だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
403 / 790
第四章・興国の王女

362.伯爵家のパーティー4

しおりを挟む
「マクベスタ様、何か弁明はありますか?」
「別に、弁明するような事はしてないんだが」
「どの口が仰いますか! しれっとアミレス様と二人きりになろうなどと画策していたでしょう!?」
「……バレてたのか。確かにそのように策を弄したが、結果はこの通りだ。別に弁明する程の事では」
「アミレス様と二人きりになろうとするその心がまず不純なんです。なので結論から言いますと、マクベスタ様はふしだらなのです。好き嫌い以前に、大事な友達にそんな人が近づく事を良しとする人間は少ないでしょう」

 メイシアが淡々と語るそれを、マクベスタは静かに聞いていた。

「ですので、アミレス様に下心を抱き行動に移した事への弁明をわたしは求めているのです」
「……成程。そういう事なら、弁明させてもらおうか」

 メイシアの言葉に納得したらしく、マクベスタはふぅとため息を吐いて彼女に向き直った。

「メイシア嬢の言う通り、確かに下心はあった。誰だって、想いを寄せる相手と二人きりの時間を過ごしたいと思うだろう。だが、それだけだ。オレは少なくともそれ以上の事なんて望んでいない。ただ二人きりになって、ほんの一時でもオレの事だけを考えて欲しいと……そう思っただけだ」

 淀んだ目を柔らかく細めて、マクベスタは穏やかにされどキッパリと言い切った。
 しかし、ついつい見蕩れてしまいそうな若き王子様の微笑みを真正面で見てもなお、メイシアは不機嫌に頬を膨らませていて。

「そんな事言って、本当はアミレス様で良からぬ妄想とかしてるんじゃないんですか? あわよくば……なんて考えてるんしょう、どうせ」
「メイシア嬢は男達オレたちを何だと思ってるんだ?」
「アミレス様に牙を剥くケダモノと思ってますが、何か」
「……何もしていないのにそんな風に扱われるのか。流石に風当たりが強すぎるんじゃないか」
「妥当かと」
「妥当なのか」

 堂々たる出で立ちで腕を組み、不機嫌に眉を顰めるメイシア。そんな彼女を見下ろして、マクベスタは困ったように笑った。

(──良からぬ妄想、か。した事がないと言えば嘘になるな…………仕方無いだろう、オレだって男なんだ。妄想の一つや二つはするとも)

 こんな事、絶対にメイシア嬢に話せば大目玉を食らうだろうな。と少し視線を泳がせながら肩を竦める。
 マクベスタとてもう既に十七歳。人生を狂わせるような初恋に溺れてからというものの、それまではなかった色事への興味関心も少しずつ湧いて来たのだ。
 とは言えども──、

(もしアミレスの恋人になれたら……とか、彼女との間に子供が出来たりしたら……とか、アミレスがオレの事を誰よりも何よりも頼ってくれたら……とか。恥ずかしくて絶対に人には言えない事ばかり妄想して来たな)

 このように、とてもささやかで可愛らしい妄想なのだが。

(マクベスタ様の心なんて何も分からない筈なんだけど、今だけは凄い手に取るように分かる気がする。この人絶対、アミレス様の妄想してるわ!)

 この乙女、強すぎる。
 女の勘とでも言うべきか……マクベスタを睨むメイシアの瞳が更に鋭くなったところで、アミレスの命で二人を探しに来たアルベルトがテラスに現れ、メイシアとマクベスタは無言のまま会場に戻った。
 何でも先程目をつけたスイーツの数々は人気の品々だったらしく、早く食べなければ売り切れてしまうやもしれないからとかで。
 アミレスはそんな理由で二人を探して連れ戻そうとしていた。相変わらずとんでもない王女である。
 その後、会場は相変わらずアミレス御一行への注目が凄まじかった。

「──うふふ。いつか聞いてみたいですわ、ローズニカ公女のお歌……アミレス様がお褒めになるぐらいですから、さぞやお美しい歌声なのでしょう。何でもディジェル領の歌姫との呼び声も高いとか。本当に凄いですわ(特別意訳:アミレス様に褒められたからって調子に乗らないでくださる?)」

 メイシアが可愛らしく微笑みながら社交辞令を述べると、

「……ふふふ。ありがとうございます、薔薇姫のシャンパージュ令嬢。ありがたいお言葉ですけれど、私の歌はもうアミレスちゃんのものですの。なので、いつかまたアミレスちゃんにお聞きいただく際にご一緒に聞いてくだされば幸いです(特別意訳:アミレスちゃんのお気に入りだか何だか知らないけど、アミレスちゃん以外に聞かせる歌はないんですよーだ!)」

 ローズニカはお淑やかな笑顔で応酬した。
 業火の魔女──……メイシア・シャンパージュと、鈍色の歌姫──……ローズニカ・サー・テンディジェルが真正面からにこやかに話す様子はとても美しく、どこか御伽噺のような光景だった。
 それに加え、その場にはアミレスを始めとした見目の整った人物ばかりが集う。つまり、かなり目立つのだ。
 その為、ある意味ローズニカの社交界デビューは大成功だった。
 アミレスと親しく、メイシアと談笑出来るような豪胆な美少女なのだと……その顔と名前は次期大公のレオナードの噂と共に、瞬く間に社交界中に広まっていくのであった。


♢♢♢♢


 アミレスの思惑通りの社交界デビューを果たしたローズニカは、慣れない社交界ではあったものの、テンディジェル家の人間らしく上手く立ち回っていた。
 その為、ダンスのお誘いも多く来た。しかしその尽くをレオナードがやんわりと断り、初ダンスは兄妹で踊る事にしたらしい。
 ダンスが始まるとメイシアは主催側という事で運営に戻り、レオナードとローズニカ、マクベスタとアミレスというペアでダンスを踊る事に。
 イリオーデとアルベルトは「本日は護衛として来ておりますので」と言って、ダンスのお誘いを全て断っていた。
 そして少し離れた所で待機しつつ、アミレスと体を密着させるマクベスタをこれでもかと言う程に護衛達は睨んでいた。

(いい匂いがする。それに柔らかい……っ)

 当のマクベスタは、こんな状況だからこそ非常にドキドキしていた。
 ここ一年近くで培った演技力で表情が崩れる事は何とか誤魔化しているものの、その心音までは誤魔化せない。
 もしアミレスにこの心臓の音を聞かれてしまったら──。
 そう、彼は二重の意味で鼓動を早くしていたのだった。

(あっ、人が……!)

 マクベスタが悶々と焦りを募らせるなか、その背後には激しく踊る男女ペアが近づいていた。
 しかしマクベスタは現状にいっぱいいっぱいで、避ける様子がない。それに気づいたアミレスは慌ててマクベスタの体を引き寄せ、片腕で抱き締めるようにしてくるりとターンした。
 まるで、いつかの日のイリオーデのように。彼女はダンスの一部かのように、衝突事故を華麗に回避してみせたのだ。
 その際、抱き締めたのだから当然だが……歳の割に発育のいいアミレスの体が、これでもかと彼の身体に密着していた。

(ッ!?!? これッ……まさっ、か!?)

 むにゅ、と腹部に感じる一等柔らかい感覚。マメの出来た小さな手のひらともまるで違う、未知の感触。
 それが何か理解した途端、マクベスタの顔が紅潮する。どうやら、もう、我慢の限界らしい。

(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着けッッッ! ここはパーティー会場だぞ!! こんな所で、こいつの目の前で醜態を晒す訳には──ッ!!)

 強く歯を食いしばり、マクベスタは理性総動員でその熱情を抑え込もうとした。頭の中で必死に陰鬱とした己を思い出し、目前の輝かしい夢のような景色から目を逸らして。
 それを見たアミレスは、目を点にしてそれはもう困惑していた。

(顔真っ赤だし、凄い険しい顔してる……勝手に体を引き寄せたから怒ってるのかな。動く前に何か一言あった方が良かったのかしら……焦ってたから事を急いてしまったわ)

 マクベスタの必死の我慢を、アミレスは自分への怒りと誤認した。気まずそうに寒色の瞳を細めて明後日の方向へと逸らすアミレスと、この現実を直視する訳にはいかず視線を泳がせ続けるマクベスタ。
 体に染み付いているからか、ダンスは完璧に踊りきったものの……ダンスが終わった後も二人の間に流れる空気は中々にぎこちないものだ。
 そんな張り詰めた空気を打ち破ったのは、誰しもにとって予想外の男だった。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

処理中です...