手話で表すのが難しい時なんかはパクパクと日本語の動きに口を動かして、カイルは過去を振り返った。
 いやしかし、相変わらずとんでもない理由で手話を習得してらっしゃる。
 でもそれ……相手の子からすればめちゃくちゃ嬉しかっただろうな。筆談で済むような事なのに、わざわざ手話を覚えてまで話しかけてくれるなんて。
 カイルは昔からこういう性格だったんだな。

 “──それはともかく、今はゲームの事よ。そろそろ本編が始まるけれど……ちゃんとミカリアルートに持っていけるかしら”

 ふわふわと手を動かし、話を進める。
 するとカイルはバツの悪そうな顔を作り、

 “それなんだが……多分無理だと思うぜ。いくらミシェルでもミカリアルートには進めねぇよ”

 不可解な事を宣った。

 “どういうこと? じゃあどうすればいいのよ”
 “相変わらずの無自覚っぷり……まあ、うん。どうすっかなぁ、もはやどのルートも無理ぽ~~”

 お手上げとばかりにカイルは天を仰ぐ。ゲーム本編が始まる直前になって急にどのルートも無理って……本当に、どうすればいいのよ。

 “寧ろ全ルート潰す方向性でいけば、オリジナルのハッピーエンドとか作れんかね?”
 “オリジナルって、まさかゲームにないエンドを作るってこと?”
 “そうそう。──俺達だけの本物のハッピーエンドを見せてやるのさ”

 気を取り直してキリリと眉尻を上げ、どこかで聞いた事のあるフレーズを口パクで放つ。

 “……あり寄りのありね。誰も犠牲にならないハッピーエンドなんて、夢物語だけれど──……”
 “だからこそ、演じ甲斐がある超高難易度の演目だ。いいじゃん、運命ぶっ壊そうぜ同盟の俺達にはこっちの方がぴったりじゃね?”

 知らないうちに知らない同盟に名を連ねている。

 “それなら、とりあえずミシェルちゃんには帝国に来てもらった方がいいわよね。そうじゃないと新ルートを開拓出来ないし”
 “ここがまず問題だよな。どうやってミシェルを呼び出すか……”
 “そんなの簡単じゃない”
 “え?”

 きょとんとした顔をするカイルに向け、私は手話で告げる。

 “ゲーム通りに親善交流のお誘いをすればいいのよ。この間、国教会から神々の愛し子について公表されたし、招待状を出しても問題無いはずよ”
 “これ程の名案、さては天才か……!? そんで、いざ帝国に来たら俺達で全力でゲームにない事をすると。ゲームでのイベントが潰れるのはちと惜しいが、背に腹はかえられん。とりあえず、暫くは様子見がてらこの方針でいくか”
 “そうしましょう。後でケイリオル卿に言って、早速国教会に招待状を出してもらうわ”
 “njよくやった

 ネットスラングを口頭で言いつつ、親指を立てる。
 語彙がどこまでもオタクなんだよなあこの男。と、彼のオタクっぷりにいっそ感心すらしていた時。私はようやく気づいたのだ。
 奇異なものを見るような、皆の視線に。

「──ねぇ、アミィ。ずっと手をうねうね動かしてたけれど、あの珍妙な行動は何? カイルもやってたけど……」

 隣に座っていたシルフが、私の手元と顔を交互に見つつド直球にツッコんできた。
 そうか……手話という概念が存在しないこの世界において、手話って相当珍妙な動きなんだ! 会話しない事にばかり気を取られて、その可能性を失念してしまっていた。
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