だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第五章・帝国の王女

462.プレゼントの多様性

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 挨拶回りの際シュヴァルツが、『オレサマを模した像……なんだったか、フィギュアとやらが欲しかったんだろ?』とか言いつつ、自信満々によく分からない石像をお出しした。
 光が反射するなめらかな表面。衣服の質感や小物類など細部まで作り込まれていて、作り手のこの作品に対する熱意が伝わってくるかのよう。
 ただ、問題なのが──石像がどう見ても大きいシュヴァルツをモデルにしたものであり、ほぼ等身大+台座でめちゃくちゃでかい。
 要するにかなり邪魔なのだ。

 とりあえず、東宮に戻ってから改めて貰うので一旦預かっておいてほしいと告げ、シュヴァルツの石像を退かす事に成功。
 その後シュヴァルツは意気揚々とお酒を飲みに行ったので、ベールさんがいなくなって暇そうだったリードさんにきちんと挨拶して、軽い雑談を始めた。

「それにしても驚きましたよ。まさか国際交流舞踏会が終わってもリードさん達が帝国に留まるなんて思ってなかったから……」
「おや、私達がいては何か不都合があるのかい?」
「そんな事は!!」
「ふふっ、冗談だよ。君はそんな風に考える子じゃないって分かってる。いじわるな事してごめんね」

 リードさんでも冗談とか言うんだ。

「……リードさんにいじわるされて心が傷つきました。慰謝料ください」
「うーん、困ったなあ。今の私に出せるものなんて、君へのプレゼントぐらいしか無いよ。でもこれを慰謝料として渡すのは……」
「プレゼント?」

 冗談には冗談で返すのが礼儀だろう。だからか、リードさんもこの冗談にすぐさま気が付き、敢えて乗っかったようだ。
 私の言葉に彼はニヤリと笑い、懐からおもむろに手のひらサイズの箱を取り出して、

「今まで大したものをプレゼント出来なくてすまないね」

 微笑みと共にこちらに差し出した。
 ブルーナイトパールと魔導具が大したものではないと? これが一大宗教の教皇の価値観なのか。

「開けてもいいんですか?」
「勿論だとも」
「わっ、これって……」

 箱を開けると、そこにはとても綺麗な耳飾りが入っていた。
 月下美人のような花をモデルにしており、モビールかのように垂れ下がる寒色系統の宝石が色とりどりの輝きを放つ。

「どうだろう、君の輝きを支える一助になればと思ったんだが……気に入ってもらえたかな?」
「ありがとうございます、とても嬉しいです」

 こんな幻想的な耳飾りはそうそうお目にかかれない。相変わらずリードさんはサラッと凄いものをくれるんだよなあと思いつつ、耳飾りを太陽に透かして見ていると、

「実はもう一つ、君に役に立てるといいなと思って用意したものがあるんだ。もし良ければ貰ってくれると嬉しいよ」

 彼は更に箱を取り出し渡してきた。

「これって……サテングローブ?」
「君はよく外で剣を振るようだからね。日焼け防止と怪我防止の為に、見た目も良く実用性重視で作らせたんだ。特殊な生地を使ってるから暑さや寒さにも対応出来るよ」
「またとんでもないものを。毎年、本当にありがとうございます」
「私がやりたくてこうしてるだけだから、あまり気負わないで。君はただ、変な大人から変なものを押し付けられた程度に思っていてくれたらいいから」

 リードさんは優しい。いつもこうやって、私が気を使わないでいいようにあれこれと先回りして伝えてくれる。
 美しく精巧なレースがあしらわれたサテングローブを手にした時、私はある重大な見落としに気づいた。

「──あっ。あの、リードさん! リードさんの誕生日っていつですか!?」

 何年も彼から誕生日プレゼントを貰っておきながら、薄情にも私はリードさんの誕生日すら知らないのだ。

「私の誕生日? 三月三日だけど……それがどうしたんだい」

 まさかの一ヶ月以内!!
 はたして無事に誕生日プレゼントを用意出来るのだろうかと、唖然とする頭を必死に働かせる。

「……祝ってくれようとしている、と自惚れてもいいのかな」
「勿論ですっ! というか、今まで二年連続であんなにも凄いプレゼントを貰っておいて、私はリードさんの誕生日すら知らないなんて……本当にごめんなさい……」

 その点で言えばミカリアもそうだ。
 正確には、誕生日は知ってるのだけど相手が相手なだけに私的なプレゼントを贈る訳にもいかず。
 毎年八月末頃、フォーロイト皇室名義で贈る聖人の誕生日を祝う贈り物の選定がある。外務部部署長とケイリオルさんがこれまでやって来たそれに、数年前から私も少しだけ噛ませてもらっているだけだ。

 帝国が宗教の統一を行っていないとは言え、やはり国民の七割は国教会に属している。西側諸国で最も親しまれる宗教が、国教会の信仰する天空教なのだから当然だろう。
 属す、と言っても月に一度礼拝堂に行くとか教義を守るとか。天空教を信仰しているというだけだが。
 そんな風に国教会が圧倒的権威を誇る大陸西側だからこそ、そのトップでもあるミカリアの誕生日に私的なプレゼントなど贈れる筈もなく。
 まあ……個人的な手紙を押し付けたり、呼び出したりしているのだから今更な感じもするけど。私も国教会に睨まれるような事はあまりしたくないからね。

 その点リードさんは……こう言っては失礼だが、まだまだこの辺りでの知名度は低い。
 西側での知名度が凄まじいミカリアと違って、彼を一目見てリンデア教の教皇?! とはならないだろう。仮に名乗っても西側諸国の民には分からない可能性すらある。
 だから、多分、誕生日プレゼントを贈っても問題はない……はず!!

「そんな風に気を揉まないで。私は祝われたくて君にプレゼントを贈ってきた訳じゃないから。ただ、幼い君が一つずつ経験や思い出を重ねていくのを、先達の一人として祝福したかっただけだよ」

 リードさんはなんていい人なのだろうか。
 過保護という訳ではなく、厳格という訳でもない。お人好しという程ではないが、とても優しい気配り上手。
 リードさんという心の清涼剤のような素晴らしい人格者は、どうやら絶妙なバランスで構成されているようだ。

「リードさん……」
「ちなみに最後に一つ、君に渡したいものがあるんだけど」
「三つ目?!」
「うん。ようやく、君に面と向かって祝福の言葉とプレゼントを贈れるのが嬉しくて。年甲斐もなくはしゃいでいるんだ、これでもね」

 もう既に二つもプレゼントを貰ったのに、なんと彼は更にもう一つプレゼントがあるなどと言ってのけた。
 ちょっと待ってて。と言われたので、街の人達と話して大人しく待つ事数分。彼は大きめの細長い箱を手に戻ってきた。

「実はこれが大本命だったりするんだ」
「い、意外と重い」
「そうだろうね。だってそれ、中身は酒だし」

 えっ? お酒?

「どうしたの、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
「いや、だって……私まだ子供だし……」

 飲めるものなら飲みたいけどね、お酒。皆が怒るから飲まないけど。
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