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第五章・帝国の王女

490.バイオレンスクイーン10

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 まずい……っ、今しがたこちらの魔導兵器アーティファクトを除去したばかりだからまだ森は手付かずだ。

 森に入っていた参加者達も非常用の発煙筒に気づいて幕舎まで戻って来ていたとはいえ、まだ参加者全員の避難は完了していない。
 戻って来た参加者を全て見ていたという訳ではないが、私が知る限り、友人達や憎き兄はまだ見ていない。──つまり、まだ森の中にいるということだ。

 いやだ、いやだ! 皆が爆発に巻き込まれるなんて、そんなの絶対嫌だ────っ!!

「……は? どうなってんだ、なんで森に仕掛けた魔導兵器アーティファクトが一つも起動しねぇんだ!?」
「こっちもだ、うんともすんとも言わねェ!」
「ッさっきから何が起きてんだよ?!」
「国で試した時はちゃんと起動したのに、なんで……!?」

 男達の困惑が仲間達に感染していく。
 何故か起動しない、森に仕掛けられた魔導兵器アーティファクト。それが、彼等を窮地に立たせているようだ。
 でもどうして、森に仕掛けられた十数個の魔導兵器アーティファクトは起動していないの?
 一体、森で何が起きているの?

「──お、これもしかして俺等ってば超ファインプレーだったパティーン? しかもタイミング神じゃんこれ」
「……はぁ。お前は相変わらず不可解な言葉を使うな。もう一つ一つ言及するのも億劫だ」
「おい、塵芥ゴミ。何故幕舎付近にも見覚えのある魔導兵器アーティファクトが散見されるんだ」

 少し離れた場所で白い柱が光ったかと思えば、そこから現れたのはまさかの面子。
 どうしてあの三人が仲良く瞬間転移で現れるのか……私には、まったく理解が及ばなかった。

「あー……この感じだとアミレスはとっくに気づいてたっぽいなぁ。ちょっと悔しいが、まぁ、それなら話は早いか」

 マクベスタとフリードルに睨まれつつ、カイルは麻袋を抱えてこちらに駆け寄ってきた。
 そして私の傍でその袋を開け、歯を見せて彼は笑う。

「リベロリア産の連動爆発タイプの魔導兵器アーティファクト──森にあった十五個のうち機能停止ハック済を除く十四個。この通り、ちゃんと破壊しておいたぜ」

 彼の言う通り麻袋の中には、黒焦げになった何かと、氷漬けにされた何かと、魔石諸共撃ち抜かれた何かがたくさん入っていた。

「貴様、何様のつもりで手柄を独占しようとしているんだ」
「オレ達だってそれなりに働いたんだが」
「手柄の独占なんて企ててないって! てかこの残骸見れば俺一人の手柄じゃないって分かるだろ? な、アミレス!?」

 金の王子と銀の皇太子による圧に怯み、カイルが小動物のような潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。
 確かに、この黒焦げと氷漬けと銃痕を見ればなんとなく誰がやったか分かる。

「……まあ、そうね。マクベスタと兄様も頑張ったんだろうなって分かるよ」
「ほらな!!」

 なんで貴方が威張るのよ。
 というか、

「なんで貴方達はこの魔導兵器アーティファクトの事や、リベロリア王国の人間が爆破計画を企んでいた事を知ってるの?」

 彼等の確かなファインプレーで救われたのは事実だが、その行動に至った理由が分からない。
 どうやってカイル達は森にあった全ての魔導兵器アーティファクトを発見し、破壊する事が出来たんだ?

「マクベスタと雑談してたら偶然コレを見つけて、どうすっかなーって話してる時にフリードルが合流して、なんやかんや手分けして探して破壊して回った」

 こっちはそのなんやかんやが聞きたいんだけど。

「カイルの摩訶不思議な魔法で魔導兵器アーティファクトの位置は分かっていたからな。あとはもう、一撃で破壊するのみで楽だったよ」

 カイルの魔法で位置が分かっていた? まさかあんた、またとんでもない事をしたの?!
 バッとカイルの顔を見上げる。すると奴はウインクを飛ばして舌をペロッと出した。何がしたいんだこいつ。なんかむかつくな。

「ボク達が渋々協力してやっと無力化したのに……カイルのやつは一人で位置を特定したってこと? なんなの、ほんとに鼻につくんだけど」
「マジでムカつくわァ。人間の分際で調子乗りやがってよォ~~」
「処す?」
「処しちまうかァ」

 あんなにもバチバチと火花を散らしていたのが嘘のよう。二体ふたりは井戸端会議に興じるご婦人方のように、軽々しく物騒な陰口を放つ。
 相変わらずカイルをいじめる時だけは仲良いよね、貴方達。
 しかし、度重なる塩対応でカイルのスルースキルはレベルアップしていた。これ程に分かりやすく殺害予告をされているにも関わらず、彼はまったく動じずマクベスタとフリードルの相手をしている。

 その最中、フリードルが大袈裟なため息と共にこちらに一歩踏み込んで、私をじっと睨んできた。
 なんだこれは。ガン飛ばされてる?

「……我が臣民を守るべく動いたが、まさか本当に爆破計画を目論む連中がいたとはな。──あれが、その主犯という事か」

 こちらも負けじとガンを飛ばしてみたのに、フリードルの視線はテロリストに向けられていた。
 幕舎付近のものに加えて、森に仕掛けたものまで全て無力化ないし破壊されたと知り魂が抜けた様子の男達。もう計画は破綻したと、その場で崩れ落ち絶望しているようだ。
 それを、汚物でも見るかのように一瞥してフリードルは呟く。

「……何故殺さないんだ。死して然るべきだろう」
「罪を償わせる為に生かしているんですよ」
「贖罪など、あのような罪人共には過分の褒美ではないか」
「あっさりと死なせてやるなんて、それこそ褒美では? 帝国に牙を剥いた事を後悔させなければ」

 見せしめにしたら、抑止力にもなるからね。
 今後このような愚かな考えに至る輩が現れないよう、最悪の前例を作っておくのも一つの手だろう。

「──ふむ。それもそうか。時にアミレス・ヘル・フォーロイト、お前は拷問をしたことはあるか? 経験が無いならば、僕が手取り足取り教えてやろう」
「大丈夫です間に合ってます」

 納得してくれてよかったけど、拷問の家庭教師は望んでないです。

「ところでさー」

 ムッとするフリードルの肩越しに、カイルがおもむろに切り出した。

「アミレスはなんで爆破計画の事とか知ってたんだ? 俺からすればそっちのがびっくりなんやが」
「え? あぁ……あの男達の仲間に拉致監禁されたから、とりあえず情報を吐かせて脱走したの」
「はい?? 拉致監禁?」
「拘束されて顔蹴られたんだよね。あれは痛かったわ」

 なんでと聞かれたので素直に答えたところ、

「──あの男達を死なない程度に殺してくる」
「──ありとあらゆる臓物を引きずり出してやる」

 何故か、マクベスタとフリードルが目にも止まらぬ速さでテロリストの元へ駆けていった。
 それだけでなく、

「うわ抜け駆けかよ。オレサマ、絶対ェ死なせない方法も考えたのにー。オレサマのぶんも残しとけよクソガキ共ー」
「……はぁ。やっぱり、アミィを巻き込みやがった人間達は許せないなあ。ルーディでも呼ぶか……」

 シュヴァルツとシルフまで、テロリストの元へと向かってしまった。
 もう駄目だ。死にはしないだろうけどテロリストの安全は絶対に保証出来なくなった。
 ごめんよ……私が大人しく拉致監禁されてしまったばかりに……。
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