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第四章・興国の王女
370.魔物の行進3
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♢♢
さあ今から帝都近郊に行こうと玄関の扉を開くと、そこには猫のような表情で顔を赤くして固まっているローズが立っていた。
「そんな所で何してるの、ローズ?」
「えぁっ、その、えっとぉ……」
テンパっている様子のローズにとりあえず落ち着いてと告げて、話を聞いた。
どうやらローズとレオは、最近帝都近郊に出現する魔物の数が倍増した話を聞いて、『王女殿下ならきっと戦いに行こうとするだろうから、俺達で王女殿下をサポートしよう』と話し合ったらしく。
レオは持ち前の頭脳から、指揮系統を任せてくれないかとフリードルに直談判しに行って、ローズは私のサポートにと直接ここまで来てくれたとか。
だけど、呼ばれてないしましてや訪ねる旨の手紙を出した訳でもないのに突然皇宮に押掛けるのはいかがものかと、ずっと東宮の玄関前でウロウロしていたらしいのだ。
「アミレスちゃんの為に、私、たくさん歌うね!」
「ローズ……ありがとう。心強いよ」
「実はこんな事もあろうかとアミレスちゃんの事を考えて作った歌もあるから、きっと役に立てる……はず!」
こんな事もあろうかとあろうかと作った歌? この子作曲まで出来たの……!?
流石はレオの妹だ。と感心しつつ、ローズも加わった私達一行は、馬車に乗り込む。
ちなみに、クロノは全く力が出させそうにないとかでセツや侍女達と共に、「なんで僕がこんな脆弱な生き物の世話を……」とぶつぶつ呟きながら留守番をする事に。
なので面子としては、私、イリオーデ、アルベルト、シルフ、師匠、シュヴァルツ、ナトラ、ローズとかなりの人数になった。
ただ、シルフと師匠は精霊界に何かを取りに戻った為、馬車の中にはいない。
従者二人がいつも通り並んで御者席に座っているので、馬車の中には私とドレス姿のローズ、そして侍女服を身に纏うシュヴァルツとナトラだけがいた。
実はナトラとシュヴァルツには私から同行を頼んだ。ローズは私の為に戦場にい続ける必要がある……その護衛として、二人に来てもらったのだ。
加えて、シュヴァルツには私兵団にこの事を伝えに行ってもらう事にした。魔物の行進の脅威から帝都を守るべく、共に戦って欲しい──と。
シュヴァルツだけ大通りで降りて私兵団の元に向かったので、今は私とローズとナトラだけだ。
帝都近郊にある迎撃部隊用の臨時拠点。
そこに到着し、現場指揮を務める帝国騎士団副団長に事情を話し、私はイリオーデとアルベルトと共に一足先に帝都近郊戦の最前線へと向かった。
そこで、帝都のすぐ近くとは思えない程の大量の魔物を相手取る兵達に声をかける。すると彼等は私の姿を見て唖然としていた。
まあ、現帝国唯一の王女がこんな格好で突然戦場に現れたら誰だって驚くか。
「二人共、分かってるわよね」
「勿論です王女殿下。命大事に、ですよね」
「主君こそ、御身を大事にしてくださいますようお願い申し上げます」
言うようになったわね。と小さく笑い、改めて魔物の群れを見据える。
様々な感情の入り混じる瞳で私をじっと見つめる兵達に向け、深呼吸をして高らかに宣う。
「──聞け、我が帝国の勇敢なる兵達よ! 此度の災害を乗り越える為には、恐怖に打ち勝つ事の出来るお前達の力が必要だ!」
白夜を抜き、兵達へと更に語りかける。
「我が名はアミレス・ヘル・フォーロイト! フォーロイト帝国が第一王女として、国の為に戦おう!! だからどうか、お前達の力も貸して欲しい。共に、この災害から私達の愛したこの国と民を守り抜くぞ!!」
それらしい事を大声で叫び、剣を掲げる。
