だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第四章・興国の王女

番外編 ある王女とハロウィン

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※ハロウィンになろうで投稿したSSになります。本編とはほぼ無関係です。
時間軸的には大公領に向かう少し前の辺りの話になります。




 ───十月三十一日。それは、甘く恐ろしい日。

 現代日本では、各地でお化け等の仮装や無関係なコスプレをした大勢の人達が公道を占拠し練り歩く、百鬼夜行のようなものが毎年飽きもせず繰り広げられる、まさに狂乱の宴。
 生憎と私にそのような経験もご縁は全く無く、全ては誰か・・から聞いた情報のみ。予備知識? 先述のものが全てです。
 元は海外の収穫祭が起源だとか、色々と聞いた気もするが……それは私に必要な知識ではなかったようで、詳しく教えられた事はなかったと思う。

 さて。そんなハロウィンのイベントについて突然語り出した理由──それは何を隠そう、私がついにそのイベントに参加する事になったからである。
 特にこれまでは何も思わなかったのだけど……きっかけとなる出来事があった。実は先日の十月の頭頃、相変わらず密入国してきたカイルから突然言われたのだ。

『アミレス~、トリックオアトリート~~☆』

 ハロウィンのような文化はこの世界には無い。なので、突如としてよく分からない呪文を口にしたカイルに、その場にいた人間のほとんどが首を傾げていた。
 それだけなら良かったけど、あの時の私といったら。これまで伝聞でしか触れた事のない、日本人が大好きなあの秋の一大イベントハッピーハロウィンに自分が参加する日が来るなんて。といった謎の感動と興奮から、

『しょうがないわね、クッキーしかないからクッキーでいい?』

 めちゃくちゃ普通に対応してしまった。今思えば、あれをガン無視しておけばこうはならなかったのかもしれない──……いや、ガン無視せず対応したからこそ、今このように愉快な事になっているのだろう。
 ───十月三十一日。この世界には存在しない、ハロウィン当日の朝。
 東宮はお祭りの準備で大忙しだった。食堂はカボチャの化け物やら写実的なゴーストやらの絵や紙飾りが、まさにパーティーかのように壁に所狭しと飾られた。
 テーブルの上には沢山のお菓子や、この為にわざわざ取り寄せたカボチャを使った料理。他にもこの世界の秋の味覚を使った美食の数々が所狭しと並ぶ。
 そして何よりの異変と言えば、

「まさかこの歳になってコスプレをする日が来るとは……」
「いやお前まだ十三歳だろ。全然ハロウィンにコスプレするような歳だろ」
「精神年齢アラサーぞ?」
「やめろ、その術は俺にも効く」

 そう、やはりハロウィンのメインイベントとも言える仮装だろう。
 カイルのトリックオアトリート発言がきっかけで、ハロウィンオマージュのイベントをその場で考え、皆に提案する事になったのだが……その結果、こうしてハロウィンパーティーを開く事になった。
 会場となる食堂で、ハロウィンパーティーの準備が進められる様子を眺める私とカイル。ちなみに私は、とんがった大きな帽子にそれっぽい衣装とそれっぽい杖を持った魔女で、カイルは頭や体のあちこちに包帯が巻かれたミイラ男だ。

 ちなみに他の参加者はシュヴァルツ、ナトラ、師匠、イリオーデ、アルベルト、マクベスタ、メイシアとなっている。
 私兵団の皆やシルフやハイラも誘ったんだけど、シルフとハイラは忙しくて無理との事。私兵団の皆は昨日今日と、街の大規模清掃ボランティアに参加してるらしくこちらに来れないとの事。
 なので、このメンバーでのハロウィンパーティーとなった訳だが……勿論このパーティーにはドレスコードがある。何かしらの仮装をする事、それがドレスコード。
 各自仮装をしたら食堂に集まろうねと事前に話していたので、こうして一足先に仮装を終えた私達は食堂で皆の登場を待っていたのだ。

「噂で聞いたんだけど、マクベスタの仮装って貴方が準備したの?」
「おう。なんかアイツがすげぇ深刻な顔して悩んでたからさ、責任もって俺が代わりに用意したぜ」
「……絶対こいつの趣味全開なんだろうなぁ」
「はっはっはっ! 当たり前だろぅ」

 カイルと二人で会話をしていると、噂をすればなんとやら。食堂の扉が開き、聞き慣れた声が聞こえて来た。

「──カイル、着てみたんだが……着方はこれであってるのか?」

 現れたのは、黒いベール付きのフェドーラ帽を被り、フリルやらリボンやらがふんだんにあしらわれた黒いコートとロングブーツを履いた、大きな鎌を持つ顔色の悪い王子様。
 横で「グッッッッッッッ!!」と心臓を押さえて膝から崩れ落ちたガチオタクさんの趣味が爆発しているようだが、多分鎌を持ってる事から死神か何かの仮装なのだろう。だとしても趣味爆発しすぎでしょ。

「っぁ~~っ、あってるあってる~~!! いやぁマジで超似合ってるぜ! 天才、存在がマジで神! 世界に感謝!!」
「あ、あぁ…………そうか……」

 床でのたうち回りながら騒ぎ出したカイルを前にして、マクベスタは完全に引いていた。コイツどうしたんだとばかりにこちらに視線を向けて、マクベスタは私の格好にも気づいたようで。

