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第五章・帝国の王女

455.バースデーパーティー4

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 どうやらこの世界における聖剣は、私達の知る色んな神話の主神の名を畏れ多くもお借りし、畏怖と敬愛を持って崇めさせていただいているらしい。
 この世界を作り上げたのが日本の乙女ゲームブランドだからなのだろう。度々、類似したものが散見される。

「だからさ、私もそういう系統にした方がいいのかなって」
「それならやっぱ天照大御神とかか?」
「まあそうなるよね」

 でも……日本の神様の御名前を拝借するのなら、大国主命がいいなあ。大黒天でもいいかも。
 そう思ったが、この流れを壊す訳にはいかない。これまでの三本の聖剣が各神話の主神の御名前だったのだから、私もそれに倣うべきだろう。

「よし、決めた。あの刀の名前はアマテラスにしよう」

 懸けまくも畏き天照大御神。どうか、その御威光を此なる世界の遍く大地に齎し給えと、かしこかしこもうす。
 ──と奏してみたものの。ゲームの世界にいる私の声が届く訳もなく。
 勝手に御名前を拝借致しました事については、天照大御神の寛大な御心で許していただけるよう祈ろう。
 その時。あの刀に異変が起きた。

「……っ?!」
「剣が光って──!?」

 彼等の驚愕の正体は、アマテラスより放たれた謎の光。しかし程なくしてそれは収束し、彼等の手から刀は姿を消していた。
 それに二人は困惑して辺りをキョロキョロと見渡す。そして、ある一点を見てほぼ同時に固まった。
 ──私を見て、ミカリアとリードさんはピタリと止まったのだ。

「……なるほどね。名付けたから召喚可能になったと」

 アマテラスが白夜のように我が手元に飛んで来たものだから、急激な重みに少し戸惑ってしまう。
 白夜は重量操作のお陰でかなり軽いのだが、この刀にはそれがない。なのでちゃんとその重さに耐えなければならないのだが……これ使えばいい筋トレになるかも! と私は楽観視していた。

「あ。姫さん、ちょーっと失礼しますね」
「いいけど……どうしたの?」
「能力の確認っすよ。てな訳でちょっと視させていただきますよっと」

 そう言うやいなや、師匠はじっとアマテラスを観察する。その横顔には真剣の二文字が宿っているかのようで、一体師匠は何をしているのかと、何か知ってそうなシルフの方を見た。
 そんな私の思惑を察してか、シルフはおもむろに口を切る。

「鍛治が趣味だからかいつの間にか変な鑑識眼を持ってたらしいよ。見るだけで武器の状態や能力が分かるんだってさ」
「何それ凄い」

 いやはや、なんというチートなのか。

「ふむふむ……これはまた…………」

 どうやら鑑定が終わったらしい。師匠は苦笑しつつこちらを見て、更に続ける。

「姫さんがどういう意図でアマテラスって名前をつけたのか俺には分かりませんが……多分その言葉はヤバい意味の言葉なんでしょうね」

 うちの主神様がヤバい意味扱いされてるわ。申し訳ございません天照大御神! でもなんで?

「ど、どういう意味? 私はただ尊い御名前を拝借しただけなんだけど……」
「尊い御名前……成程なー、そりゃこうもなるか」

 師匠は納得したとばかりにため息を一つ。
 そして、刀を指差した。

「アマテラスの能力──それはありとあらゆる悪を滅する光の力。言うなれば、“太陽顕現”ってところですかね」
「「太陽顕現……!?」」

 あまりにも的を射たその能力名に、私とカイルは目を丸くして声を揃える。天照大御神の説明なんて一切していないのに、太陽という言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

「その刀剣トーケンで斬った悪は例外なく消滅・・する・・でしょう。ただ、この場合の悪ってのは姫さんの主観にるので、姫さんが悪性だと感じていないのならば対象は消滅を免れるかと。まー、傷が深けりゃ普通に死にますけどね」

 そこはまあ、聖剣なので。と師匠は軽く笑う。
 どこか既視感のある恐ろしい能力──……。
 アマテラスに宿ったその力に恐れおののいていると、ミカリアが何かに気づいたように声を上げた。

「僕が昔考えた、神聖十字臨界セイクリッド・ペトロと似たような能力……という事でしょうか。精霊様」
「あー……それあれだろ、竜種の呪いをなんとかしたってやつ。ルチアロがなんか騒いでた気がするわ」

 既視感の正体はそれか! 確かに、数年前にリードさんが例の魔法を説明する時──

『あれはね、裁きの魔法だ。範囲内のありとあらゆる悪を排除する……呪いも、毒も、病も、人さえも……その裁定を下すのは僕じゃなくて、主だから……主が悪と断じたものすべてが、この世から消失する、そういう魔法なんだ……』

 ──って、ほとんど似た内容を話していた!
 つまり。あの竜の呪いすら打ち消せるとんでもない光魔法と同等の能力を保持する聖剣を、私は手に入れてしまったと。
 大量の魔力を使わずとも──そもそも光の魔力を持たずとも、擬似神聖十字臨界セイクリッド・ペトロが使用出来るなんてコスパ最強では……?
 広範囲に一気に使える魔法とは違い、刀だからそりゃあ一度に能力を使える数は限られる。だがその手間暇を差し引いてでもおつりが来るレベルだよねこの性能?!

「では、僕の予測は間違いないと?」
「そーだろーよ。姫さんの剣は名付けた瞬間意味不明なぐらい神性を宿したからな。まるで──姫さんに元から神々とのつながりがあって、名付けた瞬間に姫さんを介してその神性が流れ込んだみたいだ」

 そう呟いた直後ハッと息を呑んだ師匠は、シルフを横目に見て「まあ、シルフさんに寵愛されてるんで無いとも言い切れませんけど」と薄ら笑う。
 それにシルフはカチンときたのか、「は? ボクをあの老害共と一緒にするなエンヴィー」とドスの効いた声で凄んでいた。
 これこそが師匠の言うハラスメントなんだろうな……と心の中で合掌し、刀に視線を落とす。
 少しばかり鞘から抜いてみると、およそ刀とは思えない青い刀身が光を反射し煌めいた。
 ──なんだこれ。宝石みたいなんだけど。これ本当に刀?

「なあなあアミレス、俺もそれ触っていい? 抜刀アクションとかしていい?」
「いいよ。真剣だし危ないから気をつけてね」
「やった~~~~!!」

 はしゃぎ方が小学生すぎる。
 刀を渡した瞬間に目をキラキラ輝かせて、カイルはキャッキャキャッキャと刀を振り回す。いや危ないなおい。

「これが本物の刀の重み……っ、模造刀とはやっぱ違ぇなぁ! 土方さんもこんな感じであいつを振ってたのかな~~!」

 ……うん? 今こいつなんて言った?

「ねぇカイルさん。ちょっと聞きたいのだけど……貴方、好きな刀は何?」
「え? 和泉守兼定ですけど」
「付喪神とかって好きかしら?」
「人外系男子も大好きですけど」
「…………」
「…………?」

 はぁ……そういう事か。突然カイルがシルフ達に日本刀の図面を渡した理由がよーく分かった。
 このオタクくんは──推し刀を再現する為にシルフ達に鍛刀を頼んだのだろう。なんと小賢しい……だが私もちょっとテンション上がってるから許す。
 しかし、和泉守兼定ねぇ。だからあの刀は打刀なのか。
 相変わらず才能の無駄遣いというか、記憶力の無駄遣いというか。自分のありとあらゆる能力をオタ活に使うのどうかと思うわよ、本当に。
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