『ウォォオオオオオオオッッッ!!』
最前線のあちこちから、そんな雄叫びが聞こえて来た。兵達はどうやら私の言葉に耳を傾けてくれたらしい。
その事にまず安堵して、すぐさま気持ちを切り替える。
「……さて。こんな事を宣ったのだから、きちんと行動で示さないとね」
ちらりとイリオーデ達の方を向くと、二人は静かに頷いた。
そして、
「あなた達に恨みは無いけど……でも、私達の平和の為に死んでちょうだい」
私達はほぼ同時に地面を蹴ってそれぞれ別方向へと走り出し、魔物の群れへと突進した。
♢♢
「おい、お前等仕事だ! さっさと支度し──……」
ディオの家の扉を蹴破り、野盗のように荒々しく中に入る。
この戦いでのアミレスの生存確率を少しでも上げる為──、あと数日分の時間を稼ぐ為。
オレサマはアイツの頼みもあって私兵団の奴等の拠点を訪れた。そんで、私兵団の奴等の意思なんて無視して強制連行するつもりだったのだが。
「おう、やっと来たのかシュヴァルツ。おっせーよ、俺達ずっと待ってたんだが?」
既に、私兵団の奴等は全員団服に身を包んで準備が出来ているようだった。
予想外の光景に思わず固まっていると、
「王女殿下の私兵として俺達も戦う必要があるだろうな、って思ってさ。魔物の行進の話を聞いて、一週間ぐらい前からいつでも戦いに行けるよう準備だけはしてたんだ」
オレサマの驚愕の理由を察したのか、ラークがご丁寧に説明する。
コイツ等……オセロマイトの一件の時から思ってたが、何気に肝据わってやがるな。
自分の頬が鋭く吊り上がるのを感じた。
面白くて、都合が良くて。そんなある種の喜びから、この顔は少しばかりの笑みを作っていた。
「──そう。なら、話は早いな。さっそく行くぞ、戦場に」
そう言うやいなや、魔法を使う。私兵団の奴等を包み込むように輝きだす純白の魔法陣。
視界が白く染まりきって数秒。その光が収まると、視界には押し寄せる魔物共の群れやそれと戦う人間共の姿が映った。
ずっと帝都の中にいたコイツ等にとっては想像以上の光景だったのだろう。流石に言葉を失って、その場に立ち尽くしている。
「……何、今更怖気付いてんの? あれだけ大見得切った癖に、いざ戦場に出ると怖くて何も出来ねェってワケ?」
挑発するように嘲笑ってみると、
「──はんっ、ンな訳ねぇだろ。もうとっくに戦ってる我等がご主人様にびっくりしただけだっつの!」
ディオはニヤリと笑って、あろう事かオレサマの頭に拳骨を落としやがった。
なんだコイツ、オレサマの正体を知らないからってなんつー真似を……後でぶん殴ってやろうか。
たかが人間の拳骨なんざオレサマは痛くも痒くもないんだが、腹立つモンは腹立つ。どう仕返ししてやろうかと考えていたら、いつの間にか私兵団の奴等が魔物共の群れへと向かって行っていた。
「いいかお前等。殿下の事だから、俺達が下手に怪我してると後で絶対に責任感じて落ち込むと思う。だから絶対怪我すんじゃねぇぞ! 怪我しても服で隠せたりユーキの魔法で誤魔化せる範囲で怪我しろよ!」
「「「「「おう!」」」」」
ディオがどこかズレた喝を入れると、それにジェジ、エリニティ、クラリス、シャルルギル、ルーシアンが勇ましく同意する。
「あれ、普通は怪我しないように気をつけるべきだと思うんだけどな」
「……ラーク兄、この脳筋達にそんな事言っても無駄だよ」
その事についつい突っ込まずにはいられなかったラークに、ユーキが呆れたようにため息を吐いていた。
だが、全員その表情はやる気に満ちていた。
それがどうしてなのか、オレサマには分からない。
アミレスの為になるのだからこれは喜ばしい事だ。だがアイツ等からすれば何の得もない事──というか、寧ろ危険と隣り合わせの戦いなど、損でしかない筈だ。
