だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第五章・帝国の王女

470.十四歳最後の日

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 無事、ケイリオルさん自身と彼の重大な秘密を知る事が出来た。
 だがその重大な秘密のインパクトが凄すぎて、彼自身の話を若干忘れてしまった。問題児だったって事はなんとなく覚えてるけどね。

 ケイリオルさんと別れた後。程なくして会場中でダイヤモンドダストが発生して、パーティーの参加者は大はしゃぎ。この氷の国でもかなり珍しいその自然現象に、更なるお祭り騒ぎへと発展した。
 その盛り上がりの中、私は約束通りあの面倒な男の元に向かった。すると待ってましたとばかりに奴はふんぞり返り、一つの箱を突き出してきた。
 さっさと受け取れとばかりに顎を動かすものだから、戦々恐々とそれを受け取り、「中を見ろ」と追加の指示にも従う。
 中に入っていたのは海を掬いそのまま固めたような、深い美しさを持つ宝石があしらわれたカフスボタン。
 フリードルは何故こんなものを? と彼に視線を向けると、

「僕と揃いの物だ。どうだ、さぞ嬉しかろう」

 右腕を胸元まで上げ、上着の袖を捲り実用シーンを見せつけてくる。
 その手首では、確かに全く同じデザインのカフスボタンが煌めいていた。

「ど、どうも……」

 押し付けがましいな。と思う傍らで、心の中でこれを喜ぶ自分がいた。
 ねぇちょっと落ち着きなされよ心の中のアミレス氏! お揃いって言葉に喜びすぎよ!!

「あまり嬉しくなさそうだな」
「いいいいえ! そんな事は!」

 少なくともアミレスは喜んでるからね!

「……ならば良い」

 これは後日ちゃんと使ってるところを見せないと怒られるやつだなー……と先の不安を覚えていたら、フリードルはどこかホッとしたような表情を作った。
 よく聞き取れなくて、聞き返そうとした時。フリードルの背後から胡散臭い笑みを浮かべる男がにゅっと現れた。

「喜んでいただけてよかったですね! めちゃくちゃ悩んで選んだ甲斐がありまッ──……ぃいだだだだだだだ!!」
「何故ここに居るんだジェーン。余計な事を口走る暇があるなら疾く失せろ。そして仕事をしろ」
天邪鬼ツンデレな殿下がちゃんとプレゼントを渡せたか心配で見に来た忠臣にする仕打ちじゃないですよぉー!」
「からかいに来たの間違いだろう。お前のような道化にそんな殊勝な真似が出来るとは到底思えん」

 フリードルの『影』らしき、彼の右腕のジェーンさん。
 何がしたいのか、ジェーンさんは登場早々フリードルに腕を捻り上げられている。本当に何がしたいんだろう。

「助けて下さい王女殿下! このままではパワハラ殿下に肩をあらぬ方向に外されてしまいます──!」

 ジェーンさんは渾身の叫びを上げつつ、こちらに空いている方の手を伸ばしてきた。
 でもあの人……顔が笑ってるんだよなあ。
 というか、彼が『影』なら諜報部でもトップクラスの実力者な筈だし、フリードルの拘束からも簡単に抜けられそうなんだけどな。

「望み通り外してやってもいいんだぞ。そこに氷の杭を打ち込み二度と戻らないようにしてやろうか」
「それ本当にやばいやつですよね。殿下ったら本当に俺の腕を奪うおつもりで? 正気ですか?」
「僕は至って正気だが?」

 彼等の間に流れる沈黙は思わず腕を摩る程のものであった。この空間が師匠のお陰で温かいから忘れていたが、絶賛真冬なのだ。これが普通である。

「お取り込み中のようですので私はこれでー……」

 この隙にフリードルから離れよう。とこっそり抜け出そうとしたのだが、

「待て、アミレス・ヘル・フォーロイト」

 ぶへぇっ! とわざとらしいダメージボイスを発するジェーンさんをその辺に投げ捨てて、フリードルはなんとこっちに来やがった。
 この男に腕を掴まれると、あの夜の出来事をつい思い出してしまい、警戒して顔を逸らしてしまう。

「まだ、一つ言えていない言葉がある」

 そんな真剣な顔で口火を切るとか、死刑宣告か何かなの!?

