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第四章・興国の王女

351.ある転生者の追憶3

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 あー嫌だ。そうやってすぐ泣いてさ……こっちだって泣きたいっつの。転生しても結局こんなのばっか相手にしなくちゃいけないんだから。
 正直な気持ちを伝えたら『最低!』だの『イケメンだからって何でも許されると思わないでよ!』と罵られ、仕方無く嘘偽りで取り繕ってやったら『真剣に答えて』だの『騙したの!?』とヒス起こして騒ぎやがる。
 イケメンだからどうのって言うけどさ。お前等も女だからって泣き喚けば何でも許されると思うなよ。自分の事は棚上げで騒ぐところとかマジで目障りだし耳障りだ。

 そもそも告白の呼び出しなんてものに付き合ってやっただけ感謝して欲しいレベルなのに。その場で手紙破り捨てたかったけど、そうしたら『なんで呼び出したのに来てくれなかったの? ずっと待ってたのに』とか言われるんだよなぁ。
 俺にだって都合ってものがあるのに、人の都合ガン無視で勝手に放課後の何時にここで待つとか言われてもさ、行く訳ねぇだろ。その時点で元々無い好感度はだだ下がり。バッドエンド直行だっつの。
 俺には俺の予定があるから、呼び出しを無視する事も多かった。口約束ですらない一方的な呼び出しなんて、そもそも俺に応じる義務はなかったしな。

 それで呼び出しに応じなかったら、次の日の朝また知らねぇ女共に囲まれて集団で責められる。
 どうしても告白したいなら今ここですればいいだろ、俺だって忙しいんだよ。って言ったらアイツ等、『何でそんなデリカシー無いの?』って言うんだぜ?
 マジで意味わかんねぇ、ほんとに同じ人間?
 ……つぅか、告白させていただく側の癖に相手の都合ガン無視でわざわざ相手に足運ばせるとか何様なの? 菓子折り持って自分から出向くぐらいしろよ何楽しようとしてんだクソが。

「……はっきり言わねぇと分からないみたいだから言うが、俺は誰のものにもならない。お前等みたいな女相手なら尚更な」

 ため息を一つ零し、頭を切り替える。
 さっさとこの女を追い出したい。この女の所為で思い出したくもないもの──女への嫌悪と共に、俺という人間の一生を思い出してしまったから。
 決して、アミレスのような綺麗な奴には教えられないような……穂積瑠夏前世の俺の醜穢な一生を。
 お陰様で気分が悪くて仕方無い。恨みのままに一発ぶん殴ってやりたいぐらいだ。

「さっさと帰れ。そして二度と俺の前にその顔見せんじゃねぇぞ、ファフィリーノ」

 人のベッドの上で汚く涙を流し続けるカイルの妹を適当に転移させる。多分、城のどこかに飛ばされた事だろう。
 汚されたシーツを引っ剥がして適当に燃やし、シーツを剥がしたベッドに腰かけ、ふぅ……と一息つく。
 疲れたから一眠りしただけなのに、まさかこんな事になるとは。前々からカイルの妹は嫌いだったが、今回の件を経てもう顔も見たくなくなったな。
 次あの雌の顔を見たら何を言うかも分からない。前世よりも力を持ち、考え方も変わってしまった今なら、反射的にぶん殴る可能性だってある。だからもう二度と会わない事を祈ろう。

『──兄さん達を追い詰めただけに留まらず、ファフィリーノまで傷つけるなんて。お前は本当に身内に厳しいな』

 ……悪かったな。ご存知の通り、家族とやらにいい思い出が全く無いんでね。

『でもキールステン兄さんと母さんは別だろ?』

 まあな。でも、母さんと顔合わせて今まで通りに接する自信がねぇよ。母さんは違うって分かってても、母親って存在は俺にとってそれ程のトラウマなんだ。

『確かにそうみたいだ。俺も今、お前の記憶が流れて来たけど……あれはトラウマにもなる。寧ろ、まだ女性と接する事が出来るだけでも凄いと思うよ』

 だろ? 自分に言い聞かせたりしてさ。これでも結構頑張ってんだぜ、俺。
 ニッと笑い、俺は自分の頑張りを思い返す。
 ──頭の中に響く、本物のカイルの声。実は以前、ゲームの強制力らしき何かに干渉された時。俺は精神世界でカイルと対面して、色々と話し合った。
 俺達のこれからの方針とか、その他諸々の事。
 カイルの主張は、『国と国民を守りたい』というもので、俺の主張は『目指せハッピーエンド』だった。
 ハミルディーヒ王国を守る事が俺の目指すハッピーエンドに繋がるんじゃないか。とカイルとの話し合いに結論付けて、俺達はお互いの目的を果たす為に協力体制を敷いた。
 カイルは俺のやり方に文句こそ言えど、何かを強制したり否定したりはしなかった。俺の記憶を見て、何やら同情しているらしい。