なのに何故、アイツ等は進んで戦う準備をして、あんなにもやる気に満ちた表情で戦場へと向かうのか。
オレサマにはどうにもそれが理解し難い。
さあ今から帝都近郊に行こうと玄関の扉を開くと、そこには猫のような表情で顔を赤くして固まっているローズが立っていた。
「そんな所で何してるの、ローズ?」
「えぁっ、その、えっとぉ……」
テンパっている様子のローズにとりあえず落ち着いてと告げて、話を聞いた。
どうやらローズとレオは、最近帝都近郊に出現する魔物の数が倍増した話を聞いて、『王女殿下ならきっと戦いに行こうとするだろうから、俺達で王女殿下をサポートしよう』と話し合ったらしく。
レオは持ち前の頭脳から、指揮系統を任せてくれないかとフリードルに直談判しに行って、ローズは私のサポートにと直接ここまで来てくれたとか。
だけど、呼ばれてないしましてや訪ねる旨の手紙を出した訳でもないのに突然皇宮に押掛けるのはいかがものかと、ずっと東宮の玄関前でウロウロしていたらしいのだ。
「アミレスちゃんの為に、私、たくさん歌うね!」
「ローズ……ありがとう。心強いよ」
「実はこんな事もあろうかとアミレスちゃんの事を考えて作った歌もあるから、きっと役に立てる……はず!」
こんな事もあろうかとあろうかと作った歌? この子作曲まで出来たの……!?
流石はレオの妹だ。と感心しつつ、ローズも加わった私達一行は、馬車に乗り込む。
ちなみに、クロノは全く力が出させそうにないとかでセツや侍女達と共に、「なんで僕がこんな脆弱な生き物の世話を……」とぶつぶつ呟きながら留守番をする事に。
なので面子としては、私、イリオーデ、アルベルト、シルフ、師匠、シュヴァルツ、ナトラ、ローズとかなりの人数になった。
ただ、シルフと師匠は精霊界に何かを取りに戻った為、馬車の中にはいない。
従者二人がいつも通り並んで御者席に座っているので、馬車の中には私とドレス姿のローズ、そして侍女服を身に纏うシュヴァルツとナトラだけがいた。
実はナトラとシュヴァルツには私から同行を頼んだ。ローズは私の為に戦場にい続ける必要がある……その護衛として、二人に来てもらったのだ。
加えて、シュヴァルツには私兵団にこの事を伝えに行ってもらう事にした。魔物の行進の脅威から帝都を守るべく、共に戦って欲しい──と。
シュヴァルツだけ大通りで降りて私兵団の元に向かったので、今は私とローズとナトラだけだ。
帝都近郊にある迎撃部隊用の臨時拠点。
そこに到着し、現場指揮を務める帝国騎士団副団長に事情を話し、私はイリオーデとアルベルトと共に一足先に帝都近郊戦の最前線へと向かった。
そこで、帝都のすぐ近くとは思えない程の大量の魔物を相手取る兵達に声をかける。すると彼等は私の姿を見て唖然としていた。
まあ、現帝国唯一の王女がこんな格好で突然戦場に現れたら誰だって驚くか。
「二人共、分かってるわよね」
「勿論です王女殿下。命大事に、ですよね」
「主君こそ、御身を大事にしてくださいますようお願い申し上げます」
言うようになったわね。と小さく笑い、改めて魔物の群れを見据える。
様々な感情の入り混じる瞳で私をじっと見つめる兵達に向け、深呼吸をして高らかに宣う。
「──聞け、我が帝国の勇敢なる兵達よ! 此度の災害を乗り越える為には、恐怖に打ち勝つ事の出来るお前達の力が必要だ!」
白夜を抜き、兵達へと更に語りかける。
「我が名はアミレス・ヘル・フォーロイト! フォーロイト帝国が第一王女として、国の為に戦おう!! だからどうか、お前達の力も貸して欲しい。共に、この災害から私達の愛したこの国と民を守り抜くぞ!!」
それらしい事を大声で叫び、剣を掲げる。
『ウォォオオオオオオオッッッ!!』
最前線のあちこちから、そんな雄叫びが聞こえて来た。兵達はどうやら私の言葉に耳を傾けてくれたらしい。
