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第四章・興国の王女

435.ドロップ・アウト・スター2

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 その足で談話室に向かったところ、丁度カイルも今しがた到着したらしく、高級感溢れるコートを脱いでいるシーンに直面した。

「……──で、お前がわざわざ連絡寄越してまで俺を頼るって何事? 詳細はよ」

 長椅子ソファで向かい合って座り、早速本題に移る。

「とりあえず三行で説明するわね。一、舞踏会運営側でやばめのトラブル発生。二、このままだと舞踏会が台無しになる。三、色々出来る私に白羽の矢が立った。──って感じです」
「確かに俺は今来たけどそこは普通に説明してくれよ。どんだけ生き急いでるんだよお前」
「仕方無いでしょう、正気を疑うようなとんでもないスケジュールなのよ」
「へー、ちな締切デッドラインいつよ?」

 腕を組みながら、カイルは呆れた顔をする。
 そんな彼に、私はこれから絶望を突きつけるのだ。

「四日後」
「ふむふむ四日後ね。…………え? 四日後?」
「はい。国際交流舞踏会最終日のフィナーレを飾るパフォーマンスをする事になりまして」

 激ヤバ緊急重大案件をお伝えしたところ、カイルの顔から色が抜け落ちた。見事な絶望顔である。

「────帰っていいっすか?」

 関わりたくねぇ、と顔に書いてある。

「手伝ってくれるって言ったじゃん!!」
「おいやめろ服を引っ張るな! その反射神経と身体能力を無駄に発揮するな!!」
「だってカイルが手伝ってくれるって言ーったーんーだーもーんーー!!」
「おまっ……そんな風に駄々こねる事出来たのかよ!? こんな事で知りたかなかったわ!」

 逃げ出そうとするカイルの服を掴み、全体重をかけて何とか逃亡を阻止しようとする。
 どれだけ血管が浮かび腕が震えようとも、やはり男の人の力には敵わない。カイルは私の妨害などお構い無しにじりじりと動く。
 そんなギリギリの戦いもそう長くは続かなかった。カイルが折れてくれたので平和的に決着がついたのだ。

「あー……話を纏めるとこんな感じか。国際交流舞踏会のフィナーレを飾るパフォーマンスをあと四日で用意する必要があり、一人じゃ難しいから俺に手伝って欲しいと」
「その通りです。何卒、何卒!」
「もういいってそのノリ。乗り掛かった船だ、沈む時まで付き合うさ。元よりそのつもりだからな」
「かいるぅ……っ!」

 乱れた服を正しつつ、彼は優しく笑う。カイルが前向きになってくれただけで、どっと安心感が押し寄せた。
 本当に頼りになるなあ、カイルは。

「……はぁ。お前ってほんっとにズルいよなぁ、色々と」
「ズルさで言えば貴方のがチートじゃない」
「そーゆー意味で言ったんじゃありませーん」

 そう茶化すように言い、カイルは真剣な面持ちで話題を戻した。

「そんで、何するつもりなんだよ。準備期間なんて実質三日しかないぞ」
「ふっふっふ……実は私にいい案があるのです!」
「ほほう? よかろう、言ってみたまえ同志アミレス氏」
「は! その案とはズバリ──アイドル・・・・よ!!」

 私の思いついた案、それはアイドルソングだった。
 少なくともこの世界には存在しない未知の音楽うた。それならば人々の興味関心と驚愕を誘える事だろうと、私は思ったのである。
 いやー、天才出ちゃったかしら?

「アイドルって……俺の知ってるあのアイドル? やたらと闇が深いアイドルの卵達がそれでも輝く為にと必死に足掻き続ける……あのアイドルです??」
「それ絶対何かのゲームの話でしょ。まあ、そのアイドルである事に間違いはありません。アイドルをやろうと思うのよ、私と貴方で」
「…………俺もやんの?」
「うん。だって一人じゃ心細いもの」
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」

 顔に手を当て、カイルは空気を全て吐き出す勢いのため息と共に項垂れた。

「わかったよ。やればいいんだろ、アイドル! 言っておくが俺はこれでも作曲家もマネージャーもPもプロデューサーも経験済みだからな! 生半可な完成度では終わらせねぇぞ」
「Pとプロデューサーって同じじゃないの?」
「別ですぅ!! Pプロデューサーと『プロデューサー』は別物ですぅー!」

 こういうところはちょっと面倒くさいんだよな、このオタク。
 好きな事となると勝手に細かいところまで早口で訂正解説する。これ、オタクあるある。

「話の腰が複雑骨折してるから、とにかく本題に戻るわよ」
「おう」
「アイドルになるにあたって何が必要か。はいどうぞカイルくん」

 授業中に問題を答えさせようと生徒を当てる先生のように、カイルを名指しする。

「んー……まずは最適な売り出し方の模索。グループなら根幹になる明確なコンセプト・テーマを考え、それを基準に作られた本人の魅力を最大限引き出す歌詞と曲も必要だ。衣装やダンスは勿論、歌も手を抜く事は許されないし、何よりも笑顔ファンサは大事だな。顔面で黙らせるクール系ならともかく、俺達はどっちもそのタイプじゃねぇし、やるならカメラワークを把握して完璧なファンサと俺達の個性を活かせるポジショニングをだな……」
「もしかして本業の方ですか??」

 するとどうだろう。想像以上にガチっぽい答えが返ってきてしまった。
 数々のアイドルゲームでの経験が、彼をここまで進化させたのか。

「まあ、多分ダンスとかファンサに関しては問題ないだろ。俺達器用だし」
「そうね。そっちはなんとかなると思うのよ。ただ問題があって」
「曲作りの事か? 確かにそれは重大な問題だ。昔ニマ動でKAINNⅡの曲作って投稿してたけど、所詮は素人に毛が生えた程度の曲だったしなぁ」
「そっちの心配はそこまでしてな……って貴方、ボカルPまでしてたの?!」
「うん。推しのイメソン作りたくて、独学で」

 なんという才能の無駄遣い。
 どうしてこのオタクくんはチート級の才能を全てオタ活に費やすのか。人類の損失にも程があるでしょう。

「曲の方に問題がないなら、逆に何が問題なんだ?」
「……音痴なのよ、私」
「それマ?」
「ローズのレッスンのお陰で人並みには歌えるようになったけど、自信は未だに皆無よ」

 どうせ、この男の事だから歌だって上手いんだろう。そんなカイルと一緒にアイドルをするなんて、恥の上塗りでしかない気がするが……我慢我慢。

「ま、大丈夫っしょ。俺がついてんだからそんな心配すんな、いくらでもフォローしてやっからよ」
「お世話になります、チートオブチートさんっ」
「ははは。くるしゅうない」

 ははーっ! と深々腰を曲げると、カイルは殿様のように手をひらひらさせた。

「じゃあ……一番の問題は振り付けか? 俺、3Dとかモーションキャプチャーは手ぇ出せてないから分かんねぇな~~」
「寧ろそっちまで手出してたらびっくりするわよ。多才過ぎて」
「いや多才ではあったんだがなぁ、学生時代はプログラミングとボカルと推し活で忙しくて」
「オタクライフ充実させすぎでしょうこの人」

 カイルは、「まあな」と照れたように笑う。
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