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第四章・興国の王女
384.終戦は突然に2
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「暇なんだろ。ちょっと出て来い、八柱の魔物共」
数百年口にしてこなかった単語を言葉にして、久方振りに部下を呼び出す。
そして勢いよく現れたのは、八体の魔物。
オレサマが魔王に即位してから定めた、魔界での絶対的な序列──……その上位八席に座する魔族の長達。
第一席の悪魔族。第二席の堕天族。第三席の悪鬼族。第四席の人魚族。第五席の黒山羊族。第六席の龍骸族。第七席の妖魔騎士族。第八席の影人族。
それぞれの種族の長にあたる存在が数百年ぶりに一堂に会した。
……約一名、出来れば呼びたくない奴もいたが。
「ふふふふふふ、まさか君から俺達を呼ぶなんてね。ふふ、うふふふふ」
悪魔族の長がニヤけた面で肩を震えさせる。
気持ち悪い。いつ見ても気持ち悪い。たまたま育ての親が同じだっただけで兄貴面してくる変態が気持ち悪い。
「ちょっとブランシュー、魔王様に呼び出されて嬉しいのは分かるけどさあ、めっちゃキモいから黙っててくんない?」
「ふふ、酷いなぁリリコちゃんは。俺はただ可愛い弟分に頼りにされて悦んでるだけなのに。ふふふふ」
「だからそれがキモいんですけど!!」
龍骸族の長と共に騒ぎ出した変態は放置し、残りの六体へと視線を移す。
「あんなのが第一席だなんて……至急席次交代の為の戦いを行うべきでは?」
「席次とかどーでもいい。仕事ならさっさと済ませて家帰りたいんだけど」
「────同意」
「つーかそもそも何でこんなとこにオレ等が呼ばれたんだァ?」
堕天族のエンデア、人魚族のプアクラスト、妖魔騎士族のシバルレイト、悪鬼族のデンコー。各種族の長がそれぞれ思い思いに騒ぎ出す。
そして最後のダメ押しとばかりに、
「わ~~っ! 人間界って本当に綺麗! 壊しがいありそ~~!!」
「ウンウン。破壊破壊!」
「「いぇーいっ!!」」
影人族のビビゼブが変な事を宣い、それに続くように仲良く拳を突き上げるのは黒山羊族のオンルドゥア。
やはり収拾がつかない。だからコイツ等を集めるのは好きじゃないんだ。
「はァ……気は済んだか?」
ギロリと鋭く睨むと、八柱の連中は「はい」と短く声を揃えて姿勢を正した。
本当に扱いに困る奴等だと大きく息を吐き出し、気を取り直して本題に入る。
「お前等を呼んだのは他でもない魔物の行進についてだ」
「え~! なになに、ついにボク達も人間界侵攻しちゃうの!?」
「違ェよ。邪魔すんなら口潰すぞビビゼブ」
「ゴメンナサイ」
しゅんと項垂れるビビゼブは一旦無視して、話を再開する。
「逆だ。オレサマは魔物の行進を終わらせる為にお前等を呼んだんだよ」
「それが君の決定なら、ふふ、俺は従うけれど……でもいいの? 食糧問題の方は」
「そこらじゅうに転がってる同胞の死体でも食わせとけばいいだろ。技術はもう頭ン中に入ってるからな、後で教えてやるから魔界全域で農業しろ」
「おお、ついに? ふふふふ、流石は俺の弟分だ!」
喧しいなコイツ。
「とにかく……オレサマは魔物の行進を終わらせる事にした。勿論異論は無いな?」
「異論なんて口にした日には問答無用で殺されそうですし、陛下のご意向に添いますよ」
「エンデアに同じくー」
真っ先にエンデアが返事をすると、それに続くようにオンルドゥアが気の抜けた挙手をする。
他の面々もこれには納得しているようで、軽く首を縦に振っていた。
「よし。そんで、お前等を呼び出した理由なんだが」
ごくり、と八柱の奴等は固唾を呑んだ。
