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第五章・帝国の王女

489.バイオレンスクイーン9

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 あまりにも想像通りに魔導兵器アーティファクトを壊せてしまい、私は笑うのを我慢出来なかった。自分からは見えないが、きっとあくどい笑みを浮かべているだろう。

「ッリーダー!!」
「ダイオンの旦那!」

 爆発に巻き込まれたリーダーの元に何人もの仲間が駆け寄る。これだけの人数をまとめあげて復讐なんてものを主導するだけあって、慕われているらしい。

「流石です主君! あのような方法で魔導兵器アーティファクトを止めるとは……改めて感服致しました」
「そんな褒める程の事じゃないよ。ただ冷やしただけだし」

 影の壁を闇の中にどぷんと戻しつつ、アルベルトはキラキラと輝く瞳で見つめてくる。純粋な尊敬というものに、心をつんつんとつつかれたような気恥ずかしさを覚える。

「クソ……氷結の聖女め……ッ!!」

 テロリストのうちの一人が仇を見るような目でこちらを睨み、懐から小型の魔導兵器アーティファクトを取り出して起動した。──かに思えた。
 男が魔導兵器アーティファクトを起動しようとした瞬間、銀の月が鋭く牙を剥く。時を同じくして宙を舞う、人の腕。
 ふわふわの金髪を揺らすケイリオルさんの一閃で、魔導兵器アーティファクトの起動は阻止された。

「うッ、うぁああああああああ! 腕が、腕がぁあっ!!」

 腕を落とされた男は血をどくどくと流しながらのたうち回る。しかしそれに目を向ける事もなく、剣の血を振り落としながら彼はスタスタとこちらに向かって歩いてきた。

「ケイリオル卿!」
「ご無事ですか、王女殿下。何やら生け捕りを目指しているようなので生かしておきましたが、これでよろしかったでしょうか?」
「はい、ありがとうございます。助かりました」

 ケイリオルさんも加わり、テロリストの制圧はかなり楽になった。
 あの爆発に巻き込まれたにも関わらずリーダーは生き残り、仲間達の治療を受けている。そしてテロリストは、シルフ達を狙うのをやめてリーダー達を庇うように立ち回っていた。
 だから、まあ。時間稼ぎという名目の戦いである以上、完全に制圧する必要はないのだけど──皇帝の到着を待たずして地中や森に仕掛けられた魔導兵器アーティファクトを起動されないとも限らないから、できる限り相手の手数を減らしておいた方が監視も楽になるだろう。

 そうやって時間を稼ぐこと、およそ十分。
 ついに、シルフとシュヴァルツによる大魔法が発動した。

さあアン星見ドゥの時だトロワ──……擬似魔力炉錬成。目覚めよ、我が眷属よ。悪しきものには鎖を。全てを星に、命を燃やせ。精霊創生ディア・アンバースデー

 青空に宵闇の帳が降りる。プラネタリウムのように輝く星雲の天蓋は、太陽の光を必要ともせず燦々と明滅していた。
 その星空では星図のように魔法陣が煌めき、流星のように大地へと光が降り注ぐ。
 それには誰もが目を奪われる。銀河を溶かしたような光が染み込み、気づけば大地は星空ソラを映す水鏡となっていた。

「おい、お膳立てはしてやったんだ。失敗したら許さないからな、クソ悪魔」
「ハイハイ。ありがたくいただきまァ~す」

 軽薄な笑みを浮かべ、シュヴァルツは一歩前に踏み出す。
 おもむろに掲げた手を顔の横で揺らして、水を打ったように静まり返った平原に、指を弾いた音を高らかに響かせた。

晩餐会の幕を開けろアインツヴァイドライ──……舌を溶かすような芳醇を。喉を焼くような馳走を。悪毒を廃し絶世の美食を! 星月の使徒はスターレンギフト毒を望まず・ナインゼーレ

 水鏡となっていた大地に、黒紫の魔法陣が波紋のように広がる。
 魔法陣が辺り一帯を覆う大きさへと広がった途端、今度は地中からいくつもの光の塊が飛び出した。幕舎の辺りだけでなくそこから少し離れた場所まで──ざっと三十個近く、地面を突き破って現れた光の塊は宙を漂う。

 その光の中にぼんやりと見える立方体の何か。
 それに気づいたテロリストの顔が次々と青ざめていく。この反応からして──……あの光は全て魔導兵器アーティファクトが纏うものなのだろう。
 どこにあるかもいくつあるかも分からなかった魔導兵器アーティファクトを、シルフとシュヴァルツは本当に全て摘出してみせた。
 ……しかし、テロリストがこんなにも魔導兵器アーティファクトを仕掛けていたなんて。そこまでして皇帝に復讐したいのかしら。

「なにが……起きて……っ」
魔導兵器アーティファクトが──!!」
「どうなってやがる!?」
「なんなんだよ……! なんだよ、あの魔法……ッ!」

 男達がわなわなと震えだす。
 その疑問に答えるように、シルフは先程の魔法についての説明を始めた。

「ボクの力で擬似魔力炉偽物の魂を生み出して、それをこの辺りの自然全てに宿らせる。それによって一時的にこの大地を精霊に変生・・・・・させた・・・んだ」
「そのあと、魔力炉たましい喰らいに定評のある悪魔──つまりオレサマが魔力炉を感知してェ、魔力炉が・・・・無いもの・・・・だけを地中から摘出したってワケ」

 シルフの解説に続くようにシュヴァルツもあの魔法について語る。
 まさに意味不明、理解不能の大魔法。
 これが──……精霊と悪魔によるドリームタッグの力なのか!

「精霊に変えたと言っても、あと数分もしないうちに星になる……魔法陣を乗っ取るぐらいしか出来ない微弱な存在だけどね。でも精霊を生み出す必要があったから、無駄に大掛かりな魔法になったよ」
「マジで目立つよなァ、これ。あの空どうにかならねェのか?」
「魔法が終わればどうにかなるんじゃない? というかお前はさっさと爆弾をなんとかしろよ。そういう手筈だろ」

 シルフに睨まれ、シュヴァルツはため息混じりに「へいへい」と肩を竦めた。

「その魔力、貰うぜ」

 挑戦的に笑うシュヴァルツがしなやかな手指を広げた瞬間。蛍のような光の塊は赤く染まり、次々と立方体の魔導兵器アーティファクトが地に落ちていく。
 そして宙に漂う赤い光は続々とシュヴァルツの手のひらに集まり、吸収されていった。

「ふゥ……魔力の抽出も完了っと。これであの魔導兵器アーティファクトは燃料を失いましたとさ。めでたしめでたし」

 シュヴァルツがそう言うやいなや、テロリストの間に衝撃が走る。
 幕舎付近に仕掛けた爆弾が全て無力化されたと聞き、計画の頓挫を確信したのだろう。
 ここで大人しく投降してくれればいいものを……男達はやはり執念深く、まだ諦めていなかった。

「っく、せめて……森のヤツだけでも──ッ!!」

 九死に一生を得たリーダーが叫ぶと、四人の男が赤い石のついたネックレスに触れ──それを、破壊した。

 あの石はまさか……魔石!? 魔石を破壊する事で、遠隔で魔導兵器アーティファクトを起動出来るようにしていたのか!!
 遠隔操作の可能性を考えていなかった訳ではないが──まさか本当に、魔導兵器アーティファクトの遠隔操作が可能だなんて!?
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