上 下
426 / 765
第四章・興国の王女

384.終戦は突然に2

しおりを挟む
「暇なんだろ。ちょっと出て来い、八柱はしらの魔物共」

 数百年口にしてこなかった単語を言葉にして、久方振りに部下を呼び出す。
 そして勢いよく現れたのは、八体の魔物。
 オレサマが魔王に即位してから定めた、魔界での絶対的な序列──……その上位八席に座する魔族の長達。
 第一席の悪魔族デーモン。第二席の堕天族ルシフェル。第三席の悪鬼族オーガ。第四席の人魚族マーメイド。第五席の黒山羊族バフォメット。第六席の龍骸族ドラゴニア。第七席の妖魔騎士族デュラハン。第八席の影人族シャドウマン
 それぞれの種族の長にあたる存在が数百年ぶりに一堂に会した。
 ……約一名、出来れば呼びたくない奴もいたが。

「ふふふふふふ、まさか君から俺達を呼ぶなんてね。ふふ、うふふふふ」

 悪魔族デーモンの長がニヤけた面で肩を震えさせる。
 気持ち悪い。いつ見ても気持ち悪い。たまたま育ての親が同じだっただけで兄貴面してくる変態が気持ち悪い。

「ちょっとブランシュー、魔王様に呼び出されて嬉しいのは分かるけどさあ、めっちゃキモいから黙っててくんない?」
「ふふ、酷いなぁリリコちゃんは。俺はただ可愛い弟分に頼りにされて悦んでるだけなのに。ふふふふ」
「だからそれがキモいんですけど!!」

 龍骸族ドラゴニアの長と共に騒ぎ出した変態は放置し、残りの六体へと視線を移す。

「あんなのが第一席だなんて……至急席次交代の為の戦いを行うべきでは?」
「席次とかどーでもいい。仕事ならさっさと済ませて家帰りたいんだけど」
「────同意」
「つーかそもそも何でこんなとこにオレ等が呼ばれたんだァ?」

 堕天族ルシフェルのエンデア、人魚族マーメイドのプアクラスト、妖魔騎士族デュラハンのシバルレイト、悪鬼族オーガのデンコー。各種族の長がそれぞれ思い思いに騒ぎ出す。
 そして最後のダメ押しとばかりに、

「わ~~っ! 人間界って本当に綺麗! 壊しがいありそ~~!!」
「ウンウン。破壊クラック破壊クラック!」
「「いぇーいっ!!」」

 影人族シャドウマンのビビゼブが変な事を宣い、それに続くように仲良く拳を突き上げるのは黒山羊族バフォメットのオンルドゥア。
 やはり収拾がつかない。だからコイツ等を集めるのは好きじゃないんだ。

「はァ……気は済んだか?」

 ギロリと鋭く睨むと、八柱の連中は「はい」と短く声を揃えて姿勢を正した。
 本当に扱いに困る奴等だと大きく息を吐き出し、気を取り直して本題に入る。

「お前等を呼んだのは他でもない魔物の行進イースターについてだ」
「え~! なになに、ついにボク達も人間界侵攻しちゃうの!?」
「違ェよ。邪魔すんなら口潰すぞビビゼブ」
「ゴメンナサイ」

 しゅんと項垂れるビビゼブは一旦無視して、話を再開する。

「逆だ。オレサマは魔物の行進イースターを終わらせる為にお前等を呼んだんだよ」
「それが君の決定なら、ふふ、俺は従うけれど……でもいいの? 食糧問題の方は」
「そこらじゅうに転がってる同胞の死体でも食わせとけばいいだろ。技術はもう頭ン中に入ってるからな、後で教えてやるから魔界全域で農業しろ」
「おお、ついに? ふふふふ、流石は俺の弟分だ!」

 喧しいなコイツ。

「とにかく……オレサマは魔物の行進イースターを終わらせる事にした。勿論異論は無いな?」
「異論なんて口にした日には問答無用で殺されそうですし、陛下のご意向に添いますよ」
「エンデアに同じくー」

 真っ先にエンデアが返事をすると、それに続くようにオンルドゥアが気の抜けた挙手をする。
 他の面々もこれには納得しているようで、軽く首を縦に振っていた。

「よし。そんで、お前等を呼び出した理由なんだが」

 ごくり、と八柱の奴等は固唾を呑んだ。

「六体は大陸中の魔物共に撤退の旨を伝えに行け。魔王命令だとな。残りの二体……そうだな、シバルレイトとブランシュはあの大穴をどうにかしろ。あの穴が何なのか分からんが、妖魔騎士族デュラハン悪魔族デーモンの能力で何とか出来るだろ?」
「──は。委細承知」
「うふふっ、お兄ちゃんに任せなさい!」

 そう言うやいなや二体は張り切って穴の方に向かい、穴に向かう魔物共に早く魔界に戻るよう催促していた。
 それを横目に眺めつつ、残りの六体にも命ずる。

「そういうワケだから、お前等もさっさと魔物共を魔界まで誘導しろ。ああでも、魔界の扉は今から締めるからそれぞれ扉を開いてやれ」

 この扉と言うのは、魔王オレサマが所持していた十三の扉の事。いわゆる越界権限と呼ばれる権限が具現化したものだ。
 色々な仕事の為に、その権限をコイツ等に与えているのである。

「はーい」
「しゃあねぇな、キングの命令なら逆らう訳にもいかねぇよ」
「早く終わったらもう帰ってもいいよね……」

 まず、リリコとデンコーとプアクラストが「アタシはあっち!」「オレは向こう」「じゃあおれは右の方で」と適当に方角を決め、それぞれ姿を消した。
 その後、

「では、ワレは東の方に」
「ボクは南の方に行くね! 寒いの嫌だし!」
「んー……じゃあいい感じの所に行こうかなー」

 エンデアとビビゼブとオンルドゥアも各々姿を消し、役目を果たしに行った。
 これで恐らく、魔物の行進イースターで人間界に来やがった魔物共は魔界に戻る事だろう。ならば、後は。

