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第五章・帝国の王女
491.騎士は女王に傅く
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あれから数十分。
現場はまさに地獄絵図だった。
シュヴァルツが領域侵犯なる魔法──ではない力を使用し、そこを魔界に変えてしまった。
その直後、『魔界では魔王が法だ』とほくそ笑んでは、テロリストを魔人化させて死を許さないと宣言したのだ。それにより男達は死ねなくなり、永遠にもがき苦しむ羽目となる。
人間界かつ相手が人類だと制約と拘束の契約の影響を受けるから、その穴を突き、場所は魔界に相手は魔族に変えてやったらしい。
そこまでするか……?
しかしこれだけではない。
シルフが呼んだルーディという精霊さん。彼はどうやら奪の精霊らしく、死なない状態のテロリストから色んなものを奪って実験を繰り返していた。高笑いで。すごくこわかった。
マクベスタとフリードルも淡々と拷問に勤しむし、途中からはケイリオルさんやアルベルトまでその輪の中に混ざってしまい、本当に収拾がつかなくなってしまったのだ。
「カイル、なんとかしてよこの状況」
「おいおい、いくら俺がチートキャラだからって流石にそれは無茶振りが過ぎるぜ。まあいいじゃん、アイツ等の好きにさせてやれば」
「よくないから相談してるんだけど……」
カイルはこの状況を傍観していた。
参加するでも仲裁するでもなく、白けた目でぼーっと地獄絵図を眺めている。
「カイル王子の言う通り彼等の好きにさせるしかないだろうね、今ばかりは。止めようとしても止められないだろうし」
「リードさんまで……」
傍観席は完全に諦めムードとなり、他人任せにするのではなく自分でなんとかするしかないと意を決する。
放っておいたら野垂れ死にそうなリーダーのすぐそばまで、足を向ける。
シュヴァルツにより展開された小規模擬似魔界は、足を踏み入れた瞬間に悪寒を感じさせた。
拷問に興じる皆の視線を集めながら、這い蹲るリーダーの前で仁王立ちして彼を見下ろす。
「……っ、殺すなら、殺せ……!」
涙溢れる血走った目で、男は私を睨んできた。
「それを決めるのは私じゃない。お父様よ」
とりあえず気絶させて拘束しようと、白夜を鞘ごと振り上げ、瀕死の男の脳天に落とそうとする。
しかし、その直前。
「こうなったら、一か八か────ッ!」
男はポケットから何かを取り出し、力いっぱい地面に叩きつけた。
それは、つい先程見たばかりの赤い魔石。
脆い魔石はいとも容易く砕け、それに込められていた熱を帯びた魔力が溢れ出す。魔力に触れてしまった肌が軽い火傷を負う程の、熱い魔力だった。
そんなものが込められた魔石。もう、使用用途は予想がつく。──爆弾型魔導兵器だ。
まさか、この男──……まだ魔導兵器をどこかに仕掛けているというの?!
慌てて周辺を見渡す。しかし、森の方でも幕舎付近でも、それらしき異変は見受けられない。
まさか時間差爆発? それとも帝都に仕掛けられてるとか?
色んな可能性が頭の中で飛び交い、震えるように心臓は脈打つ。
その時だった。
「~~ックソォ! なんで、こいつまでぶっ壊れてんだよッ!!」
男は叫んだ。悔しさに腹を絞られたような声を張り上げ、何度も地面に拳を叩きつけている。
──こいつまで、って……どういうこと? カイル達が破壊した爆弾と、シルフ達が無力化した爆弾以外に、本当にまだ何かが仕掛けられていたの?
