542 / 775
第五章・帝国の王女
491.騎士は女王に傅く
しおりを挟む
あれから数十分。
現場はまさに地獄絵図だった。
シュヴァルツが領域侵犯なる魔法──ではない力を使用し、そこを魔界に変えてしまった。
その直後、『魔界では魔王が法だ』とほくそ笑んでは、テロリストを魔人化させて死を許さないと宣言したのだ。それにより男達は死ねなくなり、永遠にもがき苦しむ羽目となる。
人間界かつ相手が人類だと制約と拘束の契約の影響を受けるから、その穴を突き、場所は魔界に相手は魔族に変えてやったらしい。
そこまでするか……?
しかしこれだけではない。
シルフが呼んだルーディという精霊さん。彼はどうやら奪の精霊らしく、死なない状態のテロリストから色んなものを奪って実験を繰り返していた。高笑いで。すごくこわかった。
マクベスタとフリードルも淡々と拷問に勤しむし、途中からはケイリオルさんやアルベルトまでその輪の中に混ざってしまい、本当に収拾がつかなくなってしまったのだ。
「カイル、なんとかしてよこの状況」
「おいおい、いくら俺がチートキャラだからって流石にそれは無茶振りが過ぎるぜ。まあいいじゃん、アイツ等の好きにさせてやれば」
「よくないから相談してるんだけど……」
カイルはこの状況を傍観していた。
参加するでも仲裁するでもなく、白けた目でぼーっと地獄絵図を眺めている。
「カイル王子の言う通り彼等の好きにさせるしかないだろうね、今ばかりは。止めようとしても止められないだろうし」
「リードさんまで……」
傍観席は完全に諦めムードとなり、他人任せにするのではなく自分でなんとかするしかないと意を決する。
放っておいたら野垂れ死にそうなリーダーのすぐそばまで、足を向ける。
シュヴァルツにより展開された小規模擬似魔界は、足を踏み入れた瞬間に悪寒を感じさせた。
拷問に興じる皆の視線を集めながら、這い蹲るリーダーの前で仁王立ちして彼を見下ろす。
「……っ、殺すなら、殺せ……!」
涙溢れる血走った目で、男は私を睨んできた。
「それを決めるのは私じゃない。お父様よ」
とりあえず気絶させて拘束しようと、白夜を鞘ごと振り上げ、瀕死の男の脳天に落とそうとする。
しかし、その直前。
「こうなったら、一か八か────ッ!」
男はポケットから何かを取り出し、力いっぱい地面に叩きつけた。
それは、つい先程見たばかりの赤い魔石。
脆い魔石はいとも容易く砕け、それに込められていた熱を帯びた魔力が溢れ出す。魔力に触れてしまった肌が軽い火傷を負う程の、熱い魔力だった。
そんなものが込められた魔石。もう、使用用途は予想がつく。──爆弾型魔導兵器だ。
まさか、この男──……まだ魔導兵器をどこかに仕掛けているというの?!
慌てて周辺を見渡す。しかし、森の方でも幕舎付近でも、それらしき異変は見受けられない。
まさか時間差爆発? それとも帝都に仕掛けられてるとか?
色んな可能性が頭の中で飛び交い、震えるように心臓は脈打つ。
その時だった。
「~~ックソォ! なんで、こいつまでぶっ壊れてんだよッ!!」
男は叫んだ。悔しさに腹を絞られたような声を張り上げ、何度も地面に拳を叩きつけている。
──こいつまで、って……どういうこと? カイル達が破壊した爆弾と、シルフ達が無力化した爆弾以外に、本当にまだ何かが仕掛けられていたの?
