535 / 765
第五章・帝国の王女
485.バイオレンスクイーン5
しおりを挟む
「──ったく、お前の好き嫌いのポイントって相変わらず意味不明だよなァ。わーったよ、クソ野郎共の魂には何もしねェ。だがまだ生きてるそのクソ共の仲間にその分きちんと報復してやる。それはいいだろ?」
「それは別にいいよ。主犯格さえ生きていれば尋問も出来るだろうから、他は全部死んじゃってもいいと思う。犯罪者はきちんと罪を償うべきだからね」
どうせなら生きて償い続けるべきだとは思いつつも、贖罪以外の存在価値が無い罪人をわざわざ生かしてやる手間暇って割と無駄なんじゃないかな? とも思う訳で。
尋問だとか監視だとか食事だとか……時間も手間も物資も、罪人の為に使うぐらいなら全部善良な国民の為に使いたい。
だからもし私が投獄されたなら、その時は下手に終身刑に処したりせず迷わず極刑にして欲しい。死にたくはないけれど、かと言って民の金を使ってまで生きたいとは思わないわ。
無駄の極みだし。
「それじゃあ早速、クソ共を見つけ出してお礼参りといこうじゃねェか」
鋭く頬を釣り上げ邪悪に笑うシュヴァルツによって、ブランシュはもう帰れと手で追い払われる。しかし、そんな酷い態度にも文句一つ言わずに彼は姿を消した。
お兄ちゃんだからか、シュヴァルツのああいう態度にも慣れているのかもしれない。
「あんな悪魔に頼らなくてもボクひとりでじゅうぶん……って言いたいところだけど、ついさっき少しだけ暴走未遂ちゃって。力は出ないし、頑張る為にもアミィにちょーっと力を貸して欲しいなぁ、なんて」
「私に出来る事ならなんでもするよ」
だってシルフ達には魔導兵器を見つける途方も無い作業を任せるのだから、私に出来る事はなんだってするつもりだ。
その意思を伝えたところ、にんまりと星空の瞳を細めて満足気に笑い、
「やった! それじゃあ──……ほんの少しだけ、返してもらうね」
シルフは、その淡い唇を私のそれに重ねてきた。
魔力が流れ出る感覚。いや、正確に言えば……私の中にある何かが吸い出されるかのよう。
心臓が熱い。視界がチカチカと点滅する。
なに、なにが起きてるの?
どうして私は──……シルフにキスされてるの?
「ッ何してやがる精霊の!! テメェ……ッ、オレサマの前でアミレスに手を出すなど到底許し難い蛮行だぞ!」
「……なんでボクがボクの愛し子と触れ合うのにお前の許可が要るんだよ。そも許す許さないはこちらの台詞だぞ、魔王。先に我が愛し子を毒したのはそちらであり、ボクがそれを渋々見逃してやった事……まさか忘れたとは言うまいな」
後ろ髪を引かれるようにゆっくりと離れ、シルフはシュヴァルツを鋭く睨んだ。その無機質な横顔を一目見て、心の中で渦巻いていた混乱や幸甚は一瞬で消え失せる。
今、私の目の前に立つ彼の表情は────。
一言で周囲を平伏させるこの声は────。
どこかの皇帝のようなその口調は────。
すべて、私の知らないものだった。
「……チッ、これだから精霊は嫌なんだよ。永久にオレサマ達を見下しやがる。所詮は同じ穴の狢だってのによ」
「ボクだってお前等の事は大嫌いだよ。可能なら今すぐにでも殲滅したいぐらいにな」
シルフとシュヴァルツが火花を散らす。そのあまりにも重苦しい空気に、私はただ黙る事しか出来なかった。
「──ごめんね、アミィ。急に口付けたりして。君に貸してる魔力を少しだけ返してほしかったんだ。何も言わずにするべきではなかったよ……驚かせちゃったかな」
何事も無かったかのように、シルフは彼らしい柔らかな笑みを纏いこちらを見つめる。
その変貌っぷりに、私は──友達でありながら、彼に少なからず恐怖を抱いていた。
私の知らないシルフがいるという事実に、どうしてか、焦燥を覚えたのだ。
「……平気だよ。ただ、びっくりするからこれから魔力が欲しい時は先に言ってね」
少し雰囲気が変わったからと、私まで態度を変えてしまったらきっとシルフは傷ついてしまう。
