だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第四章・興国の王女

353.鈍色の兄妹と王女2

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 結局、フリードル殿下には手紙だけ書いて会いに行ったりはしない事にした。呼び出されたりしたら、当然出向くつもりではあるけれど。

 帝都に到着してから一日。旅の疲れを癒すべく昨日と今日は休もうかと決めて、次期大公──……テンディジェル大公の名代として帝都に来たからその到着と謁見の旨の手紙を王城と皇宮に送って、お許しが出たら皇帝陛下にご挨拶しないとな。と思いつつ、朝から邸でのんびりしていた時だった。
 ローズと二人で手続きや軽い仕事の書類を処理していたら、執事のダンが珍しく慌てた様子で部屋に入って来た。どうしたのかと聞くやいなや、ダンは俺とローズを交互に見て、重々しく口を開いた。

「王女殿下が、お越しになりました」

 目が飛び出るかと思った。俺はペンを、ローズは書類をそれぞれ落とした。そしてゆっくりと一度顔を見合わせてから、

「アミレスちゃんが!?」
「えっ、もう!? 手紙送ったの昨日だよ!?」

 ダンの方を向いて驚きから声を大きくした。
 しかし本当に王女殿下がいらっしゃったのなら、こんな事をしている場合ではない! 早くお出迎えせねば!!
 俺とローズは目配せし、無言で頷く。ローズは侍女を呼び出しながら部屋を飛び出し、俺も準備の為に立ち上がった。

「王女殿下は今どうしているんだ?」
「賓客室にてお待ちいただいております」
「よくやった! あそこがこの邸で一番ちゃんとした部屋だからね!!」

 とにかく、お待たせしているのだから急がねば。
 そう思い慌てて部屋を飛び出して、服を着替える。軽く髪も整えて、俺は賓客室に向かった。その途中でやけに早く準備を済ませたローズが追いついて来て、少し驚いた。
 二人で並んで賓客室の前に立つと、扉の向こうから確かに彼女の声が聞こえて来る。
 ずっと焦がれてやまなかった、あの美しい声が。

「……──失礼致します。お待たせしてしまい申し訳ございません、王女殿下」

 深呼吸の後、扉を開いた。
 まず見えたのは、王女殿下と談笑していたらしい紅獅子騎士団団長モルスの姿。こちらに気づくと、彼はぺこりと一礼して一歩下がった。
 そして、俺達は念願の再会を果たす。

「レオ、ローズ、久しぶりね! 元気にしてた?」

 まっ、眩しい~~~~~~~~~~!
 きっと俺とローズの心の叫びは重なった。俺には分かる……これは、この表情は、ローズも同じように心の中で叫んでいると。
 いや本当に、笑顔が眩しすぎます王女殿下! 久々にお会いしたからか、以前よりもっと輝いて見える気がするし!!

「お、お久しぶりでございます、王女殿下……お会い出来て光栄です」
「私達はとっても元気です! アミレスちゃんにこんなにもすぐに会えるなんて思ってなかったので……凄く幸せです」

 だらしなく緩む頬を必死に律して何とか挨拶すると、

「昨日の夕方頃に帝都に到着したって手紙が届いて、早く二人に会いたかったからこんな朝早くから来ちゃったわ。ごめんなさいね」
「ングッ……!!」
「はぅっ!!」

 王女殿下は眉尻を下げて、何とも可愛らしい事を口にされた。その尊さに思わず呻く俺達。
 俺達に早く会いたくて翌日の朝から来てくれるとか、自惚れてもいい? 少しは王女殿下に気に入られてるって思ってもいい?

