だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
363 / 790
第四章・興国の王女

324.ある男達の晩酌

しおりを挟む
「高級な酒ってのはやっぱ美味いモンなんだなぁ!」
「あはははっ、こんなの馬鹿みたいに飲んでさぁ、安酒で満足出来なくなったらどうしようかぁ~~っ」
「らいよーふら。ほれわろんなはへれもまんろくれきりゅ」
「……はぁ。酔いすぎだぞ、シャル」

 結婚式が終わり、その日の夜。
 ディオリストラス達は夜更けまで酒を飲んでいた。
 披露宴ではアミレスの指示で明らかに多い量の酒が用意されていて。それはアミレスが、皆がどれ程に酒を飲むか分からなかった為、多めに用意していたからなのだが……思ったよりも披露宴で酒が消費され、残るは数本というところまで行った。
 なので、結婚祝いにと残りの酒はバドールとクラリスに贈られた。勿論、それらはシャンパー商会の扱う高級酒であった。
 なのでバドールとクラリスは、せっかくなら皆で飲みたいと言って、その日のうちに飲み会を開き、飲み干してしまおうと考えたのだ。
 その為急遽行われているこの、バドールとクラリスの結婚式二次会・宅飲みパーリナイ──それはもう、盛り上がっていた。

 私兵団の面々では、唯一ルーシアンのみが成人しておらず、酒を飲む事も出来ないのだが……ルーシアンに合わせてメアリードも酒を飲まないようにしている為、二人はこの飲み会にジュースで参加していた。
 普段は滅多に飲まないユーキとエリニティも、今日ばかりは皆と一緒に酒を煽っていた。
 どれだけ飲んでも顔色一つ変えない私兵団一の酒豪、ユーキの傍では私兵団一の下戸のジェジが、尻尾と耳を揺らしてスヤスヤと眠っている。

 ジェジ程ではないがエリニティも酒には強くなくて、彼も二杯程飲んで限界が来たようだ。自作の赤い抱き枕を抱えて、「むふふ……メイシアちゃん……結婚して……」と寝言を呟いては幸せそうに眠っていた。
 バドールも酒が回ったのか顔を赤くして、口数が更に減っている。左手の薬指にはめた指輪を後生大事に撫でては、頬をだらしなく弛めていた。
 その隣では「おいしゃるぅ! あんらねぇ、いっつもばらなこといってぇ、あざとかわいいとでもおもっれんのぉ?」と、同じく左手の薬指に指輪をはめたクラリスが、シャルルギルに向かって意味不明な説教を始めた。これは完全に酔っている。
 それに対して、「おれはかわいいが?」と赤い顔でシャルルギルは返した。昔からとにかくラークに可愛がられていた為、この天然馬鹿は自己肯定感が異様に高く育っていた。

 そしてその原因とも呼べるラークはというと……今日はもういいや! と羽目を外し、酒をがぶがぶと飲んで楽しそうに笑っていた。その隣では、ディオリストラスが絶え間なくグラスに酒を注ぎ、高級酒に舌鼓を打つ。
 もう、収拾がつかなくなりつつある。
 この状況で全員が泥酔してはならないと唯一セーブしていたイリオーデが、ため息をつきながら眠るジェジとエリニティにタオル掛けてやると、

「むにゃ……イリにぃといっしょに寝るんら……」

 寝ぼけている割に強く、ジェジがその腕を掴んでイリオーデを引き止めようとする。今夜は久々にイリオーデが泊まっていくという事で、ジェジはここぞとばかりにイリオーデに甘えようとしていた。

「……まったく、お前はいくつになっても子供みたいだな」

 やれやれ。と眉尻を下げて、イリオーデは目を細めた。
 アミレスと再会し、彼女の騎士となってからというもの……イリオーデは貧民街を離れてずっと東宮にいた。なので、表には出さなかったが彼等も相当寂しかったのだ。
 だが、イリオーデがアミレスの騎士となる為に全てを捨てて生きて来た事を彼等は知っていた。
 だからこそ、ようやくイリオーデの願望が叶ったというのに、自分達の寂しいという感情で、イリオーデの幸福に水を差してはならない……と、彼等なりに遠慮して来た。
 しかし今日、アミレスの計らいでイリオーデが久々にディオリストラスの家に泊まっていく事になった。
 久々にイリオーデと長時間共にいられるからか、特に彼に懐いていたジェジなんかはそれはもう大はしゃぎ。
 非常に弱いのに、ジェジは酒を一気に飲んで一瞬で撃沈した。

(たまにはいいか。王女殿下より暇を出されてしまった今の私は、王女殿下の騎士ではなく──幸運にも彼等と家族なかまになれた、ただのイリオーデなのだから)

 ジェジに掴まれた腕を振りほどく事もなく、イリオーデはそこに腰を据えた。
 ゆるやかで、賑やかで。別段この空気が得意という訳ではないイリオーデだが……どうしてだろうか。この空間は、やはり心地よいものなのだろう。
 彼にとっての第二の家族達。それは間違いなく、彼の中では特別な立ち位置にあった。
 生きる意味とも言うべきアミレスとはまた違う意味で、とても、とても──……特別な存在だったのだ。

「あー! イリ兄が笑ってる!」
「ほんとだ。姫の前でもないのに、イリ兄が笑ってるなんて珍しいね」

 泥酔した者達の介抱をしていたメアリードとルーシアンが、目敏くイリオーデの微笑に気づいた。

「……私だって笑う時は笑うさ」
「でもイリ兄、姫と会うまで、アタシ達の前ではほとんど笑った事無かったし。こうやってイリ兄がアタシ達の前でも笑ってくれてうれしーな!」
「僕も嬉しいよ。イリ兄がようやく僕達にも心を開いてくれたみたいで」
「別に心を閉ざしていたという訳では……」
「でも似たようなものだったじゃん」
「ね、メアリ姉」
「ねー?」

 メアリードとルーシアンは顔を見合わせて笑った。

(そんなに、私は笑ってこなかったのか? それなりに笑っていたつもりだったんだが…………)

 そして、こちらは密かにショックを受けていた。イリオーデなりにこれまでの人生でも笑ってきたつもりだったのだが、それはまったくの無意味だったらしい。
 元々無口無表情な方だから、仕方の無い事なのかもしれない……。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

処理中です...