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第四章・興国の王女
441.終幕 興国の王女
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フリードルはどうやら気が触れたらしい。
いや、まあ……ミシェルちゃんに出会ってない今、婚約者がどうのと周りから散々せっつかれた結果、なんか丁度使えそうなのが身内に居たわ。って考えてもおかしくはない。
だって、あいつは妹ですらゴミのように棄てるやばい男だったから。
そういう事なのかって私も思ってた。だけどどうやら──あの男は私を愛しているらしい。
本当の本当に、フリードルは変わったのだ。……正直、何で変わったのかまったく心当たりがなくてただ怖くて仕方無いのだけど。
というか……愛してるから我慢出来ないとか、僕の子供孕めってやばすぎるでしょ。頭ぶっ飛んでんじゃないの?
そんな事を考えつつ、私は猛ダッシュで会場に戻っていた。
その途中で鏡を見て額のどデカいたんこぶと、その他ビフォーアフターに気がついた私は、このまま戻れば絶対何かあったと皆にバレると思ったのだ。
泣いた所為で化粧は崩れ、髪も服もぐちゃぐちゃに。そしてやはり極めつけはこの額。どう考えても何かあったと匂わせる状態だ。
こんな姿で皆の元に戻って、果たして上手く誤魔化せるのだろうか。
実の兄妹でそのような一悶着があったなど、醜聞でしかない。だから絶対に隠し通さねばならないと鏡の前でウロウロしながら熟考した末、私は白夜を呼び出した。
近くの空き部屋にて、慣れた動作で準備を行いお決まりの呪文を唱える。
「星を燃やして命を輝かせよ」
すると、もう見慣れたものだが魔法陣がぶわっと燃えて光の柱を作り出し、頼れる師匠を召喚──……。
「よりにもよって今か…………はぁ、タオル取んの間に合ってよかったァ……」
光が散って現れたのは、水も滴る半裸のイケメン。
いつもと違い下ろされた赤い長髪は水に濡れており、その鍛え上げられた肉体にしがみついているかのよう。
ほんのり蒸気を纏う全身と、赤らんだ肌。師匠からふわりと漂ってくる薔薇系統の香りが、鼻をくすぐる。
唯一の衣類となっている、腰に巻かれた随分と心許ないタオル。その逞しい胸元にはタトゥーのような……星空のように煌めく淡い光による刻印らしきものがある。
これは、つまり。私は──入浴中の師匠を召喚してしまったのでは?
「っごめん師匠! まさか入浴中だとは思わず!!」
「仕方無いっすよ、俺が精霊界で何してるかなんて姫さんには分かりっこなかったんですから。寧ろ、こんなだらしない格好で姫さんの前に現れた事、申し訳なく思います」
「いやいやいやそんな事は! 私、自分に全然つかないぶん、人の筋肉見るの結構好きだし!?」
何を口走ってるのかしら。
「へぇー、そうなんですか。精霊の中には鍛えるのが趣味な奴も多いんで、姫さんにとって眼福だとは思いますよ、精霊界」
「わあ、そうなんだ!」
「勿論俺だっていますしね」
相変わらずいい男だ。そんな感想を抱きつつ師匠をぼけーっと眺めていたら、
「……やっぱちょっと恥ずかしいっすね。そう体をまじまじと見られると」
師匠は視線を逸らすやいなや、変身するかのように服を着てみせた。しかも、それと同時に髪の毛が乾きサラサラになっている。何だかいつもより赤い髪が綺麗に見えるが、湯上りだからなのだろう。
その直前に「ちょっとだけなら大丈夫でしょ」と呟いていたが、素人目に見た限り不味そうな点は見当たらない。
なんならいつも以上に神々しく見えるその姿に惚けてしまったぐらいだ。
「服は元々服着てねーと変換されねーのがこの召喚の難点なんだよなぁ……って、どうしました? そんなぼーっとしちゃって」
「はっ! その……師匠がいつもと違う雰囲気で、改めてかっこいいなと思って……」
普段の師匠が気のいいあんちゃんだとすると、今の師匠はどこかの王族かのような雰囲気さえ漂わせる。
こう言ってはなんだが……どこぞの変態皇帝よりも、うちの師匠の方が遥かに中華系文化の国の皇帝っぽい。
「──そうですか? まーこの格好は人間界じゃ滅多に出来ないんで、見たいなら是非とも精霊界に来てくださいな」
しゃがみ込んで、師匠は明るく笑う。その笑顔はいつもの師匠らしいものだった。
……それにしても、どうして師匠はなんでも精霊界の話題に繋げるんだろう。
まあ、死ぬまでに一度は行ってみたいけどね、精霊界。シルフも師匠も凄い綺麗な場所だって言ってたし。
「って、そうだ師匠。急に呼び出したのには訳がありまして!」
本題をすっかり忘れていた。
「そうでしょーね。姫さんが訳も無く俺を呼んでくれる筈がないので」
「……? それでね、師匠の口の固さを見込んでお願いしたいの。シルフ達の所に行って、ちょっと体調が悪くなって来たから私は先に東宮に戻ったって伝えて欲しいんだけど」
どうせもう国際交流舞踏会は終わる。
私達のパフォーマンスの後、皇帝による閉会宣言でこの一大イベントは幕を下ろすのだ。ならば既に閉会している可能性もある。
たとえ舞踏会が終わっても、私が戻るまでシルフ達は待っていてくれる事だろう。しかし今の私は皆の前に顔を出せない。なので、シルフ達への伝言を師匠に頼みたいと思ったのだ。
「成程。ま、俺は出来る男なので訳は聞かないでおきましょう。でもね、姫さん。これだけは覚えておいてください」
師匠はなめらかな動きで顔を寄せて来た。彼の程よく低い美声が、私の耳をそっと撫でる。
「どんな生き物でも……案外、好きな匂いってモンは覚えているものでして。それに変なのが混ざっていればすぐに気づくし、隠されてたって事にも気づいてもどかしい気持ちになるんですよ」
何の話だろう。と頭に疑問符を浮かべていたところ、おもむろに立ち上がった師匠は「それじゃあ姫さんを東宮まで送りますか」と私を抱え、窓から飛び出した。
ここ四階────!! と喉まで叫び声が出かかったものの、それは師匠の笑い声によって阻止された。
「ははは! びっくりさせちゃいましたかね。大丈夫ですよ、姫さん。目ェ開けてみてごらん」
「……え? 何、これ」
私を抱えたまま、師匠は謎の鳥に乗っていた。
全身が赤く燃え盛る鳥。鳳凰のような見た目である為、師匠の神々しさが増す。
「俺のペットみたいなものですよ。精霊獣って言いまして」
「精霊獣……ってあの精霊獣? ほぼ幻扱いされてる、あの?」
「そっすね。滅多に精霊界から出ないんで、人間界にはその名前しか伝わってないみたいですけど」
昔ハイラの授業で少しだけ出てきた幻の存在、それが精霊獣。その珍しさで言えば、高位悪魔に匹敵するとか。
「ちなみに名前はランタンです」
「ランタン」
「はい。赤い鳥→あかいとり→あかり→ランタン! みたいな」
「……ふふっ、ちょっと師匠っぽいかも」
どこからどう見ても不死鳥っぽい師匠のペット、ランタンの背はとても快適だった。
まず何より温かい。歩く暖炉の師匠に勝るとも劣らずランタンもとても温かい。燃えてるんだから当たり前だけど。
そんな彼等の熱で雪は溶け冷風は跳ね除けられるので、吹雪の中なのにびっくりする程快適な空の旅だった。
東宮に着くと、お留守番だったナトラが驚いたように出迎えてくれた。セツも走って飛びついてきて、その後ゆっくり現れたクロノからは「せっかくナトラとのんびりしてたのに……」と文句を言われてしまったが。
そんなナトラ達に額のたんこぶの事を内緒にするよう頼んで自室に戻り、後の事は師匠に任せて寝台に飛び込んだ。
長いようで短い国際交流舞踏会は終わり、あと数日もしないうちに年が明ける。
そしたらすぐに私の誕生日があって、そして──、
「……ゲームが、始まっちゃうのか」
私の生死がかかった一年が幕を明ける。
アミレス・ヘル・フォーロイトになってから八年。これまでやって来た事が無駄ではなかったと、生き延びる事で証明しないと。
「頑張ろうね、アミレス。きっと大変な事ばかりだろうけど、二人でならきっと……きっと、頑張れるよ」
私の幸せの為に。
アミレスの幸せの為に。
努力しか取り柄のない私は、とにかく頑張ろう。
だって──。
「死にたくなんて、ないもんね」
目蓋を閉じる。
ゆっくりと眠りにつき、夢の中で懐かしい声を聞いた。
『……──おやすみ、愛しい我が子。君のこれからに、幸多からん事を』
♢♢
姫さんに頼まれた伝言とやらを済ますべく、俺はあの宮殿に戻った。
色々と隠せって言われたが、きっと俺が隠したところで無意味だ。シルフさんなら絶対に、姫さんの匂いに混ざったクソ野郎の匂いに気づく。
それについて後から尋問される事になっても、俺しーらない。
姫さんの頼みはちゃんと遂行しますから。それ以外の事はちょっと業務外ッスねー。
「あ、いたいたシルフさーん」
「エンヴィー? ……って、何その格好。ここ人間界だぞ」
「まー色々とありまして。全力で魔力とか抑えてるんで見逃して下さいませ。で、こっからが本題なんですが。姫さんから伝言預かってるんで、それを言いに来ました」
「は? 何でお前がアミィから伝言預かるんだよ」
「いだだだだだ! 頭! 割れる!!」
相変わらずの理不尽の極み。
これが、我等が精霊王である。
「で、アミィはなんて言ってたの」
「いたた……えーっと、体調が悪くなったから先に東宮に戻るそうです」
「はァ? こんなクソ騒々しい場所で待ってやってたのに、オレサマ達の事置いて帰りやがったのか、アイツ。いい度胸してんなァ~~」
マジでうるせーなこの悪魔。コイツから引き離す為にも、姫さんには一刻も早く精霊界に来てほしいんだけどな……。
「じゃあボクも東宮に戻ろうかな。ああ、お前等もさっさと精霊界に帰れ」
「マスターったら相変わらずアタシ達の扱いが雑ね」
「エストレラちゃんの前で猫被りすぎやねんこのヒト」
「クク、役目を終えたのならば潔く退場すべきか」
姫さんの要望に応えて、我が王が精霊界から拉致って来た三体の最上位精霊達。それぞれ好きなタイミングで扉を開き、精霊界に戻っていった。
ミュゼリカの奴に至っては、姫さんの友達のローズニカって女の子に抱き着いて加護まで与えていやがった。
大した事ない加護みたいだがその行為に女の子がかなり困惑していたから、我が王も呆れた様子。
あんたも同じかそれ以上の事やってますけどね。……とは言えないのが、俺の立場の辛いところ。
さてさて。俺も仕事は終えたし、精霊界に戻って武器作りを再開しますか。
……──これで、姫さんの喜ぶ顔が見れるといいなあ。
いや、まあ……ミシェルちゃんに出会ってない今、婚約者がどうのと周りから散々せっつかれた結果、なんか丁度使えそうなのが身内に居たわ。って考えてもおかしくはない。
だって、あいつは妹ですらゴミのように棄てるやばい男だったから。
そういう事なのかって私も思ってた。だけどどうやら──あの男は私を愛しているらしい。
本当の本当に、フリードルは変わったのだ。……正直、何で変わったのかまったく心当たりがなくてただ怖くて仕方無いのだけど。
というか……愛してるから我慢出来ないとか、僕の子供孕めってやばすぎるでしょ。頭ぶっ飛んでんじゃないの?
そんな事を考えつつ、私は猛ダッシュで会場に戻っていた。
その途中で鏡を見て額のどデカいたんこぶと、その他ビフォーアフターに気がついた私は、このまま戻れば絶対何かあったと皆にバレると思ったのだ。
泣いた所為で化粧は崩れ、髪も服もぐちゃぐちゃに。そしてやはり極めつけはこの額。どう考えても何かあったと匂わせる状態だ。
こんな姿で皆の元に戻って、果たして上手く誤魔化せるのだろうか。
実の兄妹でそのような一悶着があったなど、醜聞でしかない。だから絶対に隠し通さねばならないと鏡の前でウロウロしながら熟考した末、私は白夜を呼び出した。
近くの空き部屋にて、慣れた動作で準備を行いお決まりの呪文を唱える。
「星を燃やして命を輝かせよ」
すると、もう見慣れたものだが魔法陣がぶわっと燃えて光の柱を作り出し、頼れる師匠を召喚──……。
「よりにもよって今か…………はぁ、タオル取んの間に合ってよかったァ……」
光が散って現れたのは、水も滴る半裸のイケメン。
いつもと違い下ろされた赤い長髪は水に濡れており、その鍛え上げられた肉体にしがみついているかのよう。
ほんのり蒸気を纏う全身と、赤らんだ肌。師匠からふわりと漂ってくる薔薇系統の香りが、鼻をくすぐる。
唯一の衣類となっている、腰に巻かれた随分と心許ないタオル。その逞しい胸元にはタトゥーのような……星空のように煌めく淡い光による刻印らしきものがある。
これは、つまり。私は──入浴中の師匠を召喚してしまったのでは?
「っごめん師匠! まさか入浴中だとは思わず!!」
「仕方無いっすよ、俺が精霊界で何してるかなんて姫さんには分かりっこなかったんですから。寧ろ、こんなだらしない格好で姫さんの前に現れた事、申し訳なく思います」
「いやいやいやそんな事は! 私、自分に全然つかないぶん、人の筋肉見るの結構好きだし!?」
何を口走ってるのかしら。
「へぇー、そうなんですか。精霊の中には鍛えるのが趣味な奴も多いんで、姫さんにとって眼福だとは思いますよ、精霊界」
「わあ、そうなんだ!」
「勿論俺だっていますしね」
相変わらずいい男だ。そんな感想を抱きつつ師匠をぼけーっと眺めていたら、
「……やっぱちょっと恥ずかしいっすね。そう体をまじまじと見られると」
師匠は視線を逸らすやいなや、変身するかのように服を着てみせた。しかも、それと同時に髪の毛が乾きサラサラになっている。何だかいつもより赤い髪が綺麗に見えるが、湯上りだからなのだろう。
その直前に「ちょっとだけなら大丈夫でしょ」と呟いていたが、素人目に見た限り不味そうな点は見当たらない。
なんならいつも以上に神々しく見えるその姿に惚けてしまったぐらいだ。
「服は元々服着てねーと変換されねーのがこの召喚の難点なんだよなぁ……って、どうしました? そんなぼーっとしちゃって」
「はっ! その……師匠がいつもと違う雰囲気で、改めてかっこいいなと思って……」
普段の師匠が気のいいあんちゃんだとすると、今の師匠はどこかの王族かのような雰囲気さえ漂わせる。
こう言ってはなんだが……どこぞの変態皇帝よりも、うちの師匠の方が遥かに中華系文化の国の皇帝っぽい。
「──そうですか? まーこの格好は人間界じゃ滅多に出来ないんで、見たいなら是非とも精霊界に来てくださいな」
しゃがみ込んで、師匠は明るく笑う。その笑顔はいつもの師匠らしいものだった。
……それにしても、どうして師匠はなんでも精霊界の話題に繋げるんだろう。
まあ、死ぬまでに一度は行ってみたいけどね、精霊界。シルフも師匠も凄い綺麗な場所だって言ってたし。
「って、そうだ師匠。急に呼び出したのには訳がありまして!」
本題をすっかり忘れていた。
「そうでしょーね。姫さんが訳も無く俺を呼んでくれる筈がないので」
「……? それでね、師匠の口の固さを見込んでお願いしたいの。シルフ達の所に行って、ちょっと体調が悪くなって来たから私は先に東宮に戻ったって伝えて欲しいんだけど」
どうせもう国際交流舞踏会は終わる。
私達のパフォーマンスの後、皇帝による閉会宣言でこの一大イベントは幕を下ろすのだ。ならば既に閉会している可能性もある。
たとえ舞踏会が終わっても、私が戻るまでシルフ達は待っていてくれる事だろう。しかし今の私は皆の前に顔を出せない。なので、シルフ達への伝言を師匠に頼みたいと思ったのだ。
「成程。ま、俺は出来る男なので訳は聞かないでおきましょう。でもね、姫さん。これだけは覚えておいてください」
師匠はなめらかな動きで顔を寄せて来た。彼の程よく低い美声が、私の耳をそっと撫でる。
「どんな生き物でも……案外、好きな匂いってモンは覚えているものでして。それに変なのが混ざっていればすぐに気づくし、隠されてたって事にも気づいてもどかしい気持ちになるんですよ」
何の話だろう。と頭に疑問符を浮かべていたところ、おもむろに立ち上がった師匠は「それじゃあ姫さんを東宮まで送りますか」と私を抱え、窓から飛び出した。
ここ四階────!! と喉まで叫び声が出かかったものの、それは師匠の笑い声によって阻止された。
「ははは! びっくりさせちゃいましたかね。大丈夫ですよ、姫さん。目ェ開けてみてごらん」
「……え? 何、これ」
私を抱えたまま、師匠は謎の鳥に乗っていた。
全身が赤く燃え盛る鳥。鳳凰のような見た目である為、師匠の神々しさが増す。
「俺のペットみたいなものですよ。精霊獣って言いまして」
「精霊獣……ってあの精霊獣? ほぼ幻扱いされてる、あの?」
「そっすね。滅多に精霊界から出ないんで、人間界にはその名前しか伝わってないみたいですけど」
昔ハイラの授業で少しだけ出てきた幻の存在、それが精霊獣。その珍しさで言えば、高位悪魔に匹敵するとか。
「ちなみに名前はランタンです」
「ランタン」
「はい。赤い鳥→あかいとり→あかり→ランタン! みたいな」
「……ふふっ、ちょっと師匠っぽいかも」
どこからどう見ても不死鳥っぽい師匠のペット、ランタンの背はとても快適だった。
まず何より温かい。歩く暖炉の師匠に勝るとも劣らずランタンもとても温かい。燃えてるんだから当たり前だけど。
そんな彼等の熱で雪は溶け冷風は跳ね除けられるので、吹雪の中なのにびっくりする程快適な空の旅だった。
東宮に着くと、お留守番だったナトラが驚いたように出迎えてくれた。セツも走って飛びついてきて、その後ゆっくり現れたクロノからは「せっかくナトラとのんびりしてたのに……」と文句を言われてしまったが。
そんなナトラ達に額のたんこぶの事を内緒にするよう頼んで自室に戻り、後の事は師匠に任せて寝台に飛び込んだ。
長いようで短い国際交流舞踏会は終わり、あと数日もしないうちに年が明ける。
そしたらすぐに私の誕生日があって、そして──、
「……ゲームが、始まっちゃうのか」
私の生死がかかった一年が幕を明ける。
アミレス・ヘル・フォーロイトになってから八年。これまでやって来た事が無駄ではなかったと、生き延びる事で証明しないと。
「頑張ろうね、アミレス。きっと大変な事ばかりだろうけど、二人でならきっと……きっと、頑張れるよ」
私の幸せの為に。
アミレスの幸せの為に。
努力しか取り柄のない私は、とにかく頑張ろう。
だって──。
「死にたくなんて、ないもんね」
目蓋を閉じる。
ゆっくりと眠りにつき、夢の中で懐かしい声を聞いた。
『……──おやすみ、愛しい我が子。君のこれからに、幸多からん事を』
♢♢
姫さんに頼まれた伝言とやらを済ますべく、俺はあの宮殿に戻った。
色々と隠せって言われたが、きっと俺が隠したところで無意味だ。シルフさんなら絶対に、姫さんの匂いに混ざったクソ野郎の匂いに気づく。
それについて後から尋問される事になっても、俺しーらない。
姫さんの頼みはちゃんと遂行しますから。それ以外の事はちょっと業務外ッスねー。
「あ、いたいたシルフさーん」
「エンヴィー? ……って、何その格好。ここ人間界だぞ」
「まー色々とありまして。全力で魔力とか抑えてるんで見逃して下さいませ。で、こっからが本題なんですが。姫さんから伝言預かってるんで、それを言いに来ました」
「は? 何でお前がアミィから伝言預かるんだよ」
「いだだだだだ! 頭! 割れる!!」
相変わらずの理不尽の極み。
これが、我等が精霊王である。
「で、アミィはなんて言ってたの」
「いたた……えーっと、体調が悪くなったから先に東宮に戻るそうです」
「はァ? こんなクソ騒々しい場所で待ってやってたのに、オレサマ達の事置いて帰りやがったのか、アイツ。いい度胸してんなァ~~」
マジでうるせーなこの悪魔。コイツから引き離す為にも、姫さんには一刻も早く精霊界に来てほしいんだけどな……。
「じゃあボクも東宮に戻ろうかな。ああ、お前等もさっさと精霊界に帰れ」
「マスターったら相変わらずアタシ達の扱いが雑ね」
「エストレラちゃんの前で猫被りすぎやねんこのヒト」
「クク、役目を終えたのならば潔く退場すべきか」
姫さんの要望に応えて、我が王が精霊界から拉致って来た三体の最上位精霊達。それぞれ好きなタイミングで扉を開き、精霊界に戻っていった。
ミュゼリカの奴に至っては、姫さんの友達のローズニカって女の子に抱き着いて加護まで与えていやがった。
大した事ない加護みたいだがその行為に女の子がかなり困惑していたから、我が王も呆れた様子。
あんたも同じかそれ以上の事やってますけどね。……とは言えないのが、俺の立場の辛いところ。
さてさて。俺も仕事は終えたし、精霊界に戻って武器作りを再開しますか。
……──これで、姫さんの喜ぶ顔が見れるといいなあ。
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