「魔界の扉を締めるだけ、か」

 踵を返し、アミレスの元に戻る。
 オレサマが近づくと、シルフとエンヴィーが今にも射殺してきそうな鋭い視線でこちらを睨んできたが、勿論無視。

「ナトラ、魔界の扉まで行くぞ」
「やっとか。こんな状況で待たせおって……」
「言う程待たせてねェだろ」

 魔界の扉がある場所なら過去に行った事がある。なので瞬間転移で移動しようと、魔法を発動した。
 その際、少しばかりアミレスの方を振り向いて片目を閉じ、投げキッス・・・・・とやらをしてみた。以前メイシアにこれをやっているのを見て、何やってんだアイツ……と思った覚えがある。
 だが、うむ。
 いざやると妙な気恥ずかしさと、相手の反応への期待などが押し寄せて来る。アミレスはどんな反応をするだろうか、と白い魔法陣の輝きが増してゆくなか観察していたのだが、

「……?」

 アミレスは眉尻を下げて、こてんと首を傾げるだけだった。その仕草自体は可愛いんだが、なんか思ってた反応と違う。
 まァ、あのアミレスだしな……期待しすぎたオレサマが悪かったな、これは。
 少し肩を落としながらも、無事に瞬間転移を果たし魔界の扉の付近に転移した。
 白の山脈内部にて。全開になっている魔界の扉の周りでは、見渡す限り魔物共がぎちぎちうじゃうじゃと蠢いていて、実におぞましく気色悪い光景だった。

「うわァ…………死ねよ」

 思わず反射的に魔物共へと魔法を使ってしまった。突然出現した極闇黒球ブラックホールに生命という生命は尽く吸い込まれてゆき、この空間を埋めつくしていた無数の魔物共はあっという間に死に絶えた。

「よし、これで扉の周りは片付いたな」
「お前……そんな事が出来たならはじめからやっておかんか。さすれば無駄にアミレスが消耗する事もなかったじゃろうに」
「オレサマだって出来るモンならやってたっつの。魔界にも色々と制約があったんだよ、制約が」
「制約とか本当に面倒じゃのう。あの若造共、我等が【世界樹】に干渉せんからってちょっと幅利かせすぎじゃなかろうか? 我、喧嘩売られておるのかの?」

 極闇黒球ブラックホールを消滅させていると、ナトラは腕を組んで口の端を歪めていた。
 可能ならマジで神々を死ぬまでぶん殴って欲しいところなんだが……今のコイツには無理だろうな。白の竜の権能で眠らされていたからか、本来の実力の九割も発揮出来ないらしいし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。

aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。 生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。 優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。 男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。 自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。 【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。 たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~

皇 翼
恋愛
グレシュタット王国の第一王女にして、この世界の聖女に選定されたロザリア=テンペラスト。昔から魔法とも魔術とも異なる不思議な力を持っていた彼女は初潮を迎えた12歳のある日、とある未来を視る。 それは、彼女の18歳の誕生日を祝う夜会にて。襲撃を受け、そのまま死亡する。そしてその『死』が原因でグレシュタットとガリレアン、コルレア3国間で争いの火種が生まれ、戦争に発展する――という恐ろしいものだった。 それらを視たロザリアは幼い身で決意することになる。自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するため、行動することを。 「お父様、私は明日死にます!」 「ロザリア!!?」 しかしその選択は別の意味で地獄を産み出していた。ヤンデレ地獄を作り出していたのだ。後々後悔するとも知らず、彼女は自分の道を歩み続ける。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

気づいたら異世界で、第二の人生始まりそうです

おいも
恋愛
私、橋本凛花は、昼は大学生。夜はキャバ嬢をし、母親の借金の返済をすべく、仕事一筋、恋愛もしないで、一生懸命働いていた。 帰り道、事故に遭い、目を覚ますと、まるで中世の屋敷のような場所にいて、漫画で見たような異世界へと飛ばされてしまったようだ。 加えて、突然現れた見知らぬイケメンは私の父親だという。 父親はある有名な公爵貴族であり、私はずっと前にいなくなった娘に瓜二つのようで、人違いだと言っても全く信じてもらえない、、、! そこからは、なんだかんだ丸め込まれ公爵令嬢リリーとして過ごすこととなった。 不思議なことに、私は10歳の時に一度行方不明になったことがあり、加えて、公爵令嬢であったリリーも10歳の誕生日を迎えた朝、屋敷から忽然といなくなったという。 しかも異世界に来てから、度々何かの記憶が頭の中に流れる。それは、まるでリリーの記憶のようで、私とリリーにはどのようなの関係があるのか。 そして、信じられないことに父によると私には婚約者がいるそうで、大混乱。仕事として男性と喋ることはあっても、恋愛をしたことのない私に突然婚約者だなんて絶対無理! でも、父は婚約者に合わせる気がなく、理由も、「あいつはリリーに会ったら絶対に暴走する。危険だから絶対に会わせない。」と言っていて、意味はわからないが、会わないならそれはそれでラッキー! しかも、この世界は一妻多夫制であり、リリーはその容貌から多くの人に求婚されていたそう!というか、一妻多夫なんて、前の世界でも聞いたことないですが?! そこから多くのハプニングに巻き込まれ、その都度魅力的なイケメン達に出会い、この世界で第二の人生を送ることとなる。 私の第二の人生、どうなるの????

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...