だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第四章・興国の王女

360.伯爵家のパーティー2

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♢♢


 ローズニカは困惑していた。
 アミレスちゃんとパーティーなんて、まるで物語みたい! と喜んで彼女からの誕生日プレゼントでもあるドレスを身に纏ったものの、いざお迎えの馬車に乗ったらそこには見知らぬ金髪の男がいたからである。
 隣国の王子でありながらマクベスタは長く帝都に留まっており、アミレスとはかなり親しい様子を見せつけてくる。
 それに触発されたレオナードによって、馬車はあっという間に火花散る修羅場に。
 マクベスタとレオナードが黒い笑顔で牽制しあっているのに、何故か渦中のアミレスはそれに気づく事無くずっとニコニコとしている。

(お兄様ならこの王子様にだって勝てますわ! だってお兄様だもの!)

 マクベスタとマウント嫌味何でもありの舌戦を繰り広げるレオナードを、ローズニカは応援していた。
 そんな中、マクベスタはと言うと。

(相変わらず、お前はどうして行く先々で人を誑し込むんだ……それも、今度は兄妹揃ってなんて。アミレスを狙う人間がまた増えて面倒だな)

 レオナードの話を適当に聞き流しつつ、はぁ、とため息を一つ零した。不自然なまでに笑顔を絶やさず会話するマクベスタだったが、その目は全く笑ってなかった。
 アミレスへの視線や雰囲気からもしや、と思ったマクベスタはまず一言目に牽制に出た。
 これに引っかかれば黒、そうでなければ白。果たしてこの兄妹はアミレスをどう思っているのか──……と出方を窺ったところ、物の見事に黒であると判明。
 そうと分かれば話が早い。マクベスタは迷わず更なる牽制を繰り出した。
 それにより火蓋を切って落とされたこの戦い。初対面であるにも関わらず、マクベスタとレオナードは笑顔でマウントを取り、牽制し、嫌味を含ませにこやかに言い争っていた。

 これぞまさに、修羅場と言えよう。
 だがこれで終わりではなかった。本当の修羅場は、パーティー会場に到着してからお目にかかる事が出来たのだ。

 パーティー会場の前に停車した皇室の家紋入りの馬車を見て、他の招待客達は立ち止まり放心していた。
 何故ならそこから降りて来たのはこれまで見かけなかった美しい兄妹と、隣国の王子。そして──氷結の聖女と呼ばれるこの国の王女だった。
 この四名の見目麗しさに惚けている者は多い。そこにアミレスの護衛としてやって来たイリオーデやアルベルトまで加われば……もはや、目を奪われる事必至。
 馬車を置いておく区画にて、アルベルトは強力な結界を馬車に施した。それにより、皇室の家紋入りの馬車に万が一の事が起きる可能性はないだろう。

 そうして、アミレス達は入場した。本パーティーは様々な立場の人間が集まるからか、護衛等の同伴を許可している。なので、イリオーデとアルベルトも問題なく入場出来た。
 少し歩いてようやく辿り着いたパーティー会場は、アミレスにとって想像以上の豪華さだった。
 煌めくシャンデリアと、それに照らされる絢爛豪華な広いホール。立食形式の為会場には数多くのテーブルが置かれ、その上には所狭しと涎が垂れてしまいそうな美食の数々が。

 グラスや料理を片手に談笑する招待客達。
 煌びやかで活気溢れる会場をぐるりと見渡して、パーティー初参加のローズニカは圧倒されていた。小ぶりな口をぽかんと開き、可愛らしい表情で辺りをキョロキョロと見渡しているではないか。
 そんな様子を見て、レオナードやアミレスは微笑ましい気分になっていた。

「王女殿下だわ……共にいらっしゃるあの男女はどなたかしら?」
「とても王女殿下と親しそうに見えるが……それにしてもなんと愛らしい少女なのか。社交界では見かけない顔だが」
「雨雲のような髪の色──もしや、テンディジェル家の…………」
「あれはもしやオセロマイト王国の王子では? 王女殿下と親しいという噂は本当だったのか」
「きゃー! ランディグランジュ卿がいらっしゃるわ!」
「王女殿下……相変わらずお美しい……」

