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第五章・帝国の王女

488.バイオレンスクイーン8

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 避難場所はメイシアに任せ、人の波に逆らい幕舎へと戻る。
 レオとローズにも折を見て避難するよう伝え、森から出て来た参加者達にも緊急事態だと説明をする。そうやって、半数近い参加者達の避難を終えた頃。

 流石にこれだけ大胆に動いていれば、あちらさんも黙ってはいない。
 ついに、テロリスト達が姿を見せたのだ。

「────氷結の聖女ォッッ! なんでテメェが普通に歩き回ってやがる!!」

 私を地下室まで運んだテロリストのリーダーが、怒り心頭の様子で森から飛び出してきた。

「仲間を殺ったのもテメェだろ! 絶ッ対に許さねぇ……ッ!!」

 どうやらあの男は地下室帰りらしい。
 その足で私を探していたようで、男は私を見つけるなり血走った目でこちらを強く睨んできた。

「あんた達が杜撰な計画に私を巻き込んだから、あんたの仲間は死んだのよ。今考えても本当に穴だらけの計画で笑っちゃうわ!」

 私が喧嘩腰で返事したところ、男は火が出そうな程に顔を真っ赤にしてプルプルと体を震えさせ、男の取り巻き──もとい仲間と思しき男達もまた、怒りを抑えられない様子で顔を歪ませる。
 さてどうしたものかと考えあぐねていると、シュヴァルツがこっそりと耳打ちしてきた。

魔導兵器アーティファクトと地中の魔法陣摘出の算段がついたぞ。発動まで少しばかり時間が必要だが、どうする?」

 暫くシルフとああだこうだと言い合っていたようなのだが、なんと二体ふたりは無理難題への回答を用意できたというのだ。
 これには思わず気が昂り、自然と表情が明るくなってしまいそうだったのだが──……それをテロリストに悟られないよう、平静を装い軽く頷いた。

「時間は私達が稼ぐから、思いっきりやっちゃって」

 横目でシュヴァルツを見上げ、小声で呟く。
 すると彼はニヤリと笑い、「りょーかい」と言ってシルフの元へと向かった。

「足引っ張んなよ、精霊の」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」

 二体ふたりは並んで立ち、魔法発動までの準備に入った。
 それと同時に、テロリストは目を点にして慌てた様子を見せる。

「っリーダー! なんかアイツ等、魔法使おうとしてますよ!!」
「避難までされて……これじゃあ計画が……!」
「クソッ! 無情の皇帝もおびき出せていないのに!!」
「とにかくあの魔導師共を止めるぞ! ──本能が言ってやがる。あれは、発動させたら駄目だ!!」

 中々に勘が鋭い。
 魔法の準備の為身動きが取れなくなったシルフとシュヴァルツに、テロリストの意識が向いてしまった。
 農民兼地方兵だったか……普通の兵士よりも鍛えているらしく、想像以上の速さでテロリストはシルフとシュヴァルツに迫る。
 さて。ならば私は、宣言通り時間稼ぎをしよう。

「ルティ、狩りは得意かしら?」
「はい。ご期待に応えてご覧にいれましょう」

 名前を呼ぶやいなや忍者のように現れたアルベルトに、私は時間稼ぎの為の狩り・・を命じる。

「あいつ等全員、生け捕りにするわよ」
「御意のままに──我が主君マイ・レディ

 黒い燕尾服を風に靡かせ、その番犬は駆け出した。
 颯爽とテロリストの前に立ちはだかり、アルベルトは影から取り出した槍を構える。只者ではないオーラを纏う執事を前にテロリストは脂汗を滲ませ立ち止まった。
 しかし、

「何してやがる! そんな男一人さっさと潰せ!!」

 とリーダーが腹を絞って声を出す。するとテロリストは気を持ち直して連携の取れた動きに出た。
 どうやら元兵士という事もあり、集団戦の心得があるらしい。
 流石のアルベルトでも、これは苦戦を強いられるやもしれない。──その事実がどちらだとしても、私も戦えばいいだけの事だが。
 なので白夜を抜き、私もアルベルトと共に戦闘態勢に入る。

「氷結の聖女を狙え! 今ここで殺せば軌道修正出来る!!」
「「「「おうッ!」」」」

 狙いは私に変わったらしい。
 相手を殺してはならない戦いって苦手なんだけど……やるしかないか。

「すべては、我が民の安全の為に」

 雄叫びを上げながら攻撃してくる男達。それをアルベルトと共に対応する。
 剣で、魔法で、時には武術で。
 あの手この手で私を殺そうとしてくるも、その全てがアルベルトによって阻止される。勿論、私自身死なないように立ち回っているから、彼にばかり負担をかけている訳ではないと、自己弁護しておく。

「死ね! 怪物の娘────────ッ!!」

 突如、モーセに割られた海のように開ける人集り。
 その直線上──我が視線の先で煌めくは砲口・・
 小型ではあるものの、それは一目見て魔導兵器アーティファクトと分かるものであった。
 蓄えられた魔力を収束し、超火力で放つ。そういった魔導兵器アーティファクトがあると、以前カイルが言っていたが……まさかここでお目にかかるとは!
 あんな切り札を隠し持っていたなんて、食えない奴ね。直情的で単純だったとしても、一応はリベロリア王国の人間という事かしら。

「主君!」

 魔導兵器アーティファクトによる砲撃に気づいたアルベルトが、いつぞやの戦いでも見た影の壁を出現させた。
 だが、咄嗟の事だったからかその壁が形成されるよりも早く、砲撃は放たれようとする。

 ────問題ない・・・・
 小さく口角を釣り上げる。
 何故ならあの魔導具オタクがあれこれと語る際、魔導具や魔導兵器アーティファクトの強制停止方法をも力説していたから。
 つもるところ……私は知っているのだ。
 この状況の、打開策を。

「絶対零度!!」

 カイル曰く。
 魔導兵器アーティファクトは心臓となる魔石を必要とし、動力となる魔力が必要である。
 つまり──心臓さえ破壊してしまえば、魔導兵器アーティファクトは死ぬ。
 ただそれだけの事。だがしかし、これは一撃で、刹那のうちに魔石を破壊出来る能力を持つ事が前提とされている。

 そりゃあ、製作者だってそれなりの破壊対策をしている。ちょっとでも失敗すればその場でドカン!! ……みたいな、ありきたりなシステムを組んでいる場合もままあるらしい。
 だから、カイルはこうも言っていた。

『──心臓を潰す自信がなけりゃ、心臓を止めれ・・・ばいい・・・。な、簡単だろ?』

 それのどこが簡単なのか、再三問いただしたいところではあるが……この雑談があったからこそ、私は絶対零度という手段を選べた。
 魔導兵器アーティファクトに水を纏わせてその温度を変えただけなのだが、この状況においては最善手とも言えよう。
 カイルには本当に頭が上がらない。……本人に言ったら調子に乗るから絶対直接には言わないけど。

 砲撃を放つような魔導兵器アーティファクトの魔石の事だ。きっと、かなりの熱を宿していることだろう。
 ならば、それを急激に冷やせばどうなるか。
 答えは簡単──……

「なんで発動しな────ッ!?」

 あっという間にひび割れて壊れる!!
 パキンッ! と甲高い音が聞こえたかと思えば、一拍置いて魔導兵器アーティファクトは爆発した。
 あれ程の魔力が放たれる寸前で行き場を失ったのだ。当然、爆発の一つや二つは起きてしまうだろう。
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