その事にまず安堵して、すぐさま気持ちを切り替える。
「……さて。こんな事を宣ったのだから、きちんと行動で示さないとね」
ちらりとイリオーデ達の方を向くと、二人は静かに頷いた。
そして、
「あなた達に恨みは無いけど……でも、私達の平和の為に死んでちょうだい」
私達はほぼ同時に地面を蹴ってそれぞれ別方向へと走り出し、魔物の群れへと突進した。
♢♢
「おい、お前等仕事だ! さっさと支度し──……」
ディオの家の扉を蹴破り、野盗のように荒々しく中に入る。
この戦いでのアミレスの生存確率を少しでも上げる為──、あと数日分の時間を稼ぐ為。
オレサマはアイツの頼みもあって私兵団の奴等の拠点を訪れた。そんで、私兵団の奴等の意思なんて無視して強制連行するつもりだったのだが。
「おう、やっと来たのかシュヴァルツ。おっせーよ、俺達ずっと待ってたんだが?」
既に、私兵団の奴等は全員団服に身を包んで準備が出来ているようだった。
予想外の光景に思わず固まっていると、
「王女殿下の私兵として俺達も戦う必要があるだろうな、って思ってさ。魔物の行進の話を聞いて、一週間ぐらい前からいつでも戦いに行けるよう準備だけはしてたんだ」
オレサマの驚愕の理由を察したのか、ラークがご丁寧に説明する。
コイツ等……オセロマイトの一件の時から思ってたが、何気に肝据わってやがるな。
自分の頬が鋭く吊り上がるのを感じた。
面白くて、都合が良くて。そんなある種の喜びから、この顔は少しばかりの笑みを作っていた。
「──そう。なら、話は早いな。さっそく行くぞ、戦場に」
そう言うやいなや、魔法を使う。私兵団の奴等を包み込むように輝きだす純白の魔法陣。
視界が白く染まりきって数秒。その光が収まると、視界には押し寄せる魔物共の群れやそれと戦う人間共の姿が映った。
ずっと帝都の中にいたコイツ等にとっては想像以上の光景だったのだろう。流石に言葉を失って、その場に立ち尽くしている。
「……何、今更怖気付いてんの? あれだけ大見得切った癖に、いざ戦場に出ると怖くて何も出来ねェってワケ?」
挑発するように嘲笑ってみると、
「──はんっ、ンな訳ねぇだろ。もうとっくに戦ってる我等がご主人様にびっくりしただけだっつの!」
ディオはニヤリと笑って、あろう事かオレサマの頭に拳骨を落としやがった。
なんだコイツ、オレサマの正体を知らないからってなんつー真似を……後でぶん殴ってやろうか。
たかが人間の拳骨なんざオレサマは痛くも痒くもないんだが、腹立つモンは腹立つ。どう仕返ししてやろうかと考えていたら、いつの間にか私兵団の奴等が魔物共の群れへと向かって行っていた。
「いいかお前等。殿下の事だから、俺達が下手に怪我してると後で絶対に責任感じて落ち込むと思う。だから絶対怪我すんじゃねぇぞ! 怪我しても服で隠せたりユーキの魔法で誤魔化せる範囲で怪我しろよ!」
「「「「「おう!」」」」」
ディオがどこかズレた喝を入れると、それにジェジ、エリニティ、クラリス、シャルルギル、ルーシアンが勇ましく同意する。
「あれ、普通は怪我しないように気をつけるべきだと思うんだけどな」
「……ラーク兄、この脳筋達にそんな事言っても無駄だよ」
その事についつい突っ込まずにはいられなかったラークに、ユーキが呆れたようにため息を吐いていた。
だが、全員その表情はやる気に満ちていた。
それがどうしてなのか、オレサマには分からない。
アミレスの為になるのだからこれは喜ばしい事だ。だがアイツ等からすれば何の得もない事──というか、寧ろ危険と隣り合わせの戦いなど、損でしかない筈だ。
なのに何故、アイツ等は進んで戦う準備をして、あんなにもやる気に満ちた表情で戦場へと向かうのか。
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