だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第四章・興国の王女

383.終戦は突然に

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「ナトラ、お願いがあるの!」
「む? なんじゃ、我に何でも言うてみるがよい!」

 どこか嬉しそうに胸を叩くナトラに、私は今しがた立てた仮説を交えて一つの案を伝えた。
 時に目を丸くしながらも、ナトラは真剣に話を聞いてくれる。あくまで仮説にすぎない荒唐無稽な話を前提とした案なのに、ナトラは静かに耳を傾けてくれたのだ。

「……──成程な。面白い、やってやるわい。誇り高き緑の竜たる我に任せておけ」
「ありがとう、ナトラ」

 小さいけれどとても頼りになるナトラに感謝を告げ、私は一度後ろを振り向いた。すると、喧嘩をやめて私の話を聞いていたらしいシルフ達と目が合って。
 目が合うやいなや、シュヴァルツはやってくれたなとばかりに不敵に笑い、シルフは眉尻を下げて困ったように笑っていた。
 そして、小さくひと息吐き出したシルフはこちらに一歩二歩と踏み出して、

「ナトラ。この鍵、任せてもいいかい?」

 ナトラの前に、銀河のごとく煌めく枝を差し出す。ナトラはそれをゆっくりと受け取り、慈しむかのような瞳で撫でるように見つめ、両手で優しく握った。

「ああ。アミレスの滅多にないお願い・・・じゃからのぅ、何がなんでも叶えてやるつもりじゃ」
「それなら心配は要らなさそうだ。後の事は頼んだよ──緑の竜」

 二人がニヤリと笑い合う横で、私はシュヴァルツの元に駆け寄り彼にも改めて頼む事とした。

「シュヴァルツ、そういう訳だから貴方にも手伝って欲しいのだけど」
「いいぜェ。元はと言えば魔界ウチの不始末だからな、お前には最大限協力してやるよ」

 ずいっと一歩踏み込んできたかと思えば、意味もなく端正な顔を近づけてくる。
 目と鼻の先にある綺麗な顔に戸惑い、高速で瞬きを繰り返しているとそれが彼の笑いを誘い出したようで。

「ふはっ、何だよその間抜け面。これだけ顔近づけてんだから、照れるぐらいはしろよな」

 何がそんなにツボに入ったのか知らないけど、シュヴァルツはケラケラと笑いながら離れてゆき、「ま、いい感じに片して来てやるよ」と宣ってはその背中から大きく禍々しい翼を生やし空へと飛び上がった。
 それを眺めているとぽつりと言葉が零れ落ちた。

「本当に悪魔なんだなぁ……」

 もはや、驚きより感心が勝る。

「そうだよ悪魔だよ。あんな奴との縁は今すぐ切った方が身の為だ、アミィ」
「もう、シルフってばさっきからそんなのばっかり。悪魔でも別に大丈夫よ、だってシュヴァルツだもん」
「いや、元々まあまあイカれた奴でしたけどね、アイツ」
「イカれた……? シュヴァルツは確かに生意気だけど、普通にいい子だったじゃない」
「「え??」」

 シルフと師匠が二人揃ってぎょっとした顔になると、

「シュヴァルツはアミレスの前でだけ全力で猫被っておったからの。アミレスがあやつの本性を知らなくてもなんらおかしくはない」

 ナトラが呆れたようにため息をついた。
 どうやら皆は私の知らないシュヴァルツを多く知っているらしい。ナトラの言葉に納得したように、シルフ達は苦虫を噛み潰したような表情を作っていた。
 しかし……なんでシュヴァルツは私の前でだけ猫を被ってたんだろう。悪魔だから嫌がらせとか?
 うーむ、分からん。


♢♢


 何故だろう、とても不本意な勘違いをされている気がする。

 アイツからの頼みだからと空を飛び、魔物共の群れの真上までやって来た。
 魔物共の視線が集中している為アミレス達の方を見る事も出来ず、とりあえず会話だけは耳を研ぎ澄まして聞いているんだが……会話の流れの所為か妙に腹立たしい勘違いが発生していそうな予感がする。
 アミレスはそういう事するんだよ。アイツの思考回路、オレサマから見てもかなりぶっ飛んでるから。
 叶うなら、今すぐにでもアミレスの元に戻り何考えてたのか聞き出して訂正したいところなんだが──……。

「今はとりあえず、コイツ等をどうにかしねェとな」

 目下の配下共を見下し、首をポキポキ鳴らす。
 あとは、そう。この謎の穴。
 マジで知らないんだが何これ? オレサマへの挑戦状か何か?

「まァ、何にせよ……後始末はするってアイツに言っちまった手前、どんな手段を使ってでもなんとか・・・・する・・がな」

 天使共の粛清とオレサマが現れた事で、穴から魔物共がうじゃうじゃと溢れる事はなくなったが、まだ軽く二千はいるな。
 殲滅してもいいんだが……あまりやりすぎると、アミレスに引かれるかもしれん。
 こんな事、今まで一度も考えた事が無い。マジでこの恋とかいう欲望は厄介だな。

「はァ……とりあえず──頭が高ェんだよ、跪け」

 意図的に抑えていたオーラやら魔力やらを一気に解放し、魔物共を威圧する。
 この時点で雑魚は心臓や脳が潰れて死亡、死を免れた魔物共はオレサマの威圧を受け続ける羽目になった。

「誰が、いつ、オレサマの前に現れて良いと許可した? その醜い面を、穢れた声を、愚かな欲を見せても良いと許可した?」
「っ申し訳ございません!!」

 すると骨のある魔物が一体、オレサマに口答えしたではないか。

「聞いてなかったのか……誰がいつその穢れた声をオレサマの前で発しても良いと許可した? オレサマの言葉を一度で理解出来ねェ頭とか不要だ、死ねよお前」
「まッ……お待ちください魔王様! どうか、どうかご慈悲を────」
「何言ってんだ、オレサマの手で死ねるなんて最大の褒美だろ? これこそが最大の慈悲と知れ」

 口答えした魔物は八つ裂きになり、その場に崩れ落ちる。
 恐怖に体を震えさせる魔物共に近づくかのように、ゆっくりと上空から降りていく。オレサマが近づけば近づく程、魔物共の顔からは血の気が引けていった。

「話の腰を折られたが続けよう。お前等は愚鈍な知性では抑えきれないような身の程知らずな欲に暴走し、魔物の行進イースターを起こした。それに間違いは無いな?」

 コクコクと、決して顔を上げる事なく……頭を垂れたまま黙って何度も頷く。魔物共は、オレサマの機嫌を損ねないよう神経をすり減らしているらしい。

理解わかってるならいい。じゃァ次。オレサマが何事においても『邪魔をされる事』と『興を削がれる事』が心底嫌いだって事も勿論分かってるよなァ?」

 ───オレサマが人間界にいた理由を考えてみろ。
 と言葉にはせず、オーラで魔物共に命令してみた。すると、途端にビクッと跳ねる魔物共の肩。奴等はぎこちない動きで必死に頷く。

「なら、お前等が今しなければならない事は何だ? 時間を無駄にする事か? 人間共に喧嘩を売る事か? それともオレサマに楯突く事か? ……──どれも違ェよなァ」

 そう最後に圧をかけると、魔物共は我先にと必死の形相で空中の謎の穴へと駆け出した。当然、オレサマに顔を見せぬよう俯いたまま。
 他の魔物を押し退け、踏み台にし、足を引っ張りあって魔物共は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。
 あァ、なんと醜い事か。
 理性は無く、知性も無い。どれだけ取り繕おうが結局はただのモンスター。人間共のようにはなれないし、ましてや理解し合う事なんて絶対に有り得ない。
 これだからオレサマは──魔物コイツらが大嫌いなんだ。
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