「ああそうだ。ローズ、誕生日おめでとう。大したものじゃなくて申し訳無いのだけど、プレゼントを用意したから受け取って」
「えっ、いいんですか……!」
「勿論よ。レオにも来月プレゼントを渡すから、そこそこ楽しみにしておいて」
「俺まで……ありがとうございます、王女殿下。楽しみにしておきます」

 王女殿下からの誕生日プレゼントという事もあり、ローズはとても嬉しそうに頬を赤くしていた。
 更に王女殿下は何と俺の誕生日も覚えていて下さり、俺にもプレゼントをくださると言うのだ。なんという心優しき御方だろう。好き。

「主君、どうぞ」
「ありがとうルティ。はいローズ、誕生日プレゼントの秋物のドレスです」
「もしかして、アミレスちゃんが私の為に選んでくれたの……?」
「あー……うん、そうね。選んだわ。精一杯考えて作っ──、選んだの!」
「そうなんだ……ありがとう、アミレスちゃん。大事にするね」

 お付の執事からドレスの入った大きな箱を受け取り、王女殿下はそれをローズに渡した。その中身を見て、ローズはまた嬉しそうに微笑む。
 ……ん? あれ。王女殿下、さっきあの執事の事をルティって呼ばなかった? でもそれって、王女殿下の侍女の名前じゃ……あれ? よくよく見たら、あの怖かった侍女と凄く顔が似てるような…………。
 困惑する頭で黒髪に端正な顔立ちの執事を凝視していると、王女殿下がそれに気づいたらしく「あぁ……そっか、言ってなかったわね」と小さく呟いた。

「レオ、改めて紹介するわ。こちら私の執事のルティです。ディジェル領に行った時は訳あって侍女の格好をしていたけれど、本当は執事なの」
「ご紹介にあずかりました。主君の執事をさせていただいております、ルティです」

 目の前で恭しく頭を垂れる色白の美男子。なんと、彼はあの時の怖い侍女だったのだという。
 その衝撃、まさに脳天を貫かれたかのよう。

「……レオナード様、そのお気持ちはよく分かります。私も先程この事を知り、愕然としましたので」
「モルス…………」

 唖然とする俺の傍にやって来て、モルスがぽつりと呟く。
 いや、あれは本当に分からないよ。だって完全に女性だったじゃん……。
 何故か特に驚く様子を見せないローズを不思議に思いつつ、俺達は長椅子ソファに座って、ここ数ヶ月の出来事について話をした。
 王女殿下が帰られてからのディジェル領がどんな感じだったのかとか、王女殿下に質問されるがままに答えていった。
 その話を、王女殿下は紅茶を飲みつつ楽しそうに聞いてくれた。その事がつい嬉しくて、たくさん話をしたのだが……王女殿下の両隣に座るイリオーデさんとルティさんの視線が時間を重ねるごとにキツくなっていくのが少し、いやかなり怖かった。
 ──何あの人達、怖い!!

「ああそうだ。ねぇ、ローズ。貴女って確か社交界デビューはまだだったわね?」
「うん。今までずっと領地にいたから……」
「それなら良かった。丁度いい話があるんだけど」
「いい話って?」

 俺の話が一区切りついた頃、王女殿下がティーカップを置いてにこやかに語り出した。一体何の話なのかと、俺とローズは首を傾げる。
 ごほんっと咳払いをして、王女殿下はまたにんまりと笑う。

「実はね、近々私の友達がパーティーを開くらしくて……貴女さえ良ければ、そこで社交界デビューといきましょうよ。私がサポートするからさ」
「しゃっ……社交界デビュー!? 私が!?」
「彼女の家なら私も安心だし、貴女もいずれデビューする必要があるのだから、どうせなら私がサポート出来る時にと思ったのだけれど」
「寧ろ、私の社交界デビューをアミレスちゃんにサポートしてもらってもいいの?!」
「良くなかったらこうして提案しないわよ。それで、どうかしら?」
「勿論っ、私の方からお願いしたいくらいですっ!」
「そう。それじゃあ一緒に行きましょうね、シャンパージュ家のパーティー」
「はい!」

 まさかの願ってもない提案に、ローズは二つ返事で承諾した。王女殿下がローズの社交界デビューをサポートしてくれるなんて、俺達ってば果報者過ぎないか? と思うのも束の間、王女殿下の口からは予想外の名前が出てきた。
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