「こちらを向け。僕の目を見ろ」
「っ?!」

 顔を逸らしていたら、顎を摘まれ強制的に彼の目を見つめさせられた。
 まさかまたこの男は私にしか欲情しないとかほざくつもりか!? あの時は誰の目もない所だったからまだいいけど(よくはない)、こんな公衆の面前でそんな愚行を冒した日には皇室の醜聞どころの騒ぎじゃ────!!

「……──誕生日おめでとう。お前は信じないだろうが、お前が産まれる前の僕は……心から、この言葉をお前に言いたかった」

 予想外の言葉に体が強ばる。
 顎を掴んでいた手をそのまま頭に移動させ、フリードルは私の額と自分の額をコツンと、赤子に触れるように優しくぶつけた。

「今更これまでのお前への態度が許されるなどとは思っていない。だが……これからは兄として、お前の幸福の為に尽くそう。だから……」

 そう言い淀む傍らで、フリードルはぎこちない動きで私の頭を撫でていた。少しばかり震える手は、不安や躊躇いに支配されているかのようで。

「もう一度、僕を愛してくれ。ただそれだけでいい。他の誰でもなく、兄であるこの僕を愛してくれ」

 心臓が強く脈打つ。
 心の奥底から、何かが溢れようとしている。
 ああ、これは────、

「……っ兄様のばぁああああああか!!」

 例え殺されようとも霞む事すらなかった、アミレスが抱くこの男への深い愛情だ。
 フリードルの体を突き飛ばし、肩で息をしながら私は一生懸命叫ぶ。

「私は兄様の事なんか大嫌っ……だ、だいき……ら……くっ、~~あぁもうッ! 好きなんかじゃないし!!」

 私は、この愛情を受け入れたくない。
 だってこれはあくまでも彼女アミレスのものだ。ただでさえ、本来アミレスが受け取るべきだった信頼や、愛情や、賞賛を私が受け取ってしまっているのだから……せめて彼女の感情だけは奪いたくない。
 それなのに。結局こうして、アミレスの影響を受けてしまった。
 いずれアミレスを殺すような鬼畜外道、大嫌いな筈なのに。彼女アミレスの感情がそれを許してくれないのだ。
 フリードルを突き放し、とにかく私の意思を表明する。フリードルの事なんて大嫌いなんだ、と。

「そうか。だが今はそれで構わない。──もう一度、お前の心を奪えばいいだけの話だからな」
「はあ!? どこから湧いて来たんですかその自信!」
「どこからも何も、お前の反応を見れば可能性が無いとは全く思えないからな。寧ろ、お前の反応はあれだろう……『嫌よ嫌よも好きのうち』だったか?」
「全っ然違いますけど?!」

 食い気味に否定したところ、フリードルはふっと弾けるような息を零した。

「く、ははっ。お前は本当に素直じゃないな。……愚かで素直じゃない我が妹が、存外恥ずかしがっているようだ。仕方あるまい、ここはこれ以上追及しないでおいてやろう」

 フリードルが突然あどけなく笑うものだから、こちらを見ていた人達は開いた口が塞がらない様子。
 誰もが、腹立つ程に顔がいいこの男の希少な笑みに、目を奪われていたのだ。

「今の僕は些か気分が良い。このパーティーの主役たる我が可愛い妹の顔に免じて、この後の時間は影を潜めてやろう。とくと楽しむがいい」

 舌の根も乾かぬうちに好き勝手捲し立て、フリードルはジェーンさんを引き摺りながら上機嫌にこの場を去っていった。
 ……なんか、あいつの手のひらの上で転がされた気分。でも──アミレスが嬉しそうだし、今日は許してやろう。
 だけど私はまだフリードルの事許してないから。アミレスを散々蔑ろにした挙句殺した事、許してないから!!
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