「アミレス……その、似合ってるな」
「そう? ありがとう。貴方もよく似合ってるわ」

 未だに最推しの死神コスに悶絶するオタクは放っておいて、私達は談笑する。すると、程なくしてシュヴァルツとナトラと師匠が一緒に現れた。

「おっまたせー! ねーねー、おねぇちゃんっ、ぼく達の仮装はどうかなぁ?」
「くふふ、我のこの恐ろしい姿に震えるがよいのじゃ!」
「あ、姫さんそれ魔女ってやつですか? めっちゃ可愛いっすねー」

 ぴょこぴょこと動く黒い猫耳と尻尾をつけたシュヴァルツ。悪魔のような大きな角を頭につけ、引き摺るぐらい大きなマントをバサッと翻すナトラ。そして、いわゆるキョンシーのような格好の師匠。
 それぞれが、実にハロウィンらしく仮装している。
 とは言えども。師匠に関しては、『俺そーゆーの詳しくないんで、姫さん何か教えてくれません?』と二週間程前に聞かれたので、師匠がいつも着ている中華衣装から連想して……キョンシーをいい感じ伝えたところ、しっかりとそれらしい衣装を用意してきたようだ。

「師匠もいつも通りかっこいいよ」
「はは、そりゃどーも。姫さんのアドバイスのお陰っすね」
「ねぇーねぇーぼくは? ぼくはどうなの?」
「我も! エンヴィーばかり褒めるでない、我も褒めろ!!」

 シュヴァルツとナトラが子供のように詰め寄って来たので、

「シュヴァルツもナトラもよく似合ってるよ。シュヴァルツは黒猫で、ナトラは悪魔かな? 二人共可愛いよ」

 その頭を撫でながら褒めてあげると、

「まぁねぇ、ぼくってば超絶可愛い最強美少年だから!」
「ふふーんっ! そうじゃろうそうじゃろう、我はかわい──……む? いや、我は今、恐れ多い魔物なのじゃぞ!! そこは可愛いではなくかっこいいじゃろ!」

 シュヴァルツは胸を張ってふんぞり返り、ナトラは褒め言葉が不服だったのかリスのように頬を膨らませていた。
 追加で頭を撫でてあげると、ナトラは満足したのか少し落ち着いた。
 その時部屋の扉が開いて、今度はメイシアがお菓子がいっぱい入ったバスケットを持って現れた。その格好はずばり赤ずきんだった。
 ちなみにこの世界、赤ずきんのような御伽噺がある。なんなら、他にもグリム童話がモチーフの御伽噺をちらほら見かける。まぁ、日本の乙女ゲームブランドが作った世界だもんね、仕方無いわ。

「わあっ、とっても可愛くてお美しいですアミレス様! アミレス様のような魔女になら、わたし、眠らされても呪われても構わないです……っ」
「ふふ、私はそんな悪い魔女じゃないけれど……メイシアみたいな可愛い赤ずきんなら、私も食べちゃいたいかも」
「アミレス様にならわたし、全然食べられても構いません。えぇ、どんな意味合いでも」

 ぽっと顔を赤らめて、メイシアが私の体にしなだれかかる。今日のメイシアは随分と楽しそうだなぁ、ハロウィンだからかな。と微笑みながら考える。
 皆でお菓子をつまんでいると、諸々の準備を終えたイリオーデとアルベルトがジュース等を持って現れた。
 イリオーデは恐らく吸血鬼……かな? 噂によると、この話を聞いたメアリーとユーキがノリノリでイリオーデの衣装を用意したとの事で。髪型もオールバックになっていて、いつもと違った雰囲気にドキリとする。
 アルベルトはどこでそんな化粧をしたんだと聞きたくなるような、ザ・ゾンビメイク。そしてそれに合わせた少しボロボロの衣装。彼の目が濁っているからか、本当に動く死体のように見えてしまう。

「二人共よく似合ってるね、かっこいい!!」
「お褒めに与り光栄です。その言葉、後で必ずやメアリー達にも伝えておきます」
「本当はもう少し本物に寄せたかったんですが、流石に主君の前でそれは良くないかと思い……でも、主君にお喜びいただけたようで何よりです」

 どれだけ見た目や雰囲気が変わろうとも、二人のこう言った一面や笑顔は変わらない。それを再確認して、私はごほんっと咳払いをする。
 イケメン吸血鬼とイケメンゾンビが部屋に入って来た事により、役者は揃った。それじゃあ早速、ハロウィンパーティーといこうじゃないの!

「──皆、この前教えた言葉は覚えてる?」

 各自お好みのジュースを注いだグラスを持ち、私は皆に目配せする。全員がこくりと頷いたので、私はグラスを掲げて口火を切った。

「ハッピー!」
『ハロウィン──!!』

 私に続くように皆がグラスを掲げ、一緒にハロウィンと叫んだ。
 その後はトリックオアトリート合戦。この日の為に沢山のお菓子を用意していたので、イタズラをする隙はなかったが……それでもかなり楽しいハロウィンパーティーとなった。
 こんなに楽しいのなら──……前世でも、一度くらい参加してみたかったなあ。

「おーいアミレスー、このケーキ食っていいー?」
「あっ、ちょっとそれは駄目! 私が食べようとしてたケーキ!!」

 でも、今のこのハロウィンパーティーが凄く楽しいから、別にいっか。
 来年はシルフもハイラも私兵団の皆も、一緒にハロウィンパーティーが出来るといいなぁ。
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