だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第五章・帝国の王女

471.十四歳最後の日2

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 フリードルが自ら身を退いてくれた事により、その後のパーティーはとにかく楽しいものであった。

 私兵団の皆をはじめとして、街の人達も色んな品物や祝いの言葉や歌に踊りとたくさんのものを用意してくれたのだ。
 テンディジェル兄妹からは、この日の為に作ってくれたという私イメージのオリジナル曲の生歌唱をプレゼントされた。なんとレオはこの為にわざわざ弦楽器を持ってきていたとかで、レオの演奏に合わせてローズが歌い、会場は感動に包まれた。

 シャンパージュ夫妻からは、シャンパージュ伯爵家が所有するダイヤモンド鉱山で採れた上質なダイヤモンドを贅沢に使用した、ネックレス。
 ランディグランジュ侯爵からは領地の特産品を使っためちゃくちゃ美味しいジャム計五種類。
 そしてハイラからは、私の大好物でもあるハイラの手作りケーキ(しかもビッグサイズ!)を貰った。これにはスイーツ狂いのアンヘルも興味津々で、彼が目を輝かせる程に美味しいケーキだった。

 竜兄妹からはかなり旧いデザイン──もとい、当時大流行していたといういわゆる古代のドレスを贈られた。昔の記憶を頼りに三体さんにんが力を合わせて再現してくれたらしい。
 イリオーデとアルベルトからは彼等のぬいを貰った。──どこから調達してきたのか分からない色とりどりの花束と共に。
 この一ヶ月間仕事終わりに慣れない手芸に励み、なんとか形にしたらしい。その努力の結晶が、彼等が花束で隠すように渡してきたこの二つのぬいなのだろう。

 ものすごく頑張ってくれた二人には口が裂けても言えないのだが──……全っ然似てない!! 貴方達はこんなにブサイクじゃないわよ!! めちゃくちゃかっこいいイケメン騎士とイケメン執事だし、普段から可愛げあるからデフォルメ化したらかなり可愛い筈なのに!! 二人共自分で自分のぬいを作る事になって加減しちゃったのかしら……貴方達はもっとかっこいいのよ! 顔の良さを自覚しろ!!
 だがそれでも二人にそこはかとなく似たぬいである事に変わりはない。なのでありがたくこれもいただき、部屋に飾る事に決める。

 皆から貰ったプレゼントを次々アルベルトに託しては彼の影空間を便利アイテムとして乱用していると、カイルとマクベスタが仲良く並んで登場した。

「アミレス。オレのプレゼントも受け取ってくれるだろうか」
「勿論! ありがたくいただくわ」
「そうか。それはよかった」

 後ろ手に持っていた大きな箱を差し出し「オレが持っておくから、開けて見てくれ」と言われたので、素直に包装を解いて箱を開けると、そこにはかなり大きな手編みのマフラーが入っていた。
 綺麗な青緑色のマフラーでは縄編みも用いられており、可愛らしさというものを感じる。
 しかし、本当に大きいな……とマフラーを触っていると、

「……無心で編んでいた所為か、気がついたら予定よりも大きくなってしまったんだ。使いづらくてすまない」

 マクベスタが気になる事をボソリと零した。

「えっ!? これマクベスタが編んだの!?」
「マクベスタお前そんな事まで出来るのかよ?!」

 これには我々転生者達も驚きを隠せない。何せそんな設定、ゲームでは一切無かったから。

「あ、ああ。母があまり寝台ベッドから降りられない人だったからな。母と一緒に過ごすうちに、自然と編み物や刺繍も出来るようになったんだが……王子には必要の無い技能だから、臣下達に騒がれても面倒だと今まで隠してたんだ」
「「なるほど……」」

 割とちゃんとした理由に、私達は溶けた語彙力で相槌を打つ事しか出来なかった。
 それにしても、マクベスタさんちょっと女子力高くない? 料理も出来て手芸も出来て調香まで出来るなんて、私より遥かに女子力高いじゃないの。
 ずるい、ずるいわ。
 私だって人並みの女子力が欲しい。

「ごほん。それで、アミレスが寒いのに弱かったなと思い出して、せっかくだから防寒具を……とマフラーを編んだんだ。あと一ヶ月やそこらで冬は終わってしまうが、たまに使ってくれたら嬉しい」
「ありがとう。それじゃあ早速……っと、あれ、上手く巻けない」

 大きなマフラーを上手く巻きつけるには、私のボリューミーな髪は障害でしかなかった。ぶおんっ、と風を切るようにマフラーを飛ばしたりして悪戦苦闘していると、マクベスタがおもむろにマフラーを掴んで、

「失礼、少し髪に触れさせてもらうよ」

 ぐるぐると私の首元に巻いてくれた。
 髪が崩れないよう丁寧にやっているのか、マクベスタの体がとても近い。
 数年前までそこまで身長も変わらなかったのに、マクベスタはいつの間にかまた背が伸びたらしくて、今や私の視界は彼の胸元しか映さない。顔を上げないと、彼の顔は見えないのだ。
 でも今はなんとなく、顔を上げられない。だってこの距離で顔を上げてしまえば……きっと、すごく顔が近くなると思うから。
 紳士的な口調と、彼から漂ういい香り。知らないうちに一人で先に大人になっていくマクベスタに、どうしてか緊張してしまった。

「……よし。これでいい。似合ってて良かった」
「ありがとう。とっても暖かいわ」
「そうか。そう言ってもらえて何よりだ」

 彼が離れたのを確認し、顔を上げてお礼を告げる。
 そんな私達のやり取りを傍で眺めていたカイルが「緑色とか独占欲かよ……推しカプてぇてぇ……」と謎の妄言を吐いていたが、とりあえずスルーした。

「それじゃあ今年のマクベスタの誕生日には私も手芸に挑戦しようかしら。刺繍なら昔少しだけ習ったし、貴方の好きな物でも刺繍してみるわ!」
「いいのか? ……そうだな、じゃあハンカチーフに花の刺繍でもしてくれたら嬉しい。狩猟大会も近い事だしな」

 狩猟大会。それは、かつて四月の頭頃に皇室主催で開催されていたというフォーロイト帝国伝統のイベント。
 この二十年余り、パーティー嫌いの皇帝によって抹消されていた数々の祭りやイベントが今年から復活するようで、その筆頭とされるのがこの狩猟大会なのである。
 そしてその狩猟大会には、何ともまぁありがちでロマンチックな伝統があるようで。それが彼の言うハンカチーフに関するものなのだ。
 恋人や親族や親しい人の狩猟大会での健闘と活躍を祈る目的で、令嬢達がハンカチーフを渡す文化があったとの事。ちなみにわざわざ刺繍を施して渡すのは恋人同士だけだった筈だ。

「別にいいんだけど……それだと貴方、下手すれば色々と勘違いされるわよ?」

 そう言ってから気付いたが、マクベスタはあくまでもオセロマイトの人だ。ここ数十年開催されてすらいなかった狩猟大会の伝統の事を知る訳がない。

「勘違い──まあ、好きにさせておけばいいんじゃないか?」

 マクベスタはニコリと作り物のような笑みを浮かべた。
 やはり彼は狩猟大会の伝統を知らないらしい。適当に返してきた辺り、ハンカチーフの事もぼんやりとしか知らないのだろう。
 ならば、マクベスタの為にも狩猟大会では普通のハンカチーフを渡して……それとは別で刺繍入りハンカチーフも渡せばいいかしら。
 変な誤解を産むような真似は極力しないに限るものね。
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