だがどうしてか、その魔導兵器までもが起動しなかったらしい。考えられる可能性としては……件の魔導兵器がカイル達の破壊ないしシルフ達の無力化のどちらかに巻き込まれた、とか。
どちらにせよ本当にラッキーだ。
テロリストの切り札的立ち位置にあったかもしれない魔導兵器を、偶然封殺出来ていたなんて。
「主君っ、ご無事ですか!?」
「うん。私は平気……」
「じゃないよね?! すっごく肌が赤いよ、火傷っていうんでしょそれ! ほらボクが治してあげるから早くこっち来て!!」
シルフの治癒魔法を受けつつ、私は大丈夫だと繰り返した。
過保護な人ばかりだから、ちょっと肌がヒリヒリする程度の事でもすぐ大騒ぎになってしまう。
皆、私のことをまだ四歳ぐらいの子供とでも思っているのだろうか。もう十五歳なんですけど。
その後、拷問でボロボロになり瀕死の重傷となったテロリストを拘束し、警備の為に来ていた騎士団に連行させる。
死体なんて放っておいても腐るし蛆虫も湧くしで面倒──ごほんっ。クイントラ森林地帯の環境保全の為、私が監禁されていた小屋の位置も騎士達に伝えた。
勿論、狩猟大会は中止。
中にはせっかく捕らえた獲物を避難の為に捨てざるを得なかった参加者もいて、このまま優勝者を決めても納得がいかないだろう──と運営側では結論付けられたようで、また後日、改めて狩猟大会をする事になった。
だが何人かの参加者はしっかりと獲物を捕らえており、そういった人達は先に運営事務局に提出して獲物を登録しておき、延期された狩猟大会には参加しない事にしたらしい。
カイルとマクベスタとイリオーデがこれに該当する。
彼等はサラッと捕らえた獲物を運営事務局に提出し、登録が済んだそばから何故か私に捧げてきたのだ。
しかも全部珍しいものばかり。これにより、私は『女王』に内定確実と言われた。
何もしてないのに讃えられるとか恥ずかしすぎる! と、いずれ与えられる事になってしまう『女王』の称号に、早くも鳥肌が立ってしまったのは言うまでもない。
♢♢♢♢
その日の夜。テロリストのリーダーは壮絶な尋問の果てにこの計画の全容と動機、そして最後に切ろうとした切り札について供述した。
全容や動機は私が聞いたものとほとんど同じ。
だが切り札が最も凶悪であった。なんとそれは回収された魔導兵器よりも遥かに高火力のものであり、爆発すれば会場の辺り一帯を更地に出来る程の破壊力を持つと、男は語ったそう。
他のものより大きな魔導兵器だから、誰にも気づかれないよう森の中心部にあった不気味な樹木に仕掛けておいたらしい。
しかし、あいつ等にとっては不運にも、そして私達にとっては幸運にも──その魔導兵器は起動しなかった。
この事をカイルに話せば、『そもそも型番が違うなら俺達の魔術でも見つけられんって』と言われ、シルフ達が無力化したのは幕舎付近のものだけ。
ならば何故、件の魔導兵器は起動しなかったのか。
偶然にも不発だったとか、そんな奇跡みたいな事が起きたとでもいうのか?
騎士が調査の為にと森に入り、森中をくまなく探しても魔導兵器を仕掛けたという樹木も爆弾本体も見つからず、危険物が行方不明だと大騒ぎになってしまった。
不発の件もあって厳戒態勢で更なる捜索に臨むべきかと議論していると、まさかの人物の証言から驚きの事実が判明したのだ。
現場はまさに地獄絵図だった。
シュヴァルツが領域侵犯なる魔法──ではない力を使用し、そこを魔界に変えてしまった。
その直後、『魔界では魔王が法だ』とほくそ笑んでは、テロリストを魔人化させて死を許さないと宣言したのだ。それにより男達は死ねなくなり、永遠にもがき苦しむ羽目となる。
人間界かつ相手が人類だと制約と拘束の契約の影響を受けるから、その穴を突き、場所は魔界に相手は魔族に変えてやったらしい。
そこまでするか……?
しかしこれだけではない。
シルフが呼んだルーディという精霊さん。彼はどうやら奪の精霊らしく、死なない状態のテロリストから色んなものを奪って実験を繰り返していた。高笑いで。すごくこわかった。
マクベスタとフリードルも淡々と拷問に勤しむし、途中からはケイリオルさんやアルベルトまでその輪の中に混ざってしまい、本当に収拾がつかなくなってしまったのだ。
「カイル、なんとかしてよこの状況」
「おいおい、いくら俺がチートキャラだからって流石にそれは無茶振りが過ぎるぜ。まあいいじゃん、アイツ等の好きにさせてやれば」
「よくないから相談してるんだけど……」
カイルはこの状況を傍観していた。
参加するでも仲裁するでもなく、白けた目でぼーっと地獄絵図を眺めている。
「カイル王子の言う通り彼等の好きにさせるしかないだろうね、今ばかりは。止めようとしても止められないだろうし」
「リードさんまで……」
傍観席は完全に諦めムードとなり、他人任せにするのではなく自分でなんとかするしかないと意を決する。
放っておいたら野垂れ死にそうなリーダーのすぐそばまで、足を向ける。
シュヴァルツにより展開された小規模擬似魔界は、足を踏み入れた瞬間に悪寒を感じさせた。
拷問に興じる皆の視線を集めながら、這い蹲るリーダーの前で仁王立ちして彼を見下ろす。
「……っ、殺すなら、殺せ……!」
涙溢れる血走った目で、男は私を睨んできた。
「それを決めるのは私じゃない。お父様よ」
とりあえず気絶させて拘束しようと、白夜を鞘ごと振り上げ、瀕死の男の脳天に落とそうとする。
しかし、その直前。
「こうなったら、一か八か────ッ!」
男はポケットから何かを取り出し、力いっぱい地面に叩きつけた。
それは、つい先程見たばかりの赤い魔石。
脆い魔石はいとも容易く砕け、それに込められていた熱を帯びた魔力が溢れ出す。魔力に触れてしまった肌が軽い火傷を負う程の、熱い魔力だった。
そんなものが込められた魔石。もう、使用用途は予想がつく。──爆弾型魔導兵器だ。
まさか、この男──……まだ魔導兵器をどこかに仕掛けているというの?!