だからつとめていつも通りに振舞った。
「そうするよ。ボクはそこの悪魔とは違うからね」
「オレサマがなんだって?」
「なんでもねぇーーよ。というかいちいち反応するなよ煩わしい」
「は?」
「あ?」
何故この二体はすぐ喧嘩をするのだろう。
今まで仲良く出来てたじゃん。これからも仲良くしようよ。
「……王女殿下、彼等は貴女にとって本当に害悪ではないのですか?」
喧嘩ばかりの人外さん達に、ついにケイリオルさんが疑念を抱いてしまった。
そりゃそうだよね、精霊と悪魔だもん。国の平穏が脅かされる可能性だってある訳で。彼はその可能性を示唆しているのだろう。
「大丈夫ですよ。シルフもシュヴァルツも理由無しに暴れたりしませんので!」
魔王に至っては拘束の契約もあるから問題無し。シルフは……人間が好きみたいだから多分大丈夫だろう。
「そういうつもりで申した訳ではないのですが……」
しかしケイリオルさんは納得がいかない様子。
それこそ納得がいかない私はムッとした顔で彼を見上げていたのだが、それに気づいたリードさんがおもむろに私の肩に手を置き、
「本当に、頼むから、君だけは健やかに生きてくれ。さもなくばこの世界は終わる」
「何の話ですか?!」
真剣な表情で釘を刺すように言った。
一気にスケールが大きくなり、当惑を隠せない。そんな私を見て更に彼は遠い目になる。
「寧ろここまで鈍感になれるのは才能だよ……どうなってるんだい氷の血筋は……」
「いやぁ……ここまで鈍いケースはかなり珍しいですよ。氷の血筋程、愛に生きる一族もおりませんし……ありとあらゆる点において彼女が特異なのだとしか言えませんね」
二人の残念なものを見るような、生暖かい視線が痛い。ケイリオルさんの方は顔が見えないから想像でしかないのだけど、チクチクと視線が刺さる。
そう、こんなにも背中に刺々しい視線を感じ──……
「背中? ──どうしたの、ルティ?」
二人からのチクチク視線にしては一つ、方向がおかしい。そう思いつつ振り向くと、そこには仏頂面のアルベルトがいた。
「それは別にいいよ。主犯格さえ生きていれば尋問も出来るだろうから、他は全部死んじゃってもいいと思う。犯罪者はきちんと罪を償うべきだからね」
どうせなら生きて償い続けるべきだとは思いつつも、贖罪以外の存在価値が無い罪人をわざわざ生かしてやる手間暇って割と無駄なんじゃないかな? とも思う訳で。
尋問だとか監視だとか食事だとか……時間も手間も物資も、罪人の為に使うぐらいなら全部善良な国民の為に使いたい。
だからもし私が投獄されたなら、その時は下手に終身刑に処したりせず迷わず極刑にして欲しい。死にたくはないけれど、かと言って民の金を使ってまで生きたいとは思わないわ。
無駄の極みだし。
「それじゃあ早速、クソ共を見つけ出してお礼参りといこうじゃねェか」
鋭く頬を釣り上げ邪悪に笑うシュヴァルツによって、ブランシュはもう帰れと手で追い払われる。しかし、そんな酷い態度にも文句一つ言わずに彼は姿を消した。
お兄ちゃんだからか、シュヴァルツのああいう態度にも慣れているのかもしれない。
「あんな悪魔に頼らなくてもボクひとりでじゅうぶん……って言いたいところだけど、ついさっき少しだけ暴走未遂ちゃって。力は出ないし、頑張る為にもアミィにちょーっと力を貸して欲しいなぁ、なんて」
「私に出来る事ならなんでもするよ」
だってシルフ達には魔導兵器を見つける途方も無い作業を任せるのだから、私に出来る事はなんだってするつもりだ。
その意思を伝えたところ、にんまりと星空の瞳を細めて満足気に笑い、
「やった! それじゃあ──……ほんの少しだけ、返してもらうね」
シルフは、その淡い唇を私のそれに重ねてきた。
魔力が流れ出る感覚。いや、正確に言えば……私の中にある何かが吸い出されるかのよう。
心臓が熱い。視界がチカチカと点滅する。
なに、なにが起きてるの?
どうして私は──……シルフにキスされてるの?
