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第五章・帝国の王女

482.バイオレンスクイーン2

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「どどどどっ、どういう事ですか?! な、なななんでっ、リードさんがとっ……時の魔力を?!」
「声が大きいよ。さっきも言ったが、あくまでもあれは魔力を少し借りただけ・・・・・なんだ。本当に時間魔法が使える訳でもないからね。時の魔力と光の魔力の源流が同じとされているからこそ出来た芸当さ。あとは……ベールが色々と助言をくれたからかな。反動が凄まじいから、そう何度も使えないけど」

 今しがたくっついたばかりの私の左腕を触診しつつ、リードさんは軽く答える。
 光の魔力を担保にして時の魔力を一時的に使うなんて芸当、まず普通に生きてたら思いつかないと思うんですけど……ミカリアと張り合えるラスボスなだけあるわ……色々とめちゃくちゃだ…………。
 というか反動って? リードさんは大丈夫なの?

「──よし、後遺症は特に無さそうだ」
「わあ、流石はリードさん! ありがとうございます」

 五体満足に戻れたお礼を告げる。
 しかし、リードさんの顔からは徐々に微笑が消えていく。

「それじゃあ今度こそ聞かせてもらおうか──……どこの、誰が、君の顔に傷をつけ君にあれ程の怪我を負わせたのか……全て話してくれるよね?」
「ひぇっ……」

 一大宗教の教皇らしいその圧倒的なオーラに、喉笛と震える顎が狂想曲を奏でようとする。

「じ、実は──っ!」

 震える声のまま、私は事の経緯を正直に話した。
 罠に嵌められ拉致監禁された事。皇帝への復讐でリベロリア王国民が爆破テロを画策している事。なんやかんやあって敵の一部を制圧した事。
 一通り話し終えると、リードさんとケイリオルさんは二人揃って眉間を押さえていた。

「……つまり、顔は蹴られたが腕の切断は自分でやったと?」
「はい。鎖が邪魔で……腕の一本や二本、足じゃないからまあ別にいいかなと……」

 今日はリードさんとローズがいる事が分かってたからね。安心して腕を飛ばしましたとも。

「──っいい訳ないだろ! 君はいつもそうだッ、そうやって毎回後先考えずに無茶ばかりして! どれだけ周りに心配をかければ気が済むんだ!?」

 耳に響くリードさんの声。でもそれは……怒りというよりも後悔や不安、そして心配で満ち溢れていた。
 目は口ほどに物を言う。彼の優しさが、その瞳からひしひしと伝わってくる。

「……心配かけてごめんなさい」
「そう思うなら二度とこんな無茶はしないでくれると助かるよ」
「でも、今日はリードさんがいるって分かってたから」
「っ!? ──私の存在が、君に無茶をさせてしまったのか。最悪だ……無茶してほしくないのにそれを許す存在になってしまっていたなんて……」

 ごにょごにょと言い訳を並べると、リードさんは項垂れて大きなため息を一つ。

「あのね、今日は私がいたからなんとかなったかもしれないが、毎度こう上手く事が運ぶ訳ではない。後で治せばいい──みたいな考えで動くのは絶対にやめなさい。分かった?」
「は、はいっ!」

 久々のお小言に背筋が勝手に伸びる。
 こういうちゃんとした大人によるお説教って、いつになっても慣れないし怖いんだよなぁ。

「──しかし……王女殿下を拉致監禁し、あまつさえお顔を蹴るなどという蛮行を冒した大罪人共が既に死亡しただなんて。これでは鏖殺する事が叶わないではありませんか……」

 拘束を緩めながらケイリオルさんはボソリと呟く。
 そう言えばこの人、元歩く災害(※アンヘル評)だった。

「はぁ、仕方ありませんね。王女殿下の話ですとまだ犯人一派が潜み爆破計画を目論んでいるようですし──……その残党共を皆殺しにしましょう」
「普通に捕まえて普通に処罰を与えればいいのでは……?」
「それでは腹の虫が収まりません。貴女の顔を傷つけたのですよ? 殺しても殺し足りないぐらいです。腹が立ってしょうがないのでリベロリア王国を滅ぼしに行きましょうか」
「駄目です!!」

 なんでちょっと顔を傷つけられた程度の事で一国を滅ぼそうとするんだこの人は! ムカついたから国滅ぼすとか思考回路がぶっ飛んでるって!!

「む、何故駄目なのですか。ムカつく奴はとっとと殺した方がいいですよ、精神衛生上」
「私が言えた事ではないですけど、世間一般では人を殺すのって犯罪ですし背徳的な事なんですよ」
「ああ……そういえばそうでしたね。昔から権力であらゆる殺人を揉み消したり正当化して来たのですっかり忘れてました」
「すっごい不正の暴露」

 この倫理観皆無先生から色々と物事を教わったから、フリードルも倫理観皆無ボーイに育ったのか。
 もしくは元々そういう血筋なのか。
 ……これは後者だろうな。それに拍車をかけたのが前者と。鬼にモーニングスター持たせたようなものね、これ。

「あー……分かるなぁその気持ち」

 リードさん?!

「おや。ジスガランド教皇もこちら側でしたか」
「こちら側、というよりかは……うん。確かに邪魔者はさっさと始末しておくに限るなー、と思ってね。放っておいて後で面倒事を増やされても困るし」
「嗚呼、激しく同意します。後で復讐だのなんだの騒がれるぐらいなら今此処で皆殺しにした方が早い。──とわたしも頻繁に考えますので」
「頻繁に考えるのは普通に事案だと思うが……まぁ、概ね賛同出来る」

 リードさんとケイリオルさんがにこやかに私の知らない世界の話をしている。
 どちらも統治する側だから、そういう悩みが尽きないのかもしれない。本当に、私には全く理解が及ばない話だ。

「なので後顧の憂いを晴らすべく、狩猟大会が終わり次第リベロリア王国を滅ぼしてきます! いやぁ、久々の運動で腕が鳴りますねぇ」

 鳴るのは多くの命が散る音なんだろうな。
 頑張ります! とばかりに脇を閉め、ケイリオルさんは握り拳を二つ、胸元の辺りでぐっと作る。その仕草は愛嬌のあるものなのだが、言ってる事があまりにも物騒を極めていた。

「……あの。いくらケイリオル卿がお強いからと言って、流石に国を滅ぼすなんて……」

 そんな事可能なのかと。
 まさか、この為だけに軍を編成するつもりなの? 正気?

「何を仰いますか。城を落とす程度の事、わたし一人でじゅうぶん可能です」
「単騎決戦?!」

 驚きのあまり思った事がそのまま口から飛び出してしまった。

「寧ろ単騎の方が都合が良くて。誰にも足を引っ張られませんから」
「下手に集団を組織すると一部の人間を守ったり庇ったりで足を引っ張られて、本来のパフォーマンスを発揮出来なくなる。そう考えると、単騎というのは寧ろかなり効率的だよね」
「おお、やはりジスガランド教皇はこちら側でしたか」

 だからなんでリードさんはそっち側なの?!
 またもや意見が一致して楽しげに語り合う二人の姿に、密かにショックを受け項垂れる。
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