「六体は大陸中の魔物共に撤退の旨を伝えに行け。魔王命令だとな。残りの二体……そうだな、シバルレイトとブランシュはあの大穴をどうにかしろ。あの穴が何なのか分からんが、妖魔騎士族と悪魔族の能力で何とか出来るだろ?」
「──は。委細承知」
「うふふっ、お兄ちゃんに任せなさい!」
そう言うやいなや二体は張り切って穴の方に向かい、穴に向かう魔物共に早く魔界に戻るよう催促していた。
それを横目に眺めつつ、残りの六体にも命ずる。
「そういうワケだから、お前等もさっさと魔物共を魔界まで誘導しろ。ああでも、魔界の扉は今から締めるからそれぞれ扉を開いてやれ」
この扉と言うのは、魔王が所持していた十三の扉の事。いわゆる越界権限と呼ばれる権限が具現化したものだ。
色々な仕事の為に、その権限をコイツ等に与えているのである。
「はーい」
「しゃあねぇな、キングの命令なら逆らう訳にもいかねぇよ」
「早く終わったらもう帰ってもいいよね……」
まず、リリコとデンコーとプアクラストが「アタシはあっち!」「オレは向こう」「じゃあおれは右の方で」と適当に方角を決め、それぞれ姿を消した。
その後、
「では、ワレは東の方に」
「ボクは南の方に行くね! 寒いの嫌だし!」
「んー……じゃあいい感じの所に行こうかなー」
エンデアとビビゼブとオンルドゥアも各々姿を消し、役目を果たしに行った。
これで恐らく、魔物の行進で人間界に来やがった魔物共は魔界に戻る事だろう。ならば、後は。
「魔界の扉を締めるだけ、か」
踵を返し、アミレスの元に戻る。
オレサマが近づくと、シルフとエンヴィーが今にも射殺してきそうな鋭い視線でこちらを睨んできたが、勿論無視。
「ナトラ、魔界の扉まで行くぞ」
「やっとか。こんな状況で待たせおって……」
「言う程待たせてねェだろ」
魔界の扉がある場所なら過去に行った事がある。なので瞬間転移で移動しようと、魔法を発動した。
その際、少しばかりアミレスの方を振り向いて片目を閉じ、投げキッスとやらをしてみた。以前メイシアにこれをやっているのを見て、何やってんだアイツ……と思った覚えがある。
だが、うむ。
いざやると妙な気恥ずかしさと、相手の反応への期待などが押し寄せて来る。アミレスはどんな反応をするだろうか、と白い魔法陣の輝きが増してゆくなか観察していたのだが、
「……?」
アミレスは眉尻を下げて、こてんと首を傾げるだけだった。その仕草自体は可愛いんだが、なんか思ってた反応と違う。
まァ、あのアミレスだしな……期待しすぎたオレサマが悪かったな、これは。
少し肩を落としながらも、無事に瞬間転移を果たし魔界の扉の付近に転移した。
白の山脈内部にて。全開になっている魔界の扉の周りでは、見渡す限り魔物共がぎちぎちうじゃうじゃと蠢いていて、実におぞましく気色悪い光景だった。
「うわァ…………死ねよ」
思わず反射的に魔物共へと魔法を使ってしまった。突然出現した極闇黒球に生命という生命は尽く吸い込まれてゆき、この空間を埋めつくしていた無数の魔物共はあっという間に死に絶えた。
「よし、これで扉の周りは片付いたな」
「お前……そんな事が出来たならはじめからやっておかんか。さすれば無駄にアミレスが消耗する事もなかったじゃろうに」
「オレサマだって出来るモンならやってたっつの。魔界にも色々と制約があったんだよ、制約が」
「制約とか本当に面倒じゃのう。あの若造共、我等が【世界樹】に干渉せんからってちょっと幅利かせすぎじゃなかろうか? 我、喧嘩売られておるのかの?」
極闇黒球を消滅させていると、ナトラは腕を組んで口の端を歪めていた。
可能ならマジで神々を死ぬまでぶん殴って欲しいところなんだが……今のコイツには無理だろうな。白の竜の権能で眠らされていたからか、本来の実力の九割も発揮出来ないらしいし。