「ッ何してやがる精霊の!! テメェ……ッ、オレサマの前でアミレスに手を出すなど到底許し難い蛮行だぞ!」
「……なんでボクがボクの愛し子と触れ合うのにお前の許可が要るんだよ。そも許す許さないはこちらの台詞だぞ、魔王。先に我が愛し子を毒したのはそちらであり、ボクがそれを渋々見逃してやった事……まさか忘れたとは言うまいな」
後ろ髪を引かれるようにゆっくりと離れ、シルフはシュヴァルツを鋭く睨んだ。その無機質な横顔を一目見て、心の中で渦巻いていた混乱や幸甚は一瞬で消え失せる。
今、私の目の前に立つ彼の表情は────。
一言で周囲を平伏させるこの声は────。
どこかの皇帝のようなその口調は────。
すべて、私の知らないものだった。
「……チッ、これだから精霊は嫌なんだよ。永久にオレサマ達を見下しやがる。所詮は同じ穴の狢だってのによ」
「ボクだってお前等の事は大嫌いだよ。可能なら今すぐにでも殲滅したいぐらいにな」
シルフとシュヴァルツが火花を散らす。そのあまりにも重苦しい空気に、私はただ黙る事しか出来なかった。
「──ごめんね、アミィ。急に口付けたりして。君に貸してる魔力を少しだけ返してほしかったんだ。何も言わずにするべきではなかったよ……驚かせちゃったかな」
何事も無かったかのように、シルフは彼らしい柔らかな笑みを纏いこちらを見つめる。
その変貌っぷりに、私は──友達でありながら、彼に少なからず恐怖を抱いていた。
私の知らないシルフがいるという事実に、どうしてか、焦燥を覚えたのだ。
「……平気だよ。ただ、びっくりするからこれから魔力が欲しい時は先に言ってね」
少し雰囲気が変わったからと、私まで態度を変えてしまったらきっとシルフは傷ついてしまう。
だからつとめていつも通りに振舞った。
「そうするよ。ボクはそこの悪魔とは違うからね」
「オレサマがなんだって?」
「なんでもねぇーーよ。というかいちいち反応するなよ煩わしい」
「は?」
「あ?」
何故この二体はすぐ喧嘩をするのだろう。
今まで仲良く出来てたじゃん。これからも仲良くしようよ。
「……王女殿下、彼等は貴女にとって本当に害悪ではないのですか?」
喧嘩ばかりの人外さん達に、ついにケイリオルさんが疑念を抱いてしまった。
そりゃそうだよね、精霊と悪魔だもん。国の平穏が脅かされる可能性だってある訳で。彼はその可能性を示唆しているのだろう。
「大丈夫ですよ。シルフもシュヴァルツも理由無しに暴れたりしませんので!」
魔王に至っては拘束の契約もあるから問題無し。シルフは……人間が好きみたいだから多分大丈夫だろう。
「そういうつもりで申した訳ではないのですが……」
しかしケイリオルさんは納得がいかない様子。
それこそ納得がいかない私はムッとした顔で彼を見上げていたのだが、それに気づいたリードさんがおもむろに私の肩に手を置き、
「本当に、頼むから、君だけは健やかに生きてくれ。さもなくばこの世界は終わる」
「何の話ですか?!」
真剣な表情で釘を刺すように言った。
一気にスケールが大きくなり、当惑を隠せない。そんな私を見て更に彼は遠い目になる。
「寧ろここまで鈍感になれるのは才能だよ……どうなってるんだい氷の血筋は……」
「いやぁ……ここまで鈍いケースはかなり珍しいですよ。氷の血筋程、愛に生きる一族もおりませんし……ありとあらゆる点において彼女が特異なのだとしか言えませんね」
二人の残念なものを見るような、生暖かい視線が痛い。ケイリオルさんの方は顔が見えないから想像でしかないのだけど、チクチクと視線が刺さる。
そう、こんなにも背中に刺々しい視線を感じ──……
「背中? ──どうしたの、ルティ?」
二人からのチクチク視線にしては一つ、方向がおかしい。そう思いつつ振り向くと、そこには仏頂面のアルベルトがいた。
2
お気に入りに追加
622
あなたにおすすめの小説
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。
aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。
生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。
優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。
男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。
自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。
【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。
たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~
皇 翼
恋愛
グレシュタット王国の第一王女にして、この世界の聖女に選定されたロザリア=テンペラスト。昔から魔法とも魔術とも異なる不思議な力を持っていた彼女は初潮を迎えた12歳のある日、とある未来を視る。
それは、彼女の18歳の誕生日を祝う夜会にて。襲撃を受け、そのまま死亡する。そしてその『死』が原因でグレシュタットとガリレアン、コルレア3国間で争いの火種が生まれ、戦争に発展する――という恐ろしいものだった。
それらを視たロザリアは幼い身で決意することになる。自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するため、行動することを。
「お父様、私は明日死にます!」
「ロザリア!!?」
しかしその選択は別の意味で地獄を産み出していた。ヤンデレ地獄を作り出していたのだ。後々後悔するとも知らず、彼女は自分の道を歩み続ける。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる