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第四章・興国の王女

437,5.ある側近の不安

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「──なんだ、あれは」

 王女殿下とカイル・ディ・ハミルの革新的なパフォーマンスは、大成功と言えよう。
 彼女ならばきっと、何かやってのけると思ってはいたが……まさかここまでとは。
 鮮烈で、眩くて。流れ星のように、彼女達は一瞬の間に爆発的な輝きを見せつけてきた。それは例外無く、この会場にいた誰しもの脳裏に焼き付いた事だろう。

「どうされましたか、陛下?」
「みなまで言わずとも分かるだろう。何故、あの女が道化の真似事をしているんだ」
「……わたし、一昨日説明しましたよ? 魔塔の方で事件が起きたので、王女殿下に代打を頼んだ──と」
「私は聞いてないが」
わたしは言いましたけどね……」

 相変わらず人の話を聞かないなあ、この人。

わたしも詳しい話は聞いてなかったんですが、これは一本取られてしまいましたね。まさかこのような凄まじい公演ライブをされるとは」
「お前、腑抜けたのか? 横の男……あれはハミルディーヒのガキだろう。何故あの女は、敵国の王子とあのような奇天烈な事をしでかしたのかと私は聞いているんだ」

 うーん、みなまで言って欲しいですねぇ。
 わたしが心を視透かせるからって、その能力に頼りすぎじゃないですか? 我が親愛なる陛下は。

「まあ、盛り上がってるのですから良いではありませんか。これを切っ掛けに、我が国の芸術分野が更に発展するかもしれませんし」
「…………チッ」

 不機嫌がそのまま乗せられた舌打ちは、いつも以上に強烈な音だった。

「それでは、わたしは少々彼女達の元に向かいますね。何だか──嫌な予感がしますので」

 早く、王女殿下の元に。……そう本能が騒ぎ立てる。
 それが何故なのかは分からないが、とにかく下階に見える彼女の元に向かいたい。その為に踵を返した途端、

「誰の許可を得て勝手な行動をしようとしているんだ、ケイリオル」

 エリドルに腕を引っ張られて体は倒れ、恐ろしい事に彼の膝の上に乗る事となってしまった。
 いくつになろうとも、どうして彼の馬鹿力は衰える事を知らないのか……。

「貴方の許可ですよ、陛下。王女殿下に関する全権をわたしに委任したのは貴方でしょう?」
「お前は、パーティー嫌いの私を置いてどこかに行くと? あの女如きの為に私の傍を離れると? そう、お前は宣うか」

 面倒臭いなこの人。
 別にいいけどさ、これがエリドルだし。

「仕事ですよ、しーごーとー。貴方がわたしに押し付けて下さった仕事がまだまだ山のように積み上がっているのです。なのでこの手、放していただけます?」
「……皇帝相手になんという口の利き方なのか。お前でなければ不敬だとこの場で首をはねていたぞ」
「はは、そうでしょうね」

 軽口を叩きつつ、エリドルの膝から降りて王女殿下の元に向かう。その際、背中に彼の突き刺すような視線が送られていたが、とりあえず無視した。
 ──そう言えば、フリードル殿下の様子が変でしたが……大丈夫でしょうかね。
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