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そして勢いよく現れたのは、八体の魔物。
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第一席の悪魔族。第二席の堕天族。第三席の悪鬼族。第四席の人魚族。第五席の黒山羊族。第六席の龍骸族。第七席の妖魔騎士族。第八席の影人族。
それぞれの種族の長にあたる存在が数百年ぶりに一堂に会した。
……約一名、出来れば呼びたくない奴もいたが。
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悪魔族の長がニヤけた面で肩を震えさせる。
気持ち悪い。いつ見ても気持ち悪い。たまたま育ての親が同じだっただけで兄貴面してくる変態が気持ち悪い。
「ちょっとブランシュー、魔王様に呼び出されて嬉しいのは分かるけどさあ、めっちゃキモいから黙っててくんない?」
「ふふ、酷いなぁリリコちゃんは。俺はただ可愛い弟分に頼りにされて悦んでるだけなのに。ふふふふ」
「だからそれがキモいんですけど!!」
龍骸族の長と共に騒ぎ出した変態は放置し、残りの六体へと視線を移す。
「あんなのが第一席だなんて……至急席次交代の為の戦いを行うべきでは?」
「席次とかどーでもいい。仕事ならさっさと済ませて家帰りたいんだけど」
「────同意」
「つーかそもそも何でこんなとこにオレ等が呼ばれたんだァ?」
堕天族のエンデア、人魚族のプアクラスト、妖魔騎士族のシバルレイト、悪鬼族のデンコー。各種族の長がそれぞれ思い思いに騒ぎ出す。
そして最後のダメ押しとばかりに、
「わ~~っ! 人間界って本当に綺麗! 壊しがいありそ~~!!」
「ウンウン。破壊破壊!」
「「いぇーいっ!!」」
影人族のビビゼブが変な事を宣い、それに続くように仲良く拳を突き上げるのは黒山羊族のオンルドゥア。
やはり収拾がつかない。だからコイツ等を集めるのは好きじゃないんだ。
「はァ……気は済んだか?」
ギロリと鋭く睨むと、八柱の連中は「はい」と短く声を揃えて姿勢を正した。
本当に扱いに困る奴等だと大きく息を吐き出し、気を取り直して本題に入る。
「お前等を呼んだのは他でもない魔物の行進についてだ」
「え~! なになに、ついにボク達も人間界侵攻しちゃうの!?」
「違ェよ。邪魔すんなら口潰すぞビビゼブ」
「ゴメンナサイ」
しゅんと項垂れるビビゼブは一旦無視して、話を再開する。
「逆だ。オレサマは魔物の行進を終わらせる為にお前等を呼んだんだよ」
「それが君の決定なら、ふふ、俺は従うけれど……でもいいの? 食糧問題の方は」
「そこらじゅうに転がってる同胞の死体でも食わせとけばいいだろ。技術はもう頭ン中に入ってるからな、後で教えてやるから魔界全域で農業しろ」
「おお、ついに? ふふふふ、流石は俺の弟分だ!」
喧しいなコイツ。
「とにかく……オレサマは魔物の行進を終わらせる事にした。勿論異論は無いな?」
「異論なんて口にした日には問答無用で殺されそうですし、陛下のご意向に添いますよ」
「エンデアに同じくー」
真っ先にエンデアが返事をすると、それに続くようにオンルドゥアが気の抜けた挙手をする。
他の面々もこれには納得しているようで、軽く首を縦に振っていた。
「よし。そんで、お前等を呼び出した理由なんだが」
ごくり、と八柱の奴等は固唾を呑んだ。
「六体は大陸中の魔物共に撤退の旨を伝えに行け。魔王命令だとな。残りの二体……そうだな、シバルレイトとブランシュはあの大穴をどうにかしろ。あの穴が何なのか分からんが、妖魔騎士族と悪魔族の能力で何とか出来るだろ?」