だがどうしてか、その魔導兵器までもが起動しなかったらしい。考えられる可能性としては……件の魔導兵器がカイル達の破壊ないしシルフ達の無力化のどちらかに巻き込まれた、とか。
どちらにせよ本当にラッキーだ。
テロリストの切り札的立ち位置にあったかもしれない魔導兵器を、偶然封殺出来ていたなんて。
「主君っ、ご無事ですか!?」
「うん。私は平気……」
「じゃないよね?! すっごく肌が赤いよ、火傷っていうんでしょそれ! ほらボクが治してあげるから早くこっち来て!!」
シルフの治癒魔法を受けつつ、私は大丈夫だと繰り返した。
過保護な人ばかりだから、ちょっと肌がヒリヒリする程度の事でもすぐ大騒ぎになってしまう。
皆、私のことをまだ四歳ぐらいの子供とでも思っているのだろうか。もう十五歳なんですけど。
その後、拷問でボロボロになり瀕死の重傷となったテロリストを拘束し、警備の為に来ていた騎士団に連行させる。
死体なんて放っておいても腐るし蛆虫も湧くしで面倒──ごほんっ。クイントラ森林地帯の環境保全の為、私が監禁されていた小屋の位置も騎士達に伝えた。
勿論、狩猟大会は中止。
中にはせっかく捕らえた獲物を避難の為に捨てざるを得なかった参加者もいて、このまま優勝者を決めても納得がいかないだろう──と運営側では結論付けられたようで、また後日、改めて狩猟大会をする事になった。
だが何人かの参加者はしっかりと獲物を捕らえており、そういった人達は先に運営事務局に提出して獲物を登録しておき、延期された狩猟大会には参加しない事にしたらしい。
カイルとマクベスタとイリオーデがこれに該当する。
彼等はサラッと捕らえた獲物を運営事務局に提出し、登録が済んだそばから何故か私に捧げてきたのだ。
しかも全部珍しいものばかり。これにより、私は『女王』に内定確実と言われた。
何もしてないのに讃えられるとか恥ずかしすぎる! と、いずれ与えられる事になってしまう『女王』の称号に、早くも鳥肌が立ってしまったのは言うまでもない。
♢♢♢♢
その日の夜。テロリストのリーダーは壮絶な尋問の果てにこの計画の全容と動機、そして最後に切ろうとした切り札について供述した。
全容や動機は私が聞いたものとほとんど同じ。
だが切り札が最も凶悪であった。なんとそれは回収された魔導兵器よりも遥かに高火力のものであり、爆発すれば会場の辺り一帯を更地に出来る程の破壊力を持つと、男は語ったそう。
他のものより大きな魔導兵器だから、誰にも気づかれないよう森の中心部にあった不気味な樹木に仕掛けておいたらしい。
しかし、あいつ等にとっては不運にも、そして私達にとっては幸運にも──その魔導兵器は起動しなかった。
この事をカイルに話せば、『そもそも型番が違うなら俺達の魔術でも見つけられんって』と言われ、シルフ達が無力化したのは幕舎付近のものだけ。
ならば何故、件の魔導兵器は起動しなかったのか。
偶然にも不発だったとか、そんな奇跡みたいな事が起きたとでもいうのか?
騎士が調査の為にと森に入り、森中をくまなく探しても魔導兵器を仕掛けたという樹木も爆弾本体も見つからず、危険物が行方不明だと大騒ぎになってしまった。
不発の件もあって厳戒態勢で更なる捜索に臨むべきかと議論していると、まさかの人物の証言から驚きの事実が判明したのだ。
現場はまさに地獄絵図だった。
シュヴァルツが領域侵犯なる魔法──ではない力を使用し、そこを魔界に変えてしまった。
その直後、『魔界では魔王が法だ』とほくそ笑んでは、テロリストを魔人化させて死を許さないと宣言したのだ。それにより男達は死ねなくなり、永遠にもがき苦しむ羽目となる。
人間界かつ相手が人類だと制約と拘束の契約の影響を受けるから、その穴を突き、場所は魔界に相手は魔族に変えてやったらしい。
そこまでするか……?
しかしこれだけではない。
シルフが呼んだルーディという精霊さん。彼はどうやら奪の精霊らしく、死なない状態のテロリストから色んなものを奪って実験を繰り返していた。高笑いで。すごくこわかった。
マクベスタとフリードルも淡々と拷問に勤しむし、途中からはケイリオルさんやアルベルトまでその輪の中に混ざってしまい、本当に収拾がつかなくなってしまったのだ。
「カイル、なんとかしてよこの状況」
「おいおい、いくら俺がチートキャラだからって流石にそれは無茶振りが過ぎるぜ。まあいいじゃん、アイツ等の好きにさせてやれば」
「よくないから相談してるんだけど……」
カイルはこの状況を傍観していた。
参加するでも仲裁するでもなく、白けた目でぼーっと地獄絵図を眺めている。
「カイル王子の言う通り彼等の好きにさせるしかないだろうね、今ばかりは。止めようとしても止められないだろうし」
「リードさんまで……」
傍観席は完全に諦めムードとなり、他人任せにするのではなく自分でなんとかするしかないと意を決する。
放っておいたら野垂れ死にそうなリーダーのすぐそばまで、足を向ける。
シュヴァルツにより展開された小規模擬似魔界は、足を踏み入れた瞬間に悪寒を感じさせた。
拷問に興じる皆の視線を集めながら、這い蹲るリーダーの前で仁王立ちして彼を見下ろす。
「……っ、殺すなら、殺せ……!」
涙溢れる血走った目で、男は私を睨んできた。
「それを決めるのは私じゃない。お父様よ」
とりあえず気絶させて拘束しようと、白夜を鞘ごと振り上げ、瀕死の男の脳天に落とそうとする。
しかし、その直前。
「こうなったら、一か八か────ッ!」
男はポケットから何かを取り出し、力いっぱい地面に叩きつけた。
それは、つい先程見たばかりの赤い魔石。
脆い魔石はいとも容易く砕け、それに込められていた熱を帯びた魔力が溢れ出す。魔力に触れてしまった肌が軽い火傷を負う程の、熱い魔力だった。
そんなものが込められた魔石。もう、使用用途は予想がつく。──爆弾型魔導兵器だ。
まさか、この男──……まだ魔導兵器をどこかに仕掛けているというの?!
慌てて周辺を見渡す。しかし、森の方でも幕舎付近でも、それらしき異変は見受けられない。
まさか時間差爆発? それとも帝都に仕掛けられてるとか?
色んな可能性が頭の中で飛び交い、震えるように心臓は脈打つ。
その時だった。
「~~ックソォ! なんで、こいつまでぶっ壊れてんだよッ!!」
男は叫んだ。悔しさに腹を絞られたような声を張り上げ、何度も地面に拳を叩きつけている。
──こいつまで、って……どういうこと? カイル達が破壊した爆弾と、シルフ達が無力化した爆弾以外に、本当にまだ何かが仕掛けられていたの?
だがどうしてか、その魔導兵器までもが起動しなかったらしい。考えられる可能性としては……件の魔導兵器がカイル達の破壊ないしシルフ達の無力化のどちらかに巻き込まれた、とか。
どちらにせよ本当にラッキーだ。
テロリストの切り札的立ち位置にあったかもしれない魔導兵器を、偶然封殺出来ていたなんて。
「主君っ、ご無事ですか!?」
「うん。私は平気……」
「じゃないよね?! すっごく肌が赤いよ、火傷っていうんでしょそれ! ほらボクが治してあげるから早くこっち来て!!」
シルフの治癒魔法を受けつつ、私は大丈夫だと繰り返した。
過保護な人ばかりだから、ちょっと肌がヒリヒリする程度の事でもすぐ大騒ぎになってしまう。
皆、私のことをまだ四歳ぐらいの子供とでも思っているのだろうか。もう十五歳なんですけど。
その後、拷問でボロボロになり瀕死の重傷となったテロリストを拘束し、警備の為に来ていた騎士団に連行させる。
死体なんて放っておいても腐るし蛆虫も湧くしで面倒──ごほんっ。クイントラ森林地帯の環境保全の為、私が監禁されていた小屋の位置も騎士達に伝えた。
勿論、狩猟大会は中止。
中にはせっかく捕らえた獲物を避難の為に捨てざるを得なかった参加者もいて、このまま優勝者を決めても納得がいかないだろう──と運営側では結論付けられたようで、また後日、改めて狩猟大会をする事になった。
だが何人かの参加者はしっかりと獲物を捕らえており、そういった人達は先に運営事務局に提出して獲物を登録しておき、延期された狩猟大会には参加しない事にしたらしい。
カイルとマクベスタとイリオーデがこれに該当する。
彼等はサラッと捕らえた獲物を運営事務局に提出し、登録が済んだそばから何故か私に捧げてきたのだ。
しかも全部珍しいものばかり。これにより、私は『女王』に内定確実と言われた。
何もしてないのに讃えられるとか恥ずかしすぎる! と、いずれ与えられる事になってしまう『女王』の称号に、早くも鳥肌が立ってしまったのは言うまでもない。
♢♢♢♢
その日の夜。テロリストのリーダーは壮絶な尋問の果てにこの計画の全容と動機、そして最後に切ろうとした切り札について供述した。
全容や動機は私が聞いたものとほとんど同じ。
だが切り札が最も凶悪であった。なんとそれは回収された魔導兵器よりも遥かに高火力のものであり、爆発すれば会場の辺り一帯を更地に出来る程の破壊力を持つと、男は語ったそう。
他のものより大きな魔導兵器だから、誰にも気づかれないよう森の中心部にあった不気味な樹木に仕掛けておいたらしい。
しかし、あいつ等にとっては不運にも、そして私達にとっては幸運にも──その魔導兵器は起動しなかった。
この事をカイルに話せば、『そもそも型番が違うなら俺達の魔術でも見つけられんって』と言われ、シルフ達が無力化したのは幕舎付近のものだけ。
ならば何故、件の魔導兵器は起動しなかったのか。
偶然にも不発だったとか、そんな奇跡みたいな事が起きたとでもいうのか?
騎士が調査の為にと森に入り、森中をくまなく探しても魔導兵器を仕掛けたという樹木も爆弾本体も見つからず、危険物が行方不明だと大騒ぎになってしまった。
不発の件もあって厳戒態勢で更なる捜索に臨むべきかと議論していると、まさかの人物の証言から驚きの事実が判明したのだ。
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