 アミレス達御一行は、パーティー会場でもそれはもう目立っていた。全員が目を引く容姿なのだから仕方無い。
 そうやって周囲の視線を彼女達が独占していた時。小走りでアミレスに声をかける者が現れた。真っ先にその気配に気づいたアミレスは、くるりと振り返りその人物を見て頬を綻ばせた。

「メイシア! この度は招待してくれてありがとう」
「いえ……こちらこそ、お忙しい中招待に応じ、ここまで足を運んでくださりありがとうございます。アミレス様」

 このパーティーの主催たるシャンパージュ伯爵家の人間が笑顔で応対した事により、周囲は唖然としていた。
 相手が皇族である事を考えれば何ら不思議ではないのだが、何せメイシアはシャンパージュの魔女、業火の魔女、薔薇姫と呼ばれる程の棘のある少女として有名だった。
 滅多に表情は変わらず、その容姿も相まって本当は人形なのではと噂される程。

 そんな彼女が満面の笑みでアミレスに駆け寄り、挨拶をしている姿は……大好きな飼い主が帰宅した際の子犬のよう。
 ここで、業火の魔女の噂を知る者達は愚かにもようやく気がついた。彼女が執心するたった一人の人物──それが、アミレス・ヘル・フォーロイトなのだと。
 二人の様子を見ればそれしか答えが出て来ない。なので、これまでに一度でも野蛮王女と口にした覚えのある者達は、ここでハッと顔を青ざめさせていた……。

(この少女が、メイシア・シャンパージュ嬢……噂通りの容姿だ。でも、そんな事より──)
(本当にお人形のような可愛らしさだわ。この方が薔薇姫…………ん? もしかして、もしかしなくても。この感じはこの子も──)

 レオナードとローズニカの心が重なる。どこか不安げな面持ちで二人はメイシアをじっと見つめ、

(彼女、王女殿下の事が好きなのでは!?)
(アミレスちゃんに恋してるよね?!)

 あっという間にその懸想を見抜いてしまった。
 アミレスと話すメイシアの赤い瞳には、もはやアミレス以外の人物など映っておらず。同じように誰かに恋をする者が一目見れば、メイシアがアミレスに恋焦がれている事など瞬時に察する。
 それぐらい、彼女は恋心を隠そうともしていなかった。

(……うん、メイシア嬢ばかりアミレスと話していてずるいな。ここは一つ、この兄妹をけしかけてみるか)

 なんともずる賢い事だ。マクベスタはちらりとテンディジェル兄妹を一瞥し、修羅場を引き起こそうと画策した。

「アミレス、そろそろ彼等の事も紹介したらどうだ?」
「ああ! 後回しにしてしまってごめんなさい二人共……!」

 さらりとアミレスの肩に手を置いて、ボディータッチを試みる。それに気づいたメイシアが、今にも燃やしてきそうな鋭い目でマクベスタを睨むも、マクベスタは素知らぬ顔で無視した。

「メイシア、紹介するわね。こちら私の友達のレオナードとローズニカよ。で、こちらも私の友達のメイシア。皆仲良くしてくれたら嬉しいな」

 まるで子供のようだった。幼子が自分の友達同士にも友達になって欲しいと思うあの心理で、アミレスはにこやかに他己紹介を行ったのだ。

(レオナードとローズニカという名前。そしてあの曇天のような髪色……例のテンディジェル大公家の兄妹ね。シャンパー商会としては、大きな取引をしているディジェル領とは良好な関係を維持するべきなんだけど──……)

 マクベスタを睨みつけるのを一度やめて、メイシアはレオナード達へと視線を移す。

(何だか凄く、嫌な予感がするわ。商人の勘がそう言ってる。この人達とは意見が衝突してしまいそうだって)

 メイシアの僅かに色の異なる瞳から光が失われる。目付きもそうたが纏う雰囲気がガラリと変わった為、レオナード達は少しばかり目を丸くした。
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