慌てて周辺を見渡す。しかし、森の方でも幕舎付近でも、それらしき異変は見受けられない。
まさか時間差爆発? それとも帝都に仕掛けられてるとか?
色んな可能性が頭の中で飛び交い、震えるように心臓は脈打つ。
その時だった。
「~~ックソォ! なんで、こいつまでぶっ壊れてんだよッ!!」
男は叫んだ。悔しさに腹を絞られたような声を張り上げ、何度も地面に拳を叩きつけている。
──こいつまで、って……どういうこと? カイル達が破壊した爆弾と、シルフ達が無力化した爆弾以外に、本当にまだ何かが仕掛けられていたの?
だがどうしてか、その魔導兵器までもが起動しなかったらしい。考えられる可能性としては……件の魔導兵器がカイル達の破壊ないしシルフ達の無力化のどちらかに巻き込まれた、とか。
どちらにせよ本当にラッキーだ。
テロリストの切り札的立ち位置にあったかもしれない魔導兵器を、偶然封殺出来ていたなんて。
「主君っ、ご無事ですか!?」
「うん。私は平気……」
「じゃないよね?! すっごく肌が赤いよ、火傷っていうんでしょそれ! ほらボクが治してあげるから早くこっち来て!!」
シルフの治癒魔法を受けつつ、私は大丈夫だと繰り返した。
過保護な人ばかりだから、ちょっと肌がヒリヒリする程度の事でもすぐ大騒ぎになってしまう。
皆、私のことをまだ四歳ぐらいの子供とでも思っているのだろうか。もう十五歳なんですけど。
その後、拷問でボロボロになり瀕死の重傷となったテロリストを拘束し、警備の為に来ていた騎士団に連行させる。
死体なんて放っておいても腐るし蛆虫も湧くしで面倒──ごほんっ。クイントラ森林地帯の環境保全の為、私が監禁されていた小屋の位置も騎士達に伝えた。
勿論、狩猟大会は中止。
中にはせっかく捕らえた獲物を避難の為に捨てざるを得なかった参加者もいて、このまま優勝者を決めても納得がいかないだろう──と運営側では結論付けられたようで、また後日、改めて狩猟大会をする事になった。
だが何人かの参加者はしっかりと獲物を捕らえており、そういった人達は先に運営事務局に提出して獲物を登録しておき、延期された狩猟大会には参加しない事にしたらしい。
カイルとマクベスタとイリオーデがこれに該当する。
彼等はサラッと捕らえた獲物を運営事務局に提出し、登録が済んだそばから何故か私に捧げてきたのだ。
しかも全部珍しいものばかり。これにより、私は『女王』に内定確実と言われた。
何もしてないのに讃えられるとか恥ずかしすぎる! と、いずれ与えられる事になってしまう『女王』の称号に、早くも鳥肌が立ってしまったのは言うまでもない。
♢♢♢♢
その日の夜。テロリストのリーダーは壮絶な尋問の果てにこの計画の全容と動機、そして最後に切ろうとした切り札について供述した。
全容や動機は私が聞いたものとほとんど同じ。
だが切り札が最も凶悪であった。なんとそれは回収された魔導兵器よりも遥かに高火力のものであり、爆発すれば会場の辺り一帯を更地に出来る程の破壊力を持つと、男は語ったそう。
他のものより大きな魔導兵器だから、誰にも気づかれないよう森の中心部にあった不気味な樹木に仕掛けておいたらしい。
しかし、あいつ等にとっては不運にも、そして私達にとっては幸運にも──その魔導兵器は起動しなかった。
この事をカイルに話せば、『そもそも型番が違うなら俺達の魔術でも見つけられんって』と言われ、シルフ達が無力化したのは幕舎付近のものだけ。
ならば何故、件の魔導兵器は起動しなかったのか。
偶然にも不発だったとか、そんな奇跡みたいな事が起きたとでもいうのか?
騎士が調査の為にと森に入り、森中をくまなく探しても魔導兵器を仕掛けたという樹木も爆弾本体も見つからず、危険物が行方不明だと大騒ぎになってしまった。
不発の件もあって厳戒態勢で更なる捜索に臨むべきかと議論していると、まさかの人物の証言から驚きの事実が判明したのだ。
14
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる