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第四章・興国の王女
436.ドロップ・アウト・スター3
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「振り考えて覚えるのに時間割きてぇから、歌詞と曲はパパっと作るか。衣装は……最悪私服使えば何とかなるやろ。王子様系アイドルが着てそうな服とか、普通に持ってるし」
「それもそうね。それじゃあ早速作曲の方を……」
手書きの五線譜をいっぱい用意して、私達はまずコンセプトやジャンルを考えた。
コンセプトは『驚きと感動を』。ジャンルは『王道キラキラアイドル』になった。
その前提でああだこうだと言いながら作曲を始め、十分程が経った頃。
ティーパーティーの片付けを終えたアルベルト達が東宮に戻ってきて、また訳の分からない事を企んでいる私達を見て怪訝な顔をしていた。
その更に数分後には、シルフとシュヴァルツも戻ってきた。
私の頼み事も無事に聞き届けてくれたらしく、彼等の横にはいくつもの楽器──と、テンディジェル兄妹と、私も知らない顔がいくつか。
そちらの方々の紹介は、連れて来た張本人たるシルフからされた。
「この頭お花畑っぽい女がミュゼリカ。こっちの性格悪そうなのがハノルメ。この胡散臭いのがウィダン。ボクの知り合いの楽器が演奏出来る面々を連れて来たよ」
「きゃ~~っ! アタシの可愛い歌姫ちゃんと、マスターのお姫様ちゃんよね? 会いたかったわあ!」
「エンヴィーから散々話は聞いとったけど……想像以上の可愛さやな、エストレラちゃんは」
「──クク、お初にお目にかかります。我らが母となるレディ。こうしてレディの美しさをこの目に焼き付ける事が出来て、恐悦至極にございますれば」
精霊さん達が次々に話すものだから、半分ぐらい内容が聞き取れなかった。
そんな衝撃の出会いを経て、私は皆に事の経緯を話す。アイドルという部分は誤魔化しつつ、私とカイルで歌って踊ってパフォーマンスをするつもりだと説明したところ、シルフ達精霊さんも協力してくれる事になった。
テンディジェル兄妹をはじめとした楽器を演奏出来る面々には、楽曲の生演奏を頼みたい。
何せこの世界には録音技術もそれを再生する技術もない。
似たような機能の魔導具があるにはあるが、音質は中々の酷さであり、到底、国際交流舞踏会最終日を飾れるものではないのだ。
なので生演奏に頼るしかなく、アイドルソングをこの世界で再現する為に、何種類のも楽器とその奏者が必要となった。
その為に、シルフとシュヴァルツには楽器の準備と奏者捜しを頼んだという訳だ。
こうして、見切り発車の超強化合宿が敢行された。
ほんの数日で全てを用意するという無茶な計画だったが、寝る間も惜しんで制作に取り掛かった。作曲して、作詞して、振り付けを考えて、歌詞とダンスを覚えて。
正直な話、私とカイルそれぞれの記憶力や身体能力がどちらかだけでも欠けてたら不可能だった事だろう。
衣装は私服をアルベルトと師匠に改造してもらい、奏者陣にも急いで譜面を覚えてもらった。私の仕事はシルフやシュヴァルツが肩代わりしてくれたし、細かいお手伝いをナトラ達侍女勢がしてくれたのだ。
本当に、皆の協力なくしてこの超強化合宿は意味を成さなかった。
皆との絆──それを強く感じた数日間だった。
♢♢♢♢
来たる国際交流舞踏会最終日。
朝から水晶宮ではノンストップでパーティーが繰り広げられ、長いようで短かった舞踏会の終わりを絢爛豪華に彩る。
その為、なんとあのパーティー嫌いの皇帝が常に会場にいた。そんな会場に『私』がいられる訳もなく。
この舞踏会で特定の誰かと踊る事はほとんどなかったというのに、今日は何故かフリードルと踊る事になったようで、入れ代わる時にアミレスがとても嬉しそうにしていた。
入れ代わる度に彼女にばかり負担がかかり、目に見えて疲弊していってたが、それでもフリードルと会話が出来たと子供のように喜んでいた。
ヴェールを被り、皇帝の近くにいる間はそうやってアミレスに対応を任せつつ……私達の出番が近づいた月夜の頃。
野暮用がと適当な理由をつけて会場から離脱。そこでようやく私も表に出て、公演の準備に向かった。
元々用意しておいた控え室で衣装に着替え、アルベルトに頼んでヘアセットもする。
会場には皇帝がいるので顔を隠す必要があるのだが、それではアイドルが成り立たない。
どうするかとカイルと話し合った結果、二つで一つの仮面になるものを一つずつ着けようか。という事になり、取り急ぎその仮面を制作。衣装の雰囲気も損なわないようなお洒落な仮面を着ける事が出来た。
他にも、カイルが既存の拡声魔導具を改造してヘッドマイクを作ってくれたので、会場に声が届かない心配はなくなった。
スポットライトや銀テープのようなライブ上の演出は、シルフとシュヴァルツが曲風に合わせていい感じに構成し提案してくれたので、思い切って二体にお任せする事に。
テンディジェル兄妹をはじめとした奏者陣も統一感のある服装に着替え、私同様こっそり会場を抜け出して来たカイルの準備も済み、後はいざその時を待つだけとなった。
皆と最後の打ち合わせをしつつ、ケイリオルさんが呼びに来るのを待つ事二十分程。
ついに、その時はやって来た。
「失礼致します。王女殿下、そろそろ例の時間なのですが……」
「はい、今行きます」
ノックと共に現れたケイリオルさんを見つめ、先陣を切るように立ち上がっては部屋をぐるりと見渡す。
「それじゃあ──皆、とにかく楽しもうね」
そう告げると、これに同意するように彼等は頷いた。
そして、私達は満を持して会場に戻る。
あまり人の出入りのない扉から、一度は姿を消した王女がぞろぞろと美形達を引き連れて現れたものだから、流石に注目が集まる。
王子様系のキラキラなズボンスタイルの衣装と仮面も相まって、さぞかし今の私は変人だろうから、仕方無いとも思う。
そんな私の隣に敵国の王子がいる事も、注目を集める要因の一つなのだろう。
「そんじゃ、まぁ、いっちょ仲良しアピールといきますか」
「最高のアイドルタイムをお届けするわよ」
所定の位置に立ち、奏者陣も姿勢を正して楽器を構える。
「それでは……これより国際交流舞踏会最終演目──アイドルユニット“ドロップ・アウト・スター”によるスペシャルライブを開演致します」
直前で渡したカンペをケイリオルさんがしっかりと読み上げる。
聞き慣れない単語に首を傾げる者達が大半だが、関係無い。
私達を知る人も、知らない人も関係無くこの一時を楽しんでくれるよう、私達は最善を尽くすまでだ。
「私達の歌、聞いて下さい。──“絶対ハッピーエンド計画”!」
それではいざ、ライブスタート!
「それもそうね。それじゃあ早速作曲の方を……」
手書きの五線譜をいっぱい用意して、私達はまずコンセプトやジャンルを考えた。
コンセプトは『驚きと感動を』。ジャンルは『王道キラキラアイドル』になった。
その前提でああだこうだと言いながら作曲を始め、十分程が経った頃。
ティーパーティーの片付けを終えたアルベルト達が東宮に戻ってきて、また訳の分からない事を企んでいる私達を見て怪訝な顔をしていた。
その更に数分後には、シルフとシュヴァルツも戻ってきた。
私の頼み事も無事に聞き届けてくれたらしく、彼等の横にはいくつもの楽器──と、テンディジェル兄妹と、私も知らない顔がいくつか。
そちらの方々の紹介は、連れて来た張本人たるシルフからされた。
「この頭お花畑っぽい女がミュゼリカ。こっちの性格悪そうなのがハノルメ。この胡散臭いのがウィダン。ボクの知り合いの楽器が演奏出来る面々を連れて来たよ」
「きゃ~~っ! アタシの可愛い歌姫ちゃんと、マスターのお姫様ちゃんよね? 会いたかったわあ!」
「エンヴィーから散々話は聞いとったけど……想像以上の可愛さやな、エストレラちゃんは」
「──クク、お初にお目にかかります。我らが母となるレディ。こうしてレディの美しさをこの目に焼き付ける事が出来て、恐悦至極にございますれば」
精霊さん達が次々に話すものだから、半分ぐらい内容が聞き取れなかった。
そんな衝撃の出会いを経て、私は皆に事の経緯を話す。アイドルという部分は誤魔化しつつ、私とカイルで歌って踊ってパフォーマンスをするつもりだと説明したところ、シルフ達精霊さんも協力してくれる事になった。
テンディジェル兄妹をはじめとした楽器を演奏出来る面々には、楽曲の生演奏を頼みたい。
何せこの世界には録音技術もそれを再生する技術もない。
似たような機能の魔導具があるにはあるが、音質は中々の酷さであり、到底、国際交流舞踏会最終日を飾れるものではないのだ。