 それからはこうして、カイルが起きている時は頭の中で会話したりしている。
 カイル曰く、無意識下から浮上出来る時と出来ない時があるらしく、浮上出来た時をカイルは起きていると表現していた。
 起きている時は俺と一緒に世界を見て、感じて。そしてこうしてお小言を言い始めるのだ。
 まあ、俺とカイルって割と正反対の性格してっからなぁ……共通点と言えば、身内にろくでもないのがいるのと、何かと天に恵まれてしまった事ぐらいか。
 なので意見が衝突する事も多いのだが、この通り案外上手くやっている。

『そう言えば、あの件はどうするつもりなんだ?』

 あの件って? 
 そう反射的に返事すると、カイルは呆れたようにはぁ。とため息をついた。

『婚約者の件だよ。キールステン兄さんから言われていただろう』

 あー……あれかあ。
 最悪のタイミングで最悪な事を思い出させてくるカイル。多分、コイツに悪気は無いんだろうけどな。
 実は以前、兄貴から俺に婚約の申し込みが来てると聞いた。無能な貧乏王子と言われる俺だが、見た目はこの通り、カイル・ディ・ハミルの顔だ。
 それ故に、俺の王族の血とこの容姿目当ての婚約の申し込み自体は昔からあって、その全てを断ってきたのだが……今回は少しばかり訳が違った。

『まさか、タランテシア帝国の姫君との婚約話だなんて。そのような女性と会った記憶はないんだが』

 えぇ……? カイルですら会った事ないとかマジぃ?

『ああ。特にこれといって、記憶も心当たりも無いな……』

 はぁ、と二人でため息を零す。
 俺に婚約を申し入れて来たのは一度も会った事の無いタランテシア帝国の姫君──……レイリィーシュト・オズファルス・ロン・ドロテアという人らしい。
 ちなみに、当然だが俺も全く心当たりはない。
 いつもなら俺が嫌と言うだけで婚約の申し入れなんかは無視出来るのだが、今回は厄介な事に白の山脈を挟んだ大陸南部の大国の姫君……それもそこの現皇帝に溺愛されていると噂の美姫ときた。

 何この厄ネタめっっっっちゃ断りずれぇ。
 タランテシア帝国と言えば獣人や亜人の国で、その軍事力ではあのフォーロイト帝国にも負けずとも劣らずなものと聞く。ファンタジー世界でもかなり特殊な中華系文化の国らしく、いつか観光してみたいなーと思っていた国の一つだ。
 って話が逸れた。とにかく、フォーロイト帝国との戦争ですら負けっぱなしのうちの国が、フォーロイト帝国と匹敵する戦力のタランテシア帝国からの婚約を下手に蹴ると、報復で戦争をけしかけられる恐れもある。
 何せ、相手は現皇帝に溺愛されている美姫らしいからな! なんでそんな奴が俺に婚約を申し入れてきたのか知らねぇが、下手に断ると何されるか分かんねぇ。
 もうやだ最悪! 俺には婚約も結婚もその他諸々も絶対無理なのに!!

『……戦争を起こされる可能性がある以上、断る訳にはいかない。こうなれば、先方から婚約を無かった事にしてもらうしかないな』

 だよなぁ……でもそんな方法ある?

『うーむ。不名誉ではあるが、精神的問題で不能だと言っておけばいいのでは? 婚約する以上相手はその先まで見据えているだろうし、子作りが出来ないとなると流石に考え直すだろう』

 はは、不能か。そりゃいい、それが一番平和かねぇ。実際問題、俺女相手じゃもう勃たねぇと思うしな。

『かと言って、男相手でも反応する訳ではないからな』

 もう自然に任せるしかないんだよな、俺の息子の事は。

『息子? …………ああ、そういう事か。ニホン人の言葉は、ややこしい言い回しが多いな』

 婚約者問題について話し合い、結論としては向こうから婚約話を無かった事にしてもらおう。という方向性で話は固まった。
 何はともあれ返信しない事には話は進まない。
 手紙にはこの旨とダメ押しの女性恐怖症(やや嘘)を記載し、この精神的問題は二度と癒える事はないと念押しした上で、『そんな俺に、夫婦の義務は果たせないでしょう。それでも俺と婚約したいと仰るのですか?』と考え直すよう暗に諭す内容をしたためた。
 後はこれであちらさんが考え直してくれる事を期待するのみ。

『婚約破棄、されるといいな』

 いやほんとに……されるといいなぁ。

 乙女ゲーム内キャラに転生する話ではテンプレと化す婚約破棄。それをまさか、俺が望む立場になろうとは。
 こんな遠方の国の貧乏王子相手にわざわざ婚約を申し込んで来るような女と婚約なんてしたら、俺、あまりのストレスで自殺とかしかねないしなぁ。
 良くて全力体調不良、悪くて自殺すると思う。婚約者って存在が出来てそれと強制的に関わる想像をしただけで、この悪寒。もう絶対無理だこれ、本当に駄目なやつ。
 女性恐怖症ではないが、極度の女嫌いを思い出して忘れられなくなった今、婚約者なんて存在は地雷でしかない。

「……──はぁ。気持ちを落ち着かせる為に、兄貴の手伝いしに行こ」

 おもむろに立ち上がり、仮眠でボサボサの頭を適当に整えてから、兄貴の元へと瞬間転移する。
 こんな事になるのなら……仮眠なんてとらなきゃよかったな。
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