だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第四章・興国の王女

375.闇裂くは晴天3

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 「それで……岩石竜がいたからとりあえず雷を落として動きを封じ、その後とどめの一撃を入れたと?」
「ああ、その通りだ。そんな事より怪我はないか? ずっと戦ってたんだろう、疲れたなら休め。お前の分までオレが戦うから」

 そんな事ではないのだけど。私としてはかなり気になる事なのだけど。
 マクベスタはこんな状況なのに私の心配をしてくる。眉尻を下げて返り血塗れの私の手を取り、それに視線を落としていた。
 定期的に魔物がこちらに向かって来るのだが……マクベスタはそちらに意識を割く様子もなく、背後に迫り来る魔物達を次々に雷の魔力で炭に変えていった。
 まるで、範囲内に侵入したもの全てを自動的に雷撃でぶち抜くように設定されているかのように。
 マクベスタがやたらと私の心配をしている間も、彼の背後──……私の視線の先では、魔物が爆発的に発生した雷撃に体を貫かれ、次々と即死していく光景が広がっている。
 それに圧倒され、マクベスタの話はほとんど聞いていなかった。

「……マクベスタ、強くなったね」

 本当に、私の想像を遥かに超えてやばい方向に強くなってるわ。

「そうか? ならばそれは、お前がオレは強くなれるって何回も言ってくれたからだろうな」

 死屍累々のこんな戦場で。背中に落雷を携え、マクベスタは微笑む。
 だからその自動迎撃システムは一体なんなのよ、それどうやってるのよ。私もちょっとやりたいんだけど、やり方教えてくれない?

「──く、ククククク……まさか斯様な人間がいたとはな」

 頭上から何者かの声が聞こえて来る。
 弾かれたように上を向くと、そこには悪魔っぽい羽と悪魔っぽい角を生やしたいかにも悪魔っぽい何かがいた。

「何あの悪魔っぽい魔物……!」
「悪魔のように見えるが、何の魔族なんだろうか。とりあえず雷で撃ち落とすか?」

 偉そうな顔でこちらを見下ろしてくる魔物を見て、私達はヒソヒソと話し合う。
 だがどうやら悪魔は耳が良いらしく、

「悪魔っぽいじゃなくて悪魔だッ! どこからどう見ても悪魔だろうが!!」

 顔を真っ赤にして、髪を振り乱しながら必死に主張した。

「悪魔らしいわよ」
「本当に悪魔だったな……」
「何なんだよこの人間共! 俺は悪魔だぞ!? 貴様等なんぞ瞬く間に殺せるんだからな!?」

 私達があまりにも冷めた反応をするものだから、悪魔は空中で地団駄を踏んでいる。まるで、思い通りにならなくて癇癪を起こしている子供のよう。
 でも実際問題、あんな自我の塊みたいな悪魔に本気出されたら私も勝てないと思うのよね。だってあれ、多分中位悪魔かそれ以上の悪魔でしょう?
 そんなの人間には太刀打ち出来ないわよ! と頬に冷や汗を滲ませていると、

「アミレスを殺す……? 今、お前はそう言ったのか」

 マクベスタの顔から表情が全て抜け落ち、殺意が溢れる瞳だけが彼の感情を物語っているようで。
 こっちの方がずっと悪魔っぽいんだけど!!!?

「ッ!? に、人間なんかに睨まれても全然、全然怖くないからな!!」

 これには流石の悪魔も怯んだらしく、悪魔はへっぴり腰で虚勢を張っていた。
 だがマクベスタの表情は全く変わらない。今すぐにでも雷で撃ち抜いてしまいそうな緊迫感が、そこにはあった。
 マクベスタの眉が少しばかり動くと同時に、悪魔の手で炎が燃え盛る。
 何か仕掛けてくる──! と二人揃って身構えたところ、

「……え? 何で俺の手が燃えてるんだ!?」

 何故か、悪魔本人がそれに驚いていた。
 目を白黒させながら燃える右手を振り回してなんとか消火しようとするも、火の粉がフサフサの悪魔の服に飛び散って引火し、消火どころではなくなった。
 悪魔は「あっつい!」「何で地煉獄ヘルフレイムより熱いんだよこの炎!?」「ちょっ、消したそばから燃え広がるんだけど!!」と、徐々に全身を包んでいく得体の知れない炎に絶叫していた。
 あまりにも意味不明な事態に、私とマクベスタはぽかんとしていた。だが、ここで更に意味不明な出来事が連続する。

「くっ、こうなったら一旦退い──……」

 悪魔の背後がぐにゃりと歪んだかと思えば、突如として耳を劈くような爆発音が響いた。
 それと同時に聞こえたのは、肉が裂け血と共に飛び散る音と、骨がバラバラに砕け散る音。
 空中に浮いていた悪魔が、突然爆散した。
 それによって血と内臓の雨が降ったのだが、マクベスタがマントを広げ、私を抱き締めるようにして血の雨から守ってくれた。

「一体何が起きたの?」
「悪魔が突然爆発したようだったが、何か異常が起きているのかもしれないな」
「異常……魔物の行進イースターがそもそも異常事態みたいなものだし、確かに何が起きてもおかしくはないわ」
「気をつけるに越した事はない、か」

 あれ、全然離れられない。マクベスタってかなり慎重なところもあるから、まだ何か警戒してるのかも。
 でも私がこんなにくっついていたら、回避行動とか難しいと思うんだけど……。

「──はぁ。今度は毒蛇ポイズンスネークか。次から次へと……」

 どうやらまた魔物が現れたらしいのだが、マクベスタは一向に離れる様子を見せない。
 私、邪魔じゃないかしら? それに、マクベスタはさっき私の代わりに戦うみたいな事言ってたし……このままだとマクベスタが私を庇って怪我をしてしまうかもしれない!
 どうしよう、どうやってマクベスタの腕から逃れたらいいの?

「さっきから見てましたけど、何どさくさに紛れてわたしのアミレス様に触ってるんですかこのケダモノ!」

 えっ、メイシア!? なんで貴女がここに!?

「……厄介なのが来たな」
「今なんと仰いました? 厄介と? わたしからすればあなたの方がよっぽど厄介な存在ですけどね!」
「お互いにそう思っているだろうな」
「えぇ。ですから、さっさとアミレス様から離れろくださいマクベスタ様」

 いやっ、あの……今魔物に包囲されてるんだけど? 二人共、何をのんびり会話してるの!?

「ね、ねぇ。ここ戦場なんだけど。魔物だってすぐそばに……」
「え? ああ、そうだな」
「魔物ですか? ……あら、本当だわ」

 二人の瞳に魔物の影が映る。

「落ちろ」
「燃えて」

 風音にかき消されるぐらいの音量で二人がボソッと呟くと、蛇の群れは雷に撃ち抜かれ、更には業火に燃やし尽くされた。
 まさに地獄絵図。
 燃え盛る蛇の群れに次々と雷が落ちて行く様は、この世の終わりかと見紛うような惨憺たる光景だった。

「よし、ひとまずはこれでいいだろう」
「良くないです。早くアミレス様から離れてください」
「君だっていつもアミレスに会う度にベタベタとひっついてるじゃないか」
「わたしは同性なので許されるのです。でもマクベスタ様がしたならば、それはただの猥褻行為です」
「猥褻行為って……」

 何でこの子達は仲良く言い争ってるんだろう。
 はっ、そうか! メイシアは私の事が好きだから、やけに距離が近いマクベスタに嫉妬してるのか!
 自意識過剰かもしれないけど、この状況はそうとしか考えられない。

「マクベスタ、とりあえず放してくれる?」
「……まぁ、あまり強引なのも良くないか。すまないな、ずっと身動きを取れなくしてしまって」

 ちゃんと言葉にして放してほしいと伝えると、マクベスタは案外あっさりと解放してくれた。
 さて次はメイシアだ。マクベスタに嫉妬していた(と思われる)メイシアの機嫌を直してもらう為にはどうしたものか。
 考えた末に、私はかつて乙女ゲームで見た方法を試す事にした。
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