なので生演奏に頼るしかなく、アイドルソングをこの世界で再現する為に、何種類のも楽器とその奏者が必要となった。
その為に、シルフとシュヴァルツには楽器の準備と奏者捜しを頼んだという訳だ。
こうして、見切り発車の超強化合宿が敢行された。
ほんの数日で全てを用意するという無茶な計画だったが、寝る間も惜しんで制作に取り掛かった。作曲して、作詞して、振り付けを考えて、歌詞とダンスを覚えて。
正直な話、私とカイルそれぞれの記憶力や身体能力がどちらかだけでも欠けてたら不可能だった事だろう。
衣装は私服をアルベルトと師匠に改造してもらい、奏者陣にも急いで譜面を覚えてもらった。私の仕事はシルフやシュヴァルツが肩代わりしてくれたし、細かいお手伝いをナトラ達侍女勢がしてくれたのだ。
本当に、皆の協力なくしてこの超強化合宿は意味を成さなかった。
皆との絆──それを強く感じた数日間だった。
♢♢♢♢
来たる国際交流舞踏会最終日。
朝から水晶宮ではノンストップでパーティーが繰り広げられ、長いようで短かった舞踏会の終わりを絢爛豪華に彩る。
その為、なんとあのパーティー嫌いの皇帝が常に会場にいた。そんな会場に『私』がいられる訳もなく。
この舞踏会で特定の誰かと踊る事はほとんどなかったというのに、今日は何故かフリードルと踊る事になったようで、入れ代わる時にアミレスがとても嬉しそうにしていた。
入れ代わる度に彼女にばかり負担がかかり、目に見えて疲弊していってたが、それでもフリードルと会話が出来たと子供のように喜んでいた。
ヴェールを被り、皇帝の近くにいる間はそうやってアミレスに対応を任せつつ……私達の出番が近づいた月夜の頃。
野暮用がと適当な理由をつけて会場から離脱。そこでようやく私も表に出て、公演の準備に向かった。
元々用意しておいた控え室で衣装に着替え、アルベルトに頼んでヘアセットもする。
会場には皇帝がいるので顔を隠す必要があるのだが、それではアイドルが成り立たない。
どうするかとカイルと話し合った結果、二つで一つの仮面になるものを一つずつ着けようか。という事になり、取り急ぎその仮面を制作。衣装の雰囲気も損なわないようなお洒落な仮面を着ける事が出来た。
他にも、カイルが既存の拡声魔導具を改造してヘッドマイクを作ってくれたので、会場に声が届かない心配はなくなった。
スポットライトや銀テープのようなライブ上の演出は、シルフとシュヴァルツが曲風に合わせていい感じに構成し提案してくれたので、思い切って二体にお任せする事に。
テンディジェル兄妹をはじめとした奏者陣も統一感のある服装に着替え、私同様こっそり会場を抜け出して来たカイルの準備も済み、後はいざその時を待つだけとなった。
皆と最後の打ち合わせをしつつ、ケイリオルさんが呼びに来るのを待つ事二十分程。
ついに、その時はやって来た。
「失礼致します。王女殿下、そろそろ例の時間なのですが……」
「はい、今行きます」
ノックと共に現れたケイリオルさんを見つめ、先陣を切るように立ち上がっては部屋をぐるりと見渡す。
「それじゃあ──皆、とにかく楽しもうね」
そう告げると、これに同意するように彼等は頷いた。
そして、私達は満を持して会場に戻る。
あまり人の出入りのない扉から、一度は姿を消した王女がぞろぞろと美形達を引き連れて現れたものだから、流石に注目が集まる。
王子様系のキラキラなズボンスタイルの衣装と仮面も相まって、さぞかし今の私は変人だろうから、仕方無いとも思う。
そんな私の隣に敵国の王子がいる事も、注目を集める要因の一つなのだろう。
「そんじゃ、まぁ、いっちょ仲良しアピールといきますか」
「最高のアイドルタイムをお届けするわよ」
所定の位置に立ち、奏者陣も姿勢を正して楽器を構える。
「それでは……これより国際交流舞踏会最終演目──アイドルユニット“ドロップ・アウト・スター”によるスペシャルライブを開演致します」
直前で渡したカンペをケイリオルさんがしっかりと読み上げる。
聞き慣れない単語に首を傾げる者達が大半だが、関係無い。
私達を知る人も、知らない人も関係無くこの一時を楽しんでくれるよう、私達は最善を尽くすまでだ。
「私達の歌、聞いて下さい。──“絶対ハッピーエンド計画”!」
それではいざ、ライブスタート!
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