「──は。委細承知」
「うふふっ、お兄ちゃんに任せなさい!」
そう言うやいなや二体は張り切って穴の方に向かい、穴に向かう魔物共に早く魔界に戻るよう催促していた。
それを横目に眺めつつ、残りの六体にも命ずる。
「そういうワケだから、お前等もさっさと魔物共を魔界まで誘導しろ。ああでも、魔界の扉は今から締めるからそれぞれ扉を開いてやれ」
この扉と言うのは、魔王が所持していた十三の扉の事。いわゆる越界権限と呼ばれる権限が具現化したものだ。
色々な仕事の為に、その権限をコイツ等に与えているのである。
「はーい」
「しゃあねぇな、キングの命令なら逆らう訳にもいかねぇよ」
「早く終わったらもう帰ってもいいよね……」
まず、リリコとデンコーとプアクラストが「アタシはあっち!」「オレは向こう」「じゃあおれは右の方で」と適当に方角を決め、それぞれ姿を消した。
その後、
「では、ワレは東の方に」
「ボクは南の方に行くね! 寒いの嫌だし!」
「んー……じゃあいい感じの所に行こうかなー」
エンデアとビビゼブとオンルドゥアも各々姿を消し、役目を果たしに行った。
これで恐らく、魔物の行進で人間界に来やがった魔物共は魔界に戻る事だろう。ならば、後は。
「魔界の扉を締めるだけ、か」
踵を返し、アミレスの元に戻る。
オレサマが近づくと、シルフとエンヴィーが今にも射殺してきそうな鋭い視線でこちらを睨んできたが、勿論無視。
「ナトラ、魔界の扉まで行くぞ」
「やっとか。こんな状況で待たせおって……」
「言う程待たせてねェだろ」
魔界の扉がある場所なら過去に行った事がある。なので瞬間転移で移動しようと、魔法を発動した。
その際、少しばかりアミレスの方を振り向いて片目を閉じ、投げキッスとやらをしてみた。以前メイシアにこれをやっているのを見て、何やってんだアイツ……と思った覚えがある。
だが、うむ。
いざやると妙な気恥ずかしさと、相手の反応への期待などが押し寄せて来る。アミレスはどんな反応をするだろうか、と白い魔法陣の輝きが増してゆくなか観察していたのだが、
「……?」
アミレスは眉尻を下げて、こてんと首を傾げるだけだった。その仕草自体は可愛いんだが、なんか思ってた反応と違う。
まァ、あのアミレスだしな……期待しすぎたオレサマが悪かったな、これは。
少し肩を落としながらも、無事に瞬間転移を果たし魔界の扉の付近に転移した。
白の山脈内部にて。全開になっている魔界の扉の周りでは、見渡す限り魔物共がぎちぎちうじゃうじゃと蠢いていて、実におぞましく気色悪い光景だった。
「うわァ…………死ねよ」
思わず反射的に魔物共へと魔法を使ってしまった。突然出現した極闇黒球に生命という生命は尽く吸い込まれてゆき、この空間を埋めつくしていた無数の魔物共はあっという間に死に絶えた。
「よし、これで扉の周りは片付いたな」
「お前……そんな事が出来たならはじめからやっておかんか。さすれば無駄にアミレスが消耗する事もなかったじゃろうに」
「オレサマだって出来るモンならやってたっつの。魔界にも色々と制約があったんだよ、制約が」
「制約とか本当に面倒じゃのう。あの若造共、我等が【世界樹】に干渉せんからってちょっと幅利かせすぎじゃなかろうか? 我、喧嘩売られておるのかの?」
極闇黒球を消滅させていると、ナトラは腕を組んで口の端を歪めていた。
可能ならマジで神々を死ぬまでぶん殴って欲しいところなんだが……今のコイツには無理だろうな。白の竜の権能で眠らされていたからか、本来の実力の九割も発揮出来ないらしいし。
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